ここは弊社のゲームです~ただしBLゲーではないはずなのに!~

マツヲ。

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181:たぶんこれは、うれしい誤算

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 ───正直、これは想定外だった。
 まさかここまで、ふたりの息がピッタリになるとか。

 いや、リオン殿下とセブンが仲よくなること自体は、すなおにいいことだと思えるんだけども。
 というか、ひとりでも多くの友人が、セブンにできてほしい。
 それは心の底から、俺が願うことだ。

 だって『黒髪は不吉の象徴だ』なんて言われるこの世界で、黒髪に金の瞳を持つセブンは、どうしても遠巻きにされ、腫れもののようなあつかいを受けてしまうから。

 それこそ自分が担当していたセブンの個人エピソードでは、基本的に学校生活になじめない彼の孤独感がメインテーマで、かつ攻略のポイントになっていた。
 髪色を気にせずに距離を詰めて来てくれるのは、世間知らずで物怖じしないヒロインだけだった。

 だから彼女だけが、セブンにとっての『特別』になれたんだ。
 それが『星華せいかとき』の『原典オリジナル』のなかでの真実であり、ゆらがぬ真理だったハズ。

 ───そういう自分のなかでの常識にとらわれ、あのゲームの世界観のとおりならヒロインがあらわれるまで、セブンには気楽に話せる存在ができないものだと思い込んでいたともいうか。
 そう思うからこそ、それまでのつなぎとして、せめて少しでも孤独感をやわらげる役を俺が買って出ようとしたわけなんだけど……。

 それがふたを開けてみたらどうだ?
 まさかの『星華の刻』二大攻略対象キャラクターの片割れである、リオン殿下と仲がいいとか。
 そんなの想定外だとしても、うれしい誤算に決まってる!

「なにをにやけているんだ、気持ち悪いぞテイラー?」
「いえ、おふたりが仲いいのが、なんだか無性にうれしくて……」
 口では『気持ち悪い』と言いつつも、蛇蝎のごとく嫌われていたはじめのころなんてウソみたいに、リオン殿下は言葉よりもよほどやわらかな笑みを浮かべている。

「おかしなヤツだな、あんたも……オレたちが仲いいからって、なんであんたがうれしくなるんだよ?」
 そうツッコミを入れてくるセブンの表情もまた、ずいぶんとやわらかかった。

「別におかしくてもいいよ。だって今、しあわせだなーって思う気持ちはホンモノだし」
 ……うん、なんかジワジワとしあわせがにじんでくる。
 きっと今の俺の顔は、だらしなく笑みこぼれていることだろう。

 リオン殿下と仲がいい時点で、少なくとも表立って遠巻きにする必要はなくなるわけで、このクラスでの居心地だって、悪くはならないハズだ。
 うちの子のしあわせな学生生活、バンザイ!
 救いの手を差しのべてくださって、ありがとうございます、女神様ーーっ!!

「「テイラーっ!!」」
「って、わぁっ!?な、なに……どういう状況っ?!」
 次の瞬間、気がつけばふたりからなかば抱きつかれるようにして、めちゃくちゃにあたまをなでられていた。

「あー、気にするな。ちょっとした感情のゆらぎだ」
 ちょっとセブンさんや、どんな感情のゆらぎが生じれば、こんなことになるんですかね??

「そうそう、ここまでテイラーを変えたのは兄上だと思うと、少々思うところがなくもないが……って、ずいぶんとやわらかい髪の毛だな?」    
 リオン殿下も、なんかまんざらでもなさそうというか、むしろすごいうれしそうだな?!

「あぁ、テイラーの髪は猫っ毛なんだ。すごく指どおりがよくて気持ちいいだろ?」
「たしかにそうだな……」
 自慢げなセブンに、リオン殿下がほほえみかえしている。

 うん、ここだけ見ていれば、ものすごい平和だ。
 っていうか、至近距離から拝む笑顔のセブンとリオン殿下のツーショットとか、めちゃくちゃ顔面偏差値が高いスチルになっている気がする。
 そりゃもうね、ゲーム本編にすら存在しないウルトラレアものだよね、これ?!

「んんっ!?ちょっとセブン!リオン殿下焚きつけるなってば!」
 ───ただ、それを間近で目にするこちらの身にもなってほしい。
 まぶしすぎて、いっそ目が焼かれそうなんだが??

「すまない、テイラー!つい手ざわりのよさにつられてしまった……兄上の恋人にたいして気軽に触れるなど、してはならぬことだったな!反省せねば……!!」
 笑顔から一転して、ハッと気づいたようにリオン殿下が真顔になると、あわてて手も引っ込められた。

 とはいえ、そう言いつつもリオン殿下の顔は、己のセリフを裏切るような、ひどく残念そうなものに見えたんだけども。
 それを目にした瞬間、なんだか急に庇護欲のようなものがわいてくる。

 どうしよう、そんなに気にしないでも大丈夫だって言ってあげたい。
 俺の髪の毛くらい、なでようがなにしようが自由だって。
 思わずそんな気持ちがこみあげてきて……。

「いや大丈夫ですよ、そのまえにリオン殿下もセブンもクラスメイトで、にとっての大事な友だちですから」
 気がつけば、そんなセリフが口から飛び出していた。

 言った直後に、今のは不敬ではなかっただろうかと、そんな不安もこみあげてくる。
 だって、今までは敬意を表してリオン殿下の前での一人称は『私』を使っていたけれど、友だちならばと、あえて『俺』という言葉を使ってみたから。
 ……でもそれは、どうやら杞憂だったらしい。

「本当か?!本当に俺のことも、『大事な友だち』と言ってくれるのか!?」
「えぇ、もちろんですよ、リオン殿下」
 こちらの両肩に手をかけて、必死にたずねてくる相手のいきおいに押されそうになりながらも、うなずきながらほほえみかえす。

「そうか!」
 パァ~ッと音がしそうなほどに、わかりやすく全開の笑顔になったリオン殿下に、周囲からは一斉にどよめく声がした。

 そりゃな、公式設定からして俺様系のリオン殿下が、こんなにヤンチャな弟キャラになるとか、皆だって想定外だろうよ!
 俺だって、はじめて見たときは違和感しかなったんだから。

 とはいえ気のせいだろうか、それ以上に教室内のあちこちから、やたらとあたたかい視線がそそがれている気がするのは。
 特に周囲の女子生徒たちからは、『なんてほほえましい』と言わんばかりの笑顔で見守られているのは、まちがいないと思う。

 ───だからこそ、よけいに気になった。
 そのなかでひとりだけ、こちらに向かって憎しみを込めてにらみつけてくる女子生徒の姿があることが。
 セブンの肩越しにチラリとしか見えなかったけれど、たしかに彼女からの視線には、俺にたいする敵意に満ちていた。
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