古からの侵略者

久保 倫

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小倉対壬生②

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 破局に向かってつき進んでいるんじゃないかと思うが、平山は妙子の前に立つ。

「すいませんがね、声を出さないで下さい。手荒な真似したくないんで。」

 言われずとも、声を出すつもりはない。
 目の前の男はさておき、室内で壬生とやり合う小倉が怖い。

 よく、声が出せるものだと姪に感心せざるを得ない。


 その小倉と壬生の攻防は、続いている。


 小倉の巨腕を壬生が巧みにかわして攻撃をしているが、小倉に応えたような風は見えない。


 また小倉の右拳をかわして右のわき腹に二連撃打ち込むが、小倉は痛がる素振りすら見せず、バックブローを壬生に叩き込もうとする。

 無論壬生は、かわす。

「タフだねな、小倉。」

 体重差があるとは言え、脇腹に連打をくらえばダメージはあるはず。
 にもかかわらず、そんな気配すら見せない小倉のタフさに壬生は舌を巻いた。

「年長者にその口は無い。その辺も含めて色々教えないとな。」

 今度は左の鉄拳が壬生の顔面を狙う。
 壬生は、右腕でブロックする。

 だが、軽量の悲しさ。完璧に受けたにもかかわらず、体勢を崩されてしまう。

「んーーー!」


 壬生さん!

 と叫びたかったが、口を塞がれては声にならない。


 小倉は、追撃の右拳を振るうが、壬生はトンボを切ってかわした。

「ちょこまかと。」
 
「痛いのはちょっとね。」


 ブロックした右腕が痛む。
 骨が折れたということはないが、痺れているせいで拳を握る力が入らない。


  まずいな。


 こちらは打撃を与えられないのに、向こうは与えられる。
 こちらが受けていないのは回避に成功し続けているだけ。
 ミスして食らおうものなら一発でダウンに追い込まれかねない。


 壬生は、深呼吸して会議室の中を見回す。


 あれでいいか。


 壬生は一歩踏み込み、小倉の顔目がけて右ハイキックを放つ。

 素早い踏み込みだが、大きなモーションだけに小倉も対応できた。左腕一本でガードし、右手で壬生の足を掴もうとする。

 壬生は、小倉の右手をかわし、足を下ろした反動で小倉の右から後ろに回り込む。


 後ろに回り込む気か。


 そう思った小倉は、前に足を進めながら振り返る。
 壬生は、抜けた勢いのまま離れて、椅子を積んでいる台車に手をかけていた。

「おおおおおおっ!」

 あの台車をぶつけるつもりか。

 壬生がめい一杯の力で押した台車は、その重量とあいまって、勢いよく小倉に突進する。

「甘い!」

 小倉は、なんなく台車を止めた。

「甘くないさ。」

 壬生は、台車に飛び乗り、跳躍する。


 ぜんざい広場でやったやつだ。

 永倉の前で、前転した壬生の踵が小倉を襲う。
 小倉は見上げるだけだ。
 台車を止めるのに両手を使った小倉の顔に、壬生の右踵が直撃した。

「ん~~~~。」

 やったぁ、と言いたいが声が出ない。

「「親分!」」

 平山と松野が同時に叫ぶ。

「うろたえるな!」

 そう言って小倉は、台車に着地しようとした壬生の足を掴んで、床にたたき付けた。

「ん!!」

 嘘、顔蹴られて平気なの!?

 床に叩きつけられた壬生も同じ考えのようで、苦悶しながらも信じがたい、という表情になる。

「気合い入れて額で受けろ。会長が言っていたが、正しかったようだ。」

 小倉は、広い額を撫でる。
 ボクシングのディフェンステクニックをとっさにやってみたが、うまくいったようだ。

「さぁ、最後のチャンスだ。会長と和解しろ。さもなくば。」

 太い腕が振り上げられる。

「さもなくば……か。」

 その腕の拳が壬生の顔を狙っているのは、永倉にもわかった。
 振り下ろされれば、ただではすまない。

「そうだ、さぁ。」



「嫌だね。」   
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