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天下人
天下の主(エロ度☆☆☆☆☆)
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三月、前田利家が大阪で亡くなった。
六大老の一人として大阪で政務をしてくれていた利家の死は、同時に今まで上から抑え込んでくれていた者の死だ。
つまり、争いにまで発展していなかった文治派と武断派の衝突が表面化する可能性があった。
「秀頼様、急ぎまする」
「桜、ケ、ケツが痛い」
「すいません、ですが急がねば間に合いません」
「いい。急げ」
もともと不穏な動きがあることは分かっていた。
正則や清正が兵を密かに集めていたのはくノ一から報告を受けている。
そして、利家の死を契機に動き出すと言うのだ。
もっともこれは隣を走る如水の想像だが。
足が悪いと言うのに器用に馬を乗りこなしている。
桜との二人乗りでケツが痛いと文句を垂れる俺とは大違いだ。
「如水、間に合うか?」
「はっ! 問題はないかと存じます。早馬にて某の兵にも支度をするように伝えてありますので」
情けないことに天下人なのに俺は自身で兵を準備出来ない。
ちゃんと俺の命令に従ってくれる家臣がいないのだ。
この如水も今のところは従ってくれているが・・・・・・
なんと言っても黒田如水。
一体どれほど先を見ているのかが分からない。
「それで、衝突を止められてその後はどうされます?」
「言っただろう? 朝鮮の事を――」
「それでよろしいので?」
「・・・・・・如水が言ったのだろう? 不満は爆発させた方が良いと」
「確かに。しかし、はっきり申し上げますと、秀頼様の天下で邪魔になるのは石田殿達でも加藤殿達でもございません。分かりますか?」
「家康、か?」
「家臣としては力を持ち過ぎており、勝手に婚姻外交を推し進めるなど、政治を預かる六大老筆頭でありながら、最近の行いは余り褒められたものではありません」
「しかし、決定的な行いをしたわけではあるまい?」
「それはどうでも良い事でございます。大名達がどう見るかという話をしております。勝手をして許される。いえ、勝手をしても咎められないほどの力と見れば、徳川殿にすり寄る輩も多くなりましょう」
「・・・・・・如水。この騒動が終わるまでに家康の所領を半分に減らす策を考えてくれ」
「御意に。しかし、改易ではないのですね?」
「半分だ。それに家康には隠居してもらう」
「ふむ。謀反の罪を被っていただくしかありませんな。と、なれば大規模な戦となりましょう」
「勝てるか?」
「殿が自ら戦線にお立ちになるのならば必ず」
「分かった」
もちろん戦は怖い。
でも如水がその必要があると言うならそうなのだろう。
ただし、如水が腹に一物を抱えていなければ、だが。
「殿、見えて参りました」
「如水の軍に向かう」
「はっ!」
ヒリヒリするケツを無理矢理に無視し、黒田の旗印を掲げる2000の兵の前に辿り着く。
「長政、ご苦労!」
「はっ! 秀頼様も大阪よりのご足労痛み入ります」
さて、如水の息子・黒田長政がこの軍の指揮官だ。
長政は清正達と幼少期に共に育ったこともあり、正史ならこの長政も武断派の一人として三成を襲っている。
ただし、今回は如水の働きかけで、あくまで俺が動くとは伝えずに兵を集めておいてもらったのだ。
「清正達はもう出兵しているのか?」
「いえ。ですがそれも時間の問題かと」
「分かった。では、直ぐに出るぞ!」
正直、長政とは話したこともほとんど無かったが、如水とはあまり似ていないと思った。
さて、今回の動きでは清正達より先に三成の身柄を押さえてしまおうと考えている。
理由は簡単だ。
家中を混乱させた罪。
「殿、小西邸に福島軍が向かっていると報告が入りました」
「なに!? 石田邸では無くてか!?」
「加藤軍は石田邸に向かっているようです」
石田三成襲撃事件はあくまで三成だけを狙ったものだったはずだ。
確かに同じ文治派で三成と同様に朝鮮でも恨まれる立場にある小西行長もターゲットになってもおかしくないが・・・・・・
「どうされます? 向かう先は小西殿か、石田殿か」
軍の規模としても二カ所に分けることは出来ない。
そもそも俺がいなければ意味がないのだ。
「・・・・・・三成からだ。行長には朝鮮との交渉の責がある」
「よろしいので? 少なくとも小西殿の方が槍働きは期待できるかと」
如水の眼がまた値踏みするように俺を観察する。
本当にこの人は怖い。
「三成の政治力を優先する。何より悩むより先に動けば2人とも助けられるかもしれん」
「御意に」
ニヤリと口元を歪めて如水が言う。
果たして如水が期待するほどの答えを返せたのだろうか?
