39 / 323
天下人
神算鬼謀の士(エロ度☆☆☆☆☆)
しおりを挟む
「黒田如水にございます。本日よりこの大阪に住まわせていただきます」
如水が平伏したままで声を張る。
父上の覇業を支えた名軍師。
「よく来てくれた。これからよろしく頼むぞ!」
「・・・・・・はて、某は何をすればよろしいのでしょう?」
「何を言っている。俺の相談役といっただろう?」
「ふむ、しかし既に日の本は統一されております。また明を目指すおつもりか? それとも蝦夷を?」
成る程、目指すところを示さなければならぬと言うのか。
だが、俺は欲深い。
答えは・・・・・・。
「どちらもだ」
ほとんど間を置けずに俺が答えると如水は眉をピクリと上げ、一拍間を空けてから答える。
「・・・・・・蝦夷はどうとでもなりましょうが、明は無理でしょうな」
「戦力、か?」
「いいえ」
戦力ではない?
・・・・・・もしかして。
「如水は国内の問題のことを言っているのか?」
「はっ! 朝鮮での大名同士の仲違い。恐らくこのままでは終わりますまい」
それは前世の知識からも知っている。
「・・・・・・如水。どう考える?」
「福島殿や加藤殿が石田殿を討つ、でしょうな」
やはり石田三成襲撃事件、か。
慶長の役が無くなっても、文禄の役で既に両者の関係は最悪だ。
そもそもが考え方も違い過ぎる。
「前田殿が今は取り持ってくださっていますが、どうやら病を患われている様子。残念ながら長くはないのかもしれませぬ。そうなった時、頼れるのは徳川だけでございましょう」
「・・・・・・如水。どうすれば良い?」
早速如水に助言を求める。
「フム。先ず、殿はどうしたいのかをお教えください」
「これからまた戦が始まるのだ。仲間内で争ってなどいられぬだろう?」
「仲間、ですか。共通の敵として明を立てるのは構いませぬ。ですが、相手が明なら前回の記憶が蘇って参りましょう。対峙を早めるだけにございます」
そう、慶長の役は明征伐の前哨戦でしかなかったのだから・・・・・・。
「・・・・・・まずは先の朝鮮の戦功の見直しから、だな」
「それがよろしいかと存じます」
「如水も朝鮮に行っていたな? 一体何があったのだ?」
「下らぬことでございます。そもそもあの戦の始まりからして・・・・・・」
確かに文禄・慶長の役は交渉を担当した両陣営の者達が事実を捻じ曲げて伝えたがために起こったともいえる。
更に偏った戦功の評価が、大名達にシコリを残した。
「如水、皆を集めよ。全員から話を聞きたい」
「おやめになった方が良いでしょうな」
「・・・・・・なに?」
「恐れながら申し上げます。今の殿には誰も心から臣従しておりませぬ」
「はっきり言うな」
いっそ心地良いくらいにずばりと言われてしまった。
清正や正則達が三成を嫌うのは戦働きの有無が大きい。
命を懸け、豊臣家のために戦場に立ち続けた武断派の武将達からすれば、口先だけで三成が大名になったように見えるのだろう。
そこを言うと、俺は何もしないで天下人。
しかもまだ7歳。
幾ら父上への恩が在ろうと、皆含むところがあるはずだ。
「如水、どうすれば皆が臣従すると思う?」
「ふむ。先ず、殿はまだ子供です。これはどうしようもございません。力を示そうにも無理。結局は知恵では諸将が納得せぬでしょう。某の入れ知恵と思うでしょうしな」
「では?」
如水の言葉を素直に受け入れ、その上で先を促す。
「・・・・・・いっそ暴発させてしまうと言うのはいかがでしょう? そしてそれを殿が見事に収めて見せ、度量を示すのでございます」
「だとすれば先ずは情報が重要だな。桜!」
一声かけると、さっきまで誰もいなかったところに霞のように桜が現れる。
「伊賀の忍びで使える者を10人ほど連れて来い」
「ははっ!」
そう言うとまた霞のように消え去る。
一体どうやっているのやら。
「・・・・・・忍、ですか。驚きましたな」
如水の方もその鮮やかな技に驚嘆していた。
まぁ、これも父上のおかげだが・・・・・・
しかもどちらかというとエロ目的だし。
「如水、情報は力だろう?」
「仰る通りです。ですがそれだけでは意味を成しませぬ」
「何時それが起きるかはこれで測れる。場所は恐らく、聚楽第だろうか?」
「そうでしょうな城を攻めるわけには参りませんから。襲撃は聚楽第の石田殿の別邸にて行われるでしょう。主犯は加藤殿、かと。明との講和の際のいざこざを考えればもっとも石田殿を憎んでいるでしょうからな」
小西行長や石田三成等のもともと開戦に反対していた将達が、父上の出した講話の条件7カ条を捻じ曲げたまま交渉を進めたのだ。
