関白の息子!

アイム

文字の大きさ
上 下
246 / 323
千姫ルート 上海要塞防衛戦5

季夏3(エロ度☆☆☆☆☆)

しおりを挟む
 季夏は煌々と燃える炎を見上げていた。
 本来であれば恐ろしいそれも、今の季夏には安息をもたらしてくれる慈悲にすら思えた。

 ・・・・・・だと言うのに、なぜこの足は逃げようとするのか。
 それが季夏には不思議でたまらなかった。

「私、まだ生きようとしているの?」

 裸足のままで風上に向けて走る。
 草や木で肌を割かれようと今は気にしている暇もない。

「・・・・・・痛い。でも、今は」

 泣きたくなる気持ちを無理矢理抑え込みながら走る。
 ただただ生き延びるために。

「・・・・・・居勝様」

 明軍に捕まっても、倭軍に捕まっても碌なことにならない。
 それが分かっているので道を歩くことも出来ない。
 林の奥に隠れるようにして進む。

「居勝様、必ず生きてお会いします」

 朝に会ってしまったがゆえに未練が生まれてしまったのかもしれない。
 だが、どうしてももう一度会いたい。
 それが終われば、自らの手で人生を終わらせる。
 これから出世していくべき居勝には、やはり自分は相応しくない。

「でも、一目だけ、もう一目だけ。それだけだから」

 自分に言い聞かせるように呟き、当て所なくただ炎から離れる。

「っ!?」

 人の気配、いや、集団の気配に気づき、慌てて隠れる。
 相手は・・・・・・知らない言葉を使うところを見るとどうやら倭軍の兵だろう。

「ついてない。・・・・・・ううん。どちらでも同じ、か」

 とにかく見つからないようにやり過ごすだけ。
 息をひそめて物陰に隠れるだけなら、とりわけ何の経験も必要ない。
 季夏にだって出来ることだ。
 それに、どうやら倭軍の兵達も移動しようとしているらしい。
 あと半刻(1時間)も隠れていれば行ってしまうだろう。
 その後にどこかに逃げればいい。

 ・・・・・・だが、そう思っていたのもつかの間、季夏は危急の要件が出来てしまう。
 碌な食べ物も与えられずに過ごしたせいか、空腹だったのだ。
 それも、今にも腹が鳴りそうなほどに。
 今までどうせ死ぬのだからと気にも留めていなかったことが、少しでも生きようとした結果気になってしまう。

 クキュゥ

 その可愛らしい音が出てしまうことは、彼女にとって本来悪いことではなかったのだ。
 だが、そのタイミングが悪すぎた。

 倭軍の将がその音に気付き、兵を差し向けてくる。
 季夏は必死に逃げようとしたが、痩せ細った季夏では速度が違い過ぎてあっという間に捕まってしまう。

 そして、その男の前に差し出される。
 言っていることは全く分からない。
 こちらの言うことも通じるとは思えない。
 だが、季夏は明軍の非道を見て来た。
 それに、倭冠のうわさも聞いている。
 更に言えば、彼等にとってここは敵地、敵地で得たものは戦利品である。
 どうされようと季夏に抗う術はない。

「・・・・・・また辱めを受けるくらいならいっそ」

 舌を噛み切るのは痛いのだろうか。
 俯いて地面を見つめていた季夏は覚悟を決めて口を開く。

 ・・・・・・が、目の前に縄の様なものを差し出され、驚いてしまう。
 それは、恐らく倭軍の食料なのだろう。
 半分にちぎってその片方を差し出した兵士が食べ出す。
 そして、安全だと言うようにそれを見せつけ、半分を差し出してくる。

 ・・・・・・食べろということだろうか。
 戸惑いつつも空腹は疾うに限界を超えている。
 季夏は外聞など気にせずにそれに齧り付いた。
 それはどことなく味噌の味がするもので、決して美味しいものではないはずだが、今の季夏には十分なご馳走でもあった。
 その後には米を干した物も与えられ、咽たのを見るや水も与えられた。

 死なないように食糧を与えたと言うことは、性奴にでもしようと言うのだろう。
 どうせもう穢れた身、居勝をもう一目見れさえすればそれでいい。
 とにかく体力が回復するまではこのまま利用させてもらう。

 季夏はそう覚悟を決めた。

 しかし、それから3日の間倭軍の兵は傷を手当てし食料を分けてくれる以外特に何をすることも無かった。
 それどころか移動の時には馬に乗せ、拘束すらされなかった。

「いったいこれは?」

 季夏は戸惑うが、そのまま倭軍の捕虜となる以外の道がなかった。
 だが、逃げ出すことは諦めず、倭軍の隙をずっと窺い続けるのだった。


しおりを挟む
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...