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秀頼ルート 家康を求めて
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桜の手術は薬や毒が集まり、効果が出る一週間後と言う事になった。
その日は着々と近づいてきている。
「秀頼様!」
「ん、あ、ああ」
鋭く声を掛けられてようやく反応する。
桜が何時も以上に働いているのに、自分でも情けなくなってしまう。
「すまん、何だったっけ?」
「明に行った千姫様からの報告が届きました」
「なに!? お千から!」
それほど重要な報せに反応できていなかったのかと、自分でも嫌になる。
「・・・・・・はい。既にそれを読み上げたんですが。読み直しますね?」
「すまん」
小さな紙片に書かれている手紙を桜が読み始める。
それは、正式な伝令による報告ではなく、忍びの連絡網により届けられた速報。
「千姫様は上海要塞に押し寄せた敵兵30万を下し、南京に向け軍を発したそうです。二十日ほどで南京には到着する予定とのこと。上海では例の火計が成功し、大きな被害を受けずに済んだそうです」
その報告は、考え得る中で最高の戦果を現していた。
「良し! 良し! 良し! 第一の関門は越えたな!」
「はい。おめでとうございます」
久しぶりの朗報に桜の顔も嬉しそうに綻ぶ。
「それと、もう一つ」
「ん? なんだ?」
「もう、それも聞いてらっしゃらなかったんですね!」
少し呆れた顔で見られてしまう。
正直に言って桜の顔を見つめて上の空だった。
その言葉も右から左へと抜けて行き、聞こえていなかったのだ。
「す、すまん」
「フフ、天下人が謝られてばかり。そんなことでは誰かに安心して忍びを任せることが出来ないじゃないですか」
寂しそうに呟く桜を抱きしめようと近寄る。
――が、
「毎日毎日、日中から抱かれては忍びの仕事に支障が出ます!」
「おまっ、此処は大人しく抱かれとけよ!」
華麗にすり抜けられ、何時の間にやら背後へと逃げられてしまう。
「比叡山の僧たちが動き出しました」
「・・・・・・ほう?」
今日は随分と良い報告が多い。
「猿飛殿からも、商売相手が見つかったとの報告です。秀頼様、どうやら台湾と言う明の南の海上に浮かぶ島が怪しいとのことです。そのまま潜入を続けると連絡が入っています」
「ああ、途中でバレない様に注意するようにと、まぁ、言うまでもないか」
順調ではある。
だが、同時に今はまだ動けない。
いや、動きたくない。
「・・・・・・なぁ、桜」
「はい?」
「お梅と3人で旅行にでも――
そう言っている最中に桜に頬っぺたを引き延ばされてしまう。
「いひゃい、いひゃい」
「そう言うのはこれから先いくらでも出来ます。秀頼様は天下人なのですからね? 分かっていますか? まだ、次の豊臣忍軍の頭を決められていないんですよ!?」
人を天下人と言いながら、容赦のない事だ。
「・・・・・・上忍たちの推薦は」
「はい。お梅です」
これがやはりもう一つの問題なのだ。
次代にはその娘をと忍び達が叫ぶほどに、それほどまでに桜は忍び達の心も掴んでいたと言う事にもなる。
「桜の抜ける穴はやはり大き過ぎるな」
自分で決めた事なのに、それでも女々しくボソリと言ってしまう。
「・・・・・・すまん」
「・・・・・・いえ。私の推薦は服部蛍です」
蛍は確かに腕利きの忍び。
だが、本人が不可能だと言っていた。
「少なくとも、しばらくは蛍にやってもらうことにしよう」
「はい。それでみんなにも納得してもらいます。私も死ぬわけではないですから補助は出来ます。当面はそれで行きましょう」
コトリと何時もの様にお茶を出してくれる。
何時も通り猫舌の俺にちょうど良い温度のお茶。
「・・・・・・旨い」
「何時もと変わらないお茶ですよ」
「うん。でも、それが良い」
