ヒロイン王子は負けたくない!

マツヲ。

文字の大きさ
12 / 25

Ep.12 ギルドマスターは食わせもの?!

しおりを挟む
「真にもって、申し訳ございませんでした~~!!まさかこのギルドの支部に所属する冒険者が、神託の勇者様に睡眠薬を盛ったあげく、その伴侶の方まで手籠めにしようとたくらむなど……!!お詫びのしようもございません!!せめて、せめて私の首ひとつで納めてもらえませんでしょうか!?」

 深夜だというのに、許可をしたら今すぐにでも己の首を差し出しそうな勢いで床にはいつくばっているのは、この冒険者ギルドの長であるギルドマスターだ。
 その横には、縄でぐるぐる巻きにされた盗賊のシトラスが転がっている。

「だれが伴侶だ!オレは単なる旅の同行者にすぎないんだっつーの!!」
 あまりにもツッコミどころが満載すぎるギルドマスターの発言に、ここだけは聞き逃せないとばかりに、とっさにツッコミを入れる。

「はいはい、そうでございますよね!今はまだ正式な婚姻をされたわけではないですし、まだをされていらっしゃるってことですよね!!」
「だからっ!!そもそもそこら辺が、丸ごとまとめて誤解なんだってば!!」
「あ、あの、とりあえず落ちつきましょう……?」

 認識を改めるどころか、全然話の通じないギルドマスターに、オレはブチ切れるしかなくて。
 本来なら『神託の勇者』であり当事者のはずのジェイクは、むしろそんなオレの剣幕にどうしていいかわからずに目を白黒させているだけだった。

 ───つーか、どこまでこっちの事情を知ってるんだよ、このタヌキオヤジは!?
 今の一瞬でギルドマスターがサラッとぶっこんで来たネタに、国王が勇者にたいして魔王討伐時の報酬として提示した内容を知っているのだと、その情報収集能力を匂わしてくるとかさ。

 まったくもって食えないオヤジだ、としか言いようがない。
 目の前で土下座する姿を見下ろしながら、軽く息をつく。

 あれから冒険者ギルド内の豪奢な応接室に場所を移したオレたちは、即座に駆けつけてきたギルドマスターから、こうしてものすごいいきおいでの謝罪を受けていたというわけだ。
 もちろん目の前のおっさんだって結構偉い立場にあるわけで、一声かければ国中の冒険者たちを動かすだけの権力を持った人物でもある……はずなんだけど。

 そんな人物が床に額をこすりつけてオレたちにゆるしを乞うているなんて、お人好しなジェイクなら、かえって申し訳なささえ感じてしまいそうでゆるさざるを得ないというか───むしろ、どう考えてもそこまで織り込み済みにしか思えないというか。
 どちらかといえばオレは、申し訳なさを感じることはなかったけれど、どうにもその大げさな反応にたいして苦手意識がわいてしまいそうだった。

「……いや、ギルマスの首とかいらないから。実際にはジェイクのおかげで未遂だったわけだし、なにもなかったようなもんだって言ってるだろ?」
「しかしですな、この支部のエースだなんて言ってコイツに目をかけていた以上、私にも責任があるわけですし……」
 だから気にするなと、これでこの話を終わりにしようとすれば、なおもギルドマスターは食い下がってくる。

 あぁもう、いい加減にしてくれ!
 本当は、そう言って追い払ってしまいたかった。
 でもさすがに相手の立場を思えば、そういうわけにもいかないから厄介なんだよな……。

「っ、はぁ……」
 肩からかぶったままの毛布をにぎりしめ、ぎゅっと目をつぶると大きくため息をつく。
 今だって必死にガマンをしていなければ、危うく変な声が出てしまいそうだった。

 それもこれもシトラスに襲われかけて以降、妙にからだが敏感になってしまっていたからだ。
 それこそ風邪をひいて高熱を出した際に、やたらと皮膚が刺激に弱くなるのに似ている。
 おかげでわずかな衣擦れでさえもからだは熱くなり、息をするのもツラかったりする状態に陥っていた。

 つーか、マジでアイツ、なにしてくれてんだよ!?
 なんか『エッチな気分になるおクスリ』とか言ってた気がするけど、どう考えても怪しいし、違法な薬物のニオイがぷんぷんするヤツだろ!

