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宿敵と最愛の娘
火種(エロ度☆☆☆☆☆)
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「・・・・・・ん? なぜ信繁がいるんだ? お前は大阪の守りだったろう?」
上陸して真っ先にいるはずのない者の姿を認め、開口一番にそう聞いてしまった。
対する信繁は後ろの兵たちと共に臣下の礼を崩さずにいる。
・・・・・・それにしても随分と多い。
千人はいるのではないか?
そして、ただの迎えにしては装備も少し・・・・・・。
「それにこの兵は?」
「陛下。先ずは戦勝のこと心よりお喜び申し上げます」
・・・・・・先ずは?
他に何があるのだ?
「信繁、面を上げよ。そしてなにがあったのか伝えよ」
「・・・・・・徳川家康殿が姿を消しましてございます」
「っ!? 家康が!?」
後ろに控えていた井頼とお麟も息を飲むのが聞こえる。
だが、今更家康に何が出来る?
・・・・・・いや、家康に恩や義理のある大名は多い。
それこそ家ではなく個人としてなら俺よりも、だ。
って、いや待て、お千。
「お、お爺様が・・・・・・」
身内だけにやはりショックなのだろう。
大人しく刑に服しているのなら良かったのだ。
こうして脱走かは分からないが、いなくなってしまえば次に取れる罰はもう処刑しかない。
「お千、大丈夫だから――」
「陛下!」
俺がお千に手を伸ばしたところで信繁が叫ぶ。
「うるさいぞ信繁! 後にしろ!」
「いいえ、陛下! 大政所様から千姫様の身柄を拘束するようにとのご指示にございます! 失礼を承知で申しますれば大罪人の孫にございます!」
・・・・・・なに?
「・・・・・・おい、信繁。今なんと言った?」
側にいる小姓の刀を掴む。
天下五剣の一、鬼丸国綱。
かなりの長刀だが、俺の長身にはちょうど良い。
この刀なら野太い信繁の首も余裕で切り落とせる。
「もう一度言ってみろ。誰を拘束すると?」
カチッ、シュララァッ
鬼丸国綱の刀身を抜き、鞘を捨てる。
「誰に向かって罪人のような扱いをする、と?」
「・・・・・・千姫様にございます。千姫様を、大罪人の孫を拘束させ――」
「黙れ! 首を出せ!」
俺の鬼の形相に誰もが息を飲む。
・・・・・・いや、信繁を除いて、だ。
そして信繁は黙って襟を拡げる。
「陛下。お仕え出来て幸せにございました」
「・・・・・・信繁、言い残すことはあるか?」
一度、信繁が俺を見上げる。
「・・・・・・陛下、良い世をお創りください」
ただ、それだけを残し、首を差し出してくる。
ならば――
「陛下、なりません!」
ドンという音と共にお千が後ろから俺に抱きついてくる。
「・・・・・・お千、放せ」
「放しません!」
お千の力を振り切ることなんて簡単だ。
だが、何故お千が俺を止めるのかが分からない。
「なぜ止めるんだお千!」
「信繁殿は全く間違ったことをなさっておりません! 私は徳川家康の孫にございます! 流刑に許されながらも姿をくらませた大罪人の孫なのです!」
「そんな事はお千に関係ない!」
親どころか祖父のことなど関係ない。
俺にとってお千は徳川家の娘などではないのだから。
ただ、俺の最愛の人、それだけなのだから。
「関係あります! そのような大罪。一族郎党に至るまで刑に処されるべき案件でございます!」
「お前は俺の妻だ! そんな事は――」
「陛下が法を違えてはなりません!」
もちろんこの時代に正式に国としての法などと言うものは無い。
各大名家が定める分国法があり、豊臣家のそれこそがこの国の法ということになっている。
また、規律はあるし、過去の判例はしっかりと残っている。
家康の過去の造反行為は本来三族まで処刑されているべき案件だ。
だが、秀忠の江戸城無血開城により、家康本人以外は許され、家康自身も流刑という、温情に温情を重ねた決着になっている。
それを破ったとなれば、当然温情など無くして厳しく罰せねばならない。
法を守るのなら、俺はお千を処刑しなくてはならない。
「・・・・・・駄目だ。お前を殺させはしない」
「大丈夫です。きっとそのために大政所様は信繁殿を派遣してくださったのです。きっと大政所様が良くしてくださいます」
スッとお千が鬼丸国綱を握る俺の右手に触れる。
そして、もう必要ないという様に下ろさせる。
「信繁殿、どうぞ私をお連れください」
「お千!」
「陛下、どうか」
「・・・・・・」
それ以上は何も言わせず、お千が信繁達が連れて来ていた輿に乗る。
逃げ出せぬように外から鍵の閉まる輿で・・・・・・。
「陛下・・・・・・」
信繁が俺を気遣う様に声をかけてくる。
「信繁、すまなかった」
だが、今は一人にしてほしい。
考えなければならないことが・・・・・・。
「いえ、そ、そう言えば少し食糧に不安がありまして、その、二日後には福岡城で一旦補給を行おうかと」
ボソボソと信繁が俺にだけ聞こえる様に呟く。
これは、母上の指示なのだろうか?
それとも信繁の機転なのか?
「・・・・・・急ぎ福岡城に帰るぞ!」
僅かな手勢を連れ、信繁の護送部隊を追い越して福岡城に戻る。
2日の内に方策を考えればひっくり返せるのだ!
