181 / 188
181:たぶんこれは、うれしい誤算
しおりを挟む
───正直、これは想定外だった。
まさかここまで、ふたりの息がピッタリになるとか。
いや、リオン殿下とセブンが仲よくなること自体は、すなおにいいことだと思えるんだけども。
というか、ひとりでも多くの友人が、セブンにできてほしい。
それは心の底から、俺が願うことだ。
だって『黒髪は不吉の象徴だ』なんて言われるこの世界で、黒髪に金の瞳を持つセブンは、どうしても遠巻きにされ、腫れもののようなあつかいを受けてしまうから。
それこそ自分が担当していたセブンの個人エピソードでは、基本的に学校生活になじめない彼の孤独感がメインテーマで、かつ攻略のポイントになっていた。
髪色を気にせずに距離を詰めて来てくれるのは、世間知らずで物怖じしないヒロインだけだった。
だから彼女だけが、セブンにとっての『特別』になれたんだ。
それが『星華の刻』の『原典』のなかでの真実であり、ゆらがぬ真理だったハズ。
───そういう自分のなかでの常識にとらわれ、あのゲームの世界観のとおりならヒロインがあらわれるまで、セブンには気楽に話せる存在ができないものだと思い込んでいたともいうか。
そう思うからこそ、それまでのつなぎとして、せめて少しでも孤独感をやわらげる役を俺が買って出ようとしたわけなんだけど……。
それがふたを開けてみたらどうだ?
まさかの『星華の刻』二大攻略対象キャラクターの片割れである、リオン殿下と仲がいいとか。
そんなの想定外だとしても、うれしい誤算に決まってる!
「なにをにやけているんだ、気持ち悪いぞテイラー?」
「いえ、おふたりが仲いいのが、なんだか無性にうれしくて……」
口では『気持ち悪い』と言いつつも、蛇蝎のごとく嫌われていたはじめのころなんてウソみたいに、リオン殿下は言葉よりもよほどやわらかな笑みを浮かべている。
「おかしなヤツだな、あんたも……オレたちが仲いいからって、なんであんたがうれしくなるんだよ?」
そうツッコミを入れてくるセブンの表情もまた、ずいぶんとやわらかかった。
「別におかしくてもいいよ。だって今、しあわせだなーって思う気持ちはホンモノだし」
……うん、なんかジワジワとしあわせがにじんでくる。
きっと今の俺の顔は、だらしなく笑みこぼれていることだろう。
リオン殿下と仲がいい時点で、少なくとも表立って遠巻きにする必要はなくなるわけで、このクラスでの居心地だって、悪くはならないハズだ。
うちの子のしあわせな学生生活、バンザイ!
救いの手を差しのべてくださって、ありがとうございます、女神様ーーっ!!
「「テイラーっ!!」」
「って、わぁっ!?な、なに……どういう状況っ?!」
次の瞬間、気がつけばふたりからなかば抱きつかれるようにして、めちゃくちゃにあたまをなでられていた。
「あー、気にするな。ちょっとした感情のゆらぎだ」
ちょっとセブンさんや、どんな感情のゆらぎが生じれば、こんなことになるんですかね??
「そうそう、ここまでテイラーを変えたのは兄上だと思うと、少々思うところがなくもないが……って、ずいぶんとやわらかい髪の毛だな?」
リオン殿下も、なんかまんざらでもなさそうというか、むしろすごいうれしそうだな?!
「あぁ、テイラーの髪は猫っ毛なんだ。すごく指どおりがよくて気持ちいいだろ?」
「たしかにそうだな……」
自慢げなセブンに、リオン殿下がほほえみかえしている。
うん、ここだけ見ていれば、ものすごい平和だ。
っていうか、至近距離から拝む笑顔のセブンとリオン殿下のツーショットとか、めちゃくちゃ顔面偏差値が高いスチルになっている気がする。
そりゃもうね、ゲーム本編にすら存在しないウルトラレアものだよね、これ?!
「んんっ!?ちょっとセブン!リオン殿下焚きつけるなってば!」
───ただ、それを間近で目にするこちらの身にもなってほしい。
まぶしすぎて、いっそ目が焼かれそうなんだが??
