古からの侵略者

久保 倫

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ふたたびぜんざい広場

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 少しばかり時間は戻る。

「逃げるかッ!」

 李作が叫ぶが壬生が止まるはずもない。
 李作は、壬生を追うべく秋夢の傍らを抜けようとする。

「追うな、李作。あの壬生という男強いぞ。」
「秋夢様、お手を負傷されたのでは?」
「蔵宇治、お主の見立て通りだ。蹴りを受けた左手、骨が折れたようだ。」
 秋夢は顔をしかめたままだ。

 なんということか、李作は頭が熱くなるままに吠えていた。

「壬生とやら名前は覚えた。そこの娘ともども生かしておかぬ!」

 追うなと命じられた以上、李作にはそれ以上のことはできなかった。

「しかし、我らに素手で触れるなど。ましてや、傷を負わせるなど、並みの人間には不可能です。」
 蔵宇治は、秋夢の右手を見る。
 確かに骨が折れているようだ。
 蔵宇治には信じがたいことであるが。
「だが、現実を見よ。伊西は打ち倒されておる。あれとて、弱いわけではない。ただ背が低いだけだ。」

 と言っても壬生と大差ない身長であり、背が低いとは普通言われないだけの身長ではある。

「秋夢様、いかがしましょう。」
「今しばし、この時代のことを調べる。破邪の術が廃れたと見るのは早計かもしれぬ。伊西を助けてこの場は引くとしよう。」  
「かしこまりました。」
 李作と呼ばれた男は伊西を抱える。
「自分は、厳奈寺ゲンナジ鷺慈御ロジオンに引き上げるよう伝えます。」
「蔵宇治、頼む。我はここの人払いの法を解いて城跡に戻る。」


 かくして壬生達が戻って来た時、ぜんざい広場に秋夢達は残っていなかった。

 ぜんざい広場に秋夢達が残っていないことを確認した警官が待っていた。
「尾形さん、お待ちしてました。」
「松原君、ご苦労様。」
 壬生達を連れて来た警官、尾形と敬礼しあって話し合う。

「えっ、誰もそんな人を見ていない?」
「はい、店員さん全員に話を聞きましたが、4人ともそんな人は知らないと。2m近い大男の外国人っぽい人など見なかったと。」
 尾形が壬生達を見る。
「君達、本当に2m近い外国人がいたのか?」
「本当です!疑うんですか!?」

 永倉の剣幕に尾形と松原は、顔を見合わせる。

「でもねえ、私はここに来て店員さんに話を聞いたけど見ていないと言うんだよ。」
「そんな。」

 永倉は、ぜんざい広場に入り、自分に飾り山のことを教えてくれた女性に話しかける。

「あの、2m近い大柄な外国人を本当に見なかったんですか?」
「あの警察の人にも聞かれたけど見とらんよ。あんたとイケメン君は覚えとるけどね。」
「覚えているんですか?」
「まあね。来て早々飾り山に見入る若い人は珍しいし、あんなイケメン君はTVでもお目にかかれんから印象に残ったわ。」

 自分のことはさておき、壬生さんに関してはそうだろうな、と永倉は思った。

「でもなんでお店を出たんですか?それも全員。」

 答えはすぐに返ってこなかった。

「……なんでって言われても難しいったいね。」
「なんか、ぼーっとした感じかな。気が付いたらお店の外にいたというか。」
「うんうん、そう私も気が付いたらお店の外だったわ。」
「なんですか、それは?」

 やっぱ、あのアキムとかいう連中に催眠術でもかけられてたんじゃないの。

「あの、他にお客さんがいたと思うんだけど、どうだったの?」
「偶然かもしれませんが、皆さん全員同時に出て行きました。その時このぜんざい広場にいたのは僕達とひったくり犯の仲間だけです。」
「そんなこともあるんかね。」

 尾形は、信じがたいという顔をする。

 そりゃ、見た私達だって信じがたいもんなぁ。
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