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貝塚駅前
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貝塚駅は、福岡市営地下鉄と西鉄貝塚線を接続する駅である。
それだけに乗降客は多いが、それでも夜遅くなると少なくなる。
そんな貝塚駅の階段を降りる永倉 有希の足取りは軽い。
高校卒業後、漫画家を目指す永倉と反対する両親との間で喧嘩を続けており、居心地の悪い実家暮らしをしていたが、福岡市に住む漫画家の叔母、杉村 妙子が見かねて招いてくれたのだ。
叔母以外知人もいない福岡に行くのは勇気がいったが、思い切って飛び出すことにした。無論親に福岡行きを反対されたが、今までお年玉などを貯めた貯金で福岡に行くことにしたのだ。
これからは叔母と同居してアシスタントすることになる。
それだけではやっていけないのでバイトもしなくてはならないが、反対する親との喧嘩がなくなるだけ、ずっと気が楽な毎日が待つと思うと、足取りも軽くなろうというものである。
階段を降り切ったところで、バッグからスマホを出すべく足を止める。
そこを狙われた。
「きゃあっ!!」
正面の駐輪場から猛ダッシュで来た自転車に乗った男にバッグをひったくられた。
ひったくった犯人は、横断歩道を渡り、公園沿いに右折して逃げていく。
「ドロボウッ!」
叫ぶが、自転車をこぐ足が止まる気配などない。
足が遅くリュックをしょってる永倉では追いつけるはずもない速度で自転車は遠ざかろうとしている。
「ドロボウッ!誰か捕まえてぇッ!」
大声で叫びながら無我夢中で交差点を渡り、追いかけようとする。
渡って、ひったくり犯の方を向く。
街灯だけの暗い夜道でもわかる赤い派手なパーカーの背中が見える。
「ひったくり、誰か捕まえてぇ!」
永倉が叫んだ時、公園の柵に跳び上がって来た人がひったくり犯の頭に飛び蹴りをかました。
憎きひったくり犯は、無様に自転車ごと転倒する。
飛び蹴りをかました人は、着地する前に倒れる自転車のカゴからバッグを取り出していた。
「ありがとうございます。」
永倉は、走り寄りながら、ひったくり犯を蹴り倒した人を見た。
運動でもしていたのだろうか?ジャージを着ているので、体の細さがよくわかる。
アタシより細いんじゃないだろうか、などと思ってしまう。
無意識にウェストに手をやってしまう。
ここんとこ引きこもりがちで運動不足だから……。
いやいや、そんなことどうでもいい、どうでもいい。
意識を助けてくれたイケメンの方に集中させる。
顔も、細面で小さい。ボリュームが多めの髪はちょっと長い。色は抜いていないが、艶やかな髪だから、むしろドキッとするような色気がある。
目の保養、などと思いながら近寄る。
向こうも近寄ってきたのですぐに距離は縮まった。
「これ、君の?」
「はい。」
近寄った永倉にバッグを渡してくれた。
「さて、犯人は。」
そう言ってイケメンは後ろを向いた。永倉もつられて視線をイケメンから離す。
既に逃げたのだろう。転倒した自転車の後輪が止まりかけているのが見えるだけだった。
永倉が視線を遠くに動かしても誰もいない。
「えらく逃げ足の速いひったくり犯だな。」
貝塚公園沿いの道路は結構長い。走っていればすぐにわかる。
「こめかみにきれいに決まったと思ったんだけどな。すぐに動くとはタフな奴だ。」
そう言いながらイケメンは、植木の間から公園の中を覗き込む。
「いない。」
永倉も覗き込む。派手な赤のパーカーだからいればわかる。
公園の中には誰もいなかった。
公園の反対側は西鉄貝塚線であり、公園以上の高さのフェンスとその上に有刺鉄線が張られている。
少し進めば有刺鉄線は張られていないが、植え込みなどがあり、逃げやすいところではない。
それに派手な赤のパーカーだ。いればすぐにわかる。
イケメンは、納得しきれない顔のまま、永倉の方を見た。
「ケガしてません?」
「はい、大丈夫です!」
改めてイケメンの顔を見る。
まつ毛長ッ!細い切れ長の目は涼やかだ。
暗い街灯の下でも色が白く肌もきれいなのがわかる。
艶やかな黒髪とのコントラストがたまらない。
ガンプクガンプク。
「一応、警察に届けたほうがいいと思います。」
「この近くに交番あるんですか?」
「交番は無いけど、東警察署があります」
イケメンはひったくり犯の逃げたのと逆の方向のビルを指差した。
「また、出たらいけないと思うし、行きましょう。もし心細いなら一緒に行きますよ。」
「そうですね、心細いのでお言葉に甘えて付いて来てもらっていいですか。」
「ええ、もちろん。」
永倉は、イケメンと並んで警察署に向かって歩き始めた。
来て早々引ったくりに合ったことは災難だったけど、こんなイケメンと歩けるなら悪くないな。
そう思う永倉だった。
それだけに乗降客は多いが、それでも夜遅くなると少なくなる。
そんな貝塚駅の階段を降りる永倉 有希の足取りは軽い。
高校卒業後、漫画家を目指す永倉と反対する両親との間で喧嘩を続けており、居心地の悪い実家暮らしをしていたが、福岡市に住む漫画家の叔母、杉村 妙子が見かねて招いてくれたのだ。
叔母以外知人もいない福岡に行くのは勇気がいったが、思い切って飛び出すことにした。無論親に福岡行きを反対されたが、今までお年玉などを貯めた貯金で福岡に行くことにしたのだ。
これからは叔母と同居してアシスタントすることになる。
それだけではやっていけないのでバイトもしなくてはならないが、反対する親との喧嘩がなくなるだけ、ずっと気が楽な毎日が待つと思うと、足取りも軽くなろうというものである。
階段を降り切ったところで、バッグからスマホを出すべく足を止める。
そこを狙われた。
「きゃあっ!!」
正面の駐輪場から猛ダッシュで来た自転車に乗った男にバッグをひったくられた。
ひったくった犯人は、横断歩道を渡り、公園沿いに右折して逃げていく。
「ドロボウッ!」
叫ぶが、自転車をこぐ足が止まる気配などない。
足が遅くリュックをしょってる永倉では追いつけるはずもない速度で自転車は遠ざかろうとしている。
「ドロボウッ!誰か捕まえてぇッ!」
大声で叫びながら無我夢中で交差点を渡り、追いかけようとする。
渡って、ひったくり犯の方を向く。
街灯だけの暗い夜道でもわかる赤い派手なパーカーの背中が見える。
「ひったくり、誰か捕まえてぇ!」
永倉が叫んだ時、公園の柵に跳び上がって来た人がひったくり犯の頭に飛び蹴りをかました。
憎きひったくり犯は、無様に自転車ごと転倒する。
飛び蹴りをかました人は、着地する前に倒れる自転車のカゴからバッグを取り出していた。
「ありがとうございます。」
永倉は、走り寄りながら、ひったくり犯を蹴り倒した人を見た。
運動でもしていたのだろうか?ジャージを着ているので、体の細さがよくわかる。
アタシより細いんじゃないだろうか、などと思ってしまう。
無意識にウェストに手をやってしまう。
ここんとこ引きこもりがちで運動不足だから……。
いやいや、そんなことどうでもいい、どうでもいい。
意識を助けてくれたイケメンの方に集中させる。
顔も、細面で小さい。ボリュームが多めの髪はちょっと長い。色は抜いていないが、艶やかな髪だから、むしろドキッとするような色気がある。
目の保養、などと思いながら近寄る。
向こうも近寄ってきたのですぐに距離は縮まった。
「これ、君の?」
「はい。」
近寄った永倉にバッグを渡してくれた。
「さて、犯人は。」
そう言ってイケメンは後ろを向いた。永倉もつられて視線をイケメンから離す。
既に逃げたのだろう。転倒した自転車の後輪が止まりかけているのが見えるだけだった。
永倉が視線を遠くに動かしても誰もいない。
「えらく逃げ足の速いひったくり犯だな。」
貝塚公園沿いの道路は結構長い。走っていればすぐにわかる。
「こめかみにきれいに決まったと思ったんだけどな。すぐに動くとはタフな奴だ。」
そう言いながらイケメンは、植木の間から公園の中を覗き込む。
「いない。」
永倉も覗き込む。派手な赤のパーカーだからいればわかる。
公園の中には誰もいなかった。
公園の反対側は西鉄貝塚線であり、公園以上の高さのフェンスとその上に有刺鉄線が張られている。
少し進めば有刺鉄線は張られていないが、植え込みなどがあり、逃げやすいところではない。
それに派手な赤のパーカーだ。いればすぐにわかる。
イケメンは、納得しきれない顔のまま、永倉の方を見た。
「ケガしてません?」
「はい、大丈夫です!」
改めてイケメンの顔を見る。
まつ毛長ッ!細い切れ長の目は涼やかだ。
暗い街灯の下でも色が白く肌もきれいなのがわかる。
艶やかな黒髪とのコントラストがたまらない。
ガンプクガンプク。
「一応、警察に届けたほうがいいと思います。」
「この近くに交番あるんですか?」
「交番は無いけど、東警察署があります」
イケメンはひったくり犯の逃げたのと逆の方向のビルを指差した。
「また、出たらいけないと思うし、行きましょう。もし心細いなら一緒に行きますよ。」
「そうですね、心細いのでお言葉に甘えて付いて来てもらっていいですか。」
「ええ、もちろん。」
永倉は、イケメンと並んで警察署に向かって歩き始めた。
来て早々引ったくりに合ったことは災難だったけど、こんなイケメンと歩けるなら悪くないな。
そう思う永倉だった。
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