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千姫ルート 上海要塞防衛戦4
攻城1(エロ度☆☆☆☆☆)
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三国志演義という小説がある。
中国四大奇書に数えられるそれは、中華後漢末期に魏・呉・蜀の三国に国を分けて相争った英雄達の物語である。
もう一度言うのであれば、小説、つまり創作された物語。
後世の人間が歴史的事実に伝承や、様々な嗜好を凝らして脚色した物語である。
正史と比較すれば、かの天才軍師・諸葛亮孔明は優秀な政治家ではあっても、軍才に乏しいとされ、軍神・関羽は好色家な面を割愛され、他者の功績を移譲されて創り上げられる。
だが、怪異・妖術の類は別とし、それも可能なのではないかと考えられる戦術も三国志演義には登場する。
三国志演義は明代初期に成立し、明代にはもっとも広く読まれた小説の一つ。
ただし、それを読んだことのある倭人など、ほんの一握り。
両手の指で数えられる程度だろう。
居勝と進安が共に納得し採用した策とは、まさにこの物語に描かれる策であった。
「・・・・・・李将軍。準備は整いました」
居勝がいたって平然と進安に声をかける。
実は季夏は昼に起きたのではなく、まだまだ早朝と言って良い時間だった。
明軍の兵達は夜のうちに移動し、この策のための準備を夜通し行っていたのだ。
通常の軍略家であれば、夜通し体を酷使した後に総攻撃などありえない。
だが、どうにも倭軍の用いる烏銃による攻撃と、敵兵に被害を与えてない様に見える状況、それに加えて昨日の無双の武将の出現と、開戦より兵の士気が削がれ続けている。
目に見える結果を与えないことには、脱走兵が出て来てもやむをえない状況に陥っている。
・・・・・・いや、やはりそれをする理由は明軍の両将の個人的感情が大きい。
しかも、それに意見出来る第三将は、実は一昨日の倭軍の狙撃で死んでしまっていたのだ。
「うむ。まずは火砲を運べ!」
進安が下知を下す。
それと同時に、昨日の内に組み立てられていた火砲が一台当たり数十人の兵により居勝の指示した場所に運ばれていく。
その数・20門。
西門の破壊のために5門。
周辺に5門。
南門も同様の編成となる。
ある程度の命中率と破壊力を保つため、設置場所は1里半(約750mあくまで古代中国では! 日本では1里=3.9kmが一般的だが、それも時代による)先。
敵の烏砲による攻撃の届かない距離に設置することとなった。
千姫捕獲に逸る進安の陣はその近傍に置かれ、居勝は敵前逃亡する味方兵への対処のために後方、2里強の地点に陣を敷いた。
つまり、居勝の狙いの通り、進安だけは敵の新兵器の脅威にさらされているのである。
南京赴任当初であれば、そのまま進安に取り入ることを考えていた居勝だが、疾うにその気は失せていたのだ。
己の陣に向かう進安の背中を憎悪の眼差しで見送り、居勝が吐き捨てる様に言う。
「・・・・・・これ以上臭い息を吐くな。手柄だけは俺がもらってやる」
進安を殺しつつ、今日の攻撃で上海を攻略、敵皇后を捕縛し、対倭軍戦において最大の功を得る。
朝廷中枢への足掛かりは季夏が得てくれた進安の兄・進忠の情報と、自国の民の殺戮を指示した文で十分。
進忠に対立する者に取り入れば、必ずや成功させる自信がある。
「待っていろ、季夏」
見ていれば、火砲の設置が終わり、その射線に入らない陣取りで兵たちの布陣も終わる。
30万もの大軍勢が立てる土埃はそれだけで倭軍から火砲の姿を隠してしまうだろう。
そして、兵達は居勝が三国志演義から持ち出した策の通り、それぞれが自らの服を使った土嚢を持っている。
三国志演義に登場する天才軍師・孔明の攻城策。
南蛮(欧州諸国のことではない。三国志における南蛮とは今の雲南省からミャンマーの辺り)の石城を攻めるに当たり取った奇策である。
それは、兵士の服を使い、土嚢を作り、敵城壁に積み上げていくことで、階段を造るというもの。
実に壮大な攻城策と言える。
だが、攻城兵器が無い状態で攻城に突入した孔明の状況では実に痛快な妙案であった。
居勝はこの策を、敵の堀を埋め、大して高いわけでもない城壁を越える階段、それに、敵に近づくまでの即席の盾としての活用を考えたのだ。
同時に火砲による城門への集中砲火を行えば、今日の内に陥落させられる。
実を言えば、火砲が無力化される可能性に居勝は気付いていた。
と、言うよりも、火砲があることを知っていて、馬鹿正直に籠城をするのであれば何かあると確信していた。
だからこその同時攻撃なのだ。
「全軍、攻撃―!!」
進安の大声が聞こえる。
同時に巨大な銅鑼が鳴らされ、火砲に火薬が押し込まれる。
兵たちは身を守るように土嚢を抱き、ゆっくりと進軍を始める。
この時点で、居勝は勝利を確信していた。
中国四大奇書に数えられるそれは、中華後漢末期に魏・呉・蜀の三国に国を分けて相争った英雄達の物語である。
もう一度言うのであれば、小説、つまり創作された物語。
後世の人間が歴史的事実に伝承や、様々な嗜好を凝らして脚色した物語である。
正史と比較すれば、かの天才軍師・諸葛亮孔明は優秀な政治家ではあっても、軍才に乏しいとされ、軍神・関羽は好色家な面を割愛され、他者の功績を移譲されて創り上げられる。
だが、怪異・妖術の類は別とし、それも可能なのではないかと考えられる戦術も三国志演義には登場する。
三国志演義は明代初期に成立し、明代にはもっとも広く読まれた小説の一つ。
ただし、それを読んだことのある倭人など、ほんの一握り。
両手の指で数えられる程度だろう。
居勝と進安が共に納得し採用した策とは、まさにこの物語に描かれる策であった。
「・・・・・・李将軍。準備は整いました」
居勝がいたって平然と進安に声をかける。
実は季夏は昼に起きたのではなく、まだまだ早朝と言って良い時間だった。
明軍の兵達は夜のうちに移動し、この策のための準備を夜通し行っていたのだ。
通常の軍略家であれば、夜通し体を酷使した後に総攻撃などありえない。
だが、どうにも倭軍の用いる烏銃による攻撃と、敵兵に被害を与えてない様に見える状況、それに加えて昨日の無双の武将の出現と、開戦より兵の士気が削がれ続けている。
目に見える結果を与えないことには、脱走兵が出て来てもやむをえない状況に陥っている。
・・・・・・いや、やはりそれをする理由は明軍の両将の個人的感情が大きい。
しかも、それに意見出来る第三将は、実は一昨日の倭軍の狙撃で死んでしまっていたのだ。
「うむ。まずは火砲を運べ!」
進安が下知を下す。
それと同時に、昨日の内に組み立てられていた火砲が一台当たり数十人の兵により居勝の指示した場所に運ばれていく。
その数・20門。
西門の破壊のために5門。
周辺に5門。
南門も同様の編成となる。
ある程度の命中率と破壊力を保つため、設置場所は1里半(約750mあくまで古代中国では! 日本では1里=3.9kmが一般的だが、それも時代による)先。
敵の烏砲による攻撃の届かない距離に設置することとなった。
千姫捕獲に逸る進安の陣はその近傍に置かれ、居勝は敵前逃亡する味方兵への対処のために後方、2里強の地点に陣を敷いた。
つまり、居勝の狙いの通り、進安だけは敵の新兵器の脅威にさらされているのである。
南京赴任当初であれば、そのまま進安に取り入ることを考えていた居勝だが、疾うにその気は失せていたのだ。
己の陣に向かう進安の背中を憎悪の眼差しで見送り、居勝が吐き捨てる様に言う。
「・・・・・・これ以上臭い息を吐くな。手柄だけは俺がもらってやる」
進安を殺しつつ、今日の攻撃で上海を攻略、敵皇后を捕縛し、対倭軍戦において最大の功を得る。
朝廷中枢への足掛かりは季夏が得てくれた進安の兄・進忠の情報と、自国の民の殺戮を指示した文で十分。
進忠に対立する者に取り入れば、必ずや成功させる自信がある。
「待っていろ、季夏」
見ていれば、火砲の設置が終わり、その射線に入らない陣取りで兵たちの布陣も終わる。
30万もの大軍勢が立てる土埃はそれだけで倭軍から火砲の姿を隠してしまうだろう。
そして、兵達は居勝が三国志演義から持ち出した策の通り、それぞれが自らの服を使った土嚢を持っている。
三国志演義に登場する天才軍師・孔明の攻城策。
南蛮(欧州諸国のことではない。三国志における南蛮とは今の雲南省からミャンマーの辺り)の石城を攻めるに当たり取った奇策である。
それは、兵士の服を使い、土嚢を作り、敵城壁に積み上げていくことで、階段を造るというもの。
実に壮大な攻城策と言える。
だが、攻城兵器が無い状態で攻城に突入した孔明の状況では実に痛快な妙案であった。
居勝はこの策を、敵の堀を埋め、大して高いわけでもない城壁を越える階段、それに、敵に近づくまでの即席の盾としての活用を考えたのだ。
同時に火砲による城門への集中砲火を行えば、今日の内に陥落させられる。
実を言えば、火砲が無力化される可能性に居勝は気付いていた。
と、言うよりも、火砲があることを知っていて、馬鹿正直に籠城をするのであれば何かあると確信していた。
だからこその同時攻撃なのだ。
「全軍、攻撃―!!」
進安の大声が聞こえる。
同時に巨大な銅鑼が鳴らされ、火砲に火薬が押し込まれる。
兵たちは身を守るように土嚢を抱き、ゆっくりと進軍を始める。
この時点で、居勝は勝利を確信していた。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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