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岳鶯ルート 金軍撃退戦
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「皆、見ていたな? 敵は二対一で背を見せてやったにもかかわらず敗北するような弱将だった。ましてそれに率いられた寄せ集めの軍など、恐れるに足らん! 唯一、馬だけは名馬だったがな。だが約束しよう! 奴らの騎兵は直ぐに役立たずとなる!」
再び全軍の前に進み出て檄を飛ばす。
「戦友達よ! 今こそ奴らを屠る時だ! 同胞の恨みを晴らすために、奪われたものを取り返すために、我らが背負う家族を守るために!」
『おお!』
三万もの兵の猛々しい雄叫びが聞こえる。……これでようやく戦える兵となった。
「飛将軍、敵騎兵が歩兵の間を抜けようとしています!」
「よし! 放て!」
合図とともに一斉に太鼓が鳴らされる。既に準備は万端整っており、胡椒と花椒と火薬を詰めた瓶をぶら下げた矢が次々と上空に向けて放たれる。
「……心の準備は良いな?」
もともと上空での瓶の破裂が突撃の合図であることは全小隊長に至るまで通知してある。敵が混乱する隙にしか我々に勝機はないのだから……。
――そして、上空で複数の破裂音が起き、大量の胡椒と花椒が空中に撒かれる。それらの粉は風に乗り金軍の方へと流されていく。
「突撃!!」
俺を含め、我が軍は全員が馬を降りて駆ける。そして、駆けながらも首に巻いた布を上に押し上げ鼻までを隠す。馬ほどではないが、あの粉は人間にもそれなりの効果があるのだ。だが、あの粉が宙に舞っている時間などせいぜいが10分程それまでに大勢を決してしまわねばならない!
「止まるな! 進め進め進めい!」
味方を煽りながら右翼の先頭まで駆け上がり、兵の前に出る。
「俺に続け!」
本来であれば大将が先駆けするなどは明らかな愚行。だが、今率いる兵は先頭になり鼓舞し続けなければとても士気を持続できないだろう。そして、あと五十歩ほどのところで敵陣に粉が舞い降り始める。同時に敵軍内の騎馬が暴れ始めている音が聞こえる。兵も激しく咳き込む者が続出し、本来であれば激しく矢が飛んでくる間合いであるのに、予想の半分程度の量しか飛んでこない。
「行け行け行けぃ!」
あと二十歩。俺でさえ駆ける足に槍を握る手に力がこもる。目の前の敵歩兵たちは後方で暴れ始めた騎馬の騒ぎと、呼吸を困難にする粉末に面くらい、明らかに集中しきれていない。
あと十歩。本来であれば敵軍に槍衾が形成されている場面だが、それもまばら。そのほころびに向けて少し方向を変える。
「此処だ!」
あと二歩と言うところで高く跳躍する。
まるで時が止まったかのようにゆっくりと過ぎていく。飛び交う矢も敵兵の焦る表情も味方の咆哮も全てがゆっくりと。……何時もそうだ。戦に入る時は極限まで集中力が高まり、自分が放つ神速の突きが面白いほどはっきりと見え、その穂先が撫でるように敵の首をなぞり、ほとんど無自覚に横に振り払われて隣にいた兵の首すじも撫でていく。
着地すると、二人の兵は血を噴き上げ、こちらを攻撃することも忘れて出血を抑えようとするが、当然手で押さえられるようなものではなく直ぐに膝から崩れ落ちていく。
「良し!」
更に敵を殺すべく足を進める。戦はまだ始まったばかり。今はただ、獣の如く敵を殺すべき時。
再び全軍の前に進み出て檄を飛ばす。
「戦友達よ! 今こそ奴らを屠る時だ! 同胞の恨みを晴らすために、奪われたものを取り返すために、我らが背負う家族を守るために!」
『おお!』
三万もの兵の猛々しい雄叫びが聞こえる。……これでようやく戦える兵となった。
「飛将軍、敵騎兵が歩兵の間を抜けようとしています!」
「よし! 放て!」
合図とともに一斉に太鼓が鳴らされる。既に準備は万端整っており、胡椒と花椒と火薬を詰めた瓶をぶら下げた矢が次々と上空に向けて放たれる。
「……心の準備は良いな?」
もともと上空での瓶の破裂が突撃の合図であることは全小隊長に至るまで通知してある。敵が混乱する隙にしか我々に勝機はないのだから……。
――そして、上空で複数の破裂音が起き、大量の胡椒と花椒が空中に撒かれる。それらの粉は風に乗り金軍の方へと流されていく。
「突撃!!」
俺を含め、我が軍は全員が馬を降りて駆ける。そして、駆けながらも首に巻いた布を上に押し上げ鼻までを隠す。馬ほどではないが、あの粉は人間にもそれなりの効果があるのだ。だが、あの粉が宙に舞っている時間などせいぜいが10分程それまでに大勢を決してしまわねばならない!
「止まるな! 進め進め進めい!」
味方を煽りながら右翼の先頭まで駆け上がり、兵の前に出る。
「俺に続け!」
本来であれば大将が先駆けするなどは明らかな愚行。だが、今率いる兵は先頭になり鼓舞し続けなければとても士気を持続できないだろう。そして、あと五十歩ほどのところで敵陣に粉が舞い降り始める。同時に敵軍内の騎馬が暴れ始めている音が聞こえる。兵も激しく咳き込む者が続出し、本来であれば激しく矢が飛んでくる間合いであるのに、予想の半分程度の量しか飛んでこない。
「行け行け行けぃ!」
あと二十歩。俺でさえ駆ける足に槍を握る手に力がこもる。目の前の敵歩兵たちは後方で暴れ始めた騎馬の騒ぎと、呼吸を困難にする粉末に面くらい、明らかに集中しきれていない。
あと十歩。本来であれば敵軍に槍衾が形成されている場面だが、それもまばら。そのほころびに向けて少し方向を変える。
「此処だ!」
あと二歩と言うところで高く跳躍する。
まるで時が止まったかのようにゆっくりと過ぎていく。飛び交う矢も敵兵の焦る表情も味方の咆哮も全てがゆっくりと。……何時もそうだ。戦に入る時は極限まで集中力が高まり、自分が放つ神速の突きが面白いほどはっきりと見え、その穂先が撫でるように敵の首をなぞり、ほとんど無自覚に横に振り払われて隣にいた兵の首すじも撫でていく。
着地すると、二人の兵は血を噴き上げ、こちらを攻撃することも忘れて出血を抑えようとするが、当然手で押さえられるようなものではなく直ぐに膝から崩れ落ちていく。
「良し!」
更に敵を殺すべく足を進める。戦はまだ始まったばかり。今はただ、獣の如く敵を殺すべき時。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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