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秀頼ルート 黒幕捜査3
永田徳本(エロ度☆☆☆☆☆)
しおりを挟む 槿姫と共に大阪の街を見物すれば、商人たちの活気溢れる姿を間近で見ることが出来る。
言いだしておいてなんだが、人を案内できるほどには俺も大阪の街を知らない。
何時も天守から見下ろすだけで、まともに歩いた事など無いのだ。
「何だこれ?」
「さあ?」
碌に城を出ない者が街に出れば、周囲の注目の的になるのも仕方ない。
いや、それは周りについている護衛の数のせいか、それとも護衛も含めた身なりのせいか。
「んー、桜!」
こういう時、常に身の回りにいる桜は便利な存在だ。
「え、っと、それは乾燥したナマコです」
「・・・・・・確か漢方になるんだっけか?」
「はい。と言うか、此処は漢方薬のお店ですので」
「・・・・・・店主、漢方で毒の抜き方に詳しい者はいないか?」
ふと、小太りで愛想の良い店主に尋ねてみる。
桜の病状と毒の成分の特定は未だ終わっていない。
それは、南蛮と日本の言葉の違いと、もとにする毒草などの違いで南蛮知識による解毒が進んでいない現状への焦りでもあった。
もっとも、中国医術はそもそも現在の日本の医学の元。
日本最高の典医達が分からないのを、街の医師や漢方医が分かるとは思えないが・・・・・・。
「へぇ、毒、ですか?」
「ああ、暗殺に使われるような毒を抜く方法だ」
「陛下、何も今そのようなことを・・・・・・」
慌てて桜が止めに入る。
「ああ、すまない。そうだな、少し焦れていた」
お千も桜も、結局のところ俺自身の力で助けてやることが出来ない。
その現状にどうしても苛立ってしまっていたのだろう。
「・・・・・・毒についてどうかは知りませんが、最高の医者については一人だけ心当たりがあります。ハハ、私共にとっては商売敵の様な方で――」
「一体誰だ!?」
期待などしていなかったためか、店主の言葉に思わず反射的に動いてしまった。
「は、はぁ、その、永田徳本と言うお方で」
「誰だ、それは?」
医者なのは分かる。
だが、歴史好きな俺にもその名前はピンとこない。
「いえ、実を言うと生きてらっしゃるかもはっきりしないのですが・・・・・・」
「は?」
「何せ、私の記憶が確かなら、今年で齢98。何時亡くなっても仕方ありますまい」
・・・・・・この時代に98?
有り得ないとまでは言わないが、奇跡的な歳だ。
それこそ、天海と同等の長生き。
「化け物だな」
「はい。ですが、本当に心優しい方で、どんな貧しい者でも分け隔てなく診療し、お代も16文以上は取らないそうです。何せ私どもの薬より安いので、困ったものだと――」
「んなこたどうでも良い。何処にいる?」
横柄な態度ではあるが、どうせ店主は俺のことをどこぞの大名の子息とでも思っているだろうから問題はない。
「へ、へぇ、で、ですが、実はその先生は諸国を巡って病人の治療にあたられていまして・・・・・・」
「・・・・・・98の爺さんがか?」
「へ、へぇ、左様で」
この時代の平均寿命の2倍を生きて諸国を巡り、患者を診る?
