古からの侵略者

久保 倫

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乱戦⑤

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「おおおおおおおっ!」

 秋夢のベルトを掴み、上着の襟をつかんで高々と持ち上げる。

「そおれっ!」

 そのまま、小倉は鬼の一人―――蔵宇治に向かって秋夢を投げた。

「秋夢様!」
 投げつけられた蔵宇治は、秋夢を受け止めるが、さすがにささえ切れず下敷きになってしまう。

「わかったか、てめえら。服は掴めるんだ!かかれ!こいつらをのさばらせちゃ、士道会の看板下ろさなきゃならねぞっ!」

 叫んでから必死に小倉は息を整える。
 さすがに秋夢の巨体を投げるような無茶をし大声を出して、息が上がっている。

「「「へい!」」」

 小倉に従っていた3人も伊西に突撃する。
 さすがに秋夢の巨体を投げ飛ばすようなことはできないが、伊西くらいなら服を掴んで投げるくらいできると踏んでのことだ。

 それを悟った伊西は、子分達相手に身構えるが、その隙を警官につかれた。
 パーカーのフードを掴まれ、首を絞められてしまう。
「ぐっ。」

 伊西だけではない。小倉の奮闘を見て、柔道に覚えのある警官達が服の襟などを利用しての締めを試みる。

 その乱戦の混乱の中、子分達は折り重なっている秋夢と蔵宇治に近寄る。
 身を起こそうとする秋夢の上着の襟をつかんで見よう見まねで襟締めをかける。

「うぬ……。」

 さすがに首を絞められては秋夢も堪える。

「秋夢様!」
「ぐっ……こ、この……。」



「さぁ、逃げますよ。」
 今度は、背後にいた署長に手を掴まれた。
「逃げるって。」
「最悪留置所に。あそこは脱走防止のため頑丈です。他の署から応援が来るまでそこに。」
「待ってくれ、永倉さんが……。」
 壬生がそう言った時、署長が手を離し倒れこんできた。

「何?」

 とっさに受け止める。
 署長は気絶していた。見れば後頭部から出血している。

 署長の背後を見るが、誰もいない。

 だが、気配は感じた。
 直感に従って左腕を上げた。

 左腕を殴られた。もっとも堪えられる程度の痛みでしかない。
 壬生は、ヤマカンで左の蹴りを繰り出した。
 足の甲が何かをとらえた。
 壬生は、申し訳ないと思いながらも、署長を何かに向かって押した。

 署長は、そのまま背中から倒れる。

 壬生は、左にステップして見えない何か目がけて右正拳突きを繰り出した。
「ぐぅ……。」

 おぼろげに人の形をしたものが現れ始めた。
 右のわき腹を押さえている。

「ぐぅ……さすが、秋夢様を傷つけただけのことはあるな。」
「誰だ?」

 完全に姿を現した者に壬生は問いかける。

「俺は鷺慈御ロジオン。」
「アキムの仲間か。」
「そうだ、秋夢様がお前を殺すと決めた以上逃がさぬ。」
「逃げはしないが。」
 壬生は構えて鷺慈御と対峙する。
 どの道、6名の鬼達をどうにかしないと逃げられないのだ。
「お前、急に現れたが、鬼としての特殊能力か何かか?」
「透過の術のことか?法術の一つよ。」
「使えば、姿が見えなくなるのか。」
「そうだ。」
「一つと言うことは、他にも術があるんだろうな。」
「俺はさほどでもないが、あそこにいる厳奈寺は天才だ。」

 警官達に服の袖などを抑えられている一番小柄な鬼を示した。

「様々な術を使いこなす。お前も師事すれば様々な術を使えるようになるだろう。」
「そうなのか?」
「そうだ、俺は法術がさほど得意でもないが、それでもお前の天分はよくわかる。お前なら優れた術者になる。」
「そんなにか。」
「あぁ、ただの人間のくせして、法力が泉のように溢れ出ている。うらやましい程だ。」

 思わず、構えている拳に目を向ける。

 生まれてからずっと見ている拳だが、一度も光ったりするようなことは無かった。
 法力とは一体なんなのだろうか?

「朗、しゃがめ!」

 突然の大声に反射的に従った。

 鷺慈御の拳が、壬生の頭のあった空間を通過する。

「今だ!朗!右アッパー!」

 大久保がセコンドよろしく叫んで壬生に指示を出している。

 だが、壬生は指示に従わず、前転して鷺慈御の後ろに回り込んだ。

「朗、何を?後ろからの攻撃はルール違反だ。」
「やかましい、俺はボクサーじゃない!」

 そもそもこれはボクシングの試合じゃない。
 そう思いながら壬生は立ち上がった。

「鷺慈御、法力とやらについて教えてもらえるか。」
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