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千姫ルート 上海要塞防衛戦
戦支度1(エロ度☆☆☆☆☆)
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千姫達が名護屋を出立し、上海に到着したのは丸2日経った頃だった。
この間、上海の軍は本土の異変に全く気付きもせずに、ただ上海の要塞化を推し進め、同時に明の各地に密偵を送り敵の動向と情報を集めていた。
だからこそ、戻ってくるはずのない大和が上海に到着した時には、なにかの罠かと念のために清正が武装して出迎えに来たほどだった。
しかし、そこから真っ先に現れたのは小さな美しい女性、いや、まだまだ可愛らしさの方が目立つ少女だった。
だが、緊張した兵達にしてみれば、まるでその少女が天から降りて来たように見えていたのだろう。
誰もが息を飲みつつ、その少女を見つめていた。
多くの者にとっては、それが主君の妻などとは知る由もない。
実際、井頼もお麟も、もちろん千姫自身もそんな演出などは全く考えていなかったのだが・・・・・・。
ただ、その指示一つで死地に立たせなければならない将兵の下には先ずは自分が、と千姫自身が言い張っただけのことであった。
だが、そのおかげで上海の誰もが注目する、まるで舞台の中央に千姫は現れることが出来たのだ。
「将軍、お久しぶりです」
ただし、清正たちの戸惑いなどは千姫は露も知らない。
「・・・・・・はっ! 千姫様!?」
しかも将たる清正自身、千姫を見たことがあるのはせいぜい一・二度。
最後に会ったのは秀頼の戴冠式なので、丸三年も前。
このくらいの歳の娘の三年であれば成長の早さもあり、直ぐに思い出せないのも無理はない。
「はい。覚えていてくれていたんですね。ありがとうございます」
千姫がペコリと丁寧にお辞儀をすると、慌てて清正が膝をつき、それを見て上海中の将兵が清正を真似る。
「将軍、お顔をお上げください。私も将軍も同様に陛下の臣なのですから」
「はっ! し、しかし、千姫様、いえ、皇后様がどうしてここに? 陛下と共に福岡に戻られたはずでは?」
清正と言えど、この想定を超えた事態に対応できなかったようだ。
慌てふためいている姿は、とても歴戦の猛将とは思えない。
「はい。全ては要塞の中で詳しくご説明差し上げます。どうか島津様もお呼びください」
もう一度礼をすると、清正は理解できないながらも疑問を一度すべて飲み込み、千姫を上海要塞に案内する。
千姫の後には井頼とお麟、更に後に信繁が続く。
そして、要塞の中に彼等の姿が入り、しばらくした後にようやく建設作業が再開される。
外から見た要塞の出来栄えはまだ全体の一割といったところだろうか。
外壁から作業が行われているとはいえ、堀や砲を置く櫓などまだまだ完成には程遠い。
一体どこまで作業を速めれば、十倍の敵を食い止められるようになるだろうか・・・・・・。
哨戒に出ていた義弘の部隊が戻り、軍議の間に今回の戦の要となる六人が揃う。
千姫、清正、義弘、井頼、お麟、それに信繁。
もっとも、信繁は直接戦の指揮を執ることが出来ない立場なのだが・・・・・・。
清正と義弘は軍議に入り、直ぐさまに事の次第の説明を受けた。
それを受け、井頼はまずはと秀頼に持たされた清正・義弘宛の手紙を渡し、それを読んでもらう。
同時に千姫から語られるその内容に2人は何度も驚くが、最後に協力を求め頭を下げる彼女に、しかし是と答えようとはしなかった。
「・・・・・・将軍、不服が?」
軍議の間に満ちる沈黙に耐えかね、井頼が声を発する。
その問いにようやく清正が、おもむろに口を開き答える。
「・・・・・・何故、そのようなことをする?」
清正としては本土の異変に驚きはすれど、それで軍略を変える必要が無いと感じられたのだ。
「ですから、そうせねば皇后様とそのご家族――」
「千姫様を救いたいのであればそうすれば良い!」
井頼の言葉を途中で遮り、清正が怒声を発する。
「たかだが罪人数十人を救うために、一体何万の兵を殺す気か!」
清正からすれば、徳川家は再興はすれど、大罪を犯した家と言う考えが強い。
そして、ここにいる間の短期間とは言え、同じ釜の飯を喰らった仲の将兵達。
もはや家族と言ってもいい彼等を、多く殺してしまう作戦なのだ。
本来の防衛戦であれば、恐らく被害は半分以下で済む。