有り得ない、確かに有り得ないが、もしもいるなら、それは仙人の類なのかもしれない。
「桜!」
「は、はい!」
「なんとしても探し出せ! 直ぐに!」
仙人であれば、桜を治すことも――
「嫌です」
一瞬、桜が何を言ったのか分からなかった。
振り返り、桜を真っ直ぐに見ると、桜も同様に真っ直ぐに見返してくる。
「優先順位を忘れないでください。今は真田様の忍びまで全て使っているのです。全国のどこにいるかもしれぬ怪しげな人物を探す暇などございません」
「・・・・・・お前」
「お忘れですか!? 今我々がするべきことは忍びの命を気にかけ、藁に縋ることではありません!」
確かに、桜の言うことも分かる。
桜の見立てではまだ4年の時間もある。
だが、それには何の保証もないのだ。
それに、治療とて薬を飲んですぐに治癒などと都合のいいものであるわけがない。
「・・・・・・お医者様や学者の方々が動いてくださっています。毒の件についてはその結果を待つものとし、忍びは全て例の件に使わせていただきます。これは豊臣の忍びを預かる者として譲りません」
いかにもこれは譲りませんと言う頑なな顔で桜が言い張る。
「・・・・・・忍びを使わなければ文句はないな?」
「いいえ。あと数日もすれば五奉行の方々がいらっしゃいます。豊臣を動かし、勘ぐられてはことです。陛下、どうか――」
「陛下っ!?」
桜の言葉の最中に店主が素っ頓狂な声を上げる。
そう言えば身分なんかは伝えていないし、今日は特に家紋を付けた着物を着ているわけでもない。
「へ、陛下とは存じ上げず。とんだ失礼を!! お許しくださいませ!!」
無礼と取られれば手打ちにされても仕方ないからだろう。
慌てて平伏して地面に額を擦り付ける。
「ああ、そうだよ。皇帝だよ、でも今はそんなことはどうでも良いから黙っていろ」
桜の反抗で少なからず苛立っていた俺はジロリと店主を睨む・・・・・・。
そして、非常に簡単な解決法があることに気付いた。
「いや、店主顔を上げてくれ」
「は、ははぁ!」
「永田徳本をお前が連れて来い。成功すれば報酬に明国を制圧した際の漢方の利権。これを幾らか融通してやる」
よくよく考えずとも、忍びに優るとも劣らないネットワークを構築しているのが彼等商人だ。
しかも、商売敵と言うのなら、ある程度その動向を気にしているはず。
店主が知らなくても、知っている伝手はあるかもしれない。
「は、ははぁ! ですが、権力を、その、好まれる方ではなく・・・・・・」
「呼び寄せることはできない、と?」
特にそういった意図はないが、ついつい睨んでしまう。
「い、いえ、そう言えばお弟子の方がいるのを思い出しました! きっとその方に文を書いていただけば、先生も来て下さるかと!」
店主は生きた心地がしないとばかりに必死に叫ぶ。
別に睨んではしまったが、殺そうなどと言う気は全くない。
「誰だ、弟子って?」
「はい、京に住む林羅山と言う者です。今は朱子学者となっておりますが、昔は先生のもとで医学を学んでおりまして・・・・・・」
店主の言葉に、俺はどんなに強大な権力を持とうと抗えない、何処か宿命的なものを感じ取っていた。
どうやら俺は、その宿命と言う名の呪縛から未だに抜け出ていなかったらしい。
言いだしておいてなんだが、人を案内できるほどには俺も大阪の街を知らない。
何時も天守から見下ろすだけで、まともに歩いた事など無いのだ。
「何だこれ?」
「さあ?」
碌に城を出ない者が街に出れば、周囲の注目の的になるのも仕方ない。
いや、それは周りについている護衛の数のせいか、それとも護衛も含めた身なりのせいか。
「んー、桜!」
こういう時、常に身の回りにいる桜は便利な存在だ。
「え、っと、それは乾燥したナマコです」
「・・・・・・確か漢方になるんだっけか?」
「はい。と言うか、此処は漢方薬のお店ですので」
「・・・・・・店主、漢方で毒の抜き方に詳しい者はいないか?」
ふと、小太りで愛想の良い店主に尋ねてみる。
桜の病状と毒の成分の特定は未だ終わっていない。
それは、南蛮と日本の言葉の違いと、もとにする毒草などの違いで南蛮知識による解毒が進んでいない現状への焦りでもあった。
もっとも、中国医術はそもそも現在の日本の医学の元。
日本最高の典医達が分からないのを、街の医師や漢方医が分かるとは思えないが・・・・・・。
「へぇ、毒、ですか?」
「ああ、暗殺に使われるような毒を抜く方法だ」
「陛下、何も今そのようなことを・・・・・・」
慌てて桜が止めに入る。
「ああ、すまない。そうだな、少し焦れていた」
お千も桜も、結局のところ俺自身の力で助けてやることが出来ない。
その現状にどうしても苛立ってしまっていたのだろう。
「・・・・・・毒についてどうかは知りませんが、最高の医者については一人だけ心当たりがあります。ハハ、私共にとっては商売敵の様な方で――」
「一体誰だ!?」
期待などしていなかったためか、店主の言葉に思わず反射的に動いてしまった。
「は、はぁ、その、永田徳本と言うお方で」
「誰だ、それは?」
医者なのは分かる。
だが、歴史好きな俺にもその名前はピンとこない。
「いえ、実を言うと生きてらっしゃるかもはっきりしないのですが・・・・・・」
「は?」
「何せ、私の記憶が確かなら、今年で齢98。何時亡くなっても仕方ありますまい」
・・・・・・この時代に98?
