古からの侵略者

久保 倫

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乱戦⑦

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「うわぁぁぁぁっ!」

 厳奈寺を取り押さえていた警官が火だるまになって離れていく。
 婦人警官が、とっさに消火器を吹きかけ火を消す。

「厳奈寺!」
「秋夢様、もはや人間を侮ってはなりませぬ。法術をお使いください。」
「しかしよ、人間ごときに法術を使うなんざ。」

 やはり抑え込まれている伊西が異議を唱えた。

「馬鹿者、意地など何の役にも立たぬ。秋夢様、ご許可を。」


 小倉は、秋夢を締め上げている子分が吹き飛ばされるのを見た。
「厳奈寺の申す通りだな。」
 のそりと秋夢が立ち上がる。
「ここにいるのは兵士では無い連中ということだったから、今後のことも考え法術を使うまいと思ったが。」

 小倉にはよく理解できなかったが、隠し手を持っていることだけは理解できた。
 それ以上に、秋夢達が壬生を殺すつもりであることも理解していた。

「おおおおぉぉっ!!」

 また投げ飛ばしてやる。

 そのつもりで腕を差し出しながら突進したが、秋夢にあっさり止められてしまった。

「ぬ、ぬぅ。」
 両の手首を掴まれ、まったく動かすことができない。
「どうした我を投げ飛ばさないのか?」

 何か言い返してやりたいが、掴まれている両手首に走る苦痛にこらえるのに必死になっていた。
 こいつ、どんな握力しているんだ、骨が折れそうだ。
 そうしている間に、秋夢に小倉は強制的に気をつけさせられてしまった。

「そおれっ!」


「うそ!?」
 実際に見ても信じられない光景だった。
 秋夢に小倉が抑え込まれたのは、永倉にもわかった。
 だが、2m近く体重も確実に3桁に達しているであろう小倉が、天井に突き立てられるとは思わなかった。 

 秋夢が手を離すと、小倉の巨体は石膏ボードの破片と共に秋夢の足元に落ちた。
 頭頂部から流血している。

「さて、壬生よ。」

 足元に転がる小倉に目もくれず、秋夢は、壬生の方を向く。
 さすがに、恐怖を感じ壬生も思わず一歩後退してしまう。

「鷺慈御を倒した詫びをしてもらおうか。」
「正当防衛なんでお断りするよ。」

 下手な冗談でも言わねば、秋夢のプレッシャーをはねのけられそうにもない。
 どうする?
 壬生は、逃げるか、戦うか、決めかねていた。
 
 そんな壬生の内心を知ってか知らずか、秋夢はゆっくりと一歩踏み出した。

「朗さん、逃げて下さい!」

 床に転がっていた小倉が、右手で秋夢のズボンの右のすそを掴んだ。
 さすがに秋夢の歩みが止まる。
「まだ、意識があったか。鉄にぶつけた感触があったが。」
「この程度で、博多のヤクザをノックアウトできると思うな。」
 小倉は、さらに左手でもズボンを掴む。
「小倉ッ!」
「早く!」
「うっとおしい。」

 秋夢は蹴りはがそうと試みようとした時視界が霧に覆われた。


「壬生さん!早く逃げて!」
「永倉さん!?」

 壬生の窮地にじっとしていられず、永倉は手近にあった消火器を持って飛び出し、秋夢の頭目がけて噴霧したのだ。
「早く、逃げて。」
「あの時の小娘か?いらぬことを!」

 秋夢の言葉を聞いて、壬生の頭の中で何かが爆ぜた。

「おぉぉぉぉぉッ!」
 近くにあったゴミ箱を秋夢の頭の辺りに投げつける。
 壬生がこの霧に紛れて飛び蹴りをしてきたと錯覚した秋夢は、巨腕を振ってゴミ箱を払いのけた。

 その隙に、床を転がりながら壬生は、秋夢に近寄っていた。
 そして素早く立ち上がり、左ひざにローキックを叩き込む。
「がぁっ!」
「朗さん!?」
「小倉ッ、右足を持ち上げろっ!」

 言われるがままに小倉は、ズボンのすそと靴を掴んで秋夢の右足を持ち上げる。
 当然、秋夢の巨体は左足一本だけで支えられることになる。
 そこに壬生は、ローキックを集中させた。

「舐めるなぁッ!」

 消火剤が目に入ったため、視界は遮られたままだが、それだけ蹴られて壬生がどこにいるかわからぬ秋夢ではない。
 巨腕を振り回し、壬生を殴りつけようとする。
 無論、それを読んでいない壬生ではない。
 一歩バックステップしてかわし、再度踏み込んで瓦割の要領で拳を秋夢の膝に拳を叩きつける。

「がぁぁぁっ!」

 ローキックの集中打でダメージが蓄積されていた膝に、壬生の一撃はとどめとなった。
 さしもの秋夢の膝も砕け、異様な形に折れ曲がりながら、秋夢は倒れるのだった。

「秋夢様!」

 厳奈寺は、吠えながら、憎き壬生を睨みつける。

 そして印を組み、人間に発しえぬ発音で何かを叫ぶ。

「死ぬがいい!壬生よ!」

 厳奈寺は、己が手に生じた火球を壬生目がけ放った。
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