チビチビと感慨深く啜る。
片腕となれば――
「秀頼様! 今は考えるべきことがあるでしょう?」
「・・・・・・その通りだ」
俺が桜のことを考えようとすると、桜が現実に引き戻す。
最近は何時もこんな感じになってしまった。
「もう、しっかりしてください。台湾と言う地のことについては我々の方でも調べますが――
「いや、待て、台湾なら少し気になることがある」
「はい?」
直ぐにでも指示を出しに行こうとする桜を引き留める。
・・・・・・台湾は現在の世界情勢的に非常に微妙な土地なのだ。
「台湾に南蛮者の手が何処まで及んでいるか、これについても重点的に確かめろ」
「南蛮の、ですか?」
「ああ、台湾の北西、明の香港の辺りには既に南蛮者の住む街があり、貿易が行われているらしい。また、既に南側のルソン島には南蛮者の手が及んでいる」
「そうなのですか?」
だからどうしたとでも言いたげな顔だ。
だが、ある意味で南蛮と戦うのは明と戦う以上に危険なのだ。
「今回の件、犯人が分かり次第報復に出るつもりだが、南蛮の兵器が在るのと無いのとではそこにかかる労力が大分変ってくる」
「そうなのですか?」
当然その脅威を知らないので桜にとっては不思議なのだろう。
だが、俺やお麟の様に知っている者にとっては南蛮とのトラブルは時期尚早と言う他ない。
陸上での戦なら十分に戦えるが、海上ではとても相手にならない。
少なくとも俺達はそう考えている。
「もしもだ。台湾と確定しても、南蛮の砲で港を守られれば俺達の船は近づけない。未だ俺達の砲は射程と言う意味では奴らの足元にも及ばない」
「フフッ、そうですか」
「なんだ? どうして笑う」
今の話のどこにも面白いところなど無かったはずだ。
「いえ、少しだけですが調子が戻って来られたな、と」
「・・・・・・行け!」
少し気恥しくなって桜を遠ざける。
だが、桜は勘違いをしている。
頭を使っている間は悩みを忘れられる。
実際には、ただそのことに気付いただけなのだ。
その日は着々と近づいてきている。
「秀頼様!」
「ん、あ、ああ」
鋭く声を掛けられてようやく反応する。
桜が何時も以上に働いているのに、自分でも情けなくなってしまう。
「すまん、何だったっけ?」
「明に行った千姫様からの報告が届きました」
「なに!? お千から!」
それほど重要な報せに反応できていなかったのかと、自分でも嫌になる。
「・・・・・・はい。既にそれを読み上げたんですが。読み直しますね?」
「すまん」
小さな紙片に書かれている手紙を桜が読み始める。
それは、正式な伝令による報告ではなく、忍びの連絡網により届けられた速報。
「千姫様は上海要塞に押し寄せた敵兵30万を下し、南京に向け軍を発したそうです。二十日ほどで南京には到着する予定とのこと。上海では例の火計が成功し、大きな被害を受けずに済んだそうです」
その報告は、考え得る中で最高の戦果を現していた。
「良し! 良し! 良し! 第一の関門は越えたな!」
「はい。おめでとうございます」
久しぶりの朗報に桜の顔も嬉しそうに綻ぶ。
「それと、もう一つ」
「ん? なんだ?」
「もう、それも聞いてらっしゃらなかったんですね!」
少し呆れた顔で見られてしまう。
正直に言って桜の顔を見つめて上の空だった。
その言葉も右から左へと抜けて行き、聞こえていなかったのだ。
「す、すまん」
「フフ、天下人が謝られてばかり。そんなことでは誰かに安心して忍びを任せることが出来ないじゃないですか」
寂しそうに呟く桜を抱きしめようと近寄る。
――が、
「毎日毎日、日中から抱かれては忍びの仕事に支障が出ます!」
「おまっ、此処は大人しく抱かれとけよ!」
華麗にすり抜けられ、何時の間にやら背後へと逃げられてしまう。
「比叡山の僧たちが動き出しました」
「・・・・・・ほう?」
今日は随分と良い報告が多い。