再び走り出した馬の上で考える。
もしも戦闘になったらどうすれば良いのか?
清正は何と言っても武勇の将だ。
正則もそうだが、朝鮮での戦果を見れば将としては清正の方が優れているように思う。
「殿、加藤軍が見えて参りました」
「クッ、先に三成を確保することは出来なかったか」
「ですが、未だに取り囲んでいるということは加藤軍も確保できていないということです」
「如水、敵方の人数は?」
「ざっと500といったところでしょう」
「では万一戦闘になっても勝てるな?」
「戦に絶対はありませぬ」
俺達の後ろでは、長政が微妙な表情をしている。
なんと言っても兄貴分の清正の軍と相対しているのが辛いのかもしれない。
「おう、長政か。そんな軍勢で加勢に来てくれたのか? んん? こ、これは如水殿!?」
こちらに気付いた清正が近づいてきて長政に気楽に話しかけてくるが、瞬時に如水に気付き礼をとる。
てか、まず俺に気付けよ!
「清正、俺は無視か?」
「は? ・・・・・・秀頼様!? なぜここに?」
「うん。実は三成を捕らえに来た」
「そのようなこと、秀頼様のお手を煩わせるまでもありません」
「だが、お前らに任せていたら三成を殺すだろう? それでは困るのだ」
「・・・・・・何故にございますか?」
「清正達に存分に戦働きしてもらうために国内を安定させる人材が必要なのだ」
「あやつでは駄目です。あやつは豊臣家を滅ぼします」
「清正、一体いつ俺がお前に意見を求めた? 黙って従え」
「っ!? し、しかし」
「これ以上の反論は俺に対する、いや、豊臣に対する謀反と心得よ」
「・・・・・・ははっ!」
結局、力技だ。
それでも俺が清正を押さえたという事実が重要となるはず。
このまま正則も抑えることが出来れば・・・・・・
六大老の一人として大阪で政務をしてくれていた利家の死は、同時に今まで上から抑え込んでくれていた者の死だ。
つまり、争いにまで発展していなかった文治派と武断派の衝突が表面化する可能性があった。
「秀頼様、急ぎまする」
「桜、ケ、ケツが痛い」
「すいません、ですが急がねば間に合いません」
「いい。急げ」
もともと不穏な動きがあることは分かっていた。
正則や清正が兵を密かに集めていたのはくノ一から報告を受けている。
そして、利家の死を契機に動き出すと言うのだ。
もっともこれは隣を走る如水の想像だが。
足が悪いと言うのに器用に馬を乗りこなしている。
桜との二人乗りでケツが痛いと文句を垂れる俺とは大違いだ。
「如水、間に合うか?」
「はっ! 問題はないかと存じます。早馬にて某の兵にも支度をするように伝えてありますので」
情けないことに天下人なのに俺は自身で兵を準備出来ない。
ちゃんと俺の命令に従ってくれる家臣がいないのだ。
この如水も今のところは従ってくれているが・・・・・・
なんと言っても黒田如水。
一体どれほど先を見ているのかが分からない。
「それで、衝突を止められてその後はどうされます?」
「言っただろう? 朝鮮の事を――」
「それでよろしいので?」
「・・・・・・如水が言ったのだろう? 不満は爆発させた方が良いと」
「確かに。しかし、はっきり申し上げますと、秀頼様の天下で邪魔になるのは石田殿達でも加藤殿達でもございません。分かりますか?」
「家康、か?」
「家臣としては力を持ち過ぎており、勝手に婚姻外交を推し進めるなど、政治を預かる六大老筆頭でありながら、最近の行いは余り褒められたものではありません」
「しかし、決定的な行いをしたわけではあるまい?」
「それはどうでも良い事でございます。大名達がどう見るかという話をしております。勝手をして許される。いえ、勝手をしても咎められないほどの力と見れば、徳川殿にすり寄る輩も多くなりましょう」
「・・・・・・如水。この騒動が終わるまでに家康の所領を半分に減らす策を考えてくれ」
「御意に。しかし、改易ではないのですね?」
「半分だ。それに家康には隠居してもらう」
「ふむ。謀反の罪を被っていただくしかありませんな。と、なれば大規模な戦となりましょう」
「勝てるか?」
「殿が自ら戦線にお立ちになるのならば必ず」
