古からの侵略者

久保 倫

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永倉の反論

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「えっと、アキムさん。」
「なんだ。」
「この時代は、あなたが生きてた時代と違うの。あなたの能力を生かして生きる道だってあると思う。」
「能力を生かして生きると?」
「あなた方と今の人間は共存できると思います。福岡の地を支配してとかしなくても生きる道はあるはずです。」
「断る。」

 こ、断るって……。

 取り付く島など、欠片はおろか、埃すら見せぬ秋夢の言葉だった。

「我らは里を焼かれ、同胞を失い辛苦をなめた。今更人間と共存などあり得ぬ。」
「そうそう、その通り!」
「人間など、奴婢にする以外価値はない!」
「話を聞いてもらえませんか。」

 必死で懇願してみる。

「悪いけど、あんた家焼かれたことあんの?家族焼かれたことあんの?」
「……。」

 運転席からの言葉に永倉は沈黙せざるを得なかった。
 平和な日本で生きる永倉に、そんな経験があろうはずもない。

「この時代でも、この国も色々争いの火種を抱えていよう。その中で我らの力を使う道もあるかもしれんな。」
「そうかもしれません。でもそうじゃない。争いでなくても……。」
「いや李は言っていた。獲物を狩れば弓は仕舞われるとな。争いを我らの力で解決し得てもだ、その後人は我らに感謝してくれるか?」
「い、いや、その……。」

 永倉自身は、感謝しても、他の人がどう思うか。

 感謝どころか、「鬼は抹殺」などというかもしれない。
 永倉が呼んだ漫画の中でも、人間が人間以外の存在を狩る話などは多数ある。

「娘さんよ、あんたの気持ちだけは受け取っておこう。」
「厳名寺の言う通りにしよう。永倉よ、我らは共存し得るとは思えぬ。」
「ですけど、復讐よりご自身の幸せを追求されては。」
「幸せを追求すれば、おのずとこの地を抑えざるを得ない。我らには安全な里が必要なのだ。」

 そうまで言われては、もう返す言葉が無い。

「わかった。もう何も言わないけど、連絡だけはさせて。」
「連絡だと?夜になればさせる。」
「そんなのやだ。壬生さんも叔母さんも心配してる。無事だって連絡させて。」
「黙れ、女。そんな勝手なこと言ってんじゃねえ!」
「やだ!」

 そう言って2列目シートのヘッドレストを引き抜く。

「連絡だけさせて。さもないとこれで窓ガラス割る。」

 前にテレビで非常時の脱出手段としてヘッドレストで窓ガラスを割るのを紹介していたのを思い出しての手段だ。
 リアガラスにヘッドレストの金属部を叩きつける。
 ガッっという音が車内に響く。

「待て、わかった。連絡を許す。」
「秋夢様、そんなこんな娘くらい押さえつけられます。」
「永倉はこの時代を生きている人間だ。我らの予想もつかぬことをしでかす。」
「ですから縛り上げるなりしてしまえば。」
「いや、それでもこの時代の道具で何とかするかもしれぬ。正直椅子の一部がこうなると知っていたか?」
「いえ。」
「そういうことだ。」

 永倉に、秋夢がスマホを差し出してきた。

「永倉、壬生に連絡を取れ。」

 永倉は、携帯を受け取った。

「なんて言えばいいんですか?」
「連絡を取るだけでいい。後は我が話す。」

 永倉は、スマホを操作して自分のスマホに電話をかける。

「はい、こちらは永倉の携帯ですが。」
「壬生さん!」

 壬生さん、私の事待ってくれているんだ。
 それだけで、勇気づけられる。

「永倉さん、ご無事ですか?ひどいことされてませんか?」
「うん、今は無事。あの後は無茶苦茶だったけど。」

 走行中の電車に張り付かされ、イサイに抱き着かされて、うぅ。

「今どちらかわかりますか。」

 ええと。
 国体道路を西に向かって、天神を過ぎたから……。

 まごまごしていたら、スマホを取り上げられた。 

「壬生か?」

 アキムが壬生と話している。

「簡単に返すなら質になどせぬわ。」

 質って、何を要求するつもりよ。
 スマホを奪い返そうとするが、秋夢に永倉の細腕で対抗し得るはずもない。 

「また連絡する。しばし大人しくしておれ。」

 そう言って、アキムは、なんとスマホを握りつぶしてしまった。

「なんでそんなことするのよ。」
「こうした方がいいらしい。」
「娘よ、その”スマホ”とやら電波で所在地がわかるらしいではないか。一度使ったものは、破壊するに越したことはない、と判断しておる。」

 そうかもしれないけど。

「さて、しばらく壬生も大人しくしていよう。そろそろ戻るとしようか。」

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