古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
上 下
4 / 95

マンション②

しおりを挟む
 二人はガンを飛ばし合う。
 そこに人がいれば、火花が実際に散っているのが見えたかもしれない

「歳を考えて下さい。痛いですよ。」
 冗談じゃない、こんな叔母がいると知れたら壬生さん、足が遠のくかもしれない。
「うるさい、お黙り。そんな短いスカートで出かけるなんて、あんたもその気でしょ。」
「これくらい、10代なら普通ですよ。」

 そう、普通普通。

「嘘おっしゃい。そんな短いのイベントでしか見たこと無いよ。普段はもう少し長いかデニムじゃないの。」
「最近、年相応にもう少し足を出そうと思うようになりまして。いや、10代なんてすぐ終わっちゃいますから。」

 そう言いながらこれ見よがしに足を妙子に見せつける。

「くっ。」

 ほほほ、歳ってのが理解できたかしら。

「ええい、フシダラな。タイツ履かないと家から出さないからね。」
「ええ、車で案内してくれるから、タイツなんて履いたら暑いですよ。」
「お黙り、貸したげるから履きなさい。」
「嫌です。」
「風邪ひくわよ、貸したげるから履きなさい。」
「大丈夫です。若いですから。」
「ええい、実力行使じゃ。」
「なにすんですか!」

 女二人バタバタと取っ組み合う。 

「叔母さんのヘンターイ!」
「大人しくおし。」
「やだ、エッチ。」
 低い声で怒鳴りながら二人は、攻防を繰り広げる。

「あ、バックプリント。」
「どこ見てんですか!」
「ほほほ、おこちゃまねえ。」
 そう言いながら、妙子は和知の足をとってベッドに押し倒す。
「ほれ、タイツ履いて隠しなさい。」
「カワイイからいいんです!」
「見せる気!そんなフシダラなこと許しません!」

 女二人低い声で唸り合いつつドタバタと取っ組み合う。

 そんな最中時計の針が11時を示した。
 同時にインターフォンが鳴った。

「壬生です。永倉さん、迎えに来ました。」

 二人の動きが止まる。

「「壬生さん、いらっしゃい。」」

 女二人、低い声から高い声に変えて返事をする。

「「ちょっと待って下さいね。」」
 永倉は、立ち上がって素早く乱れたスカートを直す。
 髪を手で整えながら鏡を見る。

 妙子も同様に服や髪形をチェックする。 

 こすれたファンデとかついてないよね。
 足をチェックする。
 膝のあたりにファンデがついていたのでウェットティッシュで素早く拭き取る。

 妙子は、乱れた口紅を拭き取っている。

 ラッキー、これなら。

「壬生さん、今ドア開けますね。」
「こらっ。」
 小さな声で妙子が抗議する。
 構うことなく永倉は、玄関のドアを開けるべく部屋を出る。
 妙子は悔し気な顔をしつつ、部屋に残る。乱れたメイクを見せるわけにはいかない以上やむを得ない。

 ふふふ、リップ程度でいい10代と張り合おうとするからですよ。
 
 永倉は、勝者の優越感を感じつつドアを開けた。

 ドアの外に昨日と違う、ジャンバーにジーンズ姿の壬生がいた。

 デニムは、ユニクロのスキニーだった。細身の壬生によく似合っている。

 足長ッ!

 裾上げいらないんじゃなかろうか。
 アタシがスキニー買った時、結構裾切られた……。

 いやいや、メンズとレディスは違うから、違うから。

「永倉さん、おはようございます。」
 そんなことを考えていると知る由もない壬生がにこやかに挨拶してくる。
「壬生さん、おはようございます。今日はお誘いありがとうございます。よろしくお願いします。」
 先ほどまで取っ組み合い争っていたなどと感じさせぬ声で永倉も挨拶する。
「いえ、楽しんでもらえるよう努力しますんで、こちらこそよろしくお願いします。」
 壬生の返事を聞きながら、永倉は下駄箱に置いておいたバッグを手にし、ハンガーにかけていたダウンももう一方の手に持つ。

「まぁまぁ、壬生クン。コーヒーでも飲んでいかない?」

 部屋から顔を出さずに妙子が声をかけてくる。
 出たなオジャマ虫。そのために家に来させたんだな。

「いえ、お気遣いなく。姪御さんお預かりします。」

 壬生さん、ナイス!

「じゃ、叔母さん、行ってきます。」
 壬生の言葉への返事を待たず、永倉は靴を履いて玄関の外に出た。
「では、夕方にはこちらに送ります。失礼します。」
 妙子に頭を下げる壬生を引っ張って永倉はドアを閉めた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。 雨の神様がもてなす甘味処。 祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。 彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。 心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー? 神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。 アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21 ※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。 (2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

時守家の秘密

景綱
キャラ文芸
時守家には代々伝わる秘密があるらしい。 その秘密を知ることができるのは後継者ただひとり。 必ずしも親から子へ引き継がれるわけではない。能力ある者に引き継がれていく。 その引き継がれていく秘密とは、いったいなんなのか。 『時歪(ときひずみ)の時計』というものにどうやら時守家の秘密が隠されているらしいが……。 そこには物の怪の影もあるとかないとか。 謎多き時守家の行く末はいかに。 引き継ぐ者の名は、時守彰俊。霊感の強い者。 毒舌付喪神と二重人格の座敷童子猫も。 *エブリスタで書いたいくつかの短編を改稿して連作短編としたものです。 (座敷童子猫が登場するのですが、このキャラをエブリスタで投稿した時と変えています。基本的な内容は変わりありませんが結構加筆修正していますのでよろしくお願いします) お楽しみください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...