「分かった」
もちろん戦は怖い。
でも如水がその必要があると言うならそうなのだろう。
ただし、如水が腹に一物を抱えていなければ、だが。
「殿、見えて参りました」
「如水の軍に向かう」
「はっ!」
ヒリヒリするケツを無理矢理に無視し、黒田の旗印を掲げる2000の兵の前に辿り着く。
「長政、ご苦労!」
「はっ! 秀頼様も大阪よりのご足労痛み入ります」
さて、如水の息子・黒田長政がこの軍の指揮官だ。
長政は清正達と幼少期に共に育ったこともあり、正史ならこの長政も武断派の一人として三成を襲っている。
ただし、今回は如水の働きかけで、あくまで俺が動くとは伝えずに兵を集めておいてもらったのだ。
「清正達はもう出兵しているのか?」
「いえ。ですがそれも時間の問題かと」
「分かった。では、直ぐに出るぞ!」
正直、長政とは話したこともほとんど無かったが、如水とはあまり似ていないと思った。
さて、今回の動きでは清正達より先に三成の身柄を押さえてしまおうと考えている。
理由は簡単だ。
家中を混乱させた罪。
「殿、小西邸に福島軍が向かっていると報告が入りました」
「なに!? 石田邸では無くてか!?」
「加藤軍は石田邸に向かっているようです」
石田三成襲撃事件はあくまで三成だけを狙ったものだったはずだ。
確かに同じ文治派で三成と同様に朝鮮でも恨まれる立場にある小西行長もターゲットになってもおかしくないが・・・・・・
「どうされます? 向かう先は小西殿か、石田殿か」
軍の規模としても二カ所に分けることは出来ない。
そもそも俺がいなければ意味がないのだ。
「・・・・・・三成からだ。行長には朝鮮との交渉の責がある」
「よろしいので? 少なくとも小西殿の方が槍働きは期待できるかと」
如水の眼がまた値踏みするように俺を観察する。
本当にこの人は怖い。
「三成の政治力を優先する。何より悩むより先に動けば2人とも助けられるかもしれん」
「御意に」
ニヤリと口元を歪めて如水が言う。
果たして如水が期待するほどの答えを返せたのだろうか?
再び走り出した馬の上で考える。
もしも戦闘になったらどうすれば良いのか?
清正は何と言っても武勇の将だ。
正則もそうだが、朝鮮での戦果を見れば将としては清正の方が優れているように思う。
「殿、加藤軍が見えて参りました」
「クッ、先に三成を確保することは出来なかったか」
「ですが、未だに取り囲んでいるということは加藤軍も確保できていないということです」
「如水、敵方の人数は?」
「ざっと500といったところでしょう」
「では万一戦闘になっても勝てるな?」
「戦に絶対はありませぬ」
俺達の後ろでは、長政が微妙な表情をしている。
なんと言っても兄貴分の清正の軍と相対しているのが辛いのかもしれない。
「おう、長政か。そんな軍勢で加勢に来てくれたのか? んん? こ、これは如水殿!?」
こちらに気付いた清正が近づいてきて長政に気楽に話しかけてくるが、瞬時に如水に気付き礼をとる。
てか、まず俺に気付けよ!
「清正、俺は無視か?」
「は? ・・・・・・秀頼様!? なぜここに?」
「うん。実は三成を捕らえに来た」
「そのようなこと、秀頼様のお手を煩わせるまでもありません」
「だが、お前らに任せていたら三成を殺すだろう? それでは困るのだ」
「・・・・・・何故にございますか?」
「清正達に存分に戦働きしてもらうために国内を安定させる人材が必要なのだ」
「あやつでは駄目です。あやつは豊臣家を滅ぼします」
「清正、一体いつ俺がお前に意見を求めた? 黙って従え」
「っ!? し、しかし」
「これ以上の反論は俺に対する、いや、豊臣に対する謀反と心得よ」
「・・・・・・ははっ!」
結局、力技だ。
それでも俺が清正を押さえたという事実が重要となるはず。
このまま正則も抑えることが出来れば・・・・・・
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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