ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

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Ep.22 これもひとつのお約束?

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 あれからノアとオレたちはパーティーを組むことにして、軽い打ち合わせのあと、それぞれが取っている宿に泊まり、翌朝冒険者ギルドに集合することになった。
 もちろんオレは、さっきジェイクが言っていたように、同じ部屋に泊まることになったのだけど。

「いいですか、あなたをひとりにするのは危なすぎるから、やむなくいっしょの部屋に泊まりますけど、僕のこと襲ったりしないでくださいね!?」
 部屋の隅に立つジェイクは自分の身を両手でかき抱き、必死の形相でこちらを睨みつけてくる。

 いや、警戒心強いな?!
 なんなら毛を逆立てた子猫くらいの警戒のしっぷりである。
 いったいコイツはどんな誤解をしたら、オレから襲われるなんて勘ちがいをするんだろうか??

「あのなぁ……言っとくけどオレだって趣味はないんだって、何度も訂正してるだろ?!なんでおまえは、いつまでもそういうことばっかり言うんだよ!?」
 本当にこんなものは誤解なんだって、何度も言いつづけてきてるのに、いつになったら理解してもらえるんだろうか?

「だっておかしいでしょう!?あなたをひとりにすると、必ずと言っていいほどの確率で、男に襲われかけるじゃないですか!」
 妙に確信を持ったような顔で、ジェイクが言う。

「そりゃな、たしかにおかしいよな?!そんなの、オレだって理由が知りたいくらいなんだけども!?」
 ジェイクの疑問はもっともで、というよりオレにしたってその件については問い詰められるなら、原因を作った人物を問い詰めたいくらいなんだ。

 でも、だれが原因なのかなんて知りようもない。
 強いてあげればうちのクソオヤジこと、この国の王様がオレを『魔王討伐の褒美にやる』とか売り飛ばしやがったときから、なにかがおかしくなっていったのだとは思うけど。

 じゃあそれをもって諸悪の根源なのかといえば、実はそうとも言い切れない。
 だって王様なんて、ゲームのなかではたんなるモブのNPCにすぎないのだから、きっとこの世界のルールに逆らうなんてできやしないし、それどころかそんなことに思い至ってすらいないと思う。

 だからおそらく『この世界の住人たちが無意識下で従ってしまう法則』のようなものがあって、そのお約束のなかにはオレがヒロインよろしく、ガラの悪い男たちから絡まれやすいというものもあるんだろう。
 ───まったくもって、冗談じゃないけども!

「じゃあ……あなたのほうから、なにかしら相手を誘うようなことをしてるからなんじゃないですか?」
「は??」
 そんなことをツラツラと考えていたら、あろうことか言うに事欠いて、ジェイクはとんでもない言いがかりをつけてきた。

「……オレがいつ、相手を誘うようなことをしたって?」
 一瞬にして怒りは沸点に達し、それと反比例するように声は低く、冷たいものになる。

「っ、でも、そうでもなきゃおかしいですよね……?」
 オレの剣幕に怯えたように、ジェイクは弱々しい声でつぶやく。

 ───どうして毎回オレは、男たちからイヤラシイ目で見られなきゃならないのかって。
 その疑問は、いつだってオレの心のなかにあった。

 壁にかけられた楕円形の鏡をに映る己の顔は、たしかに中性的なつくりをしてるとは思う。
 でもだからといって、女と見まごうような美人なら、男に襲われても仕方ないものなのか?

 ───いや、そんなはずはない。
 外見とか関係なく、そもそも相手の同意なく襲う時点で、襲ってくるヤツのほうが全面的に悪いに決まってるだろうが!!

 この身に突如として降りかかるようになってしまった理不尽な運命への怒りは、そのまま理解の足りていないジェイクにたいする怒りへとすり替わっていく。

「へぇ……そういうこと言っちゃうんだ……」
「はいっ??!」
 ドサッ
 油断をしていたジェイクを、ベッドの上へと押し倒す。

「ならさぁ、仮におまえがオレから襲われたって、んじゃないのか?」
 押し倒したジェイクの上にまたがると、薄っすらと口もとに笑みを浮かべて相手を見下ろす。

 きっと今のオレは、相当な悪人ヅラをしていると思う。
 さすがに今の自分の発言は暴論すぎると自覚はしていたけれど、今のジェイクからの失言を、ちゃんと本人に自覚させたいという気持ちのほうが上まわっていた。

「えぇっ、どうしてそうなるんですか?!」
 あせったように身を起こそうとするジェイクの肩に、体重をかけながら押さえつけて阻止すると、わざとらしくその服に手をかける。

「えっ、ちょっ!?待ってください!!」
 そしてゆっくりと上着のすそをまくり上げれば、おもしろいくらいにジェイクが目を白黒させる。
 もちろん、こっちは本気で襲う気なんてみじんもないのだけど。

「つーか、むちゃくちゃいいからだしてんなぁ……」
 でもからかうつもりでしかなかったのに、予想以上に仕上がりのいいからだをしているジェイクに、本音とともにため息がこぼれる。

「ひえぇっ、ちょっと、くすぐったいですってば!」
「マジで腹筋の割れ方エグくないか?六ツ割れどころか、八ツ割れしてんじゃん」
 指先で見事に割れた腹筋の溝をなぞれば、ジェイクは言葉のとおりくすぐったそうに身をよじる。

「ふーん……農民てこんなに鍛えられるもんなのか……オレもやろっかなぁ、農民───まぁ無事に魔王が倒せたらだけど」
 自分のそれとは比べものにならないというか、正直うらやましくて仕方ないっていうか。

「えっ?えっ、ちょっと、あの……それって……!?」
「ん~?」
 ジェイクはとにかく動揺してるというのが、その声に出ている。
 こんなに余裕がなくなるとか、コイツをからかうの楽しいなぁ!

「あの、ですからそういう触り方はちょっとっ!」
 とはいえ、顔を赤らめながらも必死に拒絶するジェイクに、若干の良心の呵責が生じなくもないのだけど。

「腹筋くらい、今さらどうってことないだろ?は前に直接触ったことだってあるんだし」
「『』って、それ……」
 そう口にしながら、よみがえるのは己にとっては汚点でしかない記憶なのだけど。

 それこそ、はじまりの街の冒険者ギルド内に併設された宿屋で、盗賊のシトラスに襲われかけたときのことだ。
 胸もとに塗りたくられた違法な薬物のせいで、やたらと性欲が旺盛になってしまったオレが、ヌイてもヌイても終わらないっていう地獄を味わわされたのは、まだ記憶に新しい。

 しかもあろうことか、こちらの体力が先に尽きて、ことになるとか、もう恥以外のなにものでもなくて。
 それだけじゃなく、もろもろの後始末までお世話になってしまったわけで、オレにとってはお詫びのしようもないレベルの失態だった。

 むろんジェイクにしてみれば、そのお人好しな性格ゆえに放っておくことができずに、やむなく面倒を見たにすぎないのだろうし、不本意極まりないことだったはず。
 だから彼にとっては気持ちの悪い、嫌な思い出でしかないだろうし、てっきり顔をしかめるのかと思っていたのに……。

「え………?」
 どういうわけかその顔に朱が走り、一気に耳まで赤くなった。
 なんなんだよその反応……、想定外すぎるんだが??

「って、マジかよ……」
 気がつけばジェイクのまでもが、ズボンの生地を押し上げるようにして、反応を示しはじめていた。

 なんというか、エロ耐性なさすぎないか、この青年は?!
 どれだけ純情ボーイなんだよ!??
 ゲームをしていたときの主人公のキャラクターは、もっと大人っぽい感じだと思っていただけに、意外だった。

「えっと……コレ、マジでヌくの手伝ったほうがいいのか……?」
 下腹のあたりを指さしながら、どういう顔をしていいのかわからないままにたずねる。
 まぁ、なんていうか、めちゃくちゃ気まずいのだけど。

「は……?えぇっ!?わあぁぁぁ!!!」
 ドンッ!!
「っ!~~~っ!!」
 だけど次の瞬間、真っ赤になったジェイクに、思いっきり突き飛ばされた。

 それはもう、あまりの勢いにベッドの上から床へと投げ出され、尻もちをついたわけで。
 とっさの衝撃と痛みに、声も出せなくなる。

「みっ、見ないでください!!」
 必死に手足を折りたたみ、ベッドの上を後退るジェイクの顔は湯気でも出そうなくらいに真っ赤なあげく、もはや涙目になっているけれど、泣きたいのはこっちのほうもだ!!

 ───けれど本当に泣きたくなるのは、翌朝のことだった。


     ☆ ☆ ☆


 そんなドタバタのやりとりがあって、明けて翌朝。
 ノアとの待ち合わせに合わせ、宿屋の受付で部屋を引き払う話をしようとしたときのことだ。

「へっへっへっ、ゆうべはずいぶんとのようでしたね?さすがは新婚さんだ」
「はあっ?!なんだよ、それ!?」
 ニヤけた笑みをこらえたような職員に話しかけられ、とっさに問い返す。

 なんだよそれ、めちゃくちゃ誤解だろ!!
 そりゃたしかに、昨晩のはじき飛ばされた結果、オレは強かに腰を床に打ちつけて、さっきからジェイクはその心配をしていたけれど。

 でも、この流れ、わからなくもない。
 片や相手の腰の痛みを心配していて、部屋は昨晩ドタバタと騒音がしていたとしたら。
 そりゃ誤解されても、おかしくはないよな───!?

「ウソでしょ!?アンタたち、そういう関係だったの!?」
「ちょっと待て、それは誤解だから!!」
 でもまさか、そんなところにちょうどノアまでやって来て大騒ぎするなんて予想外すぎるだろ!

 いや、それは勘ちがいだから!
 断じてオレとジェイクは、そういう関係じゃないってば!!
 でもそんなオレの気持ちは声に出せないまま、その場は大混乱を極めていくのだった。
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