いや、そもそも博打の様な事をして、勝てるかどうかも分からないようなことをせずに済む。
おそらく義弘も同様なのだろう、2人の表情は下手をすればそれを見ただけで肝を冷やし死んでしまいそうなほどに恐ろしい。
その想いを感じ取り、若年の千姫・井頼・お麟が委縮してしまう。
「・・・・・・と、本来なら言うところですな」
「うむ、全く右に同じ」
しかし、固まった場の空気を変えたのもまた清正達であった。
断られる流れであると思っていた三人は、恐る恐ると言った感じでその表情を見て驚く。
先程とは打って変わり、からりとした笑顔を覗かせる。
「まぁ、陛下の我儘なら喜んで命を投げうちましょう」
そう言って秀頼からの手紙の中身を見せてくれる。
渡した時にはただの軍令書の類だと思っていた。
だが、その内容は・・・・・・。
清正へ
無茶な頼みであることは理解している。
戦略を変えることで多くの兵が犠牲になることも分かっている。
それでも俺はこの我儘を通したい。
悪いがたいそうな理由なんてない。
ただ愛した女に悲しい顔をさせたくない。
それだけのことだ。
どうか俺の女を救ってほしい。
なにか代償が欲しいと言うのなら何でも言ってくれ。
なにを投げうってでもお千を助けたい。
そして、そのために親友である清正の助けが欲しい。
最後に皆が笑って暮らせる世のために。
この後に続くのは千姫との惚気話ばかり。
どの文からも自分の思いを伝えようと必死に書いた事が伝わってくる。
「・・・・・・陛下・・・・・・」
ただただ、自分の恋人を助けたいという思いが書き連ねられた内容に千姫も涙する。
「陛下の命であれば死地に入るなど、どうということも無い。元々某の命は亡き太閤殿下に拾っていただいたもの。陛下にその恩をお返しできると言うのなら、なにも迷うことはない。加藤清正が武をお見せしましょう!」
そう言って清正と義弘が千姫に臣下の礼を取る。
この戦場では千姫の指揮に入り、付き従うと表明したのだ。
「ですが、先程の我らの気迫程度で怯んでいるようでは戦場では戦えませぬ。明軍50万の兵の殺気が全て己に向かうものとお考えくだされ」
先程のそれは、そのための戒めだったのだろう。
若年の三人はそれぞれに背筋を伸ばし、礼を言った。
この間、上海の軍は本土の異変に全く気付きもせずに、ただ上海の要塞化を推し進め、同時に明の各地に密偵を送り敵の動向と情報を集めていた。
だからこそ、戻ってくるはずのない大和が上海に到着した時には、なにかの罠かと念のために清正が武装して出迎えに来たほどだった。
しかし、そこから真っ先に現れたのは小さな美しい女性、いや、まだまだ可愛らしさの方が目立つ少女だった。
だが、緊張した兵達にしてみれば、まるでその少女が天から降りて来たように見えていたのだろう。
誰もが息を飲みつつ、その少女を見つめていた。
多くの者にとっては、それが主君の妻などとは知る由もない。
実際、井頼もお麟も、もちろん千姫自身もそんな演出などは全く考えていなかったのだが・・・・・・。
ただ、その指示一つで死地に立たせなければならない将兵の下には先ずは自分が、と千姫自身が言い張っただけのことであった。
だが、そのおかげで上海の誰もが注目する、まるで舞台の中央に千姫は現れることが出来たのだ。
「将軍、お久しぶりです」
ただし、清正たちの戸惑いなどは千姫は露も知らない。
「・・・・・・はっ! 千姫様!?」
しかも将たる清正自身、千姫を見たことがあるのはせいぜい一・二度。
最後に会ったのは秀頼の戴冠式なので、丸三年も前。
このくらいの歳の娘の三年であれば成長の早さもあり、直ぐに思い出せないのも無理はない。
「はい。覚えていてくれていたんですね。ありがとうございます」
千姫がペコリと丁寧にお辞儀をすると、慌てて清正が膝をつき、それを見て上海中の将兵が清正を真似る。
「将軍、お顔をお上げください。私も将軍も同様に陛下の臣なのですから」
「はっ! し、しかし、千姫様、いえ、皇后様がどうしてここに? 陛下と共に福岡に戻られたはずでは?」
清正と言えど、この想定を超えた事態に対応できなかったようだ。
慌てふためいている姿は、とても歴戦の猛将とは思えない。
「はい。全ては要塞の中で詳しくご説明差し上げます。どうか島津様もお呼びください」
もう一度礼をすると、清正は理解できないながらも疑問を一度すべて飲み込み、千姫を上海要塞に案内する。
