関白の息子!

アイム

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千姫ルート 上海要塞防衛戦4

守城3(エロ度☆☆☆☆☆)

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 実は日本軍は砂埃が全く気になっていなかった。

 と、言えばさすがに嘘になるが、気にも留めていなかったのは事実である。
 なぜなら、火縄を集中運用した際、その硝煙でそもそも敵の姿を視認など不可能になるからだ。
 黒色火薬により生じるこの煙は、今後100年以上もの間各国の軍を悩ませる種になる。

 とは言え、本来なら日本軍だけが視界不良の状態で闘うつもりであったのに、明軍が作った砂埃でその不利な点を打ち消してくれたのだ。
 それだけではない。
 後方の安全圏に将が退避していることで、砂埃の中にいる兵達は音でしかその指示を受け取れない状況にいる。
 この、火縄銃の轟音が常に鳴り響く戦場で、である。

「・・・・・・だが、どうやってあの後列を引っ張り出すか」

 明軍の考えは明らかで、後列の兵は損耗させず、決戦兵力としてのみ使うつもりだ。
 全体の3分の1とは言え、あれを残せば南京攻略は非常に困難になる。
 確実に叩かねばならない。

 しかし、後列の兵の投入は城壁への土嚢の設置が終わるまでは恐らく行われない。
 それまで待てば、城壁を用いた火計は失敗するだろう。

 後列の兵を早期に押し出させなければ全体の戦略が崩壊する。
 それをさせないためには井頼が居勝を上回るしかないのだ。

「・・・・・・お麟。手伝ってくれ」

「はい!」

 お麟と共に、戦場の俯瞰図の上に駒を並べる。
 お麟も、井頼が何を悩んでいるのか推測できているのだろう。
 ブツブツとあーでもないこうでもないと呟いている。

「・・・・・・やはり、釣るしかない、か」

「そうは言っても、簡単な餌に乗ってくるとは思えません」

「お麟の意見は正しい。だが、敵の攻撃に焦りが見えるのは明らかだ」

「はい。なにか、一日でも早く終わらせたい。そう言う感じです」

 考えてみれば偽の会談にしてもそうだった。
 大軍で攻めてきておいて、あまりにも性急なのだ。

 兵糧が足りない可能性は高い。
 だが、近隣の村々から散々に略奪してきたのだ。
 1日を焦るほどだとは考えにくい。

「城門を、開くしかない」

「っ!? き、危険です! だいたい敵だって訝しむはずです」

「ああ。だが、敵将が焦っているのは間違いない。・・・・・・他に、手はないと思う」

 別に日本軍としては今日でなくても問題はない。
 しかし、これほど明軍が焦るということは、明日ではいけない理由があると考えるべきだ。
 それがなんなのかは井頼には分からないが、日本軍にしてみても早められるのであればそれに越したことはない。

「だが、流石に両城門をというわけにはいかない」

「では、南門を?」

 そうじゃなくても見通しの効きにくい状況。
 風で砂埃が運ばれる南門の方が効果的であるはず。
 
「・・・・・・ああ」

「まさか!? 本多殿は既に高齢ですよ!?」

 それは井頼自身も自分から出て来るとは思えなかった策。
 なにせ、ただ一人の武勇を頼りにするのだから・・・・・・。

「昨日のあれを見ただろう? 逆にこれを任せられるのは本多殿しか考え付かぬ」

 門を開け放った後、敵を誘い込んだ先の門番。

「・・・・・・いえ、それならいっそ城門前の橋に」

 そこであれば、今と変わらずに城壁からの射撃で援護も出来る。
 それにお麟の頭にあるのは、やはり三国志演義・長坂橋の張翼徳の仁王立ち。
 あの戦では曹操は無理攻めを避けたが、それを知る明軍はどうであろう。
 まして、そのすぐ後ろには城門を開いた城がある。
 十分に清算はある。

 だが、そもそもの問題は、だ。

「たった一人の将が万を優に超える大軍を押しとどめるなど・・・・・・」

「昨日、あれを見るまでは私も笑い話と思っていた。恐らくは敵将もだろう」

 一つ、間を空け、井頼が深く息を吸う。
 そして、それを吐き出す中で確信とともに言う。

「敵後列を誘き出し、今日をもってこの守城戦に幕を引く。・・・・・・本多殿の武に賭ける!」





 無茶を言う、そう思っていた。

 城壁を用いた火計もそうであるし、30万の大軍に総攻撃をかけさせるというのもそうだ。
 ついでに言えば、歴戦の猛将・加藤清正と鬼島津を遊軍にしたこともそう。
 極めつけは自分に与えられたこの役目。

「・・・・・・まったく、滾るわ!」

 忠勝は目を爛々と輝かせ、南門の目前に立つ。
 その手に持つは世に二つとない名槍蜻蛉切。
 乗馬・三国黒は既に無い。
 だが、それに劣らぬ名馬を秀頼に与えられた。
 そして、率いる兵は日本中から選りすぐられた精鋭中の精鋭。
 とは言え、それもほんの15騎。

「儂が討ち漏らした者は頼む」

「ははっ! このようなところで東国一の武勇と名高き本多殿の武を間近で見られるとは、光栄の至りでございます!」

 井頼と同じく秀頼の下に集まった人材の中で、武芸に生きる者達。
 頼もしい若武者たちの姿に、忠勝も一瞬破顔する。
 この者達に武を看取って貰えるのならそれも良いか、と。

「本多殿」

 いよいよ出陣という時になり、千姫が近づいてくる。

「皇后様、此処はあぶのうございま――」

「死ぬことは許しません」

 忠勝の言葉を押しとどめ、千姫は自分の要件をはっきりと伝える。

「貴方はお爺様の臣でしょう? お爺様が許すまで死ぬことはなりませんよ?」

「・・・・・・承知!」

 ・・・・・・本当に無茶を言う。

 忠勝は馬上ゆえに略式の礼を取り、にやけた顔を引き締める。

「開門!」

 ギギッと、木が軋む音を響かせながら、上海要塞南門が開門する。

 戦場は否応なく佳境へと引き込まれていく。

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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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