その動きに気付いた清正が7カ条を絶対の条件として別ルートで交渉を行った。
これにより自分達の交渉の邪魔をしたと父上に告げ口をし、朝鮮にいた清正が父上に呼び戻されるという事態に至った。
「・・・・・・でも、そもそも父上の言葉を曲げた行長や三成に問題がある。俺はそう思う」
「それも確かにその通り。ですが、戦を止める必要もあったのです」
「どういうことだ?」
朝鮮では押せ押せムードだったはずだ。
兵糧の問題などが浮き彫りになりつつあったのは知っているが、講和の時点では特に大きな問題は無かったはずだ。
「朝鮮では戦勝を重ねておりましたが、現地の民の抵抗により戦線の維持が困難になっていました」
「如水、また攻めても同じことになるのか?」
「恐らくは」
そうなっては至る所に兵を配す必要が出て来て、どれだけの兵が必要になるか分かったものではない。
「どうすれば現地人の協力が得られる?」
「やりようは幾らかあります。恐怖で縛る。甘言で惑わす。物資・金品で釣る。どれがお好みですかな?」
言葉を隠さない如水の言い様に、少し食あたりを起こしそうだ。
「嫌な言い方だな。出来れば物資・金品で釣る、かな」
「お止めなさいませ。金がいくらあっても足りませぬ。税を押さえるなどして最終的に暮らしが楽になったと感じさせれば良いのです」
「しかし、それでは時間がかかるのではないか?」
「ですから先ずは恐怖で縛ります」
他に方法は無いものか・・・・・・
「如水、朝鮮に叛心を起こせないか?」
「ほう。それは上手くいく可能性は高いですぞ。明も朝鮮への援軍のために莫大な出費が強いられました。当然、朝鮮のためだったわけですから支払いを求めるでしょう。そして、朝鮮は各地の復興とその支払いのために――」
「税が重くなる。そうすれば民の不満は大きくなるということだな。ともすればもう何年か不満が溜まるのを待った方が良いな?」
「ははっ、仰る通りかと」
「如水、これからもいろいろと相談に乗ってくれ」
「ははっ!!」
如水はやはり恐ろしい。
俺のことを値踏みするようなその視線に耐えきり、如水が出て行った後には盛大にため息を漏らしてしまった。
如水が平伏したままで声を張る。
父上の覇業を支えた名軍師。
「よく来てくれた。これからよろしく頼むぞ!」
「・・・・・・はて、某は何をすればよろしいのでしょう?」
「何を言っている。俺の相談役といっただろう?」
「ふむ、しかし既に日の本は統一されております。また明を目指すおつもりか? それとも蝦夷を?」
成る程、目指すところを示さなければならぬと言うのか。
だが、俺は欲深い。
答えは・・・・・・。
「どちらもだ」
ほとんど間を置けずに俺が答えると如水は眉をピクリと上げ、一拍間を空けてから答える。
「・・・・・・蝦夷はどうとでもなりましょうが、明は無理でしょうな」
「戦力、か?」
「いいえ」
戦力ではない?
・・・・・・もしかして。
「如水は国内の問題のことを言っているのか?」
「はっ! 朝鮮での大名同士の仲違い。恐らくこのままでは終わりますまい」
それは前世の知識からも知っている。
「・・・・・・如水。どう考える?」
「福島殿や加藤殿が石田殿を討つ、でしょうな」
やはり石田三成襲撃事件、か。
慶長の役が無くなっても、文禄の役で既に両者の関係は最悪だ。
そもそもが考え方も違い過ぎる。
「前田殿が今は取り持ってくださっていますが、どうやら病を患われている様子。残念ながら長くはないのかもしれませぬ。そうなった時、頼れるのは徳川だけでございましょう」
「・・・・・・如水。どうすれば良い?」
早速如水に助言を求める。
「フム。先ず、殿はどうしたいのかをお教えください」
「これからまた戦が始まるのだ。仲間内で争ってなどいられぬだろう?」
「仲間、ですか。共通の敵として明を立てるのは構いませぬ。ですが、相手が明なら前回の記憶が蘇って参りましょう。対峙を早めるだけにございます」
そう、慶長の役は明征伐の前哨戦でしかなかったのだから・・・・・・。
「・・・・・・まずは先の朝鮮の戦功の見直しから、だな」
「それがよろしいかと存じます」
「如水も朝鮮に行っていたな? 一体何があったのだ?」
「下らぬことでございます。そもそもあの戦の始まりからして・・・・・・」
確かに文禄・慶長の役は交渉を担当した両陣営の者達が事実を捻じ曲げて伝えたがために起こったともいえる。
更に偏った戦功の評価が、大名達にシコリを残した。
「如水、皆を集めよ。全員から話を聞きたい」
