関白の息子!

アイム

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父上の雄姿

人生の師(エロ度☆☆☆☆☆)

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 一刻も早くという思いで、母上と共に籠に乗る。

 同じ城(伏見城)に住んでいるのだから、少し待てばそれで良いんじゃないかという考えもあるだろう。だが、父上は今聚楽第に出かけていて、数日は帰らないことになっている。どうやら朝廷と何か話すことがあるらしい。もしかしたら、叔父上の関白剥奪についての話かもしれない。

 もしも、未来の義父・豊臣秀次がこの事件で死ななかったらどうなるだろう? 少なくとも、豊臣家に付きまとうキナ臭さは、秀次自刃事件が一つの大きな要因になっている。

「良いですね? とと様はお疲れなのです。余り無茶をさせてはいけませんよ?」

 籠の中で母上が俺に念を押すように言ってくる。だが、赤子にそんなことを言ったところで通じるわけもない。俺の顔を見てそう悟ったのだろう。着くまでに時間もあるので、母上は少し眠ろうとしている。

 しかし、眠る前にポソリと呟いた言葉が、正に母上の人生を表していた。

「もう、母は嫌なのです。戦に、男に振り回されるのは」

 母上は浅井家と柴田家と言う、二つの有力大名家の壊滅を、その大名の娘として経験している。その経験からも、きっと独特な何かを今の豊臣家に感じているのではないだろうか。

 今から二年ほど前に兄上と秀長叔父上(豊臣秀長)が亡くなったそうだ。兄上は当然後継候補だったし、秀長叔父上は豊臣の屋台骨。彼等を失くして一月もしないうちに千利休を殺し、そして今、後継の秀次を死に追いやろうとしている。

 豊臣家はそうでなくても一門武将が異常なほどに少ない。だから、加藤清正や福島正則などを幼少より育てることで一門武将の様に扱ったのだ。本当に血のつながった一門武将など秀吉・秀長・秀次・秀勝・秀保・秀頼、この六人しか思い当たらない。それもそのうちの半数は父上と血が繋がっているのではなく、正室のおねと繋がっているだけだ。

 そして、父上はもうかなりの歳。既に秀長・秀保・秀勝の三人は他界している。今この状態で秀次が死んだら、一体誰が俺を支えてくれるのか?
 
 そう、俺は俺のために積極的に歴史に関わると決めたのだ!






 聚楽第に到着すれば、門番は突然の母上の来訪に戸惑いつつも、スムーズに奥の部屋に通してくれた。

 母上は、父上が部屋に来るだいぶ前からひれ伏したままの格好を取る。幾ら普段は仲が良くても、相手は天下人、下手なことを言えば殺される。そう、思っているのかもしれない。それほどに最近の父上の判断は、苛烈の一言に尽きるものだ。

 ドカッドカッと殊更に大きな足音を立てて父上がやって来る。

「茶々ぁ、どうしたのじゃ? 面をあげいあげい」

 屈託のない笑顔で母上の肩に手をかけ、優しく抱き上げる様に体を起こす。そこには心配したような険は一切なく、俺達に何時も見せる朗らかな笑顔だけしかなかった。

 ・・・・・・だが、

「実は、先ほど伏見に秀次様が参られました。そ・・・・・・ヒッ!?」

 二の句が継げぬ母上に不信を覚え、父上を見る。そこには間違いなく戦国の業を背負った男の顔があった。

 ・・・・・・怖い。

 本能が全力で危険だと告げてくる。あれが戦国武将として農民から天下人にまで昇った男の顔なのだ。

「ん? どうした? 秀次が何をしに来たんじゃ?」

 母上が怯えていることに気付いた父上は、咄嗟に笑顔で取り繕う。しかし、その笑顔でも母上に平常心を取り戻させることは出来ない。それほどまでに、先程見せた顔は恐ろしいものだったのだ。

「い、いえ。拾丸の顔を見に、来た、と」

 父上から視線を外しながら母上が言う。

 抱かれている俺からすれば未だに震えているのが良く分かる。キュッと俺を抱く力も一層強くなる。

 ・・・・・・だが、これではいけない。確かに叔父上はそう言ったが、今それを言えば別の意味を持ちかねない。すなわち、父上の意向に反発するために、俺達を人質に取ろうとしたかのように聞こえる。

 おそらく、俺の予想通りなのだろう。父上の顔は今もまた般若のように歪んでいる。そのただならぬ様子に母上もカタカタと一層大きく震えるだけだ。

「とぉと、めっ」


 ペチンッ


 父上の顔を叩く。


 そして、一瞬の間。


 慌てて俺の身体を母上が抱きしめて父上から隠す。

「申し訳ございません。殿下、申し訳ございません! お許しください。お許しくださいませ!」

 今にも泣き崩れそうになりながらも、俺を守るように母上が覆いかぶさる。その仕草は必死に俺を守ってくれようとしていることが分かる。だが、同時にそれほどまでに今の父上に母上が怯えきっていることも・・・・・・。

 たしかに父上は気に食わない者を何人も殺している。だから、俺をも殺そうと考えるかもしれないと思ったのだろうか? 好きあった二人も、最近の父上の行動が母上を不安にさせ、ギクシャクとしてしまったのだ。

 しかし、その態度は父上にとっても傷付くものだったのだろう。今の父上が強硬になっているのは、まさに俺のためを思っての行動だったのだから。自分の寿命をある程度推し量ったうえで、全てを俺に残すために。俺に害をなすものを排除し、支える者を作るための・・・・・・。

「な、何を言うとる? 茶々よ、儂はなにも怒ってなどおらぬぞ?」

 必死に宥めても、母上は謝るばかりで一向に顔もあげない。父上も困り果てた様な顔をしている。

 そうだ。俺はこの父上が好きだ。女が大好きで、女に振り回される、明るく優しい父上が。

「とぉと、とぉと」

 必死に手を伸ばす。

「茶々、拾丸が儂を呼んどる。渡してはくれぬか? 儂に少し抱かせてはくれぬか?」

 父上が必死に母上に呼び掛ける。

 ひとしきり泣いて疲れていた母上も、ようやく父上が優しい顔に戻っていることに気付いたようだ。

「・・・・・・お見苦しいところを申し訳ありません」

 そう言って俺を父上に差し出す。

「おう、おう、拾丸や、よう来たな」

 手慣れた様子で俺を抱き上げ、父上が俺の顔を覗き込んでくる。

「とぉと」

「ん? なんじゃ?」

「やしゃしいとぉと、しゅき」

 そう言って精一杯の力でギュッと抱きしめる。なんとかこの舌っ足らずな言葉で伝わってくれと願いを込めて。

「ど、どうしたんじゃ?」

「きっと、秀次様にお慈悲を与えてほしい、ということかと」

 言葉足らずで伝えられないことは、母上が補足してくれた。

 流石は母だ。俺の意志を過不足無く付け足してくれる。

「なんと、今回のこと話したのか?」

「いえ、ですが、この子には不思議と大人びたところがございます。秀次様がいらした時にも、お菓子を差し上げたりして、場を和ませておりました」

「そう、か・・・・・・」

 ジッと父上が見つめてくる。

 俺も視線を反らさずに見つめ返す。

「拾丸、優しいとと様が好きか?」

「あい!」

「そうか! フフ、あっはははは」

 父上は天下一の笑みで笑ってくれた。
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新作「プニプニホッペの魔王様」を連載し始めました。ご一読いただけると幸いです。……ただ、あれは女性目線の小説に挑戦してみたというものなので、こっちの雰囲気は一切関係ないですけどw
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