ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

文字の大きさ
上 下
14 / 25

Ep.14 不届き者に正義の鉄槌を下せ!

しおりを挟む
 ただでさえ、冒険者というのは勘ちがいを起こしやすい存在なんだ。
 言うなればこの世界の人々にとって、モンスターの脅威から自分たちを守ってくれるありがたい存在であることはまちがいないわけで。

 そうなれば当然のように、村人たちから感謝をされることもあるわけだし、一種の特権階級にいると思い込む者もあらわれるという寸法だった。
 だからこそ、一歩まちがえればならず者と変わらなくなる彼らを取りしきる冒険者ギルドには、高潔な精神が求められるんだ。

 そういう意味ではこのギルドマスターには、そんな荒くれ者たちの上に立つ者としての責任感も足りていなければ、それに必要な監督能力だって足りていないってことになるだろ!
 口先ではなんとでも言えるけど、たぶんコイツはまったく反省なんてしてないはず。

「しかし……神託の勇者様の伴侶の方を男娼の身分に落としてしまうことになるなんて、私もギルドマスターとしての名折れでしかなくっ!!今だって相当お辛いんでしょう?!いいんですよ、ギルドマスターである私が不祥事の責任を取りますとも!」
 こちらをいやらしい目つきで見ながら、涙ながらに語るその姿は胡散臭さしかなく、その『責任』の取り方がを指すのか明白だった。

「~~~~っ!!」
 そしておもむろにこちらに手を伸ばしてくると、ギルドマスターはオレのほっぺたを許可なくなでてきた。
 その瞬間、堪えられないほどの甘くとろける快感が一気に背すじを駆けのぼってくる。

 クソ、こらえきれずにニヤニヤと笑いやがって!
 絶対にわかっててやってるよな、コイツ!?
 こちとら、さっきから必死の思いでわきあがる性欲を抑え込んでるっていうのに、なにしてくれちゃってるんだよ!!

 むしろ先に売り切れたのは、理性は理性でも、性欲よりも目の前の男にたいする怒りをガマンする心だった。
 腹の底から、沸々とした怒りがわきあがってくる。

 上等じゃねーか、『オレは勇者の伴侶じゃない』っていうこちらの話も聞いてないし、そんなに責任取りたいってんなら、きっちりと取らせてやろうじゃねーか!

「……じゃあ、ギルドマスターとして、この件での責任は取るってことでいいんだよな?」
「え、えぇ、もちろんですとも!ルーイ王子ほどの美人なら、ぜひともお相手願いたいくらいですから」
 オレからの問いかけに、ギルドマスターは鷹揚にうなずく。

「ならおまえの罪は、己の支部に所属する冒険者の管理監督を怠り、長年にわたって違法行為を見逃してきた『管理不行届きによる更迭』ってところだな。しっかりと本部に、王家と勇者の連名で報告はあげさせてもらうからな?」
「なんですと?!ですから私は知らなかったのだとっ……!!」
 オレからの発言に、ギルドマスターは目を剥く。

「シトラスのとやらは、今にはじまったことじゃないんだろ!?仮にもギルドマスターなら、自分のところの支部の高レベル冒険者に『闇ギルドとつきあいがある』なんて不名誉なウワサが流れたら、当然調べるよな?おまえの情報収集能力の高さは、うちのクソオヤジがジェイクに示したろくでもない魔王討伐の報酬の内容まで把握できるくらいなんだ、相当高いと見てまちがいないだろう。なら当然、そのウワサも早い段階でつかんでいたはずだ!」

 そこまでを一息で言い切る。
 おそらく図星を指されたんだろう、ギルドマスターは青ざめた顔から一転して、ほっぺたに朱が差していた。

「それは、その……たしかにそのウワサは私もつかんでおりましたが……でも違法行為をしているなんて、本当に知らなかったんですよ!!」
 予想外のオレの剣幕に、必死に言いわけをするギルドマスターは、少々怯んでいるように見えた。

「しかもそれだけじゃないぞ、おまえはシトラスが重ねていた悪行三昧を、どんなことをしているのか具体的に把握していたくせに、なにもしないで見逃してきた……冒険者をたばねるギルドマスターとして、これが罪じゃないなんて言わせるものか!!」
「ですから、それは誤解でして……」
 ここに来てなお、もみ手をしながら彼は言い逃れをしようとしてあがく。

「誤解もなにも、さっき自分から口にしてただろ?『シトラスが違法な薬物を使って女性冒険者たちを手籠めにしてきた』って。その言い方は───複数の被害者がいたことを把握してると言ってるのと同じことだよな?」
 オレが言わんとしているのは、ひょっとしたら人の言葉尻をとらえて言いがかりをつけているようなものでしかないのかもしれないけれど、でも本能がこの男をゆるせないと訴えていた。

「それだけじゃない、シトラスが使っていたという違法薬物の使用方法や効果、それに解毒剤の有無まで、ずいぶんとくわしく説明してくれたもんなぁ?しかもごていねいに、その後の被害に遭った彼女たちの様子までさ……さも見て、体験してきたみたいに語りながら、今さら『なにも知りませんでした』は通用しねーんだよ!!」
 そして相手の顔をしっかりと見ながら、トドメのセリフを口にする。

「それにおまえの関与をほのめかす自白はオレだけじゃなく、勇者であるジェイクだっていっしょに聞いているんだ!ジェイクなら、どこだろうとそれを証言してくれるはずだぜ?」
 王権に媚びることのない冒険者ギルドでも、さすがに神託の勇者様は無視できないだろうよ。

「ハイッ!僕もたしかにその話を聞きました、マスターさんは知らないと言うわりに、ずいぶん使われてた薬物におくわしいんだなって、すごくふしぎに思って聞いてましたから!」
 ジェイクからの言葉は、純粋な疑問だった分、よけいにギルドマスターには響いたんだろう。
 観念したかのように、その場にくずれ落ちる。

 シトラスの移送用に呼ばれていた、いかついギルド職員たちの手によって、ギルドマスターとシトラスとが、ともに引っ立てられていく姿を見ながら、それでもわずかに胸をなでおろすことができたのだった。
 こうして、冒険者ギルドのギルドマスターを巻き込んだ盗賊シトラスによる犯罪劇は幕を閉じたのである。


     ☆ ☆ ☆


 基本的に冒険者ギルドの建物内は、魔法が効かないことになっているけれど、そのなかでも例外がいくつかあって、そのうちのひとつがこの応接室だった。
 たしかに、こんな豪奢な内装の部屋を使うような顧客にはそれなりに立場のある貴族が多いわけで、それはまぁ、権力と暴力の結びつく場所なんて、人に聞かれたくない話をすることも多いわけだ。

 だからというわけではないのかもしれないけれど、常に防音効果もある結界に守られていて、室内の音は外にはもれないとかなんとか言われていた。
 そんな場所だからこそ、今のオレがひとりで籠って熱を発散させるなら、ここしかないと思ったんだ。

「~~~っ、おいジェイク!なんでおまえがまだ、ここに残ってるんだよ!?」
 思わず声を荒らげてしまったのは、これまでの流れでもなお、おどおどした様子でジェイクがオレのそばに立っていたからだった。
 なぁ、今までの話、ちゃんと聞いていたんだよな?

「だって、あなたが心配だったから……その、さっきの盗賊に違法な薬を使われたから、正気を失うほど性欲が高まるってことなんでしょ?そんな状態でこの部屋にひとりでいて、なにかあったらどうするんですか?!」
 とりつくろうことを知らないジェイクの言葉は、端的にオレの切羽詰まった状況をあらわしていた。

 そうだよ、さっきっからずっともう下半身は暴発しそうなほどに痛くて、早くシたくてたまらないんだよ!!
 どうせ性欲が高まりまくりで、まもなく理性なんておさらばしそうなくらいですが、なにか?!

「───そうだな、でもおまえがここに残っていたら、それこそおまえが恐れてるみたいな『』が起きるかもしれないんだぞ!?それをわかって言っているのか!?」
 どこまでも心配症でお人好しなジェイクは、多分本気でオレを心配している。
 それがわかるからこそ、オレだってたとえ事故でも彼を巻き込みたくはなかった。

 それなのにジェイクは、あまりにも無警戒すぎるんだ。
 これまでに宿屋に泊まるときだって、オレに襲われるんじゃないかって必要もないのにちがう部屋に泊まろうと警戒するような男が、どうしてそんな危険が起こりかねない状況だっていうのに、ここに残ったりするんだろうか……?

 ───まさか、こいつまでその媚薬とやらでおかしくなってしまったとかなのか?

 でもジェイクの目を見るかぎり、その澄んだ青い瞳には、アイツらのようなゲスな感情は浮かんでいなかった。
 ……あぁそうか、コイツは本気でオレのことを心配しているだけなんだ……。
 ふしぎと、そう信じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...