有り得ないとまでは言わないが、奇跡的な歳だ。
それこそ、天海と同等の長生き。
「化け物だな」
「はい。ですが、本当に心優しい方で、どんな貧しい者でも分け隔てなく診療し、お代も16文以上は取らないそうです。何せ私どもの薬より安いので、困ったものだと――」
「んなこたどうでも良い。何処にいる?」
横柄な態度ではあるが、どうせ店主は俺のことをどこぞの大名の子息とでも思っているだろうから問題はない。
「へ、へぇ、で、ですが、実はその先生は諸国を巡って病人の治療にあたられていまして・・・・・・」
「・・・・・・98の爺さんがか?」
「へ、へぇ、左様で」
この時代の平均寿命の2倍を生きて諸国を巡り、患者を診る?
有り得ない、確かに有り得ないが、もしもいるなら、それは仙人の類なのかもしれない。
「桜!」
「は、はい!」
「なんとしても探し出せ! 直ぐに!」
仙人であれば、桜を治すことも――
「嫌です」
一瞬、桜が何を言ったのか分からなかった。
振り返り、桜を真っ直ぐに見ると、桜も同様に真っ直ぐに見返してくる。
「優先順位を忘れないでください。今は真田様の忍びまで全て使っているのです。全国のどこにいるかもしれぬ怪しげな人物を探す暇などございません」
「・・・・・・お前」
「お忘れですか!? 今我々がするべきことは忍びの命を気にかけ、藁に縋ることではありません!」
確かに、桜の言うことも分かる。
桜の見立てではまだ4年の時間もある。
だが、それには何の保証もないのだ。
それに、治療とて薬を飲んですぐに治癒などと都合のいいものであるわけがない。
「・・・・・・お医者様や学者の方々が動いてくださっています。毒の件についてはその結果を待つものとし、忍びは全て例の件に使わせていただきます。これは豊臣の忍びを預かる者として譲りません」
いかにもこれは譲りませんと言う頑なな顔で桜が言い張る。
「・・・・・・忍びを使わなければ文句はないな?」
「いいえ。あと数日もすれば五奉行の方々がいらっしゃいます。豊臣を動かし、勘ぐられてはことです。陛下、どうか――」
「陛下っ!?」
桜の言葉の最中に店主が素っ頓狂な声を上げる。
そう言えば身分なんかは伝えていないし、今日は特に家紋を付けた着物を着ているわけでもない。
「へ、陛下とは存じ上げず。とんだ失礼を!! お許しくださいませ!!」
無礼と取られれば手打ちにされても仕方ないからだろう。
慌てて平伏して地面に額を擦り付ける。
「ああ、そうだよ。皇帝だよ、でも今はそんなことはどうでも良いから黙っていろ」
桜の反抗で少なからず苛立っていた俺はジロリと店主を睨む・・・・・・。
そして、非常に簡単な解決法があることに気付いた。
「いや、店主顔を上げてくれ」
「は、ははぁ!」
「永田徳本をお前が連れて来い。成功すれば報酬に明国を制圧した際の漢方の利権。これを幾らか融通してやる」
よくよく考えずとも、忍びに優るとも劣らないネットワークを構築しているのが彼等商人だ。
しかも、商売敵と言うのなら、ある程度その動向を気にしているはず。
店主が知らなくても、知っている伝手はあるかもしれない。
「は、ははぁ! ですが、権力を、その、好まれる方ではなく・・・・・・」
「呼び寄せることはできない、と?」
特にそういった意図はないが、ついつい睨んでしまう。
「い、いえ、そう言えばお弟子の方がいるのを思い出しました! きっとその方に文を書いていただけば、先生も来て下さるかと!」
店主は生きた心地がしないとばかりに必死に叫ぶ。
別に睨んではしまったが、殺そうなどと言う気は全くない。
「誰だ、弟子って?」
「はい、京に住む林羅山と言う者です。今は朱子学者となっておりますが、昔は先生のもとで医学を学んでおりまして・・・・・・」
店主の言葉に、俺はどんなに強大な権力を持とうと抗えない、何処か宿命的なものを感じ取っていた。
どうやら俺は、その宿命と言う名の呪縛から未だに抜け出ていなかったらしい。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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