関白の息子!

アイム

文字の大きさ
上 下
289 / 323
閑話

岳鶯3

しおりを挟む
 廊下を進めば、いるのは女ばかり。
 誰も彼もが美しい。

 芳しい香がそこらじゅうで焚かれている。
 庶民であれば、いや、それなりの身分の者であっても日々は焚けないだろう高級なもの。
 それを部屋の中だけでなく廊下にまで。

 眩暈がしそうなほどに眩い金銀財宝で飾られ、調度品や

「・・・・・・これが後宮。何という、愚かな」

 二百年以上の長きに渡り続いた明と言う国家はこのような事のために、疲弊してしまったのだ。

 太った宦官と廊下ですれ違う。一瞬、不審に思われるかと警戒するも、その宦官は平和ボケした顔で暢気に欠伸をしながら行ってしまう。

「ふぬけきっている。宮廷外とはまるで別の国のようだ」

 皇帝がこんなところにいるからこの国はこうなってしまったのだろうか。
 それとも、堕落した皇帝だからこんなところを作ってしまったからだろうか。
 岳鶯はそう考えながらも歩みを止めない。

 皇帝がいるという寵姫・鄭皇貴妃の処に向かって。



 そうして、寵姫の部屋から出て来た皇帝を見る。
 ブヨブヨの体で何一つ考えを持たないような愚かな男。

「・・・・・・陛下。申し上げたきことが」

「む? なんじゃ、朕は今忙しい」

 初見の岳鶯を見ても、万暦帝は一切警戒心を抱かない。
 ただ鬱陶しそうにしているだけ。

「王安殿を始めとした多くの宦官が不正をおこな――

「忙しいと言っておる!」

 岳鶯の言葉など聞く気はないと、そのまま立ち去ろうとする。

「・・・・・・陛下の財を掠めているのですぞ?」

 万暦帝は主食や芸事、それに寵姫への貢物などに大金を使い、金に困っていることは誰の目にも明らか。
 そして、金に困った金持ちほど儲け話に敏感な者はいない。

 岳鶯からすれば、本来であればこの言葉で足を止めて欲しくはなかった。
 出来ることなら、国の危急を伝えることで改心してくる。
 それが一番だとは思っていた。

 だが、万暦帝の顔を見た瞬間に岳鶯はスッと熱が冷めるのを感じた。
 この皇帝には何を期待しても無駄だと言う諦観がそうさせたのだろう。

「不正をただせば彼奴等の貯め込んだ財貨は全て陛下のものでございます」

「・・・・・・何じゃと?」

「恐らく、百万両(現在価格に直せませんでした。ただ、他の事例から推測すると数千から数兆くらいの単位ではないかと)は下らないかと存じます」

 金額を出した瞬間の万暦帝の喜色満面の下卑た笑顔に内心嫌気がさす。
 しかし、それはそれで操りやすいと言う事だ。

「此処では悪宦どもの耳に入ります。是非、別室でお話を聞いていただきたく」

「うむ、うむ、仕方ないのう」

 先程までの態度を豹変させた万暦帝を伴い、奥の空き部屋へと進んでいく。

 そして、程なくして岳鶯による合図は出され、後宮内に血の嵐が吹き荒れる。
 それは大国・明に起きた劇的な変化ではあったが、岳鶯による徹底した情報操作により、しばしの間秀頼を始めとした他国の者には伝わる事さえなかった。

 当然、今まさに北京に迫ろうとしている金の君主・ヌルハチも、その情報に接することは出来なかった。
しおりを挟む
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...