311 / 323
岳鶯ルート 金軍撃退戦
二対一
しおりを挟む
ヌルハチの次男・ダイシャンと名乗った男の矛が激しい突きを放って来る。一撃必殺の威力を秘めたその攻撃は少々隙が多い。彼だけを相手にするのであれば、これを避けて反撃すればそれで終わり。
「ぬるい!」
穂先に槍を合わせ、攻撃の勢いを後ろに反らしてやる。
「ぬぅ!?」
馬の勢いもあったので、ダイシャンは後方に向かい離れていく。それに合わせ、俺も少し馬を後方に下げる。
「どうしたチュイェン? 貴様は恐ろしくてかかって来られないのか!?」
「何を!? 正々堂々、一対一で相手をしてやろうというのに、この愚か者が!」
そう言ってヌルハチの長男・チュイェンも馬を走らせる。
正直に言えば、俺とて一人ずつ相手に出来る方がありがたい。だが、今回の目的は味方の士気を上げ、敵を挑発する事。一人は殺し、一人は捕らえる予定なのだ。そのためには二対一で押されているように見せかけて味方の陣に向けて下がる必要もある。
「・・・・・・ふぅ、いきなりの綱渡りだな」
しかし同時に、勝てない戦で勝とうとすればそうして賭け事に勝っていくしかないのだ。
「喰らえぃ!」
チュイェンの得物は俺と同じくらいの長さの槍。その技量は決して悪くはない。しかし、余りにも軽い。これでは、もし当たったとしても傷をつける程度で決定打にはならないだろう。ただし、その分早く、手数が多い。
「次男とはずいぶん違うな」
チュイェンの攻撃を二度三度と躱しながら、更に馬を後退させる。そうすると、後方からダイシャンが再び矛を振りかぶり一撃必殺の構えを見せる。
「ムン!」
馬にあおむけに寝る様に背を反らせてその一撃を避け、更に後退させてチュイェンの攻撃に備える。
「ハァ!」
やはり軽い攻撃。槍で振り払うが、軽い攻撃であるがためにチュイェンの体勢は崩れない。そのままの勢いで攻撃を仕掛けてくる。
「ハァア!」
つまり、チュイェンは未だ保身の意識が強いのだ。大ぶりな一撃はどうしたって隙が大きい。そのため、小さな攻撃によって攻めながらも守っているのだ。
・・・・・こういう男は自分の命可愛さに大いに敵軍の挑発に役立ってくれるだろう。殺す者と捕らえる者は決まった。
「だぁりゃあ!」
ダイシャンが三度一撃必殺の攻撃を加えてくる。今度はチュイェンの攻撃も同時。
「はっ!」
掛け声とともに腹を蹴れば、俺の愛馬も心得たもので後方に向けて跳躍する。数え切れないほどの時間を共に過ごしてきた愛馬はそれこそ義兄弟達と同様に俺の心を察してくれる。
俺の人馬一体の動きで攻撃を躱された二人は次の攻撃のために間合いを詰めてくる。少しずつ、少しずつ自陣から離れて行っていることに気付きもしない。
「・・・・・・もう少し、だな」
問題は捕らえた将を連れ帰る時、敵軍の騎馬に何処で捕まるかだ。そうでなくても挑発のために敵軍近くまで寄っているので、味方の援護を得ることが出来ない状況。おまけに二人で乗ることになれば愛馬の負担も相当なもの。
「っと」
そんな事を考えていると危うくチュイェンの攻撃が顔を掠める。両将とも決して質は悪くはないのだ。気を抜けばすぐにやられてしまう。もっとも、その掠った一撃にチュイェンは気を良くしたのか、積極的に間合いを詰めてくるようになる。
「こ、これは不味い」
実際に少し不味いのだが、まだ余裕はある。だが、敵陣に動きが見えたのだ。此処は一気に決める必要がある。馬首を返し、味方の陣に向けて馬を走らせる。
「待て! この卑怯者!」
俺を追い、チュイェンとダイシャンは共に馬を走らせる。
・・・・・・十分だ。
「喰らえぃ!」
ダイシャンが後方から矛を振りかぶったのを察し、手綱を引いて振り返りざまに槍を一閃させる。狙うは喉元。正確にそこを貫く。
「がふぇ!?」
どうして自分が貫かれたのか分からぬように目を丸くし、ダイシャンは首から血を噴き上げながら沈んでいく。
「フッ!」
しかし、俺の目標はもう一つ。一つ息を吐き、同様に突然の反撃に驚いているチュイェンに向け、愛馬を走らせる。
「ぬぁ!?」
目の前で血に沈む弟に恐怖したのか、先程までの攻撃と違い単発。それも腰が引けているため槍だけが宙に浮いたよう情けない攻撃。
「甘い!」
それを左の手で掴み、愛槍を横薙ぎに一閃させる。狙いは違わずにチュイェンの後頭部に石突が吸い込まれ、ゴンと言う音と共にチュイェンは馬の上に沈み込んでいく。
「・・・・・・死が怖いなら戦場になど来るべきではなかったな」
うまい具合に馬の上に乗ったままなので、チュイェンの馬を牽引し、味方の陣に向け走る。
「兄上~!」
後方では騎馬隊を引き連れた何者かが走り出している。兄上、と言う事はもしかするとあれがホンタイジなのかもしれない。だが、十分に距離は離したし、それなりの速度で動けている。
「・・・・・・追ってこい。そこから我らの戦が始まる」
騎馬隊を引き付けることも策の内。先ずは敵の圧倒的な強みである騎馬隊の対処がこの戦の要点となるのだ。もちろん、敵の騎馬隊は今先行してきている千程の隊だけではないだろう。だが、これを軽く屠って見せる必要がある。
「楊再雲、出番だ」
楊再雲の鬼神の如き武は敵を恐怖に落とし、味方の士気を更に高揚させるだろう。
