関白の息子!

アイム

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岳鶯ルート 金軍撃退戦

思惑

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 槍は訓練しだいで最も千変万化の技を見せる武器である。俺はそう考えている。ある時は敵の心臓を突き殺し、ある時は敵の首を斬り落とし、またある時は意表をついて足を払い石突で顔面を砕く。刺突・斬撃・払い・打擲とおよそ戦場で見る対人攻撃の全てをこなし、その全てにおいて他の武器を凌駕しうる最高の武器。それほど惚れ込むのだ俺が得物に槍を選んだのは至極当然のことだったのだろう。

 いま、その俺が惚れ込んだ槍が、一人、また一人と敵を屠っていく。

「左翼はどうだ!?」

 後方に付いてきている張進に大声で尋ねる。

 俺は例の粉の舞うこのほんの10分という短い時間に賭けている。それゆえの全軍突撃。初手の初手でこれを行うのは、本来であればよほどの愚か者だ。通常は敵兵を少しずつ減らしていき、十分に削ったと思った後に仕掛けるのが正しい戦略だ。だが、こちらにはそんな余裕はない。兵の質も量も劣っている以上、無理矢理に士気で勝ち、奇襲を成功させるしか道はないのだ。

「楊再雲殿も相当に斬り込んでおります! あちらの方が二〇歩は先行!」

 今、楊再雲は左翼から俺の右翼と同様に敵本陣に向けて突貫している。軍をちょうど半分ずつに分けての攻撃。ちょうど敵騎兵も両翼に散ってくれたことで、敵前衛の歩兵たちは後方で暴れる騎馬と空中から舞い降りて来て呼吸を困難にさせる粉、そして、前方から迫る俺達と言う三重苦の中で戦わされている。恐らく、この突貫は敵の二重三重の陣を抜け、ヌルハチのいる本陣に迫ることが出来るだろう。……そして、恐らく届かない。

「義弟に負けるわけにはいかん! 皆奮戦せよ、勝ってまた酒を酌み交わすぞ!」

『おお!』

 話しながらも次々と迫る敵兵を殺し、殺しながら一歩でも前にと言う気持ちで先に進む。だが、そうして進めば当然中央の敵兵たちも対応のために動くだろう。

「敵中央部隊、敵後方に退いている模様!」

 敵中央部隊の採れる選択肢はおおよそ三つ。そのまま両翼に横合いから助けに入る方法、これは最も素早く対応が可能な代わりに一番効果が薄い。次に一度後方に下がり、新たな防衛戦を本陣との間に引く方法、今回はこれを採ったようだが悪くはない。最後に、友軍を助けずに前進し、そこから転換してこちらの背後を突く方法、これが最も時間はかかるが効果的でもある。

「……やはり、ヌルハチは王であったか」

 王であるなら、最も優先すべきことは己の命。それ以外のことなど王の命に比べれば些事に過ぎない。この用兵はそれを言い表しているようなものだ。

「これで、俺達がヌルハチを討つことは出来なくなった」

「クハハ、やはり高布殿は英雄の資質を持っておられる!」

 そう、所詮俺達は陽動に過ぎない。俺達が敵の深くに刺されば刺さるほど、中央を含めて全軍の眼と戦力を集めれば集めるほど敵中央は手薄になる。更に言えば暴れる敵の騎馬と、中央軍が大移動することで立てる土煙は高布の接近をギリギリのところまで隠してくれるだろう。そして、高布であれば一息に敵中央を突破し、ヌルハチへと刃を届かせるだろう。

「張進、続け。お前もしっかり英雄にしてやる」

「ははっ! お供させていただきます!」

 敵を十分に引き付けるために、中央に高布がヌルハチに至る道を創るために、両翼の戦いは兵の消耗も考えずに無謀な突撃を続けなければいけない。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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