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17.気まずい空間が支配する
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気まずい。
部屋のなかにある応接セットには、白い湯気をたてる紅茶とペシェタレルカというフルーツを使ったパイが出されている。
もちろん横暴なる姉上様のリクエストによるもので、当然のようにオレの収納魔法から出してサーブしたものだ。
あれからなんとか服をととのえ、平気な顔をよそおっているけれど、本当はめちゃくちゃ動揺していた。
なんとか呼びもどしたガウディオとナタリアと向かい合わせに腰かければ、ふたりは気まずそうにこちらの様子をうかがってくる。
「その、すまなかったな……せっかく心配して来てくれたっていうのに。このとおりオレは自力で転移してもどってきたから、もう大丈夫だ」
ここに来た理由というのも、ひとりでその場に残ったオレのことを心配して、なんとか救援を頼めないかと直談判しに来たらしかった。
こんなのでも、うちの姉貴は一応宮廷魔導師なんだもんな……。
そりゃ学生からしたら、自分たちでは敵わないまでも、なんとか助けたいと思ったときに、頼りになる存在に見えるだろう。
「っ、めちゃくちゃ心配だったんだぜ?!そりゃぼっちセンセが強いのは、身をもって体験したから知ってるけどさ!なんたって相手は今代魔王だし……!」
ガウディオがこぶしをにぎりしめて、そう言うのに、妙な感動を覚える。
なんか、こう人から心配されるのなんて、いつぶりだろうか?なんて。
だって、これまでのオレは横に座る姉貴に虐げられてきたし、冒険者としてもソロで活動してきたわけで、そんな風に心配してくれる人なんてそばにいなかったわけだ。
「それに、転移なんて高位の魔法、あれだけの人数にまとめてかけるなんて、私も魔導師を目指すものとして、それがどれだけ規格外なことで、魔導師本人に負担をかけるのかを理解しているつもりです」
ナタリアもそんなことを言って、こっちをじっと見る。
だから心配だったんだって、そう言いたいんだよな?
なんだろう、この面映ゆい気持ちは。
これまで感じたことのないようなその感情に、どうにも落ちつかなかった。
「なのに、心配してきてみれば、本人は帰ってきてるし、あげくの果てにはなんかイチャイチャしてるし!?心配して損した!!ホントなにしてるんだよ、ぼっちセンセは!!」
……………ガウディオに怒られた。
「だからそれは誤解……」
「そうですよ!しかもその相手が、私たち魔導師を目指すものにとっては憧れの、筆頭宮廷魔導師のシェイラ・リリウム様とか!!なんなんですか、もう!!」
……………ナタリアにも怒られた。
「あらあらあら、ずいぶんとアルトは生徒さんから慕われてるのね?」
にんまりと目もとをゆるめて笑う姉貴に、嫌な予感がせりあがってくる。
こういう顔をしてるときは、だいたいろくなこと考えてないんだよ!
「そもそもコイツは……」
「アルトは黙ってなさい?」
ただの姉だと説明しようとしたところで、にっこりと笑みを深くした姉貴に釘を刺された。
「~~~~っ」
クソ、とたんに声が出なくなってんじゃねぇか!
こんなことで『絶対服従の呪い』とか発動させてんじゃねぇよ、アホ姉貴!
「ふぅん、あだ名までつけてもらっちゃって、よかったわねぇ。子ども嫌いを自称していたのにすっかりいい先生してるじゃない」
そのニヤニヤ顔が恨めしい。
「ナタリアちゃんだっけ?アルトから聞いてるわよ、見どころのある子だって。『基本に忠実できれいな魔法を使うから、省略魔法も使いこなせるはず。教えるのが楽しみだ』ですって」
「えっ……!?」
えぇい、こっちを見るなナタリア、はずかしいだろうが!
「それにガウディオくんも、『剣筋がまっすぐでブレないからこそ、これからも伸びる。さらなる奥の手を持たせてやりたい』ってね」
「ぼっちセンセ……!」
クソ、ガウディオまで、こっちをそんなキラキラした目で見るんじゃない!
姉貴のせいでいいわけをすることもできず、ただ目線を逸らすくらいしかできなかった。
あぁもう、顔が熱い……。
この気まずい空間が、早く終わることを願うしかなかった。
部屋のなかにある応接セットには、白い湯気をたてる紅茶とペシェタレルカというフルーツを使ったパイが出されている。
もちろん横暴なる姉上様のリクエストによるもので、当然のようにオレの収納魔法から出してサーブしたものだ。
あれからなんとか服をととのえ、平気な顔をよそおっているけれど、本当はめちゃくちゃ動揺していた。
なんとか呼びもどしたガウディオとナタリアと向かい合わせに腰かければ、ふたりは気まずそうにこちらの様子をうかがってくる。
「その、すまなかったな……せっかく心配して来てくれたっていうのに。このとおりオレは自力で転移してもどってきたから、もう大丈夫だ」
ここに来た理由というのも、ひとりでその場に残ったオレのことを心配して、なんとか救援を頼めないかと直談判しに来たらしかった。
こんなのでも、うちの姉貴は一応宮廷魔導師なんだもんな……。
そりゃ学生からしたら、自分たちでは敵わないまでも、なんとか助けたいと思ったときに、頼りになる存在に見えるだろう。
「っ、めちゃくちゃ心配だったんだぜ?!そりゃぼっちセンセが強いのは、身をもって体験したから知ってるけどさ!なんたって相手は今代魔王だし……!」
ガウディオがこぶしをにぎりしめて、そう言うのに、妙な感動を覚える。
なんか、こう人から心配されるのなんて、いつぶりだろうか?なんて。
だって、これまでのオレは横に座る姉貴に虐げられてきたし、冒険者としてもソロで活動してきたわけで、そんな風に心配してくれる人なんてそばにいなかったわけだ。
「それに、転移なんて高位の魔法、あれだけの人数にまとめてかけるなんて、私も魔導師を目指すものとして、それがどれだけ規格外なことで、魔導師本人に負担をかけるのかを理解しているつもりです」
ナタリアもそんなことを言って、こっちをじっと見る。
だから心配だったんだって、そう言いたいんだよな?
なんだろう、この面映ゆい気持ちは。
これまで感じたことのないようなその感情に、どうにも落ちつかなかった。
「なのに、心配してきてみれば、本人は帰ってきてるし、あげくの果てにはなんかイチャイチャしてるし!?心配して損した!!ホントなにしてるんだよ、ぼっちセンセは!!」
……………ガウディオに怒られた。
「だからそれは誤解……」
「そうですよ!しかもその相手が、私たち魔導師を目指すものにとっては憧れの、筆頭宮廷魔導師のシェイラ・リリウム様とか!!なんなんですか、もう!!」
……………ナタリアにも怒られた。
「あらあらあら、ずいぶんとアルトは生徒さんから慕われてるのね?」
にんまりと目もとをゆるめて笑う姉貴に、嫌な予感がせりあがってくる。
こういう顔をしてるときは、だいたいろくなこと考えてないんだよ!
「そもそもコイツは……」
「アルトは黙ってなさい?」
ただの姉だと説明しようとしたところで、にっこりと笑みを深くした姉貴に釘を刺された。
「~~~~っ」
クソ、とたんに声が出なくなってんじゃねぇか!
こんなことで『絶対服従の呪い』とか発動させてんじゃねぇよ、アホ姉貴!
「ふぅん、あだ名までつけてもらっちゃって、よかったわねぇ。子ども嫌いを自称していたのにすっかりいい先生してるじゃない」
そのニヤニヤ顔が恨めしい。
「ナタリアちゃんだっけ?アルトから聞いてるわよ、見どころのある子だって。『基本に忠実できれいな魔法を使うから、省略魔法も使いこなせるはず。教えるのが楽しみだ』ですって」
「えっ……!?」
えぇい、こっちを見るなナタリア、はずかしいだろうが!
「それにガウディオくんも、『剣筋がまっすぐでブレないからこそ、これからも伸びる。さらなる奥の手を持たせてやりたい』ってね」
「ぼっちセンセ……!」
クソ、ガウディオまで、こっちをそんなキラキラした目で見るんじゃない!
姉貴のせいでいいわけをすることもできず、ただ目線を逸らすくらいしかできなかった。
あぁもう、顔が熱い……。
この気まずい空間が、早く終わることを願うしかなかった。
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