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岳鶯ルート 金軍撃退戦

金軍撃退戦1

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(注:親しい間柄であれば字呼びが普通ですが、無視して姓・名で呼びます)



「兄者、やったな」

 陛下より大将軍として兵権を預かり、今回の軍事蜂起に参加した兵達を労うために向かった軍議の間で、俺の顔を見るなり楊再雲がそう切り出す。

「楊再雲、確かに兵権を取りはした。だが、まだ開始位置に着いたという程度の話。先ずは此処に攻め寄せてきている金軍を破る。そうせねば次に首を落とされるのは我々だ」

 そう、今は金軍が迫る緊急時故に預かった兵権。いわば俺は臨時の大将軍でしかないのだ。そして、国難を救うには先ずは金軍を、次に倭軍を討ち、その後に押し寄せるだろうモンゴル族や大越の者どもを押し返さなければいけない。そこまで言ってようやくこの蜂起は意味を持つ。

「しかし兄者、それは同時に今まで着けもしなかった開始位置に立てたと言う事。やはりめでたいことには変わりありますまい」

 俺が引き締めを図ろうとした雰囲気をもう一度高布が盛り上げる。高布がこういうと言う事は、それだけ兵達の緊張が限度に達していると言う事だろう。一度休息を取らねば途中で折れかねない、と。

「それもそうだな。皆、今日ばかりは休むが良い。春雲酒家(居酒屋)の店主に言っておくから、今日はあそこで好きに飲み食いすると良い。支払いは全て俺がやる。存分に美味い酒と飯を喰って来い」

「おお!」

 ようやく緊迫した空気から解放されたからだろう。それとも余程ただ酒ただ飯が嬉しいのか、兵達は先程までの硬い表情が嘘のように笑顔へと変わっていく。そして、思い思いの者と連れ立ち飲みに出かけていく。その明るい表情を見れば自然とこちらまで笑ってしまう。

「・・・・・・兄者、羽振りが良すぎます。それで蓄えがないと何時も私達まで義姉上に叱られるのですぞ」

 しかし、高布にはまたお小言を言われてしまう。言われてみれば先日も部下たちの飲食に金を使い過ぎ、生活費を切り詰めさせてしまった。家族に迷惑をかけるだけでなく、こうして義兄弟にまで迷惑をかけていると思うと少し反省もしたくなる。

「す、すまん」

 だが、俺のために命を懸けて働いてくれる兵達に俺が出来ることなどほんの一握り。その労に少しでも報いるために財貨を使うのであれば、それは価値のあることだ。財貨などあの世に持って行けぬが、友との思い出であればあの世にも持って行けるのだから。

「それに、岳鳥娘ももう15になるのです。髪飾りの一つも買ってやればたちまち都一の美女となりましょうに」

「それについては要らん心配だ。娘は顔で人を判断するような男の元へやるつもりはない。そうだな、例えば俺を超える者であれば考えても良いが・・・・・・」

「ガハハッ、そりゃぁ、誰にもやらんと言っているようなもんじゃないか」

 楊再雲が豪快に笑うが、そんな事は言っていない。俺を超える者であれば良いのだ。ただそれだけの事。

「・・・・・・だが、いずれにしてもそれは先の話だ。楊再雲、高布、張進、牛憲。これより話すことは外部に一切漏らすことを禁ずる」

「ははっ!」

 周囲を見渡し、頼もしき部下達の顔とその覚悟を一人一人確認する。

「先ず我が軍が戦うのは金軍。敵は既に瀋陽を落とし、西進の兆しを見せている。我らはこれを討つ」

「・・・・・・瀋陽を越えたと言う事であれば、もはや北京まで大きな都市はない。首都決戦、というわけですな」

 張進がそう推測してくる。

「いや、違う。逆に此方から討って出て瀋陽の西にて敵を討ち、瀋陽を奪還する」

「っ!? しかし、将軍。今まで北方で戦った姜族に対した際には城壁を有効に使って戦うべしと」

「ああ。だが、事はそう悠長なことを言ってられん。倭軍は既に南京を落としているのだ。もしもこのまま北上してくるようであれば、下手をすれば挟撃されてしまう。今は一刻も早く金軍を退け、瀋陽までを落とし、軍を南下させる必要がある」

 張進も納得したのか、無言で頷く。

「それに、だ。現実に既に瀋陽が落ちていると言う事は敵も何らかの攻城兵器を持っていると言う事。場合によっては籠城が悪手となりかねん。更にもう一つ、我らは王安と魏忠賢の身柄を確保できなかった。奴らは狡猾だ。隙を見せればまた陛下に取り入り、我らは捕らわれの身となるだろう」

「何としても先ずは実績を残す必要がある、と」

「ああ。そして、岳飛の子孫たる俺が金軍を破る意味は大きい」

 本当かどうかも分からない先祖だが、そのあまりにも売れた名が今はとても心強い。

「全ての民が英雄の再誕を信じ、立ち上がる事でしょう」

 そして、そんな英雄になぞらえられるのは正直に言えば迷惑なのだが、今は使えるものはなんでも使う他ない。

「そうだ。だが敵は大軍のうえに練度は高く、その騎馬隊の破壊力は姜族のそれを大きく超えるだろう。金軍を破る事、それが先ず困難なのだ」

「敵は6万にも上るそうですな?」

 高布が眉間にしわを寄せてそう呟く。

「その通り。だが、我らが出せるのはせいぜい3万。火砲も、そうたいした数は持って行けん。・・・・・・なので、いっそ火砲は持たん」

「っ!?」

「あんな物があれば兵はそれに頼る。火砲に頼れば、自らが危険を冒さずに敵を撃つことに慣れる。そうなれば兵はもはや刀槍で戦うことはできなくなる。よって、砲は先に南に送ることにする」

「・・・・・・しかし、そうとなれば敵の騎馬の力はそうとうなものとなります。これを如何されます。もう、考えてあるのでしょう?」

「ああ。匂いとこの粉を用いようと思う」

 そう言いながら、一つ袋を取り出して見せる。実は、春風酒家で用意してもらったものだ。馬は人の千倍の嗅覚を持つと言われる。それに、長い鼻は大量の空気を吸うためのもの。それを利用すれば騎兵は大混乱に陥るだろう。 
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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