「ぬるい!」
穂先に槍を合わせ、攻撃の勢いを後ろに反らしてやる。
「ぬぅ!?」
馬の勢いもあったので、ダイシャンは後方に向かい離れていく。それに合わせ、俺も少し馬を後方に下げる。
「どうしたチュイェン? 貴様は恐ろしくてかかって来られないのか!?」
「何を!? 正々堂々、一対一で相手をしてやろうというのに、この愚か者が!」
そう言ってヌルハチの長男・チュイェンも馬を走らせる。
正直に言えば、俺とて一人ずつ相手に出来る方がありがたい。だが、今回の目的は味方の士気を上げ、敵を挑発する事。一人は殺し、一人は捕らえる予定なのだ。そのためには二対一で押されているように見せかけて味方の陣に向けて下がる必要もある。
「・・・・・・ふぅ、いきなりの綱渡りだな」
しかし同時に、勝てない戦で勝とうとすればそうして賭け事に勝っていくしかないのだ。
「喰らえぃ!」
チュイェンの得物は俺と同じくらいの長さの槍。その技量は決して悪くはない。しかし、余りにも軽い。これでは、もし当たったとしても傷をつける程度で決定打にはならないだろう。ただし、その分早く、手数が多い。
「次男とはずいぶん違うな」
チュイェンの攻撃を二度三度と躱しながら、更に馬を後退させる。そうすると、後方からダイシャンが再び矛を振りかぶり一撃必殺の構えを見せる。
「ムン!」
馬にあおむけに寝る様に背を反らせてその一撃を避け、更に後退させてチュイェンの攻撃に備える。
「ハァ!」
やはり軽い攻撃。槍で振り払うが、軽い攻撃であるがためにチュイェンの体勢は崩れない。そのままの勢いで攻撃を仕掛けてくる。
「ハァア!」
つまり、チュイェンは未だ保身の意識が強いのだ。大ぶりな一撃はどうしたって隙が大きい。そのため、小さな攻撃によって攻めながらも守っているのだ。
・・・・・こういう男は自分の命可愛さに大いに敵軍の挑発に役立ってくれるだろう。殺す者と捕らえる者は決まった。
「だぁりゃあ!」
ダイシャンが三度一撃必殺の攻撃を加えてくる。今度はチュイェンの攻撃も同時。
「はっ!」
掛け声とともに腹を蹴れば、俺の愛馬も心得たもので後方に向けて跳躍する。数え切れないほどの時間を共に過ごしてきた愛馬はそれこそ義兄弟達と同様に俺の心を察してくれる。
俺の人馬一体の動きで攻撃を躱された二人は次の攻撃のために間合いを詰めてくる。少しずつ、少しずつ自陣から離れて行っていることに気付きもしない。
「・・・・・・もう少し、だな」
問題は捕らえた将を連れ帰る時、敵軍の騎馬に何処で捕まるかだ。そうでなくても挑発のために敵軍近くまで寄っているので、味方の援護を得ることが出来ない状況。おまけに二人で乗ることになれば愛馬の負担も相当なもの。
「っと」
そんな事を考えていると危うくチュイェンの攻撃が顔を掠める。両将とも決して質は悪くはないのだ。気を抜けばすぐにやられてしまう。もっとも、その掠った一撃にチュイェンは気を良くしたのか、積極的に間合いを詰めてくるようになる。
「こ、これは不味い」
実際に少し不味いのだが、まだ余裕はある。だが、敵陣に動きが見えたのだ。此処は一気に決める必要がある。馬首を返し、味方の陣に向けて馬を走らせる。
「待て! この卑怯者!」
俺を追い、チュイェンとダイシャンは共に馬を走らせる。
・・・・・・十分だ。
「喰らえぃ!」
ダイシャンが後方から矛を振りかぶったのを察し、手綱を引いて振り返りざまに槍を一閃させる。狙うは喉元。正確にそこを貫く。
「がふぇ!?」
どうして自分が貫かれたのか分からぬように目を丸くし、ダイシャンは首から血を噴き上げながら沈んでいく。
「フッ!」
しかし、俺の目標はもう一つ。一つ息を吐き、同様に突然の反撃に驚いているチュイェンに向け、愛馬を走らせる。
「ぬぁ!?」
目の前で血に沈む弟に恐怖したのか、先程までの攻撃と違い単発。それも腰が引けているため槍だけが宙に浮いたよう情けない攻撃。
「甘い!」
それを左の手で掴み、愛槍を横薙ぎに一閃させる。狙いは違わずにチュイェンの後頭部に石突が吸い込まれ、ゴンと言う音と共にチュイェンは馬の上に沈み込んでいく。
「・・・・・・死が怖いなら戦場になど来るべきではなかったな」
うまい具合に馬の上に乗ったままなので、チュイェンの馬を牽引し、味方の陣に向け走る。
「兄上~!」
後方では騎馬隊を引き連れた何者かが走り出している。兄上、と言う事はもしかするとあれがホンタイジなのかもしれない。だが、十分に距離は離したし、それなりの速度で動けている。
「・・・・・・追ってこい。そこから我らの戦が始まる」
騎馬隊を引き付けることも策の内。先ずは敵の圧倒的な強みである騎馬隊の対処がこの戦の要点となるのだ。もちろん、敵の騎馬隊は今先行してきている千程の隊だけではないだろう。だが、これを軽く屠って見せる必要がある。
「楊再雲、出番だ」
楊再雲の鬼神の如き武は敵を恐怖に落とし、味方の士気を更に高揚させるだろう。
0
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?



【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる