251 / 323
千姫ルート 南京城攻略戦1
進軍3(エロ度☆☆☆☆☆)
しおりを挟む
居勝は2日もせずに会敵すると思っていた倭軍が待てど暮らせど来ないことに驚き、その動向を聞いてさらに驚いていた。
「・・・・・・もう一度申せ」
「倭軍は、その、我らが襲った村の民を全て埋葬し供養しています」
「馬鹿を言うな! そのような軍があるか!」
物語でも、せいぜい手を合わせて終わり。
それが急がぬ進軍なら話は別だが、相手は追撃の最中だったはずだ。
少なくとも追われる立場の居勝はそう感じていた。
「それが、戦に向かわずに敵の埋葬だと!?」
「・・・・・・はっ! ですが、事実でございます」
若い、とは思っていた。
だが、いくらなんでもそれは・・・・・・。
「嘘だと、言ってくれ・・・・・・」
居勝は突然自分の行動が恥ずかしくなる。
守るべき民を、より多く生かすために見殺しにした自分が。
「あの速度ですと、会敵まであと5日以上かかるかと思われます」
「・・・・・・そうか、そのことを兵達にも伝えよ」
千姫の行動は、ともすれば行軍を遅らせる利敵行為であった。
だが、そうでなくても季夏を失ったと言う苦しみに震える居勝の心に、大きな変化を産んでいた。
倭軍より交渉の使者が来訪した時、居勝は即答で応じたのはその変化ゆえだった。
「お久しぶりです。張将軍」
「はい。相変わらずお美しい。ですが、少しばかり目に険が見えます」
倭軍からは千姫と井頼、それに信繁と通訳が同席するのに対し、明軍は居勝がただ一人で現れた。
かえって火薬でも仕込んでいるのではと井頼が疑ったほどだ。
「先ず、この会談を申し込まれた理由をお聞きしても?」
「ええ。ただ私がお聞きしたかったのです。どうして自国の民にあのような非道な行いをしたのかを」
美しい顔で睨まれるが、居勝は動じない。
「あれには幾つかの理由があったそうです。一つは食糧確保、一つは見せしめ、一つは練兵、一つは兵の欲求解消、一つは倭軍に罪を押し付けることでの戦意高揚。ですが、どのような理由があれど許される行為であるとは思っていません」
「・・・・・・では、何故?」
「私には止められなかった、と言うのはただの言い訳でしょう。皇后陛下、我が国の民を弔っていただいた事、先ずは深く感謝いたします。私の首を差し上げますので、どうか兵はお見逃しください」
深く頭を下げる居勝に千姫たちは困惑する。
もともとこの交渉は居勝達に無駄な抵抗をせずに後退させることが目的だ。
そうでなくても遅れている行軍を少しでも早めたい、それだけだった。
正直に言えば、千姫の問いは軍としてはなんの意味も持たない問いだったのだ。
「どうして貴方の様な方がいてあんなことを!」
ダン! と大きな音を立て、千姫が机を叩く。
その白く細い指は、豆だらけの上に穴を掘った時にでも付いたのであろう土が爪に挟まっていた。
井頼は居勝の言葉を受け入れようとしていたが、千姫はなおのこと許せぬと言った様子だった。
「出世に目がくらみ、守るべきものを見失った。そんな愚かな男ですよ――」
「民を救いたい。その志は今も変わりませんか?」
もちろん通訳を通して言葉は伝えられる。
だが、その少女の言葉は言語の壁とは別に居勝にとって救いのように感じられた。
「もしも、その志が残っているのなら、我らの下に降りなさい」
それは、どれほど甘美な誘惑だっただろう。
この3月ほどで、居勝は明と言う組織を嫌い、倭に好感を持つようになっていたのは事実。
だが、同時に国を愛してやまないのだ。
「・・・・・・私は貴女方を騙し討ちにしたのですよ?」
「もちろん覚えています」
「言葉だけ従って裏切るとは思わないのですか?」
「自分の目を信じます。いえ、それは嘘ですね。季夏さんの、貴方の婚約者の言葉を信じているのです」
「っ!? 季夏!?」
思いがけず出て来た名に居勝が立ち上がる。
「今は我々が保護しています。人質にするつもりはありませんが、明軍に引き渡して良いものかと悩んでもいます」
「・・・・・・会わせてはいただけませんか?」
居勝が季夏と別れたのはもう11日も前。
その間ずっと季夏を失った苦しみに耐えてきた。
生きていてくれるだけで十分、だが、同時にもしも会えるのなら。
「はい。最近は随分と元気も出て来たようですし、それは問題ありません。ですが、会ってどうするつもりですか? これから死ぬつもりの人に会わせるつもりはありませんよ」
千姫は先の答えを促す。
すなわち、降るのか、それとも死ぬか。
「・・・・・・私はこの国の民を救いたいと考えています」
「日本はきっとそれを助けることができます」
「もしも、倭、いえ、日本が我らの国の民を虐げることあれば叛を起こすでしょう」
「心配しなくても、此処も日本となるのです。自国の民を虐げることを皇帝陛下は許しません」
千姫と居勝が見つめ合う。
・・・・・・そして、
「我が身命を賭し、皇后陛下にお仕えしましょう」
居勝が千姫に臣下の礼を取った。