「すまない、テイラー!つい手ざわりのよさにつられてしまった……兄上の恋人にたいして気軽に触れるなど、してはならぬことだったな!反省せねば……!!」
笑顔から一転して、ハッと気づいたようにリオン殿下が真顔になると、あわてて手も引っ込められた。
とはいえ、そう言いつつもリオン殿下の顔は、己のセリフを裏切るような、ひどく残念そうなものに見えたんだけども。
それを目にした瞬間、なんだか急に庇護欲のようなものがわいてくる。
どうしよう、そんなに気にしないでも大丈夫だって言ってあげたい。
俺の髪の毛くらい、なでようがなにしようが自由だって。
思わずそんな気持ちがこみあげてきて……。
「いや大丈夫ですよ、そのまえにリオン殿下もセブンもクラスメイトで、俺にとっての大事な友だちですから」
気がつけば、そんなセリフが口から飛び出していた。
言った直後に、今のは不敬ではなかっただろうかと、そんな不安もこみあげてくる。
だって、今までは敬意を表してリオン殿下の前での一人称は『私』を使っていたけれど、友だちならばと、あえて『俺』という言葉を使ってみたから。
……でもそれは、どうやら杞憂だったらしい。
「本当か?!本当に俺のことも、『大事な友だち』と言ってくれるのか!?」
「えぇ、もちろんですよ、リオン殿下」
こちらの両肩に手をかけて、必死にたずねてくる相手のいきおいに押されそうになりながらも、うなずきながらほほえみかえす。
「そうか!」
パァ~ッと音がしそうなほどに、わかりやすく全開の笑顔になったリオン殿下に、周囲からは一斉にどよめく声がした。
そりゃな、公式設定からして俺様系のリオン殿下が、こんなにヤンチャな弟キャラになるとか、皆だって想定外だろうよ!
俺だって、はじめて見たときは違和感しかなったんだから。
とはいえ気のせいだろうか、それ以上に教室内のあちこちから、やたらとあたたかい視線がそそがれている気がするのは。
特に周囲の女子生徒たちからは、『なんてほほえましい』と言わんばかりの笑顔で見守られているのは、まちがいないと思う。
───だからこそ、よけいに気になった。
そのなかでひとりだけ、こちらに向かって憎しみを込めてにらみつけてくる女子生徒の姿があることが。
セブンの肩越しにチラリとしか見えなかったけれど、たしかに彼女からの視線には、俺にたいする敵意に満ちていた。
まさかここまで、ふたりの息がピッタリになるとか。
いや、リオン殿下とセブンが仲よくなること自体は、すなおにいいことだと思えるんだけども。
というか、ひとりでも多くの友人が、セブンにできてほしい。
それは心の底から、俺が願うことだ。
だって『黒髪は不吉の象徴だ』なんて言われるこの世界で、黒髪に金の瞳を持つセブンは、どうしても遠巻きにされ、腫れもののようなあつかいを受けてしまうから。
それこそ自分が担当していたセブンの個人エピソードでは、基本的に学校生活になじめない彼の孤独感がメインテーマで、かつ攻略のポイントになっていた。
髪色を気にせずに距離を詰めて来てくれるのは、世間知らずで物怖じしないヒロインだけだった。
だから彼女だけが、セブンにとっての『特別』になれたんだ。
それが『星華の刻』の『原典』のなかでの真実であり、ゆらがぬ真理だったハズ。
───そういう自分のなかでの常識にとらわれ、あのゲームの世界観のとおりならヒロインがあらわれるまで、セブンには気楽に話せる存在ができないものだと思い込んでいたともいうか。
そう思うからこそ、それまでのつなぎとして、せめて少しでも孤独感をやわらげる役を俺が買って出ようとしたわけなんだけど……。
それがふたを開けてみたらどうだ?
まさかの『星華の刻』二大攻略対象キャラクターの片割れである、リオン殿下と仲がいいとか。
そんなの想定外だとしても、うれしい誤算に決まってる!
「なにをにやけているんだ、気持ち悪いぞテイラー?」
「いえ、おふたりが仲いいのが、なんだか無性にうれしくて……」
口では『気持ち悪い』と言いつつも、蛇蝎のごとく嫌われていたはじめのころなんてウソみたいに、リオン殿下は言葉よりもよほどやわらかな笑みを浮かべている。
「おかしなヤツだな、あんたも……オレたちが仲いいからって、なんであんたがうれしくなるんだよ?」
そうツッコミを入れてくるセブンの表情もまた、ずいぶんとやわらかかった。
「別におかしくてもいいよ。だって今、しあわせだなーって思う気持ちはホンモノだし」
……うん、なんかジワジワとしあわせがにじんでくる。
きっと今の俺の顔は、だらしなく笑みこぼれていることだろう。
リオン殿下と仲がいい時点で、少なくとも表立って遠巻きにする必要はなくなるわけで、このクラスでの居心地だって、悪くはならないハズだ。
うちの子のしあわせな学生生活、バンザイ!
