関白の息子!

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千姫ルート 上海要塞防衛戦3

交渉2(エロ度☆☆☆☆☆)

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 日本側から交渉に向かったのは、千姫や井頼の他に通訳の者と信繁を含めた護衛が7人。
 計10名が騎乗した千姫と共に、会見場所に向かうこととなった。
 予め交渉場所に連れてきてよい人数は10名までと協議してあったので、これが限界の人数である。

 上海中の誰もが見守るその中で、信繁に馬の轡を取ってもらった千姫が堂々とその場所に向かう。
 あくまで大将として恥ずかしくない様にと、どんなことがあっても下を向かないと決めたその顔は彼女の具足のせいもあってか戦女神のように凛と澄んでいた。
 その美しさに味方は目を奪われ、敵である明兵ですらも息をするのも忘れるほどに。

 対する明側の使者は、騎乗した恰幅の良い身分の高そうな男と、その隣に怜悧な目つきの男を先頭に、後に8人ほどの護衛と思われる兵。

「・・・・・・井頼殿。あの騎馬のどちらかが総大将ということでよろしいでしょうか」

「ええ。恐らくはそうでしょう。だとすれば、もう一人は参謀。憶測で申せば、ブタの様な男が総大将の李進安。狐の様な男が副将の張居勝でしょう」

「プッ、ブタの様なって」

 それは、井頼なりの千姫の緊張をほぐすための冗談だったのだが、場の空気にあわないことを急に言いだした井頼に千姫も思わず笑ってしまう。

「フフッ、どちらにしてもこの交渉は決裂となるのです。あまり緊張しすぎないことです。ただ、密偵の調べでは李進安の方はともかく、張居勝はそうとうなやり手と聞いています。本格的な戦闘を前に、相手を知る機会が得られたのは僥倖と言えましょう。出来る限り交渉を引き延ばし、相手の内情やどこまでこちらのことを理解しているかを探ります。皇后様はどっしりと構えていてくだされば、後はこちらで行いますので」

「・・・・・・はい。そして最後に今回の交渉は受け入れない。そう伝えればいいのですね?」

「はい。それで大丈夫です」

 明軍の陣は上海要塞の城壁から10町(約1km)ほど離れているので、交渉のための陣幕はお互いから5町ほど離れた地点となる。
 この距離であれば、銃にしても弓にしても狙撃は不可能。
 それがこの時代の常識であった。

「・・・・・・いざという時は真田殿に門までお連れいただき、敵将達は新式銃で狙撃します」

「そ、それは――」

「もちろん。こちらから動くつもりはございません。あくまで向こうが卑怯な手に出た際の対抗措置です」

 前を見ている千姫からでは分からないが、味方の兵に隠れながらも雑賀孫六がその銃口を敵将に向けている。
 5町くらいの距離であれば、敵がよほど妙な動きをしない限り、孫六が外すことなど無い。
 ただし、このような場で狙撃をすれば、すなわち新式銃の性能を公表することとなりかねない。

「こちらとしても穏便に決裂するのが、もっともよい結果ですので」

「分かりました」

 そうして、話しているうちに両者が交渉の場に到着する。
 相手は横だけではなく縦にも大きく、千姫の身長では見上げなければ視線を交わすことも出来ない。
 ・・・・・・だが、千姫にとって体の大きい人間は恐怖の対象ではない。
 なぜなら、秀頼の方が目の前の男よりもさらに一回り背が高いのだから。



(※以降、全て通訳が間に入って会話しています。面倒なのでそのまま会話が成立しているように表記します)


「初めまして。私がこの軍の総大将を務める豊臣千です」

 先程までの緊張などおくびにも出さずに、千姫は総大将として自分を紹介する。
 しかし、千姫がペコリと軽くお辞儀をした後も、ブタの様と形容された将が口を開くことはなかった。
 代わりとばかりにその隣の狐の様と形容された男が声を上げる

「失礼。今回は交渉から何から私が任されておりますのでご容赦ください。申し遅れましたが、私は明国軍副将を務めます張居勝と申します」

 そう言ってお辞儀をしてくる。
 だが、千姫達にしてみれば、総大将がいるのに名乗りもあげないと言うのは余りにも無礼な行為。

「張将軍。明国では大将が名乗りを上げることも出来ないのですか?」

 憮然とした表情で井頼が進安の紹介を求める。

 ・・・・・・が、

「ふむ。我々としては貴方達を対等とは見なしておりません。そちらも女子を、それもこれほど若い者を大将として出してくるのですから、文句は言えぬと思いますが?」

 それに対し、一切表情を変えないままに居勝は言い放つ。

「・・・・・・疑われるのも無理からぬこと。だが、このお方は紛れもなく我らが総大将です」

 井頼はその言葉に相手がそもそも偽物の大将を出してきたと疑われているのだと思い、そう否定にかかる。
 此処にも居勝の巧緻さが隠されていることには、この時は全く気付きもしなかった。

「ふむ。まぁ、それは交渉を続けているうちにおのずと分かることでしょう。挨拶はそれからでも良いでしょう」

 居勝はそう言うと、さっさと交渉の机に着いてしまう。

 千姫達にとっては肩透かしを食らったような格好となったが、挨拶に拘っていても仕方ないのもまた事実。
 不承不承の態で机の反対側へと座り、ようやく交渉が始まる。

「先ず、我ら明国からの要求を伝えさせていただきます」

 そう言うが早いか、居勝は文を取り出し、読み上げる。

「卑怯にも宣戦布告も無く、明国の土地を侵略し、民を虐げ、金品を略奪せし倭国の者には、全ての武装と所持品を放棄し、即刻明国より立ち去ること。これを即時受け入れるのならば、命までは奪わないと明国皇帝は約束するものとする。と、なっております」

「・・・・・・民を虐げ、金品を略奪、ですか。良く仰いますね」

 井頼は思わず顔を顰め、ついつい嫌味を言ってしまう。
 そうしておいて、ハタと気付いて千姫の顔を伺う。
 井頼たちは未だに明軍の横暴を、千姫とお麟には伝えていないのだ。

「宣戦布告もなにも、先の朝鮮出兵の折から今の今まで停戦に同意すらなされていない。そうでしたね、井頼殿? つまり、それからずっと戦中ですから、宣戦布告など必要ありません」

 だが、千姫が噛み付いたのは、井頼が危惧した部分ではなかった。

 どう言い繕っても、これが侵略行為であることは間違いない。
 だとしても、不当に夫を貶められるのは我慢ならないと言ったところなのだろう。
 略奪云々に関しては、旧上海城を攻めるに当たり、どうしたって多少の被害は出るので、その事だと思っているらしい。
 千姫の考えを読み、井頼がホッとしていたその時。

 年齢的にも二人より10近く年上の居勝は参謀である井頼を、目線を向けないままに見ていた。
 そして、居勝は心の中でつぶやく。

(まだまだ青い、この程度のことで心を揺らすようでは、な。・・・・・・ふむ。だが、どうやらこのお姫様は随分大事に扱われているようだ。我らの行為は知らされておらぬな。だとすれば、精神攻撃も十分に有効、か)

 ある意味で、この戦場においてもっとも千姫に容赦がないのはこの居勝である。
 彼の頭の中では、敵を城から出させるための方策が次々と浮かびだしていた。
 それこそ、文禄の役で捕らえた日本兵を城の門前で苦しめながら殺すと言ったような残虐なものも含めてだ。

「途中の文言はともかく、撤退の意思を確認させていただきたい」

 だが、そんな考えは誰にも悟らせずに話の核心を問う。
 居勝にしてみれば、既に敵将を観察するという目的は達成しているのだ。

 ただし、彼がそもそもこの交渉に持ち込んだ理由はもう3つある。
 1つ目は達成が不可能になったが、井頼が危惧した通り城内を見ること。

 2つ目は10町先まで届く銃を見ること。
 このためには、兵器の存在に気付いていることを悟らせない、ということも同様に重要となる。
 また、その兵器が見られるとすれば、会談中ではなく破断後であるとも考えていた。

 最後に、敵将を捕獲すること。
 実は居勝にしてみても、千姫の美貌は想定を遥かに越えていた。
 居勝自身はだからと言って何をするつもりもないが、明軍総大将の考えは異なる。
 
 そして、交渉の破断と居勝の安全圏への撤退を待たずに、後方で軍が動いている気配がする。
 どうやら千姫欲しさに逸っているようだ。

 つまり、早く終わらせて自分の安全を確保せねば、敵の銃の餌食になりかねないということだ。

「拒否します!」

 バン! と、机を叩き千姫が立ち上がる。

 それを見た居勝が、参謀も若ければ大将も同様だなと心の中で嘆息する。
 が、それもつかの間、突如後ろに控えていた護衛の者が千姫の腕を引く。

「皇后様、敵軍に動きがあります。お早く城門へ!」

 信繁の油断のないその所作に居勝は逆に驚いてしまう。
 この場にいる者全員を注視していただろうに、動くだろうと思っていた自分とほぼ同時に軍の気配に気付くなど、なんと言う観察力か、と。

「ぬぅ、その者達を逃がすな!」

 居勝は後に控えていた護衛達に指示を出し、一斉に剣を抜かせる。
 そして、自分は一歩飛ぶように後ろに下がる。

「必ず捕らえよ!」
「なっ!? 貴軍の大将もここにいるのだぞ!?」

 もちろん、この時点では既に通訳も成されていない。
 だが、井頼がブタの様な風体の進安によく似た男を指さしていることから、居勝にはその内容が推測できる。
 そう、その男はそもそも進安ではない、ただの農民兵だ。
 誰もその男が進安だなどとは言っていない。
 ゆえに殺されようと明軍には大した痛手もないのだ。

 そして、両軍あわせてわずか15人足らずの兵同士が戦闘に入った瞬間。

「くっ! 止むを得ん!」

 井頼が右手を高く振り上げる。

「っ!?」

 それを見た居勝は進安の影武者の背中に隠れる。

 ダァーンッ

 戦場に一発の銃声が木霊すると、進安の影武者の頭が後ろに仰け反る。
 同時に西瓜を割った時のように血飛沫が辺りに舞う。
 常識では考えられない5町先からの狙撃。

 だが、居勝はそれを読み切り、肉の壁として進安の影武者を使ったのだ。
 太っているこの男なら先ず貫通しない。
 彼が影武者に選ばれた理由は進安に体格が似ているだけでなく、盾として使えると見込まれたからだった。

「ククッ、これがそちらの新兵器か! 凄まじいな!」

 そして、その死体に隠れたままの姿で、居勝はそう言って笑って見せた。
 その不敵な笑みに、ほんの一瞬ではあるものの千姫達の足が止まる。
 井頼にとっては、この交渉と言う名の化かし合いにおいて、自分が完全に負けたことを悟った瞬間だった。


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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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