千姫の後には井頼とお麟、更に後に信繁が続く。
そして、要塞の中に彼等の姿が入り、しばらくした後にようやく建設作業が再開される。
外から見た要塞の出来栄えはまだ全体の一割といったところだろうか。
外壁から作業が行われているとはいえ、堀や砲を置く櫓などまだまだ完成には程遠い。
一体どこまで作業を速めれば、十倍の敵を食い止められるようになるだろうか・・・・・・。
哨戒に出ていた義弘の部隊が戻り、軍議の間に今回の戦の要となる六人が揃う。
千姫、清正、義弘、井頼、お麟、それに信繁。
もっとも、信繁は直接戦の指揮を執ることが出来ない立場なのだが・・・・・・。
清正と義弘は軍議に入り、直ぐさまに事の次第の説明を受けた。
それを受け、井頼はまずはと秀頼に持たされた清正・義弘宛の手紙を渡し、それを読んでもらう。
同時に千姫から語られるその内容に2人は何度も驚くが、最後に協力を求め頭を下げる彼女に、しかし是と答えようとはしなかった。
「・・・・・・将軍、不服が?」
軍議の間に満ちる沈黙に耐えかね、井頼が声を発する。
その問いにようやく清正が、おもむろに口を開き答える。
「・・・・・・何故、そのようなことをする?」
清正としては本土の異変に驚きはすれど、それで軍略を変える必要が無いと感じられたのだ。
「ですから、そうせねば皇后様とそのご家族――」
「千姫様を救いたいのであればそうすれば良い!」
井頼の言葉を途中で遮り、清正が怒声を発する。
「たかだが罪人数十人を救うために、一体何万の兵を殺す気か!」
清正からすれば、徳川家は再興はすれど、大罪を犯した家と言う考えが強い。
そして、ここにいる間の短期間とは言え、同じ釜の飯を喰らった仲の将兵達。
もはや家族と言ってもいい彼等を、多く殺してしまう作戦なのだ。
本来の防衛戦であれば、恐らく被害は半分以下で済む。
いや、そもそも博打の様な事をして、勝てるかどうかも分からないようなことをせずに済む。
おそらく義弘も同様なのだろう、2人の表情は下手をすればそれを見ただけで肝を冷やし死んでしまいそうなほどに恐ろしい。
その想いを感じ取り、若年の千姫・井頼・お麟が委縮してしまう。
「・・・・・・と、本来なら言うところですな」
「うむ、全く右に同じ」
しかし、固まった場の空気を変えたのもまた清正達であった。
断られる流れであると思っていた三人は、恐る恐ると言った感じでその表情を見て驚く。
先程とは打って変わり、からりとした笑顔を覗かせる。
「まぁ、陛下の我儘なら喜んで命を投げうちましょう」
そう言って秀頼からの手紙の中身を見せてくれる。
渡した時にはただの軍令書の類だと思っていた。
だが、その内容は・・・・・・。
清正へ
無茶な頼みであることは理解している。
戦略を変えることで多くの兵が犠牲になることも分かっている。
それでも俺はこの我儘を通したい。
悪いがたいそうな理由なんてない。
ただ愛した女に悲しい顔をさせたくない。
それだけのことだ。
どうか俺の女を救ってほしい。
なにか代償が欲しいと言うのなら何でも言ってくれ。
なにを投げうってでもお千を助けたい。
そして、そのために親友である清正の助けが欲しい。
最後に皆が笑って暮らせる世のために。
この後に続くのは千姫との惚気話ばかり。
どの文からも自分の思いを伝えようと必死に書いた事が伝わってくる。
「・・・・・・陛下・・・・・・」
ただただ、自分の恋人を助けたいという思いが書き連ねられた内容に千姫も涙する。
「陛下の命であれば死地に入るなど、どうということも無い。元々某の命は亡き太閤殿下に拾っていただいたもの。陛下にその恩をお返しできると言うのなら、なにも迷うことはない。加藤清正が武をお見せしましょう!」
そう言って清正と義弘が千姫に臣下の礼を取る。
この戦場では千姫の指揮に入り、付き従うと表明したのだ。
「ですが、先程の我らの気迫程度で怯んでいるようでは戦場では戦えませぬ。明軍50万の兵の殺気が全て己に向かうものとお考えくだされ」
先程のそれは、そのための戒めだったのだろう。
若年の三人はそれぞれに背筋を伸ばし、礼を言った。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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