救いの手を差しのべてくださって、ありがとうございます、女神様ーーっ!!
「「テイラーっ!!」」
「って、わぁっ!?な、なに……どういう状況っ?!」
次の瞬間、気がつけばふたりからなかば抱きつかれるようにして、めちゃくちゃにあたまをなでられていた。
「あー、気にするな。ちょっとした感情のゆらぎだ」
ちょっとセブンさんや、どんな感情のゆらぎが生じれば、こんなことになるんですかね??
「そうそう、ここまでテイラーを変えたのは兄上だと思うと、少々思うところがなくもないが……って、ずいぶんとやわらかい髪の毛だな?」
リオン殿下も、なんかまんざらでもなさそうというか、むしろすごいうれしそうだな?!
「あぁ、テイラーの髪は猫っ毛なんだ。すごく指どおりがよくて気持ちいいだろ?」
「たしかにそうだな……」
自慢げなセブンに、リオン殿下がほほえみかえしている。
うん、ここだけ見ていれば、ものすごい平和だ。
っていうか、至近距離から拝む笑顔のセブンとリオン殿下のツーショットとか、めちゃくちゃ顔面偏差値が高いスチルになっている気がする。
そりゃもうね、ゲーム本編にすら存在しないウルトラレアものだよね、これ?!
「んんっ!?ちょっとセブン!リオン殿下焚きつけるなってば!」
───ただ、それを間近で目にするこちらの身にもなってほしい。
まぶしすぎて、いっそ目が焼かれそうなんだが??
「すまない、テイラー!つい手ざわりのよさにつられてしまった……兄上の恋人にたいして気軽に触れるなど、してはならぬことだったな!反省せねば……!!」
笑顔から一転して、ハッと気づいたようにリオン殿下が真顔になると、あわてて手も引っ込められた。
とはいえ、そう言いつつもリオン殿下の顔は、己のセリフを裏切るような、ひどく残念そうなものに見えたんだけども。
それを目にした瞬間、なんだか急に庇護欲のようなものがわいてくる。
どうしよう、そんなに気にしないでも大丈夫だって言ってあげたい。
俺の髪の毛くらい、なでようがなにしようが自由だって。
思わずそんな気持ちがこみあげてきて……。
「いや大丈夫ですよ、そのまえにリオン殿下もセブンもクラスメイトで、俺にとっての大事な友だちですから」
気がつけば、そんなセリフが口から飛び出していた。
言った直後に、今のは不敬ではなかっただろうかと、そんな不安もこみあげてくる。
だって、今までは敬意を表してリオン殿下の前での一人称は『私』を使っていたけれど、友だちならばと、あえて『俺』という言葉を使ってみたから。
……でもそれは、どうやら杞憂だったらしい。
「本当か?!本当に俺のことも、『大事な友だち』と言ってくれるのか!?」
「えぇ、もちろんですよ、リオン殿下」
こちらの両肩に手をかけて、必死にたずねてくる相手のいきおいに押されそうになりながらも、うなずきながらほほえみかえす。
「そうか!」
パァ~ッと音がしそうなほどに、わかりやすく全開の笑顔になったリオン殿下に、周囲からは一斉にどよめく声がした。
そりゃな、公式設定からして俺様系のリオン殿下が、こんなにヤンチャな弟キャラになるとか、皆だって想定外だろうよ!
俺だって、はじめて見たときは違和感しかなったんだから。
とはいえ気のせいだろうか、それ以上に教室内のあちこちから、やたらとあたたかい視線がそそがれている気がするのは。
特に周囲の女子生徒たちからは、『なんてほほえましい』と言わんばかりの笑顔で見守られているのは、まちがいないと思う。
───だからこそ、よけいに気になった。
そのなかでひとりだけ、こちらに向かって憎しみを込めてにらみつけてくる女子生徒の姿があることが。
セブンの肩越しにチラリとしか見えなかったけれど、たしかに彼女からの視線には、俺にたいする敵意に満ちていた。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる