古からの侵略者

久保 倫

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対話

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「壬生さん、私を騙したってどういうことかな?」 
 

 永倉と壬生は、東署の会議室で向かい合っていた。 
 

 秋夢達が逃亡した後、壬生や永倉、妙子も小倉やその子分達は、会議室に集められていた。 
 大久保曰く「関係者の保護のため。」とのことだったが、この事態を一時的に隠蔽するためなのは、明白だった。 

 その大久保は、この場にいない。 
 さすがに妻の通夜や葬儀を放っておくことはできず、秘書達とともに地元に向かっている。 

「いやそれは……。」 

 壬生は周囲を見回した。 

 会議室の中に警官はいない。もっとも壁の向こうで聞き耳を立てている者はいるかもしれないが。 

「まぁまぁ、お嬢さん落ち着いて。朗さんを責めるようなことはよしましょう。」 

 小倉が、やんわりと永倉を制してきた。 

「でも、私を騙したとか、利用しようとしたとか。いろいろ聞きたいんです。」 
「気持ちはわかりますが……。」 
「有希、あんまり厳しいことばっかり言っててもダメよ。」 

 妙子も小倉に加勢する。 

「叔母さんや小倉さんは黙っていて下さい。これは、わたしと壬生さんの問題です。」
「待てや、ねえちゃん。」 

 松野が割り込んできた。 

「こないだの長浜家の前でもそうだったが、うちの親分が下手に出てるからって、調子に乗ってねえか。」 

 松野の言葉で、傍らの巨漢がヤクザの親分であることを思い出し、永倉の背に冷たいものが流れる。 

「やめねえか。カタギのお嬢さんを怖がらせるような真似するんじゃねえ。」 
「しかし、親分。」 
「それにここはサツの中だ。下手すりゃ即座にパクられる。大人しくしてろ。」 
「……。」 

 小倉に言われて松野は、自分のおかれている状況を思い出し、沈黙する。 

 永倉も、小倉のことを考えてしまい、どう話をしたものか、わからなくなってしまった。 

 誰もが黙る中、口を開いたのは壬生だった。 

「やはり、あの日のことから説明した方がいいんだろうな。」 
「あの日って?」 
「僕と永倉さんが貝塚駅で出会った日。」 

 壬生さん、何を言うんだろう。 

 やっぱり、あたしを何か利用したかったんだろうか。 

「あの日、永倉さんを助けたのは、本当に偶然。正直、あんなにうまく自転車で走る、ええとイサイだったか。あいつを蹴飛ばせるとは思わなかった。」 
「本当にそうなの?」 
「色々あったけど、それは事実。信じて欲しい。」 
「でも警察には、あたしに近寄って利用するためって。」 
「まぁ、細かいことは特に言わず、ここは朗さんの言葉を聞きましょう。」 

 その辺をつつくと、警察に遠慮して壬生が話しにくくなると踏んだ小倉が、割って入った。 

 それを察した壬生は、小倉に目で礼をして話を続ける。 

「で、助けた後、警察に通報させたのもそれにつき合ったのも、別に深い考えはない。単純に未遂であっても捜査させるべきと思っただけで。」 
「……それで、その後あたしに福岡を案内すると言ったのは?」 
 

 永倉は、一番重要なことを切り出した。 

 正直、聞きたくもあり、聞きたくもないことだった。 

 もし、自分に対する好意ではなく、別の意図があって誘ったのなら……。 

「こう言ってはなんだけど、その辺は何と言っていいか……。」 

 急に歯切れが悪くなった。 
 

 やっぱり、何か隠していることがあるのかな……。 

「……気紛れと言うか、永倉さん、かわいくないわけじゃなかったし……ええと、うん……。」 

 じらさないで欲しい。 

 そう思いながら壬生を見る。 


 目があった。 

 

 壬生は観念したように天井を仰いだ。 

「寂しかったんです。」 
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