上 下
17 / 22

17.気まずい空間が支配する

しおりを挟む
 気まずい。
 部屋のなかにある応接セットには、白い湯気をたてる紅茶とペシェタレルカというフルーツを使ったパイが出されている。
 もちろん横暴なる姉上様のリクエストによるもので、当然のようにオレの収納魔法から出してサーブしたものだ。

 あれからなんとか服をととのえ、平気な顔をよそおっているけれど、本当はめちゃくちゃ動揺していた。
 なんとか呼びもどしたガウディオとナタリアと向かい合わせに腰かければ、ふたりは気まずそうにこちらの様子をうかがってくる。

「その、すまなかったな……せっかく心配して来てくれたっていうのに。このとおりオレは自力で転移してもどってきたから、もう大丈夫だ」
 ここに来た理由というのも、ひとりでその場に残ったオレのことを心配して、なんとか救援を頼めないかと直談判しに来たらしかった。

 こんなのでも、うちの姉貴は一応宮廷魔導師なんだもんな……。
 そりゃ学生からしたら、自分たちでは敵わないまでも、なんとか助けたいと思ったときに、頼りになる存在に見えるだろう。

「っ、めちゃくちゃ心配だったんだぜ?!そりゃぼっちセンセが強いのは、身をもって体験したから知ってるけどさ!なんたって相手は今代魔王だし……!」
 ガウディオがこぶしをにぎりしめて、そう言うのに、妙な感動を覚える。

 なんか、こう人から心配されるのなんて、いつぶりだろうか?なんて。
 だって、これまでのオレは横に座る姉貴に虐げられてきたし、冒険者としてもソロで活動してきたわけで、そんな風に心配してくれる人なんてそばにいなかったわけだ。

「それに、転移なんて高位の魔法、あれだけの人数にまとめてかけるなんて、私も魔導師を目指すものとして、それがどれだけ規格外なことで、魔導師本人に負担をかけるのかを理解しているつもりです」
 ナタリアもそんなことを言って、こっちをじっと見る。

 だから心配だったんだって、そう言いたいんだよな?
 なんだろう、この面映ゆい気持ちは。
 これまで感じたことのないようなその感情に、どうにも落ちつかなかった。

「なのに、心配してきてみれば、本人は帰ってきてるし、あげくの果てにはなんかイチャイチャしてるし!?心配して損した!!ホントなにしてるんだよ、ぼっちセンセは!!」
 ……………ガウディオに怒られた。

「だからそれは誤解……」
「そうですよ!しかもその相手が、私たち魔導師を目指すものにとっては憧れの、筆頭宮廷魔導師のシェイラ・リリウム様とか!!なんなんですか、もう!!」
 ……………ナタリアにも怒られた。

「あらあらあら、ずいぶんとアルトは生徒さんから慕われてるのね?」
 にんまりと目もとをゆるめて笑う姉貴に、嫌な予感がせりあがってくる。
 こういう顔をしてるときは、だいたいろくなこと考えてないんだよ!

「そもそもコイツは……」
「アルトは黙ってなさい?」
 ただの姉だと説明しようとしたところで、にっこりと笑みを深くした姉貴に釘を刺された。

「~~~~っ」
 クソ、とたんに声が出なくなってんじゃねぇか!
 こんなことで『絶対服従の呪い』とか発動させてんじゃねぇよ、アホ姉貴!

「ふぅん、あだ名までつけてもらっちゃって、よかったわねぇ。子ども嫌いを自称していたのにすっかりいい先生してるじゃない」
 そのニヤニヤ顔が恨めしい。

「ナタリアちゃんだっけ?アルトから聞いてるわよ、見どころのある子だって。『基本に忠実できれいな魔法を使うから、省略魔法も使いこなせるはず。教えるのが楽しみだ』ですって」
「えっ……!?」
 えぇい、こっちを見るなナタリア、はずかしいだろうが!

「それにガウディオくんも、『剣筋がまっすぐでブレないからこそ、これからも伸びる。さらなる奥の手を持たせてやりたい』ってね」
「ぼっちセンセ……!」
 クソ、ガウディオまで、こっちをそんなキラキラした目で見るんじゃない!

 姉貴のせいでいいわけをすることもできず、ただ目線を逸らすくらいしかできなかった。
 あぁもう、顔が熱い……。
 この気まずい空間が、早く終わることを願うしかなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

すきなひとの すきなひと と

迷空哀路
BL
僕は恐らく三上くんのことが好きなのだろう。 その三上くんには最近彼女ができた。 キラキラしている彼だけど、内に秘めているものは、そんなものばかりではないと思う。 僕はそんな彼の中身が見たくて、迷惑メールを送ってみた。 彼と彼と僕と彼女の間で絡まる三角()関係の物語

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

処理中です...