 そんなもの、この世界に持ち込むんじゃねぇ!
 18禁のエロゲの世界のなかだけで十分なんだっつーの!!
 ここは正統派ヒロイックファンタジーな世界観の、年齢制限だってないゲームの世界のはずだろ?!

「しかし、このアホがしでかしたことは、ギルドマスターである私の責任でもあるのです!!こいつのをわかっていながら、高レベルの冒険者ということで、見て見ぬふりをしてきてしまったのは、すべて私の責任であると……」
 いや、責任者という立場で見たら、すばらしい考え方だけどな?
 でもそれなら、もっとオレが出す空気を読んでくれよ!

 今の発言からは、この世界における冒険者ギルドならではの事情が透けて見えるし、だからこそ仕方なかったのだと言いたい気持ちは理解できなくはないのだけども。

 ───この世界では冒険者というのは、各地に点在する冒険者ギルドの支部に所属をする形式をとっている。
 そしてその所属した支部の所在地を中心に活動することになるし、ある程度はギルド側から自支部に所属する冒険者にたいして、指名依頼をすることもできる。

 つまり、冒険者ギルドにとっては、いかにして己の支部に優秀な冒険者を所属させるかが実績を上げるためにも重要であり、そのための誘致活動やその後の優遇措置なんかにも力を入れていたりする。

 そう考えると、今のギルドマスターの発言のなかにあったシトラスの『』という単語から推測して、ひとつの仮説が成り立つ。
 今回みたいなことを、これまでにも何度もくりかえしてきたんじゃないかっていう。

 本来ならギルド併設の宿屋で、盗賊のスキルを悪用して鍵を勝手に開けて客室内に入り込むなんていうのは、それだけでも十分悪事にふくまれるとは思う。
 でもギルド内のルールとして標榜されているのが、そのスキルを悪用した『窃盗行為』や『人命に関わる危害を加える行為』の禁止だけだとしたら……?

 だったら鍵を開けて侵入し、なかで休んでいる人物を性的な意味で襲う分には、詭弁のようだけどギルドの禁止事項には引っかからないんじゃないかって、そんな恐ろしい想像がついてしまって。
 そんなこと、現代日本で考えたら立派な性犯罪だし、十分すぎるほどに違法だと思うのだけど。

 ギルド内の宿屋で、しかもきちんと施錠した部屋で休むときまでだれが警戒するんだっつーの!
 そもそも冒険者にとっての宿屋といったら、HPだのMPだのを回復するためにもしっかりと休息を取らなきゃいけない場所なんだから、いちばんの安全地帯じゃなきゃいけないに決まってるだろ!!

 でも、そこはこの冒険者ギルドの原則ルールに抜け穴があったんだ。
 ゲーム内でも何度も語られることのあるそれは───『基本はすべて自己責任』だ。
 だからこそ力で勝てない相手になにをされても、被害者は文句も言えないっていう言いわけが成立してしまっていたからなんじゃないだろうか?

 特に盗賊は力の数値が上がりにくいからこそ、あまり危険視されていなかったのかもしれない。
 実際、少しレベルを上げた剣士や格闘家とか、そういう力の数値が上がりやすい職業であれば、女性であっても盗賊よりも力が強いなんてのはよくある話だし。

 もちろん被害者だって受けた被害を、ギルドの職員にたいして訴えることはできるとは思う。
 でもここでそれを訴えることは逆に、自ら『襲われても抵抗できません』と喧伝するようなもので、かえってその後の被害を増加させることにもつながりかねないし、得策とは言いがたいのかもしれない。

 ましてシトラスはこの支部ではめずらしく高レベルの冒険者だとしたら、周辺のモンスターの脅威から街の平和を守るためにも、絶対に逃がしたくない冒険者ギルドとしては、多少の不法行為は見逃そうということにもなるだろうよ。
 倫理観っていうのは、安全で平和な暮らしが約束されてこそ、はじめて成立する概念といってもいいし。

 そう考えると、やっぱりこの世界は一見すると平和そうに見えるけれど、現代日本とは比べるべくもないくらい、治安が良くないのかもしれないな。
 なにより『魔王が復活した』ってことが、思った以上に人々の心に影を落としているのかもしれない。

 ますますもって、一刻も早く魔王討伐をなしとげないといけないなって、そう実感せざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

処理中です...