「おやめになった方が良いでしょうな」
「・・・・・・なに?」
「恐れながら申し上げます。今の殿には誰も心から臣従しておりませぬ」
「はっきり言うな」
いっそ心地良いくらいにずばりと言われてしまった。
清正や正則達が三成を嫌うのは戦働きの有無が大きい。
命を懸け、豊臣家のために戦場に立ち続けた武断派の武将達からすれば、口先だけで三成が大名になったように見えるのだろう。
そこを言うと、俺は何もしないで天下人。
しかもまだ7歳。
幾ら父上への恩が在ろうと、皆含むところがあるはずだ。
「如水、どうすれば皆が臣従すると思う?」
「ふむ。先ず、殿はまだ子供です。これはどうしようもございません。力を示そうにも無理。結局は知恵では諸将が納得せぬでしょう。某の入れ知恵と思うでしょうしな」
「では?」
如水の言葉を素直に受け入れ、その上で先を促す。
「・・・・・・いっそ暴発させてしまうと言うのはいかがでしょう? そしてそれを殿が見事に収めて見せ、度量を示すのでございます」
「だとすれば先ずは情報が重要だな。桜!」
一声かけると、さっきまで誰もいなかったところに霞のように桜が現れる。
「伊賀の忍びで使える者を10人ほど連れて来い」
「ははっ!」
そう言うとまた霞のように消え去る。
一体どうやっているのやら。
「・・・・・・忍、ですか。驚きましたな」
如水の方もその鮮やかな技に驚嘆していた。
まぁ、これも父上のおかげだが・・・・・・
しかもどちらかというとエロ目的だし。
「如水、情報は力だろう?」
「仰る通りです。ですがそれだけでは意味を成しませぬ」
「何時それが起きるかはこれで測れる。場所は恐らく、聚楽第だろうか?」
「そうでしょうな城を攻めるわけには参りませんから。襲撃は聚楽第の石田殿の別邸にて行われるでしょう。主犯は加藤殿、かと。明との講和の際のいざこざを考えればもっとも石田殿を憎んでいるでしょうからな」
小西行長や石田三成等のもともと開戦に反対していた将達が、父上の出した講話の条件7カ条を捻じ曲げたまま交渉を進めたのだ。
その動きに気付いた清正が7カ条を絶対の条件として別ルートで交渉を行った。
これにより自分達の交渉の邪魔をしたと父上に告げ口をし、朝鮮にいた清正が父上に呼び戻されるという事態に至った。
「・・・・・・でも、そもそも父上の言葉を曲げた行長や三成に問題がある。俺はそう思う」
「それも確かにその通り。ですが、戦を止める必要もあったのです」
「どういうことだ?」
朝鮮では押せ押せムードだったはずだ。
兵糧の問題などが浮き彫りになりつつあったのは知っているが、講和の時点では特に大きな問題は無かったはずだ。
「朝鮮では戦勝を重ねておりましたが、現地の民の抵抗により戦線の維持が困難になっていました」
「如水、また攻めても同じことになるのか?」
「恐らくは」
そうなっては至る所に兵を配す必要が出て来て、どれだけの兵が必要になるか分かったものではない。
「どうすれば現地人の協力が得られる?」
「やりようは幾らかあります。恐怖で縛る。甘言で惑わす。物資・金品で釣る。どれがお好みですかな?」
言葉を隠さない如水の言い様に、少し食あたりを起こしそうだ。
「嫌な言い方だな。出来れば物資・金品で釣る、かな」
「お止めなさいませ。金がいくらあっても足りませぬ。税を押さえるなどして最終的に暮らしが楽になったと感じさせれば良いのです」
「しかし、それでは時間がかかるのではないか?」
「ですから先ずは恐怖で縛ります」
他に方法は無いものか・・・・・・
「如水、朝鮮に叛心を起こせないか?」
「ほう。それは上手くいく可能性は高いですぞ。明も朝鮮への援軍のために莫大な出費が強いられました。当然、朝鮮のためだったわけですから支払いを求めるでしょう。そして、朝鮮は各地の復興とその支払いのために――」
「税が重くなる。そうすれば民の不満は大きくなるということだな。ともすればもう何年か不満が溜まるのを待った方が良いな?」
「ははっ、仰る通りかと」
「如水、これからもいろいろと相談に乗ってくれ」
「ははっ!!」
如水はやはり恐ろしい。
俺のことを値踏みするようなその視線に耐えきり、如水が出て行った後には盛大にため息を漏らしてしまった。
0
新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?



【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる