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Ep.12 ギルドマスターは食わせもの?!

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「真にもって、申し訳ございませんでした~~!!まさかこのギルドの支部に所属する冒険者が、神託の勇者様に睡眠薬を盛ったあげく、その伴侶の方まで手籠めにしようとたくらむなど……!!お詫びのしようもございません!!せめて、せめて私の首ひとつで納めてもらえませんでしょうか!?」

 深夜だというのに、許可をしたら今すぐにでも己の首を差し出しそうな勢いで床にはいつくばっているのは、この冒険者ギルドの長であるギルドマスターだ。
 その横には、縄でぐるぐる巻きにされた盗賊のシトラスが転がっている。

「だれが伴侶だ!オレは単なる旅の同行者にすぎないんだっつーの!!」
 あまりにもツッコミどころが満載すぎるギルドマスターの発言に、ここだけは聞き逃せないとばかりに、とっさにツッコミを入れる。

「はいはい、そうでございますよね!今はまだ正式な婚姻をされたわけではないですし、まだをされていらっしゃるってことですよね!!」
「だからっ!!そもそもそこら辺が、丸ごとまとめて誤解なんだってば!!」
「あ、あの、とりあえず落ちつきましょう……?」

 認識を改めるどころか、全然話の通じないギルドマスターに、オレはブチ切れるしかなくて。
 本来なら『神託の勇者』であり当事者のはずのジェイクは、むしろそんなオレの剣幕にどうしていいかわからずに目を白黒させているだけだった。

 ───つーか、どこまでこっちの事情を知ってるんだよ、このタヌキオヤジは!?
 今の一瞬でギルドマスターがサラッとぶっこんで来たネタに、国王が勇者にたいして魔王討伐時の報酬として提示した内容を知っているのだと、その情報収集能力を匂わしてくるとかさ。

 まったくもって食えないオヤジだ、としか言いようがない。
 目の前で土下座する姿を見下ろしながら、軽く息をつく。

 あれから冒険者ギルド内の豪奢な応接室に場所を移したオレたちは、即座に駆けつけてきたギルドマスターから、こうしてものすごいいきおいでの謝罪を受けていたというわけだ。
 もちろん目の前のおっさんだって結構偉い立場にあるわけで、一声かければ国中の冒険者たちを動かすだけの権力を持った人物でもある……はずなんだけど。

 そんな人物が床に額をこすりつけてオレたちにゆるしを乞うているなんて、お人好しなジェイクなら、かえって申し訳なささえ感じてしまいそうでゆるさざるを得ないというか───むしろ、どう考えてもそこまで織り込み済みにしか思えないというか。
 どちらかといえばオレは、申し訳なさを感じることはなかったけれど、どうにもその大げさな反応にたいして苦手意識がわいてしまいそうだった。

「……いや、ギルマスの首とかいらないから。実際にはジェイクのおかげで未遂だったわけだし、なにもなかったようなもんだって言ってるだろ?」
「しかしですな、この支部のエースだなんて言ってコイツに目をかけていた以上、私にも責任があるわけですし……」
 だから気にするなと、これでこの話を終わりにしようとすれば、なおもギルドマスターは食い下がってくる。

 あぁもう、いい加減にしてくれ!
 本当は、そう言って追い払ってしまいたかった。
 でもさすがに相手の立場を思えば、そういうわけにもいかないから厄介なんだよな……。

「っ、はぁ……」
 肩からかぶったままの毛布をにぎりしめ、ぎゅっと目をつぶると大きくため息をつく。
 今だって必死にガマンをしていなければ、危うく変な声が出てしまいそうだった。

 それもこれもシトラスに襲われかけて以降、妙にからだが敏感になってしまっていたからだ。
 それこそ風邪をひいて高熱を出した際に、やたらと皮膚が刺激に弱くなるのに似ている。
 おかげでわずかな衣擦れでさえもからだは熱くなり、息をするのもツラかったりする状態に陥っていた。

 つーか、マジでアイツ、なにしてくれてんだよ!?
 なんか『エッチな気分になるおクスリ』とか言ってた気がするけど、どう考えても怪しいし、違法な薬物のニオイがぷんぷんするヤツだろ!

 そんなもの、この世界に持ち込むんじゃねぇ!
 18禁のエロゲの世界のなかだけで十分なんだっつーの!!
 ここは正統派ヒロイックファンタジーな世界観の、年齢制限だってないゲームの世界のはずだろ?!

「しかし、このアホがしでかしたことは、ギルドマスターである私の責任でもあるのです!!こいつのをわかっていながら、高レベルの冒険者ということで、見て見ぬふりをしてきてしまったのは、すべて私の責任であると……」
 いや、責任者という立場で見たら、すばらしい考え方だけどな?
 でもそれなら、もっとオレが出す空気を読んでくれよ!

 今の発言からは、この世界における冒険者ギルドならではの事情が透けて見えるし、だからこそ仕方なかったのだと言いたい気持ちは理解できなくはないのだけども。

 ───この世界では冒険者というのは、各地に点在する冒険者ギルドの支部に所属をする形式をとっている。
 そしてその所属した支部の所在地を中心に活動することになるし、ある程度はギルド側から自支部に所属する冒険者にたいして、指名依頼をすることもできる。

 つまり、冒険者ギルドにとっては、いかにして己の支部に優秀な冒険者を所属させるかが実績を上げるためにも重要であり、そのための誘致活動やその後の優遇措置なんかにも力を入れていたりする。

 そう考えると、今のギルドマスターの発言のなかにあったシトラスの『』という単語から推測して、ひとつの仮説が成り立つ。
 今回みたいなことを、これまでにも何度もくりかえしてきたんじゃないかっていう。

 本来ならギルド併設の宿屋で、盗賊のスキルを悪用して鍵を勝手に開けて客室内に入り込むなんていうのは、それだけでも十分悪事にふくまれるとは思う。
 でもギルド内のルールとして標榜されているのが、そのスキルを悪用した『窃盗行為』や『人命に関わる危害を加える行為』の禁止だけだとしたら……?

 だったら鍵を開けて侵入し、なかで休んでいる人物を性的な意味で襲う分には、詭弁のようだけどギルドの禁止事項には引っかからないんじゃないかって、そんな恐ろしい想像がついてしまって。
 そんなこと、現代日本で考えたら立派な性犯罪だし、十分すぎるほどに違法だと思うのだけど。

 ギルド内の宿屋で、しかもきちんと施錠した部屋で休むときまでだれが警戒するんだっつーの!
 そもそも冒険者にとっての宿屋といったら、HPだのMPだのを回復するためにもしっかりと休息を取らなきゃいけない場所なんだから、いちばんの安全地帯じゃなきゃいけないに決まってるだろ!!

 でも、そこはこの冒険者ギルドの原則ルールに抜け穴があったんだ。
 ゲーム内でも何度も語られることのあるそれは───『基本はすべて自己責任』だ。
 だからこそ力で勝てない相手になにをされても、被害者は文句も言えないっていう言いわけが成立してしまっていたからなんじゃないだろうか?

 特に盗賊は力の数値が上がりにくいからこそ、あまり危険視されていなかったのかもしれない。
 実際、少しレベルを上げた剣士や格闘家とか、そういう力の数値が上がりやすい職業であれば、女性であっても盗賊よりも力が強いなんてのはよくある話だし。

 もちろん被害者だって受けた被害を、ギルドの職員にたいして訴えることはできるとは思う。
 でもここでそれを訴えることは逆に、自ら『襲われても抵抗できません』と喧伝するようなもので、かえってその後の被害を増加させることにもつながりかねないし、得策とは言いがたいのかもしれない。

 ましてシトラスはこの支部ではめずらしく高レベルの冒険者だとしたら、周辺のモンスターの脅威から街の平和を守るためにも、絶対に逃がしたくない冒険者ギルドとしては、多少の不法行為は見逃そうということにもなるだろうよ。
 倫理観っていうのは、安全で平和な暮らしが約束されてこそ、はじめて成立する概念といってもいいし。

 そう考えると、やっぱりこの世界は一見すると平和そうに見えるけれど、現代日本とは比べるべくもないくらい、治安が良くないのかもしれないな。
 なにより『魔王が復活した』ってことが、思った以上に人々の心に影を落としているのかもしれない。

 ますますもって、一刻も早く魔王討伐をなしとげないといけないなって、そう実感せざるを得なかった。
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