「・・・・・・もう一度申せ」
「倭軍は、その、我らが襲った村の民を全て埋葬し供養しています」
「馬鹿を言うな! そのような軍があるか!」
物語でも、せいぜい手を合わせて終わり。
それが急がぬ進軍なら話は別だが、相手は追撃の最中だったはずだ。
少なくとも追われる立場の居勝はそう感じていた。
「それが、戦に向かわずに敵の埋葬だと!?」
「・・・・・・はっ! ですが、事実でございます」
若い、とは思っていた。
だが、いくらなんでもそれは・・・・・・。
「嘘だと、言ってくれ・・・・・・」
居勝は突然自分の行動が恥ずかしくなる。
守るべき民を、より多く生かすために見殺しにした自分が。
「あの速度ですと、会敵まであと5日以上かかるかと思われます」
「・・・・・・そうか、そのことを兵達にも伝えよ」
千姫の行動は、ともすれば行軍を遅らせる利敵行為であった。
だが、そうでなくても季夏を失ったと言う苦しみに震える居勝の心に、大きな変化を産んでいた。
倭軍より交渉の使者が来訪した時、居勝は即答で応じたのはその変化ゆえだった。
「お久しぶりです。張将軍」
「はい。相変わらずお美しい。ですが、少しばかり目に険が見えます」
倭軍からは千姫と井頼、それに信繁と通訳が同席するのに対し、明軍は居勝がただ一人で現れた。
かえって火薬でも仕込んでいるのではと井頼が疑ったほどだ。
「先ず、この会談を申し込まれた理由をお聞きしても?」
「ええ。ただ私がお聞きしたかったのです。どうして自国の民にあのような非道な行いをしたのかを」
美しい顔で睨まれるが、居勝は動じない。
「あれには幾つかの理由があったそうです。一つは食糧確保、一つは見せしめ、一つは練兵、一つは兵の欲求解消、一つは倭軍に罪を押し付けることでの戦意高揚。ですが、どのような理由があれど許される行為であるとは思っていません」
「・・・・・・では、何故?」
「私には止められなかった、と言うのはただの言い訳でしょう。皇后陛下、我が国の民を弔っていただいた事、先ずは深く感謝いたします。私の首を差し上げますので、どうか兵はお見逃しください」
深く頭を下げる居勝に千姫たちは困惑する。
もともとこの交渉は居勝達に無駄な抵抗をせずに後退させることが目的だ。
そうでなくても遅れている行軍を少しでも早めたい、それだけだった。
正直に言えば、千姫の問いは軍としてはなんの意味も持たない問いだったのだ。
「どうして貴方の様な方がいてあんなことを!」
ダン! と大きな音を立て、千姫が机を叩く。
その白く細い指は、豆だらけの上に穴を掘った時にでも付いたのであろう土が爪に挟まっていた。
井頼は居勝の言葉を受け入れようとしていたが、千姫はなおのこと許せぬと言った様子だった。
「出世に目がくらみ、守るべきものを見失った。そんな愚かな男ですよ――」
「民を救いたい。その志は今も変わりませんか?」
もちろん通訳を通して言葉は伝えられる。
だが、その少女の言葉は言語の壁とは別に居勝にとって救いのように感じられた。
「もしも、その志が残っているのなら、我らの下に降りなさい」
それは、どれほど甘美な誘惑だっただろう。
この3月ほどで、居勝は明と言う組織を嫌い、倭に好感を持つようになっていたのは事実。
だが、同時に国を愛してやまないのだ。
「・・・・・・私は貴女方を騙し討ちにしたのですよ?」
「もちろん覚えています」
「言葉だけ従って裏切るとは思わないのですか?」
「自分の目を信じます。いえ、それは嘘ですね。季夏さんの、貴方の婚約者の言葉を信じているのです」
「っ!? 季夏!?」
思いがけず出て来た名に居勝が立ち上がる。
「今は我々が保護しています。人質にするつもりはありませんが、明軍に引き渡して良いものかと悩んでもいます」
「・・・・・・会わせてはいただけませんか?」
居勝が季夏と別れたのはもう11日も前。
その間ずっと季夏を失った苦しみに耐えてきた。
生きていてくれるだけで十分、だが、同時にもしも会えるのなら。
「はい。最近は随分と元気も出て来たようですし、それは問題ありません。ですが、会ってどうするつもりですか? これから死ぬつもりの人に会わせるつもりはありませんよ」
千姫は先の答えを促す。
すなわち、降るのか、それとも死ぬか。
「・・・・・・私はこの国の民を救いたいと考えています」
「日本はきっとそれを助けることができます」
「もしも、倭、いえ、日本が我らの国の民を虐げることあれば叛を起こすでしょう」
「心配しなくても、此処も日本となるのです。自国の民を虐げることを皇帝陛下は許しません」
千姫と居勝が見つめ合う。
・・・・・・そして、
「我が身命を賭し、皇后陛下にお仕えしましょう」
居勝が千姫に臣下の礼を取った。
0
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?



【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる