古からの侵略者

久保 倫

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大久保現る

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 やれたか。

 肩で息する春吉の前で、秋夢は倒れた。

「秋夢様!」

 やったか。

 倒れた巨漢に目をやると、視線があった。

「危なかった。それはなんだ。」

 ダメージを受けた様子もなく、秋夢は立ち上がった。

「効いてねえのか。」
「とっさにかわした。さもなくば危なかったな。雷を放つようだが。」

 チクショウめぇ……。

 さすがに動けない。
 歳老いたくねえもんだぜ。

「もういい、伊西、鷺慈御。壬生を殺してこい。」
「永倉は?」
「できれば捕らえよ。やはりあれの能力は欲しい。だが抵抗するようならやむを得ん。」

 朗ぁ……。

 だが春吉は、動けなかった。

 指示を受けた二人は、跳躍して砂浜に向かう。


「壬生さん!」
 塀の上に押し上げられた永倉は、こちらに向かってくる鬼を見て叫んだ。
「ちっ、永倉さん、あなただけでも逃げて下さい。」
「壬生さんは?」
「時間を稼ぎます。」

 塀の上の永倉を壬生は、突き飛ばした。
 大して高くもない塀である。下が砂浜なこともあって怪我をすることは無かった。

「お願いします!」

 砂浜にいるヤクザに大声で叫んだ。
 ヤクザは手招きしている。夜なのでわかりにくいが、ボートがヤクザの近くにあるのだろう。

「壬生!」

 伊西が壬生の目の前に着地し、殴りかかってきた。

 巧みに受け流し、カウンターの正拳を叩き込もうとした時、鷺慈御が落下しながら飛び蹴りして来たのでかわさざるを得なかった。

 2対1か。
 時間稼ぎくらいならなんとかなるか。

「待ちたまえ。」

 誰だ?

 海岸沿いの道を歩いてきている人が声をかけてきた。
 鬼たちも、声のする方を見た。

 スコップを肩に担いで歩いてくるのは……。

「大久保!?」
「なんだ、先日の”だいじん”じゃないか。」
「そうだ。この国の為政者の一人として、不当にわが国と国民を害するものに告ぐ。投降しろ。法に従った扱いは約束する。」
「誰が、人間の法などに従うか。」
「お前から殺してやろうか?戦いの幕開けには、ふさわしいかもしれん。」

 大久保は返事をせず、塀を越えて砂浜に降り立った。

 そして……。


 肩に担いでいたスコップで砂浜を掘り始めた。


「何をやっているんだ?」

 さすがに壬生もあきれた。

「わざわざやってきて砂浜掘り返して。何をしたいんだ。」
「無論、鬼を名乗る彼らと戦う。」

 大久保の回答に、冗談などの要素は、微塵も感じられなかった。

「それなら警官隊なりなんなり連れてこい。部下を連れて来た春吉の方がまだ役に立ったぞ。」

 壬生は、春吉が聞けば大喜びすることを言った。

「なんだ、あの”だいじん”。あれで俺達を倒す?」
「墓穴のつもりか?ならあやつを埋葬してやろう。」

 すねの半ば辺りまで掘った穴に入った大久保に、鷺慈御が襲い掛かる。
 大久保は、気にした様子もなく、堀った穴の土を触っている。
 何やら、満足そうに握った土を高く掲げすらしている。


 囮としては評価してやるよ。

 そう思いながら、壬生は、一人残った伊西に殴りかかるが、簡単に受けられてしまった。
「そう何度も殴られてやらん。」
「くっ。」

 待ち構えられたか。すぐにもう一人戻ってくる。早く倒さないと。
 秋夢達だっているんだしな。

 左右の連打もことごとく止められてしまう。
 焦る壬生を笑うかのように、伊西は、右のハイキックを繰り出してきた。
「はいきっく、とか言うんだろう、この蹴り。」
 強烈な蹴り。左腕で受けたが、その威力にふらついてしまう。

 こいつ、この時代の格闘技でも学んでいるのか。

 ただでさえ強いこいつらが、格闘技を学んだら手に負えん。

「ぎゃああっ!」

 そう思った壬生の耳に入ったのは、鷺慈御の悲鳴だった。
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