「猿飛殿からも、商売相手が見つかったとの報告です。秀頼様、どうやら台湾と言う明の南の海上に浮かぶ島が怪しいとのことです。そのまま潜入を続けると連絡が入っています」
「ああ、途中でバレない様に注意するようにと、まぁ、言うまでもないか」
順調ではある。
だが、同時に今はまだ動けない。
いや、動きたくない。
「・・・・・・なぁ、桜」
「はい?」
「お梅と3人で旅行にでも――
そう言っている最中に桜に頬っぺたを引き延ばされてしまう。
「いひゃい、いひゃい」
「そう言うのはこれから先いくらでも出来ます。秀頼様は天下人なのですからね? 分かっていますか? まだ、次の豊臣忍軍の頭を決められていないんですよ!?」
人を天下人と言いながら、容赦のない事だ。
「・・・・・・上忍たちの推薦は」
「はい。お梅です」
これがやはりもう一つの問題なのだ。
次代にはその娘をと忍び達が叫ぶほどに、それほどまでに桜は忍び達の心も掴んでいたと言う事にもなる。
「桜の抜ける穴はやはり大き過ぎるな」
自分で決めた事なのに、それでも女々しくボソリと言ってしまう。
「・・・・・・すまん」
「・・・・・・いえ。私の推薦は服部蛍です」
蛍は確かに腕利きの忍び。
だが、本人が不可能だと言っていた。
「少なくとも、しばらくは蛍にやってもらうことにしよう」
「はい。それでみんなにも納得してもらいます。私も死ぬわけではないですから補助は出来ます。当面はそれで行きましょう」
コトリと何時もの様にお茶を出してくれる。
何時も通り猫舌の俺にちょうど良い温度のお茶。
「・・・・・・旨い」
「何時もと変わらないお茶ですよ」
「うん。でも、それが良い」
チビチビと感慨深く啜る。
片腕となれば――
「秀頼様! 今は考えるべきことがあるでしょう?」
「・・・・・・その通りだ」
俺が桜のことを考えようとすると、桜が現実に引き戻す。
最近は何時もこんな感じになってしまった。
「もう、しっかりしてください。台湾と言う地のことについては我々の方でも調べますが――
「いや、待て、台湾なら少し気になることがある」
「はい?」
直ぐにでも指示を出しに行こうとする桜を引き留める。
・・・・・・台湾は現在の世界情勢的に非常に微妙な土地なのだ。
「台湾に南蛮者の手が何処まで及んでいるか、これについても重点的に確かめろ」
「南蛮の、ですか?」
「ああ、台湾の北西、明の香港の辺りには既に南蛮者の住む街があり、貿易が行われているらしい。また、既に南側のルソン島には南蛮者の手が及んでいる」
「そうなのですか?」
だからどうしたとでも言いたげな顔だ。
だが、ある意味で南蛮と戦うのは明と戦う以上に危険なのだ。
「今回の件、犯人が分かり次第報復に出るつもりだが、南蛮の兵器が在るのと無いのとではそこにかかる労力が大分変ってくる」
「そうなのですか?」
当然その脅威を知らないので桜にとっては不思議なのだろう。
だが、俺やお麟の様に知っている者にとっては南蛮とのトラブルは時期尚早と言う他ない。
陸上での戦なら十分に戦えるが、海上ではとても相手にならない。
少なくとも俺達はそう考えている。
「もしもだ。台湾と確定しても、南蛮の砲で港を守られれば俺達の船は近づけない。未だ俺達の砲は射程と言う意味では奴らの足元にも及ばない」
「フフッ、そうですか」
「なんだ? どうして笑う」
今の話のどこにも面白いところなど無かったはずだ。
「いえ、少しだけですが調子が戻って来られたな、と」
「・・・・・・行け!」
少し気恥しくなって桜を遠ざける。
だが、桜は勘違いをしている。
頭を使っている間は悩みを忘れられる。
実際には、ただそのことに気付いただけなのだ。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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