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春吉と小倉
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「さて、朗の今後が決まったところで、お茶にでもするかい。」
春吉は、今更ながら、手に持っていたビニール袋を机の上に置いた。
「むっちゃん万十だ。俺の好みで黒餡しかねえが勘弁してくれな。」
「失礼します!」
平山がダッシュで袋に近寄り、中のむっちゃん万十やお茶のペットボトルを取り出す。
松野も、ペットボトルを春吉、小倉の順に渡す。
そして、壬生、妙子と渡して永倉の前に立った。
むすっとした顔をして永倉にお茶を渡す。
「何よ、さっきのこと謝んないからね。」
「てめえ、かわいくねえな。」
「おい、おめえ、堅気の嬢ちゃんにヘタな真似すんじゃねえ。」
「は、はい。」
小倉以上の地位の春吉に言われては、平身低頭しかない。
お茶を渡して、さっさと離れた。
「会長、松野は未熟ですが、悪い男ではありません。」
「そうか、おめえが言うならそうなんだろう。」
松野は、しゃちほこばって硬直するばかりである。
「おい、かしこまってねえで食いな。」
「えっ。」
「えっ、じゃねえ。若いもんが食わねえと無くならねえだろ。」
春吉がむっちゃん万十を差し出してくる。
「会長が差し出しているんだ、頂け。」
「あ、ありがとうございます!」
直立不動となり、ロボットにでもなったかのような動きで受け取る。
「おう、平山とか言ったな、おめえも食いな。」
「ありがとうございます!」
平山も、速攻で近寄って受け取る。
「小倉、おめえがこいつらくれえの年の頃を思い出すな。」
「もうちょっと若いです。中学出たばかりでした。」
「バカでけえガキが暴れているって聞いて行ってみりゃ。」
身長2mとは思わず、内心ビビったのは、墓場まで持って行くつもりだ。
「会長に一喝された時はビビリました。」
「そうか。」
「自分に向かってくるような人間なんていませんでしたからね。学校でも教師も先輩も自分に腰引けてましたし、家では親が怯えてました。」
確かに小倉の体格に向かっていける人間などそういない。
「会長に一喝されてから、頂いたむっちゃん万十の味、まだ覚えてますよ。」
「暴れちゃいたが、腹すかせてたってのは笑っちまったぞ。」
「相撲取りの道が絶たれてヤケになって、ただ暴れていただけでしたから。」
暴走族同士の抗争に友人に頼まれて参加。かなわじ、と見た相手から車で跳ねられ、膝を負傷。
日常生活を送るのに支障は無いところまで回復しても、大相撲は、無理と告げられ退院して相手を探して暴れまわっていたところを、春吉に出会い、一喝され話をするうちに、部屋住みとなっていた。
「会長から、前を見て進め。復讐してもいいが、その後も考えろ、と言われて、あれで救われました。だから、朗さんも、会長と正面から話し合えばわかってもらえると思ったんです。」
「だから、お前と朗とじゃ、俺の立ち位置が違う。お前にとって俺は、見ず知らずの中立のオッサンでしかなかったが、朗にしてみれば仇だ。」
「ですが。」
「いいんだ、お前の気持ちはわかる。俺と朗が和解して仲良くして欲しいんだろう。」
「それが会長の願いでしょう。」
「そうだがよ、俺は老い先短い年寄りだ。先のある朗が、実りある未来を掴んで欲しい。俺や宮川に拘らずな。それを言いたかったが、香椎浜では、ただの命乞いくらいしか思われなくてな。」
2年前殴られたことを思い出す。
制止しようとする小倉を止め、命乞いなどでなく、本音であることを伝えようとしたが、うまくいかなかった。
「あの嬢ちゃんが言ってくれてよかった。どんな未来になるかわからねえが、俺なんかより実り多い人生になるだろうよ。」
春吉は、今更ながら、手に持っていたビニール袋を机の上に置いた。
「むっちゃん万十だ。俺の好みで黒餡しかねえが勘弁してくれな。」
「失礼します!」
平山がダッシュで袋に近寄り、中のむっちゃん万十やお茶のペットボトルを取り出す。
松野も、ペットボトルを春吉、小倉の順に渡す。
そして、壬生、妙子と渡して永倉の前に立った。
むすっとした顔をして永倉にお茶を渡す。
「何よ、さっきのこと謝んないからね。」
「てめえ、かわいくねえな。」
「おい、おめえ、堅気の嬢ちゃんにヘタな真似すんじゃねえ。」
「は、はい。」
小倉以上の地位の春吉に言われては、平身低頭しかない。
お茶を渡して、さっさと離れた。
「会長、松野は未熟ですが、悪い男ではありません。」
「そうか、おめえが言うならそうなんだろう。」
松野は、しゃちほこばって硬直するばかりである。
「おい、かしこまってねえで食いな。」
「えっ。」
「えっ、じゃねえ。若いもんが食わねえと無くならねえだろ。」
春吉がむっちゃん万十を差し出してくる。
「会長が差し出しているんだ、頂け。」
「あ、ありがとうございます!」
直立不動となり、ロボットにでもなったかのような動きで受け取る。
「おう、平山とか言ったな、おめえも食いな。」
「ありがとうございます!」
平山も、速攻で近寄って受け取る。
「小倉、おめえがこいつらくれえの年の頃を思い出すな。」
「もうちょっと若いです。中学出たばかりでした。」
「バカでけえガキが暴れているって聞いて行ってみりゃ。」
身長2mとは思わず、内心ビビったのは、墓場まで持って行くつもりだ。
「会長に一喝された時はビビリました。」
「そうか。」
「自分に向かってくるような人間なんていませんでしたからね。学校でも教師も先輩も自分に腰引けてましたし、家では親が怯えてました。」
確かに小倉の体格に向かっていける人間などそういない。
「会長に一喝されてから、頂いたむっちゃん万十の味、まだ覚えてますよ。」
「暴れちゃいたが、腹すかせてたってのは笑っちまったぞ。」
「相撲取りの道が絶たれてヤケになって、ただ暴れていただけでしたから。」
暴走族同士の抗争に友人に頼まれて参加。かなわじ、と見た相手から車で跳ねられ、膝を負傷。
日常生活を送るのに支障は無いところまで回復しても、大相撲は、無理と告げられ退院して相手を探して暴れまわっていたところを、春吉に出会い、一喝され話をするうちに、部屋住みとなっていた。
「会長から、前を見て進め。復讐してもいいが、その後も考えろ、と言われて、あれで救われました。だから、朗さんも、会長と正面から話し合えばわかってもらえると思ったんです。」
「だから、お前と朗とじゃ、俺の立ち位置が違う。お前にとって俺は、見ず知らずの中立のオッサンでしかなかったが、朗にしてみれば仇だ。」
「ですが。」
「いいんだ、お前の気持ちはわかる。俺と朗が和解して仲良くして欲しいんだろう。」
「それが会長の願いでしょう。」
「そうだがよ、俺は老い先短い年寄りだ。先のある朗が、実りある未来を掴んで欲しい。俺や宮川に拘らずな。それを言いたかったが、香椎浜では、ただの命乞いくらいしか思われなくてな。」
2年前殴られたことを思い出す。
制止しようとする小倉を止め、命乞いなどでなく、本音であることを伝えようとしたが、うまくいかなかった。
「あの嬢ちゃんが言ってくれてよかった。どんな未来になるかわからねえが、俺なんかより実り多い人生になるだろうよ。」
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