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岳鶯ルート 金軍撃退戦
行軍
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「出陣!」
三万の兵が北京を出る。数の上では間違いなく大軍隊。そして、装備も決してみすぼらしい物ではない。
・・・・・・だが、
「兄者、これは・・・・・・」
「ああ、予想以上に烏合の衆だ」
兵達には聞こえない様に、だが隣りの高布だけには聞こえる声で話す。
今付いてきている兵は北京周辺から集めた者達。だが、都の近くだというのに、皆痩せ細っていて、誰もが頼りなく見える。見れば年老いた者や年少の者も少なくない。要するに、既に刈り入れも終わったので口減らしに働けぬ者を出してきたのだろう。
「高布、お前は早々に俺の私兵二千を率い、軍から離れろ。そして、私兵達には十分な食料を与え、準備を万端整えて機を待て」
正直に言えば高布を切り離さなければいけないことは俺にとっても非常に辛い。
「・・・・・・このままでは例え敵を混乱させられたとしても戦えぬ。練兵しながら進むしかないが、それにつき合わせては俺の私兵はむしろ弱くなる」
高布は練兵においても才を発揮する。だが、やはり遊軍となり俺の指示なく動き、その上で結果を残せるものは我が軍にも交付しかいないのだ。
「しかし! ッ・・・・・・心得ました。兄者、お気をつけて!」
逡巡するものの、俺の想いもまた理解できるのだろう。高布はそう言い残し、私兵二千騎を率いて離れていく。
「楊再雲」
「応!」
頼もしい義弟は近くにいるというのに一里先でも聞こえそうな声で応える。やかましいがこれで良い。この軍は今あまりに辛気臭いのだ。
「宿営地で手合わせを」
「・・・・・・ほほう、良いのか兄者? 俺は手加減など出来ねーぞ?」
「馬鹿者! 兵を鼓舞するために行うのだ。俺が情けない姿を晒してしまったらどうする」
「ガハハッ、なら頑張らなきゃなぁ、兄者」
どうやらもうやる気満々になってしまっているらしい。まったく、この義弟の千人力の膂力に付き合うのは相当に骨が折れると言うのに・・・・・・。クク、まぁ仕方ない。精一杯相手をしてやろう。
「牛憲、お前は兵を煽り賭けを成立させろ。勝者には酒を与え、敗者には渡すな」
「フム、しかし、三万人の兵を個人単位でやっては賭けを成立させることすら不可能。千人隊単位で行い、一体感を高めるというところですかな?」
「ああ。それに、兵は俺達の演武を見れば気も昂揚するだろうからな」
「心得ました。しかし飛将軍。つまりはその男と毎日勝負をすると?」
そう、たった一回では効果は継続しない。想定される戦場に着くまでおよそ二週間。それまでに脱走兵を出さず、戦える兵にするにはこちらも身を削らなければならないのだ。
「ああ。この馬鹿者が手加減を覚えてくれていれば楽なのだがな。まぁ、仕方ない。せいぜい骨を折られんように気を付けるさ」
「ガハハ、兄者なら問題ないさ」
信頼してくれるのは嬉しいが、楊再雲の振るう出鱈目な威力の矛は下手に受ければこちらの矛をへし折ってくるのだ。技では決して劣らないと自負しているが、力では圧倒的に劣る。
「・・・・・・とは言え、どう転んでも付け焼刃だ。士気が上がろうと、敵が混乱しようと、何かもう一つ決め手がなければ・・・・・・」
全てが上手くいったとして、恐らく今のままでは十回戦えば九回は負ける。これを五回にまで減らさなければ無駄死にだ。
「せめて、敵将が愚かであってくれればいいのだが、逆に優秀だという」
混乱させたとして、優秀な将であればそれがどれほど継続するだろうか。
「何か、あと一つ・・・・・・」
だが、そのあと一つが出てこないまま俺は軍を進めるしかなかったのだった。
三万の兵が北京を出る。数の上では間違いなく大軍隊。そして、装備も決してみすぼらしい物ではない。
・・・・・・だが、
「兄者、これは・・・・・・」
「ああ、予想以上に烏合の衆だ」
兵達には聞こえない様に、だが隣りの高布だけには聞こえる声で話す。
今付いてきている兵は北京周辺から集めた者達。だが、都の近くだというのに、皆痩せ細っていて、誰もが頼りなく見える。見れば年老いた者や年少の者も少なくない。要するに、既に刈り入れも終わったので口減らしに働けぬ者を出してきたのだろう。
「高布、お前は早々に俺の私兵二千を率い、軍から離れろ。そして、私兵達には十分な食料を与え、準備を万端整えて機を待て」
正直に言えば高布を切り離さなければいけないことは俺にとっても非常に辛い。
「・・・・・・このままでは例え敵を混乱させられたとしても戦えぬ。練兵しながら進むしかないが、それにつき合わせては俺の私兵はむしろ弱くなる」
高布は練兵においても才を発揮する。だが、やはり遊軍となり俺の指示なく動き、その上で結果を残せるものは我が軍にも交付しかいないのだ。
「しかし! ッ・・・・・・心得ました。兄者、お気をつけて!」
逡巡するものの、俺の想いもまた理解できるのだろう。高布はそう言い残し、私兵二千騎を率いて離れていく。
「楊再雲」
「応!」
頼もしい義弟は近くにいるというのに一里先でも聞こえそうな声で応える。やかましいがこれで良い。この軍は今あまりに辛気臭いのだ。
「宿営地で手合わせを」
「・・・・・・ほほう、良いのか兄者? 俺は手加減など出来ねーぞ?」
「馬鹿者! 兵を鼓舞するために行うのだ。俺が情けない姿を晒してしまったらどうする」
「ガハハッ、なら頑張らなきゃなぁ、兄者」
どうやらもうやる気満々になってしまっているらしい。まったく、この義弟の千人力の膂力に付き合うのは相当に骨が折れると言うのに・・・・・・。クク、まぁ仕方ない。精一杯相手をしてやろう。
「牛憲、お前は兵を煽り賭けを成立させろ。勝者には酒を与え、敗者には渡すな」
「フム、しかし、三万人の兵を個人単位でやっては賭けを成立させることすら不可能。千人隊単位で行い、一体感を高めるというところですかな?」
「ああ。それに、兵は俺達の演武を見れば気も昂揚するだろうからな」
「心得ました。しかし飛将軍。つまりはその男と毎日勝負をすると?」
そう、たった一回では効果は継続しない。想定される戦場に着くまでおよそ二週間。それまでに脱走兵を出さず、戦える兵にするにはこちらも身を削らなければならないのだ。
「ああ。この馬鹿者が手加減を覚えてくれていれば楽なのだがな。まぁ、仕方ない。せいぜい骨を折られんように気を付けるさ」
「ガハハ、兄者なら問題ないさ」
信頼してくれるのは嬉しいが、楊再雲の振るう出鱈目な威力の矛は下手に受ければこちらの矛をへし折ってくるのだ。技では決して劣らないと自負しているが、力では圧倒的に劣る。
「・・・・・・とは言え、どう転んでも付け焼刃だ。士気が上がろうと、敵が混乱しようと、何かもう一つ決め手がなければ・・・・・・」
全てが上手くいったとして、恐らく今のままでは十回戦えば九回は負ける。これを五回にまで減らさなければ無駄死にだ。
「せめて、敵将が愚かであってくれればいいのだが、逆に優秀だという」
混乱させたとして、優秀な将であればそれがどれほど継続するだろうか。
「何か、あと一つ・・・・・・」
だが、そのあと一つが出てこないまま俺は軍を進めるしかなかったのだった。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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