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キャナル・シティ
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交番より一番近いキャナルシティの入り口は、上川端商店街を南に抜けた、平清盛の建立した博多総鎮守たる櫛田神社の向かいにある。
そこから連絡橋で国体道路を越えるとキャナルシティを構成するノース・ビルに入る。
そこを起点に永倉は、壬生と遊び回って、地下1階のムーミンカフェで休憩していた。
地下1階と言っても、その名前の由来たる疑似運河の上に天井は無い。
解放された空間には、普通に光が入る。
「東京の方に比べれば、こういった商業施設で目新しいものはないでしょうけど、とりあえず今日は楽しんでもらえたでしょうか。」
「は、はい。」
そう返事をしたが考えたのは別の事だった。
今日はって、次はあるのかな。
考えてみれば、壬生はどうして自分を誘ったのだろう。
周囲にちょっと目を配ると、通り過ぎる女性が、皆壬生を見ているのがわかる。
それだけの容姿が目の前の男性には備わっている。
黙っていても、女性など選び放題であろう。
助けてくれたのは、単純な親切心で間違いない。
その後、遊びに誘ったのは、どうしてだろう。
聞いてみたいが、返事が怖くて聞けない。
ただの気まぐれだったらどうしよう。
気を落ち着かせるために、紅茶を口にする。
最初は、その容姿にときめいた。
だけど、今は違う。
ぜんざい広場で見せた振る舞い。
危険な状況から、女性をだけを逃がそうとするのは、なかなかできることではない。
完全に壬生にまいったことを、永倉は自覚していた。
それは、ヤクザと関係があるかもしれない、そう思うようになっても変わりない。
むしろ、逆に想いが強くなったような気がする。
正直、長浜家を出た辺りから、永倉は壬生のことばかり考えている。
地下に降りて、疑似運河の噴水ショーや中央のステージのパフォーマンスを見ても頭に入らず、滑るばかりだった。
ハムリーズで、シュタイフのテディベアをもふもふしても、頭の中には壬生がいた。
5階のイベント会場が、ラーメンスタジアム内の一角と気づかず迷ったのは、かえって楽しかった。
いつまでも一緒にいられる気がして。
そして、今も。
「どうしました?」
不思議そうな顔で壬生が聞いてくる。
「何か僕の顔についてます?」
永倉は、思わず顔を伏せた。
考えながら壬生の顔をガン見していたようだ。
「いや、ちょっと考え事を。」
「考え事?」
「いや、マンガのこととか、ちょっと。」
「あぁ、これから書く作品のことですか。」
壬生は、信じてくれたようだ。
「いい作品がかけるといいですね。」
うん、そうなんだけど。
紅茶を口にする。
「今回の事とか、うまくかければいいんだけど。」
我ながらとんでもないことを言ったなと思うが、言葉は取り消せない。
「あはは、さすが、漫画家になろうと言う人は違いますね。」
「……いや、その。」
「まぁ、あのぜんざい広場の件だけでも原因とかわかれば。」
「何だったんでしょうね。」
突然、立ち上がり、操り人形みたいにぜんざい広場を出て行く人たち。
永倉にしてみれば、ホラーでしかない。壬生がいなければ、恐怖でおかしくなったもしれない。
「催眠術の類としか思えないんですけど、僕のせいで永倉さんに効かなかった、とか訳がわかりません。」
「催眠術にしても、何らかの形で働きかけないとかけられませんよね。それなりにお客さんいたのにどうやって。」
「お客さんの近くに彼らの内の誰かが近寄った気配は無かったですし。」
「警察の人に店員さんが『ぼぉーとっとして』って言ってましたけど、何かガスみたいなのを撒いたとか。」
「ガスで意識をもうろうとさせることはできても、行動させるには指示が必要だと思うんです。」
二人とも黙ってしまった。
どちらも、ぜんざい広場での出来事を合理的に説明できるような知識は無いのだ、ということを再確認しただけだった。
「止めにしましょう。アキム達の件は警察に任せる以上のことはできません。」
「そうね、下手な考えをしても疲れるだけだもん。」
今までに読んだマンガなら、魔術などで説明できるが、現代日本にそんなものは存在しない。
「そろそろ、帰りましょう。」
そう言って壬生は自然に伝票を手にした。
「あ、あの。」
「ここは、僕をたてて下さい。」
有無を言わせる気はないようで、そのまま席を立つ。
高い身長もさることながら、長い手足に小さい頭。
一体全体何頭身なんだろう。
顔がいいだけじゃない。スタイルもいい。おまけに身体能力も高い。
頭も悪そうじゃないし、性格のよさは、今日一日でたっぷり堪能させてもらってる。
ほんと、なんでこんな完璧超人がいるんだろう。
そう思う永倉。
長浜家から出てから、壬生のことばかり考えていたせいで、初歩的なミスをしたことを帰った時に気づかされる羽目になる。
「妙子叔母さん、戻りました。」
「お~かぁ~えぇ~りぃ~。」
ドアを開け、挨拶をした永倉を出迎えたのは、その眼に狂気を宿した妙子だった。
そこから連絡橋で国体道路を越えるとキャナルシティを構成するノース・ビルに入る。
そこを起点に永倉は、壬生と遊び回って、地下1階のムーミンカフェで休憩していた。
地下1階と言っても、その名前の由来たる疑似運河の上に天井は無い。
解放された空間には、普通に光が入る。
「東京の方に比べれば、こういった商業施設で目新しいものはないでしょうけど、とりあえず今日は楽しんでもらえたでしょうか。」
「は、はい。」
そう返事をしたが考えたのは別の事だった。
今日はって、次はあるのかな。
考えてみれば、壬生はどうして自分を誘ったのだろう。
周囲にちょっと目を配ると、通り過ぎる女性が、皆壬生を見ているのがわかる。
それだけの容姿が目の前の男性には備わっている。
黙っていても、女性など選び放題であろう。
助けてくれたのは、単純な親切心で間違いない。
その後、遊びに誘ったのは、どうしてだろう。
聞いてみたいが、返事が怖くて聞けない。
ただの気まぐれだったらどうしよう。
気を落ち着かせるために、紅茶を口にする。
最初は、その容姿にときめいた。
だけど、今は違う。
ぜんざい広場で見せた振る舞い。
危険な状況から、女性をだけを逃がそうとするのは、なかなかできることではない。
完全に壬生にまいったことを、永倉は自覚していた。
それは、ヤクザと関係があるかもしれない、そう思うようになっても変わりない。
むしろ、逆に想いが強くなったような気がする。
正直、長浜家を出た辺りから、永倉は壬生のことばかり考えている。
地下に降りて、疑似運河の噴水ショーや中央のステージのパフォーマンスを見ても頭に入らず、滑るばかりだった。
ハムリーズで、シュタイフのテディベアをもふもふしても、頭の中には壬生がいた。
5階のイベント会場が、ラーメンスタジアム内の一角と気づかず迷ったのは、かえって楽しかった。
いつまでも一緒にいられる気がして。
そして、今も。
「どうしました?」
不思議そうな顔で壬生が聞いてくる。
「何か僕の顔についてます?」
永倉は、思わず顔を伏せた。
考えながら壬生の顔をガン見していたようだ。
「いや、ちょっと考え事を。」
「考え事?」
「いや、マンガのこととか、ちょっと。」
「あぁ、これから書く作品のことですか。」
壬生は、信じてくれたようだ。
「いい作品がかけるといいですね。」
うん、そうなんだけど。
紅茶を口にする。
「今回の事とか、うまくかければいいんだけど。」
我ながらとんでもないことを言ったなと思うが、言葉は取り消せない。
「あはは、さすが、漫画家になろうと言う人は違いますね。」
「……いや、その。」
「まぁ、あのぜんざい広場の件だけでも原因とかわかれば。」
「何だったんでしょうね。」
突然、立ち上がり、操り人形みたいにぜんざい広場を出て行く人たち。
永倉にしてみれば、ホラーでしかない。壬生がいなければ、恐怖でおかしくなったもしれない。
「催眠術の類としか思えないんですけど、僕のせいで永倉さんに効かなかった、とか訳がわかりません。」
「催眠術にしても、何らかの形で働きかけないとかけられませんよね。それなりにお客さんいたのにどうやって。」
「お客さんの近くに彼らの内の誰かが近寄った気配は無かったですし。」
「警察の人に店員さんが『ぼぉーとっとして』って言ってましたけど、何かガスみたいなのを撒いたとか。」
「ガスで意識をもうろうとさせることはできても、行動させるには指示が必要だと思うんです。」
二人とも黙ってしまった。
どちらも、ぜんざい広場での出来事を合理的に説明できるような知識は無いのだ、ということを再確認しただけだった。
「止めにしましょう。アキム達の件は警察に任せる以上のことはできません。」
「そうね、下手な考えをしても疲れるだけだもん。」
今までに読んだマンガなら、魔術などで説明できるが、現代日本にそんなものは存在しない。
「そろそろ、帰りましょう。」
そう言って壬生は自然に伝票を手にした。
「あ、あの。」
「ここは、僕をたてて下さい。」
有無を言わせる気はないようで、そのまま席を立つ。
高い身長もさることながら、長い手足に小さい頭。
一体全体何頭身なんだろう。
顔がいいだけじゃない。スタイルもいい。おまけに身体能力も高い。
頭も悪そうじゃないし、性格のよさは、今日一日でたっぷり堪能させてもらってる。
ほんと、なんでこんな完璧超人がいるんだろう。
そう思う永倉。
長浜家から出てから、壬生のことばかり考えていたせいで、初歩的なミスをしたことを帰った時に気づかされる羽目になる。
「妙子叔母さん、戻りました。」
「お~かぁ~えぇ~りぃ~。」
ドアを開け、挨拶をした永倉を出迎えたのは、その眼に狂気を宿した妙子だった。
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