298 / 323
大戦1
英雄の凱旋
しおりを挟む
「英雄の凱旋だ」
隣に並ぶ母上と側室達。それに、本当はまだ拘束中の身の上なのだが、義理の兄弟である徳川家の面々。あとついでに全国の諸大名。日の本で最も豪勢な出迎えだろう。それも大阪城前なんてケチなことは言わずに堺の港。それだけ偉業を為したと言う事のアピールであり、同時に赦免と言う形で功に報いることが出来ない償い、かもしれない。だが、まぁそんな事はどうでも良い。
ただ、出来るだけ早く会いたかった。それだけだ。
ふと、後ろを振り返る。本当ならそこにいて欲しい桜とお梅はいない。未だ伊賀の里で修行しているのだろう。そこだけは残念だが、それは未来につながっている。決して悲しむべきことではない。
そして、安宅船・大和はその威容を見せ付けるかのようにゆっくりと入港してくる。このために堺の港の船は一度全て追い出したので、その威容が一層引き立つ。
「また、随分と派手になされましたな」
久しぶりに牢の外に出た解放感もそこそこに秀忠がぼやく。確かにこの状態では家族の再会を喜びきれない、もしかしたらそう言う嫌味かもしれない。
「まぁ、政治的な駆け引きだよ。これで徳川家をどうこう言う奴はいなくなるぞ?」
「それにつきましては度重なるご恩情誠に――
「あのさ、一応秀忠は俺にとっても義父なんだよ? 父のために息子が頑張るのはそんなに大したことじゃないだろ?」
「殿・・・・・・」
「ま、実際に頑張ったのはお前のためじゃないけどな!」
ハッと笑ってやれば、皆も笑う。
明るいお千を出迎えるなら笑顔が一番。せっかく助かったんだ笑顔でいないとね。
「さぁ、来たぞ皆で出迎えよう」
大和の錨が下り、渡し板が立てられる。そして、真っ先に降りてきたのは、晴れやかな美しい着物ではなく、凛々しい女武者。
「・・・・・・お千」
「あなた」
立てられた渡し板は船の高さのため、向こうが相当に高く。見上げる様に見つめればまるで後光が眩く差し、戦女神の様に――
「兄上!」
泣きながらお千が駆け寄ってくる。
「兄上!」
人前では陛下と呼べと言ったのに、二人きりなら陛下と呼べと・・・・・・いや、呼びやすいように呼べば良い。俺は受け入れるだけ。
両手を拡げる。お千が帰ってくる場所が此処だと示すために。
それを見れば、お千も走って飛び込んでくる。幼い頃のその姿と変わらない元気に、そして、嬉しそうに。
「兄上」
「お千」
久しぶりに触れた小さい身体。でも、変わらない愛しい香り、愛しい温もり。ああ、本当にお千だ。
「・・・・・・フフ、ドーンじゃないんだな?」
「もう、私は子供じゃないんですよ?」
日ノ本の全ての大名が見ている中で抱き合う。人の目なんて気にしていたら天下人もその妻もやっていけない。そうだろう?
「子供だってそうじゃ無くたってどうでも良い。お千であれば、それで良い」
「はい。ただいま帰りました」
力一杯に抱きしめる。本当に久しぶりの感触。
「う、痛いです」
「何だ? 甲冑を着ているんだから大丈夫だろう?」
「あ、あと、その皆さんが見てます」
今更気づいたのか、周囲を見回し、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋ずめる。
「どうでも良い。見せ付けてやれ」
お千の顎を持ち上げ、口づけしてやる。
「ん、ふぅ」
少し驚いた顔をするが、ゆっくりと受けいれ首に手を回してくる。
柔らかい唇を存分に愉しみ――
「へ、陛下。その、ただ今皇后様を連行いたしました」
押し倒しそうになったところで、同じくお久しぶりの信繁が絶妙に邪魔してくる。
「信繁。今、それを言う必要があったか?」
「正直、あったと思います」
まぁ、確かに止められなければ絶対このままやっていたけどさ。
「ふぅ、信繁。ありがとうな。よくぞお千を無事に連れ戻してくれた」
「いえ、もったいなきお言葉」
信繁が臣下の礼を取り、口を歪める。必死に笑みを抑えようとしているのは、俺が照れ隠しで褒めたのを分っているのだろう。信繁とも随分長い付き合いだ。それこそ俺が産まれた時からだから十八年?
「さ、家に帰ろう。お千」
「はい!」
そして、大阪城に向かって歩く。隣にはお千が、俺達の後ろには皆が続く。このまま戦功褒賞やら何やらを評定の間で・・・・・・。はぁ、そのまま裏内に行きたいなぁ。
隣に並ぶ母上と側室達。それに、本当はまだ拘束中の身の上なのだが、義理の兄弟である徳川家の面々。あとついでに全国の諸大名。日の本で最も豪勢な出迎えだろう。それも大阪城前なんてケチなことは言わずに堺の港。それだけ偉業を為したと言う事のアピールであり、同時に赦免と言う形で功に報いることが出来ない償い、かもしれない。だが、まぁそんな事はどうでも良い。
ただ、出来るだけ早く会いたかった。それだけだ。
ふと、後ろを振り返る。本当ならそこにいて欲しい桜とお梅はいない。未だ伊賀の里で修行しているのだろう。そこだけは残念だが、それは未来につながっている。決して悲しむべきことではない。
そして、安宅船・大和はその威容を見せ付けるかのようにゆっくりと入港してくる。このために堺の港の船は一度全て追い出したので、その威容が一層引き立つ。
「また、随分と派手になされましたな」
久しぶりに牢の外に出た解放感もそこそこに秀忠がぼやく。確かにこの状態では家族の再会を喜びきれない、もしかしたらそう言う嫌味かもしれない。
「まぁ、政治的な駆け引きだよ。これで徳川家をどうこう言う奴はいなくなるぞ?」
「それにつきましては度重なるご恩情誠に――
「あのさ、一応秀忠は俺にとっても義父なんだよ? 父のために息子が頑張るのはそんなに大したことじゃないだろ?」
「殿・・・・・・」
「ま、実際に頑張ったのはお前のためじゃないけどな!」
ハッと笑ってやれば、皆も笑う。
明るいお千を出迎えるなら笑顔が一番。せっかく助かったんだ笑顔でいないとね。
「さぁ、来たぞ皆で出迎えよう」
大和の錨が下り、渡し板が立てられる。そして、真っ先に降りてきたのは、晴れやかな美しい着物ではなく、凛々しい女武者。
「・・・・・・お千」
「あなた」
立てられた渡し板は船の高さのため、向こうが相当に高く。見上げる様に見つめればまるで後光が眩く差し、戦女神の様に――
「兄上!」
泣きながらお千が駆け寄ってくる。
「兄上!」
人前では陛下と呼べと言ったのに、二人きりなら陛下と呼べと・・・・・・いや、呼びやすいように呼べば良い。俺は受け入れるだけ。
両手を拡げる。お千が帰ってくる場所が此処だと示すために。
それを見れば、お千も走って飛び込んでくる。幼い頃のその姿と変わらない元気に、そして、嬉しそうに。
「兄上」
「お千」
久しぶりに触れた小さい身体。でも、変わらない愛しい香り、愛しい温もり。ああ、本当にお千だ。
「・・・・・・フフ、ドーンじゃないんだな?」
「もう、私は子供じゃないんですよ?」
日ノ本の全ての大名が見ている中で抱き合う。人の目なんて気にしていたら天下人もその妻もやっていけない。そうだろう?
「子供だってそうじゃ無くたってどうでも良い。お千であれば、それで良い」
「はい。ただいま帰りました」
力一杯に抱きしめる。本当に久しぶりの感触。
「う、痛いです」
「何だ? 甲冑を着ているんだから大丈夫だろう?」
「あ、あと、その皆さんが見てます」
今更気づいたのか、周囲を見回し、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋ずめる。
「どうでも良い。見せ付けてやれ」
お千の顎を持ち上げ、口づけしてやる。
「ん、ふぅ」
少し驚いた顔をするが、ゆっくりと受けいれ首に手を回してくる。
柔らかい唇を存分に愉しみ――
「へ、陛下。その、ただ今皇后様を連行いたしました」
押し倒しそうになったところで、同じくお久しぶりの信繁が絶妙に邪魔してくる。
「信繁。今、それを言う必要があったか?」
「正直、あったと思います」
まぁ、確かに止められなければ絶対このままやっていたけどさ。
「ふぅ、信繁。ありがとうな。よくぞお千を無事に連れ戻してくれた」
「いえ、もったいなきお言葉」
信繁が臣下の礼を取り、口を歪める。必死に笑みを抑えようとしているのは、俺が照れ隠しで褒めたのを分っているのだろう。信繁とも随分長い付き合いだ。それこそ俺が産まれた時からだから十八年?
「さ、家に帰ろう。お千」
「はい!」
そして、大阪城に向かって歩く。隣にはお千が、俺達の後ろには皆が続く。このまま戦功褒賞やら何やらを評定の間で・・・・・・。はぁ、そのまま裏内に行きたいなぁ。
0
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?



スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる