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179:やはり進む攻略のナゾ

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 いやはや、エライ目に遭った……。
 あれからブレイン殿下の抱きまくらとして、おなじベッドのなかですごすこと数時間、気がつけば朝を迎えていた。
 安らかな寝息を立てるブレイン殿下を起こしたくなくて、結局終始抱きまくらに徹しようとしているうちに、その体温に安心して寝落ちていたという。

 我ながら、よく眠れたな!?なんて思うけど。
 でも眠りに落ちるまでは、あまりにも近いところにある相手の顔に、何度もドキドキさせられたんだけどな。

「よかった、テイラー!無事だったんだな!?」
「お、おう……心配かけてすまなかったな」
 翌日、自室に一度寄ってから登校した俺を待ち受けていたのは、パレルモ様の取りまき仲間であるジミーだった。

 例によって弾丸のごとく突進して、腰のあたりにしがみついてくるジミーを受け止める。
 前回は腰のダメージのせいで立派な攻撃になっていたけれど、今回は問題なく受け止められた。

「本当だよ!めっちゃ心配したんだからな?!こないだから、ずっと危険な目に遭ってばかりじゃないか!!」
「うん、ごめんごめん!」
  まるで頭突きでもするかのように、グリグリとあたまを押しつけてくるジミーをなでていれば、近くにほかの人影もあらわれる。

「顔色は、問題なさそうだな……それに寝不足でもないようだ」
「さすがの兄上も、病人に手を出すほどケダモノではないと思っているが……だがしかし、テイラーのこととなると人が変わるからな……」
 声の主は『うちの子』セブンと、リオン殿下だった。

「セブン!それにリオン殿下も、おはようございます」
「あぁ、おはようテ、テイラー」
 顔を真っ赤にしながら、リオン殿下が俺の名前を呼ぶ。

「っ!?」
 これって、リオンルートが進んだときのイベントスチルじゃないか!
 はじめてヒロインの名前を呼ぶぎこちないリオン殿下という、破壊力満点なデレが味わえるヤツだ……。

「おはよう、テイラー……って、リオン殿下、あんなに練習したのに噛んでるじゃないですか」
「う、うるさいぞセブン!」
「オレだのカイエンだのの名前は問題なく呼べるクセに、テイラーの名前を呼ぶときだけ緊張するとか、ホントに……」
「ちょっ……言うなバカ!!」

 えーっ!?
 いつの間にかうちの子が、おたがいに名前を呼び合うくらいリオン殿下と仲よくなってるんだけど??!
 どういうことなんだ??

 ていうか、リオン殿下すら照れさせるうちの子とか、最高にカッコよすぎるだろ?!
 顔を赤くしたままのリオン殿下と、それをさらりと受け流すセブンに、あっけに取られてしまっていたら。

「どうした、そんなにボーッとして。顔色はよさそうだが、ひょっとして、まだ具合がよくないのか?」
「えっと……いや、いつの間にそんなにふたりが仲よくなったのかなって……」
 さりげなくこちらのおでこに触れながら熱を計ってくるセブンに、あわてて疑問をぶつける。

 ………うん、これもイベントスチルだな。
 ぼんやりしているヒロインに、具合が悪いのかと心配してくるセブンっていう、お決まりのパターンのヤツで。

 物理的な接触が増えるってのは、セブンにとって心をゆるしているんだっていう、なによりの証拠だから。
 これもまた、セブンルートの攻略が進んできたときのヤツだった。

 ───でもちょっと待て。

 おかしいだろ、俺は眠りこけていただけで、彼らの好感度があがるようなことなんて、なにもしてないんだぞ??
 なんならその前なんて、ふたりの好意につけこんで、俺のワガママに無理やり協力させたようなものなんだ。
 どうかんがえても、迷惑しかかけていないと思う。

 だから、ふつうにかんがえれば、こんなふうにふたり同時に攻略が進む理由なんてないハズなのに……!!

 まぁ、それで言うなら、そもそも本来なら『星華せいかとき』には、同時に何人もの攻略をするような、いわゆる『ハーレムルート』なんて存在しないハズなんだ。
 たぶん俺の心はすでにブレイン殿下を選んでいるわけで、そういう意味ではそのルートに入っていだろうに……。

 パレルモ様のキャラ改変以外にも、いったいこの世界にどんなバグが生じてるんだよ?!

「……やはり、イマイチ顔色がすぐれないのか?それなら無理に授業に出ずとも、俺が取ったノートをあとで見せてやるが?」
「そうだぞ、テイラー。なんならオレが保健室まで運んでやるから」
 リオン殿下もセブンも、なんだかやたらと俺に甘い。

「ありがとうございます。でもこれは自己責任なので……それどころかおふたりにはご迷惑をかけてしまい、大変申し訳なかったです」
 もしかしたら俺のワガママに付き合わせてしまったせいで、なんらかのペナルティが科されていないか、それが心配だった。

「いや、それが兄上は落ち込むほうがいそがしかったようでな、俺たちは無罪放免だったんだ」
「あんたの横で落ち込む紫殿下は、正直見ていられないくらいだった……」
 だけど俺の予想とはちがい、そうはならなかったらしい。

 って、やっぱりブレイン殿下にめちゃくちゃ心配かけたってのは、まちがいなかったんだな!?
 これはもう、めちゃくちゃ反省、しないとなぁ……。

「次からは自分の体力を過信しないように気をつけます。俺が倒れる分には『自己責任』でしかないって思ってたけど、そうじゃなかったんですよね?周囲の人たちに心配をかけてしまうってこと、ようやく理解できましたので……」
 それは今回、目覚めたときに実感したことだった。

「気にするなテイラー、次からはもっと俺たちも万全にサポートしてやるから!」
「そうだ、あんたは自分をもっと大切にしろよ?」
 しゅんとして反省の弁をのべれば、なぜだかリオン殿下とセブンのふたりにあたまをなでられた。

 ……うん、やや背のび気味なうちの子、かわいすぎるだろ!
 ───じゃなくて。

 これまでのテイラーなら、きっと前世の俺のように、自己責任だってむしろ自分が責められていたんだと思う。
 それを思えば、こうして心配してくれるクラスメイトができたってのは、よかったのかもしれない。
 なんて、ほんわかした気持ちを抱いたそのとき。

 チリッ

 首のうしろに、もはや定番となったかすかな刺激が走った。
 これって、たしか───?!
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