古からの侵略者

久保 倫

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餌付け

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「あ~、カップラーメンおいし~。」
「妙子お姉さん、そんなこと言わなくてもいいじゃない。」

 夕食がカップ麺になったのは、自分のミスなので下手に出る。

「壬生さんに関しての電話だったんだから。」


 永倉の携帯が鳴ったのは、野菜炒めを作っている最中だった。

「河合と申します。永倉 有希さんの携帯でしょうか?」

 携帯から流れたのは、落ち着いた男性の声だった。

「はい、永倉ですが。」
「あぁ、どうも初めまして。私、士道会の顧問弁護士の河合 淳一と申します。突然の電話、失礼致します。」

 士道会、春吉会長からのメッセージだろうか。

「春吉会長は、本日逮捕されましたので、今後しばらくは、私が連絡の窓口になります。ご了承下さい。」
「わかりました。」

 永倉は、即答した。
 どの道何か言える立場でもない。

「で、状況はどうなんでしょうか?」
「会長の取り調べに立会ましたが、出鱈目です。証拠は、壬生 朗氏の証言だけ。よく逮捕状が出たと呆れるばかりです。一般人なら社会派の弁護士が大挙して押しかけるかもしれません。」
「壬生さんは、会長やアキム達と組んでいると言っているんですか?」
「そのようで。こちらは、対決させて欲しいとお願いしたのですが、断られました。」
「そうですか。」
「こちらとしては、矛盾点など、あればついて、証言を取り消させたいのですが。」
「難しいんですね。」
「えぇ。ただ、聴取の中であなたの話も出ました。」
「私の?」
「あなたと会長の関係です。」
「関係と言われても……。」

 スタバで会って話をしただけだ。

「会長は、全て話してます。『何の関係も無い、ただのカタギだから、捜査する必要は無い。』と言ったのですが、刑事の反応が。」
「どうだったんですか?」
「『孫と同じことを言う。』でした。ひょっとしたら、壬生氏はあなたに累が及ぶのを恐れたのかもしれません。」

「何の累ですか!」

 永倉は、思わず大声を上げてしまった。

「いや、この件に関する警察のやり方は強引です。あなたが逮捕されるのを、壬生氏は恐れたのではと。」
「壬生さんは、私の盾になったと?」
「可能性はあると、会長が言ってました。壬生氏の父親なら、そう息子を躾けてもおかしく無いと。」

 壬生さんのお父さん。

「壬生さんのお父さんってどんな人なんでしょう?」
「私には、わかりません。会長ならご存知かもしれませんが。」
「お母さんは?会長さんの娘さんでしょう。」
「そうです。」
「壬生さん逮捕されて、ご両親は何をしているんでしょう?知らないなんてあり得るのでしょうか?」
「これは、聴取に立ち会って知ったことですが……。」

 河合が語ったのは、

・壬生の両親が既に故人であること

・壬生が施設育ちであること

・壬生の母親の遺言で春吉が壬生を引き取れなかったこと


「守秘義務がありますが、これくらいは大丈夫でしょう。特にご両親が亡くなられていることは、知っておいた方がよろしいでしょうし。」
「ありがとうございます。」

 目の前にいない相手に頭を下げた。

「それにしても、父方の親族は何故引き取らなかったのでしょう?」
「私もその辺の事情はわかりません。会長は、もちろん知っているようですが……。」

 河合は一瞬言い淀んだ。

「どうしました?」
「あなたに言っていいものか迷うのですが、会長は何かその辺の事情を隠していますね。」
「壬生さんのお父さんのことをですか。」
「えぇ、取り調べでも巧みにその辺の話に及ぶと軌道修正していました。まるで警察に調べられたくないかのように。」
「何故でしょう。」
「さて。何やら会長にも考えがあるようで。」
「考えって。」
「わかりません。こちらにも話して欲しいのですが。」

 河合のため息が聞こえた。

「話は長くなってしまいましたが、会長からの伝言です。何とかなるから心配するな、です。」

 「何とかなる」ってするじゃないの。

 疑問に思ったが突っ込まないでおくことにした。

「後、近日中に朗は保釈されるだろうから、いつでも迎えに行けるようにしてくれ、とも言ってました。」
「保釈されるですか!」
「会長もあての無いことは言わないと思いますが……。」

 河合も自信なさげであった。

「わかりました。迎えには絶対行きます。言いたいこともありますし。」
「また動きがあれば連絡します。」
「ありがとうございます。私なんかのために色々と。」
「いいんです。あなたと信頼関係を構築しておいた方がいいと思いましたので。それが顧客である会長の意向に沿うことでしょうから。」

 失礼します、と電話を河合は切った。

 永倉も携帯をデニムのポケットに入れる。

 その時焦げ臭い匂いに気が付いた。

 見れば、フライパンの中の野菜が黒くなっている。無論、ソースや醤油の入れ過ぎなんてことではない。

「あっちゃぁ~~。」

 見れば別に作っていた煮物も焦げ付いている。

 つまるところ、おかずは全滅したのである。永倉が電話に気を取られたせいで。


「ラーメンライスなんて、ヤダ。あきらちゃんのご飯食べたぁ~~~い。こないだのかぼちゃの煮つけもいんげんの胡麻和えも絶品だった。」
「叔母さん。」
「豚の角煮も、牛カツも美味しかった。あんな固いお肉をちゃんと塩麹で柔らかくして。うぅ~。」

 確かに妙子の言う通りだった。永倉も、美味しい美味しいと連呼してしまった。

「あ~~~ん、あきらちゃんを返してぇ~~~。まともなご飯たべたぁ~~い!」

 妙子の魂の絶叫は、空しくリビングに響くばかりだった。
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