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狂乱
裏内の攻防2/2(エロ度☆☆☆☆☆)
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鬨の声をあげ、盾を持った兵を前列にその後に200人近くの兵が続く。最初から兵力で押してしまえばよかったのだ。しかし、総兵力の少ない軍を思えば、男の抵抗が予想される方に兵力が偏るのも当然。
盾兵が裏内の門に辿り着く。そして、瞬時に首を吊られて宙に浮かぶ。
その反発で首が折れ、何もない中空にブラブラとぶら下がる死体を目にし、後続が恐れで足を止めてしまう。しかし、このままではまた苦無の餌食だ。どんなに強くても所詮は女しかいない裏内。男数人がかりで囲めば勝てるのが道理。
「怯むな! 味方の屍を越えて進め! 男児を連れて来た者には、恩賞は望むがままだぞ!」
そう、一番の手柄は秀頼公の息子・白寿丸。まだ生後三カ月も経たない赤子である。
「中にいる女も財も自由にしてよい! とにかく進め!」
まるで野盗のようだと自嘲じみた笑いを浮かべながら、清左衛門も兵の後に続く。おお! と雄叫びを上げながら進む兵により、ついに裏内の門を越える者が出始めた。そして、ザシュッと言う音が始めて味方の兵以外から聞こえる。
倒れたのはまだ年端もいかない可愛らしい少女。薄いが動きやすそうな着物で苦無を逆手に持ち、兵の首を刺したところで後ろから斬られたのだ。明らかにくのいち。しかし、清左衛門にとっては同じ年頃の娘がいることもあり、戦場において抱いてはいけないはずの同情や悲痛さといった感情を感じてしまう。せめて、苦しまずにそう思った清左衛門が黙祷でもするように目を閉じる。
いや、閉じようとしたその一瞬、少女と目が合ったような気がした。そして、その少女の目はまだ死んでいないことに気付いた。
「退避!」
少女が取り出したのは火縄。それをあろうことか己の腹に向けて、いや、腹に仕込んだ火薬を詰めた瓶に向けて突き刺したのだ。
ドドォオオオオオォーーーン
その巨大な音が聞こえたと感じる前に清左衛門は真後ろに吹き飛ばされる。そこにいた自軍の兵達も至る所に吹きとんでいた。五体満足で耳が聞こえないと叫んでいる者は幸せだ。腕が、足が、目が、耳が、あらゆる部位が吹き飛び、そこかしこに人間の一部がこびりつき、噎せ返るような血の匂いが充満する。
それでもやはり生きている者はまだ良い方だ。今回死んだ者は味方だけでも恐らく十人程度、戦闘不能になったのは二十人近く。自ら爆弾となった可愛らしい少女はもはや細かい肉片でしかなくとても見られたものではない。
「ひ、退け、退け! 一度撤退だ!」
言われずとも動ける者は我先にと逃げ出している。しかし、その逃げる兵に対しても恐ろしく正確無比に苦無が飛んでくる。己の同僚が自爆したと言うのに手元を狂わせることも無く、ただ冷酷に殺すため。
裏内に正面から突入した者は100人いたが、わずか数瞬の間で戻って来たのは40人足らず。全滅と言って良い数字だ。
周囲の壁をよじ登った者達も屋根の上からの飛礫や苦無に悩まされ、正面組に合わせて撤退した。300人の兵が200人を少し超える程度に減らされ、向こうの被害で明確になっているのは自爆した少女のみ。
「信じられん。いくら城攻めとは言え、伊賀の忍びとはこれほどのものなのか!?」
しかし、清左衛門は同時に次で決められるとも思っていた。何故なら一気に前田軍を蹴散らそうと自爆したがために代わりに玄関口が壊れ、中の様子が見えるようになったからだ。あんな方法を何度も使えるわけがない。
使えるならわざわざ人に抱かせ密集地に突っ込ませるなどということはしなかったはず。それに、一度中に入ってしまえば妻子を巻き込む可能性もある。
遠くで「おおっ!」という鬨の声が聞こえる。
「あちらの櫓でも攻撃が始まったか・・・・・・。各方面の友軍を正面に集結させろ。後は何を犠牲にしてでも制圧する。裏内はその構造上ここ以外からは出ることも入ることもままならない。苦無の数にも限度があるはずだ。必ず、制圧せよ! 他のところに負けるな!」
集まって来た兵達の顔を見れば、あきらかに士気が落ちていることが分かる。どちらにしろ次の突撃が最後の機会。金でも女でも、既に彼等の士気をあげることなど出来ないのだから。後はこの方法でしか奮起させることなど思いつかない。
「良いか。此処で結果を出せなければ我らは皆拷問を受けた上で殺される。いや、我らだけではない。この乱に参加した者の一族郎党全てがだ。助けるために、助かるために殺せ!」
「っぅぉおおおおお!」
最後は自分の命のために、家族のために。しかし、嘘はついたつもりはない。捕まれば殺されるだけでは済まない。
「進め、進め。もはや我らは死地にあるぞ」
やはり自分もあの時諫言を発していればよかった。そう思いながらも清左衛門は自分の刀を持ち直す。決死になった兵達は苦無で殺された味方の兵を盾に味方の死骸を踏みしめながら進む。
そして、くノ一であろう少女達も一人、また一人と斬り殺されていく。
「殺せ、殺せ、殺せ!」
清左衛門はそう叫びながら、すでに自分が将としてではなく、ただの殺人の熱に酔っただけの存在であることを理解した。前田家は戦をする大名家ではない。だから、長年前田家に仕えておきながら、清左衛門は一度も戦に出たことがなかったのだ。
「ころ!?――」
そんな彼にとって幸せだったのはその熱に浮かされたまま、興奮し痛みを感じる間もなく逝けたことだった。
盾兵が裏内の門に辿り着く。そして、瞬時に首を吊られて宙に浮かぶ。
その反発で首が折れ、何もない中空にブラブラとぶら下がる死体を目にし、後続が恐れで足を止めてしまう。しかし、このままではまた苦無の餌食だ。どんなに強くても所詮は女しかいない裏内。男数人がかりで囲めば勝てるのが道理。
「怯むな! 味方の屍を越えて進め! 男児を連れて来た者には、恩賞は望むがままだぞ!」
そう、一番の手柄は秀頼公の息子・白寿丸。まだ生後三カ月も経たない赤子である。
「中にいる女も財も自由にしてよい! とにかく進め!」
まるで野盗のようだと自嘲じみた笑いを浮かべながら、清左衛門も兵の後に続く。おお! と雄叫びを上げながら進む兵により、ついに裏内の門を越える者が出始めた。そして、ザシュッと言う音が始めて味方の兵以外から聞こえる。
倒れたのはまだ年端もいかない可愛らしい少女。薄いが動きやすそうな着物で苦無を逆手に持ち、兵の首を刺したところで後ろから斬られたのだ。明らかにくのいち。しかし、清左衛門にとっては同じ年頃の娘がいることもあり、戦場において抱いてはいけないはずの同情や悲痛さといった感情を感じてしまう。せめて、苦しまずにそう思った清左衛門が黙祷でもするように目を閉じる。
いや、閉じようとしたその一瞬、少女と目が合ったような気がした。そして、その少女の目はまだ死んでいないことに気付いた。
「退避!」
少女が取り出したのは火縄。それをあろうことか己の腹に向けて、いや、腹に仕込んだ火薬を詰めた瓶に向けて突き刺したのだ。
ドドォオオオオオォーーーン
その巨大な音が聞こえたと感じる前に清左衛門は真後ろに吹き飛ばされる。そこにいた自軍の兵達も至る所に吹きとんでいた。五体満足で耳が聞こえないと叫んでいる者は幸せだ。腕が、足が、目が、耳が、あらゆる部位が吹き飛び、そこかしこに人間の一部がこびりつき、噎せ返るような血の匂いが充満する。
それでもやはり生きている者はまだ良い方だ。今回死んだ者は味方だけでも恐らく十人程度、戦闘不能になったのは二十人近く。自ら爆弾となった可愛らしい少女はもはや細かい肉片でしかなくとても見られたものではない。
「ひ、退け、退け! 一度撤退だ!」
言われずとも動ける者は我先にと逃げ出している。しかし、その逃げる兵に対しても恐ろしく正確無比に苦無が飛んでくる。己の同僚が自爆したと言うのに手元を狂わせることも無く、ただ冷酷に殺すため。
裏内に正面から突入した者は100人いたが、わずか数瞬の間で戻って来たのは40人足らず。全滅と言って良い数字だ。
周囲の壁をよじ登った者達も屋根の上からの飛礫や苦無に悩まされ、正面組に合わせて撤退した。300人の兵が200人を少し超える程度に減らされ、向こうの被害で明確になっているのは自爆した少女のみ。
「信じられん。いくら城攻めとは言え、伊賀の忍びとはこれほどのものなのか!?」
しかし、清左衛門は同時に次で決められるとも思っていた。何故なら一気に前田軍を蹴散らそうと自爆したがために代わりに玄関口が壊れ、中の様子が見えるようになったからだ。あんな方法を何度も使えるわけがない。
使えるならわざわざ人に抱かせ密集地に突っ込ませるなどということはしなかったはず。それに、一度中に入ってしまえば妻子を巻き込む可能性もある。
遠くで「おおっ!」という鬨の声が聞こえる。
「あちらの櫓でも攻撃が始まったか・・・・・・。各方面の友軍を正面に集結させろ。後は何を犠牲にしてでも制圧する。裏内はその構造上ここ以外からは出ることも入ることもままならない。苦無の数にも限度があるはずだ。必ず、制圧せよ! 他のところに負けるな!」
集まって来た兵達の顔を見れば、あきらかに士気が落ちていることが分かる。どちらにしろ次の突撃が最後の機会。金でも女でも、既に彼等の士気をあげることなど出来ないのだから。後はこの方法でしか奮起させることなど思いつかない。
「良いか。此処で結果を出せなければ我らは皆拷問を受けた上で殺される。いや、我らだけではない。この乱に参加した者の一族郎党全てがだ。助けるために、助かるために殺せ!」
「っぅぉおおおおお!」
最後は自分の命のために、家族のために。しかし、嘘はついたつもりはない。捕まれば殺されるだけでは済まない。
「進め、進め。もはや我らは死地にあるぞ」
やはり自分もあの時諫言を発していればよかった。そう思いながらも清左衛門は自分の刀を持ち直す。決死になった兵達は苦無で殺された味方の兵を盾に味方の死骸を踏みしめながら進む。
そして、くノ一であろう少女達も一人、また一人と斬り殺されていく。
「殺せ、殺せ、殺せ!」
清左衛門はそう叫びながら、すでに自分が将としてではなく、ただの殺人の熱に酔っただけの存在であることを理解した。前田家は戦をする大名家ではない。だから、長年前田家に仕えておきながら、清左衛門は一度も戦に出たことがなかったのだ。
「ころ!?――」
そんな彼にとって幸せだったのはその熱に浮かされたまま、興奮し痛みを感じる間もなく逝けたことだった。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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