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閑話
岳鶯1
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北京。
そこはこの時代において最も華やかな文明の育つ都市。
それは戦争続きの欧州などとは比較にならない。200年以上の間、世界一の人口を誇り、古くから続く文明に支えられた中華の王都。
明王朝が此処を首都としたのは北の異民族との戦を見据えてのことだった。もっとも、当初は南京を王都とし、諸般の事情から北京に遷都したのだ。ただ、同時に南部から異民族に攻められることを想定していなかった。だからこそ、旧王都でもある第二位の都市南京の陥落はこの王都にも激震が走った。
「このままでは国が亡ぶ」
王宮・紫禁城を望みながら、一人の青年が呟く。
金軍による中華北東部の侵攻は最大の城塞都市・瀋陽を越えてしまった。両軍共に被害が大きかったようでそれ以降の侵攻は止まっているものの、あそこから騎馬民族が入ってくることは明らか。北京の東に建てられた城塞都市では守るに守れない。
言わば、金が中華の喉元を、倭が心臓を握ったと言っても良い。
「だと言うのに」
皇帝陛下は未だ酒色に溺れ、詩歌や芸術に耽溺する。国難に際し、逆境を背に立ち上がろうと言う気配すら見えない。更に、国政を裏で牛耳る宦官の王安や魏朝、魏忠賢は私腹を肥やす事ばかりに気を取られ、同様に国難に対処しようと言う気配が薄い。それが証拠に、北京にはまことしやかに金軍も倭軍も兵糧が尽き、もう数カ月もすれば撤退すると言う噂が流れている。とんでもない話だが、噂の出元は魏忠賢派の官僚たち。
「だが、これで馬脚を現したと言うもの」
国政を預かり、軍部にまで強い発言力を持つ宦官の施策は今回の異民族の侵攻においてすべて裏目に出ている。今までに集めてきた不正の証拠と合わせ、王安達を追い落とし、国を立て直す機会が訪れているのだ。
その救国の士に自らがなる。
清冽な雰囲気を纏う青年は国難を逆手に取り、国を救おうとしているのだ。
「飛将軍」
部下に呼ばれ、振り返る。その顔は精悍で力強く、見る者に強烈な勇気を与える。
「どうした?」
「はっ! 伏兵の配置が終わりましてございます」
部下の報告に青年・岳鶯は鷹揚に頷き、周囲に集まる部下たちの顔を見渡す。
「皆、奮起せよ。明王朝の命運は我らの肩にかかっている。国政を牛耳る悪漢どもを廃し、陛下に目を覚ましていただかねば明に明日はない。これより我らが起つは決して謀叛がためではない。国を想い、救おうと思えばこそ」
言葉を止め、もう一度部下たちを見渡す。決意を同じくした顔は誰もが皆輝いて見える。
「祖先の魂に誓え、我らがこの国を救ってみせると。家族を顧みるな、我らはまだ見ぬ子孫のために戦うのだ。死を恐れるな、我らの命はただ一個の命として終わるのではない。先祖代々、子々孫々。我らの魂は常に一つ! 行け!!」
鋭く岳鶯が発した声に部下たちは無言で応じ、北京の各所に散っていく。
明国の王都において最大級の軍事蜂起が為されようとしていた。
そこはこの時代において最も華やかな文明の育つ都市。
それは戦争続きの欧州などとは比較にならない。200年以上の間、世界一の人口を誇り、古くから続く文明に支えられた中華の王都。
明王朝が此処を首都としたのは北の異民族との戦を見据えてのことだった。もっとも、当初は南京を王都とし、諸般の事情から北京に遷都したのだ。ただ、同時に南部から異民族に攻められることを想定していなかった。だからこそ、旧王都でもある第二位の都市南京の陥落はこの王都にも激震が走った。
「このままでは国が亡ぶ」
王宮・紫禁城を望みながら、一人の青年が呟く。
金軍による中華北東部の侵攻は最大の城塞都市・瀋陽を越えてしまった。両軍共に被害が大きかったようでそれ以降の侵攻は止まっているものの、あそこから騎馬民族が入ってくることは明らか。北京の東に建てられた城塞都市では守るに守れない。
言わば、金が中華の喉元を、倭が心臓を握ったと言っても良い。
「だと言うのに」
皇帝陛下は未だ酒色に溺れ、詩歌や芸術に耽溺する。国難に際し、逆境を背に立ち上がろうと言う気配すら見えない。更に、国政を裏で牛耳る宦官の王安や魏朝、魏忠賢は私腹を肥やす事ばかりに気を取られ、同様に国難に対処しようと言う気配が薄い。それが証拠に、北京にはまことしやかに金軍も倭軍も兵糧が尽き、もう数カ月もすれば撤退すると言う噂が流れている。とんでもない話だが、噂の出元は魏忠賢派の官僚たち。
「だが、これで馬脚を現したと言うもの」
国政を預かり、軍部にまで強い発言力を持つ宦官の施策は今回の異民族の侵攻においてすべて裏目に出ている。今までに集めてきた不正の証拠と合わせ、王安達を追い落とし、国を立て直す機会が訪れているのだ。
その救国の士に自らがなる。
清冽な雰囲気を纏う青年は国難を逆手に取り、国を救おうとしているのだ。
「飛将軍」
部下に呼ばれ、振り返る。その顔は精悍で力強く、見る者に強烈な勇気を与える。
「どうした?」
「はっ! 伏兵の配置が終わりましてございます」
部下の報告に青年・岳鶯は鷹揚に頷き、周囲に集まる部下たちの顔を見渡す。
「皆、奮起せよ。明王朝の命運は我らの肩にかかっている。国政を牛耳る悪漢どもを廃し、陛下に目を覚ましていただかねば明に明日はない。これより我らが起つは決して謀叛がためではない。国を想い、救おうと思えばこそ」
言葉を止め、もう一度部下たちを見渡す。決意を同じくした顔は誰もが皆輝いて見える。
「祖先の魂に誓え、我らがこの国を救ってみせると。家族を顧みるな、我らはまだ見ぬ子孫のために戦うのだ。死を恐れるな、我らの命はただ一個の命として終わるのではない。先祖代々、子々孫々。我らの魂は常に一つ! 行け!!」
鋭く岳鶯が発した声に部下たちは無言で応じ、北京の各所に散っていく。
明国の王都において最大級の軍事蜂起が為されようとしていた。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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