上陸して真っ先にいるはずのない者の姿を認め、開口一番にそう聞いてしまった。
対する信繁は後ろの兵たちと共に臣下の礼を崩さずにいる。
・・・・・・それにしても随分と多い。
千人はいるのではないか?
そして、ただの迎えにしては装備も少し・・・・・・。
「それにこの兵は?」
「陛下。先ずは戦勝のこと心よりお喜び申し上げます」
・・・・・・先ずは?
他に何があるのだ?
「信繁、面を上げよ。そしてなにがあったのか伝えよ」
「・・・・・・徳川家康殿が姿を消しましてございます」
「っ!? 家康が!?」
後ろに控えていた井頼とお麟も息を飲むのが聞こえる。
だが、今更家康に何が出来る?
・・・・・・いや、家康に恩や義理のある大名は多い。
それこそ家ではなく個人としてなら俺よりも、だ。
って、いや待て、お千。
「お、お爺様が・・・・・・」
身内だけにやはりショックなのだろう。
大人しく刑に服しているのなら良かったのだ。
こうして脱走かは分からないが、いなくなってしまえば次に取れる罰はもう処刑しかない。
「お千、大丈夫だから――」
「陛下!」
俺がお千に手を伸ばしたところで信繁が叫ぶ。
「うるさいぞ信繁! 後にしろ!」
「いいえ、陛下! 大政所様から千姫様の身柄を拘束するようにとのご指示にございます! 失礼を承知で申しますれば大罪人の孫にございます!」
・・・・・・なに?
「・・・・・・おい、信繁。今なんと言った?」
側にいる小姓の刀を掴む。
天下五剣の一、鬼丸国綱。
かなりの長刀だが、俺の長身にはちょうど良い。
この刀なら野太い信繁の首も余裕で切り落とせる。
「もう一度言ってみろ。誰を拘束すると?」
カチッ、シュララァッ
鬼丸国綱の刀身を抜き、鞘を捨てる。
「誰に向かって罪人のような扱いをする、と?」
「・・・・・・千姫様にございます。千姫様を、大罪人の孫を拘束させ――」
「黙れ! 首を出せ!」
俺の鬼の形相に誰もが息を飲む。
・・・・・・いや、信繁を除いて、だ。
そして信繁は黙って襟を拡げる。
「陛下。お仕え出来て幸せにございました」
「・・・・・・信繁、言い残すことはあるか?」
一度、信繁が俺を見上げる。
「・・・・・・陛下、良い世をお創りください」
ただ、それだけを残し、首を差し出してくる。
ならば――
「陛下、なりません!」
ドンという音と共にお千が後ろから俺に抱きついてくる。
「・・・・・・お千、放せ」
「放しません!」
お千の力を振り切ることなんて簡単だ。
だが、何故お千が俺を止めるのかが分からない。
「なぜ止めるんだお千!」
「信繁殿は全く間違ったことをなさっておりません! 私は徳川家康の孫にございます! 流刑に許されながらも姿をくらませた大罪人の孫なのです!」
「そんな事はお千に関係ない!」
親どころか祖父のことなど関係ない。
俺にとってお千は徳川家の娘などではないのだから。
ただ、俺の最愛の人、それだけなのだから。
「関係あります! そのような大罪。一族郎党に至るまで刑に処されるべき案件でございます!」
「お前は俺の妻だ! そんな事は――」
「陛下が法を違えてはなりません!」
もちろんこの時代に正式に国としての法などと言うものは無い。
各大名家が定める分国法があり、豊臣家のそれこそがこの国の法ということになっている。
また、規律はあるし、過去の判例はしっかりと残っている。
家康の過去の造反行為は本来三族まで処刑されているべき案件だ。
だが、秀忠の江戸城無血開城により、家康本人以外は許され、家康自身も流刑という、温情に温情を重ねた決着になっている。
それを破ったとなれば、当然温情など無くして厳しく罰せねばならない。
法を守るのなら、俺はお千を処刑しなくてはならない。
「・・・・・・駄目だ。お前を殺させはしない」
「大丈夫です。きっとそのために大政所様は信繁殿を派遣してくださったのです。きっと大政所様が良くしてくださいます」
スッとお千が鬼丸国綱を握る俺の右手に触れる。
そして、もう必要ないという様に下ろさせる。
「信繁殿、どうぞ私をお連れください」
「お千!」
「陛下、どうか」
「・・・・・・」
それ以上は何も言わせず、お千が信繁達が連れて来ていた輿に乗る。
逃げ出せぬように外から鍵の閉まる輿で・・・・・・。
「陛下・・・・・・」
信繁が俺を気遣う様に声をかけてくる。
「信繁、すまなかった」
だが、今は一人にしてほしい。
考えなければならないことが・・・・・・。
「いえ、そ、そう言えば少し食糧に不安がありまして、その、二日後には福岡城で一旦補給を行おうかと」
ボソボソと信繁が俺にだけ聞こえる様に呟く。
これは、母上の指示なのだろうか?
それとも信繁の機転なのか?
「・・・・・・急ぎ福岡城に帰るぞ!」
僅かな手勢を連れ、信繁の護送部隊を追い越して福岡城に戻る。
2日の内に方策を考えればひっくり返せるのだ!
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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