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177:思わぬ長尺の寝落ちタイム
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目の前であきらかにしょげているブレイン殿下を、そのままにはしておけなかった。
なんていうか、これはもはや本能的なものだ。
「あのっ、その代わりと言ってはなんですが、ブレイン殿下のおかげで確認したいことをちゃんと確認できました……あなたが俺を信じて送り出してくれたから。だから、ありがとうございます」
安心させるように笑みを浮かべれば、息を飲む音が聞こえた。
「キミは、ズルいな……そんな笑顔を見せられたら、ゆるすしかなくなるじゃないか」
もはや泣き笑いのような笑みを浮かべたブレイン殿下をはげますように、冗談めかして笑いかければ、そのほっぺたに触れる俺の手のうえに、すこし大きい相手のそれがかさねられる。
「そこはほら、意外としたたかなんですよ、俺も」
手の甲に感じる相手の体温が、じんわりと染みてきて、あたたかい。
たったそれだけのことなのに、わけもなく安心して泣いてしまいそうだった。
「うん、たしかにキミは生きている……フフ、弱そうに見えても、案外キミは強いんだね」
「ちょっと!『弱そうに見える』ってのは余計ですよ!?」
「いやぁ、事実だろう?」
そして今度こそ、おたがいに冗談を言い合えるくらいには余裕ができていた。
「それで、あの、クレセントは……?」
独房前に俺が倒れているようなあの状況じゃ、本来ならクレセントにまったく責任はなくても、なんとなく心証が悪くなっているんじゃないかってことが心配だった。
少なくとも懲罰房送りになった当時にも、風紀委員によって事情聴取のようなものはされていたとは思うけれど、俺が和解するまでの彼は、まちがいなく反抗的だっただろう。
それに、どこかこの世界をなめていたようにも思えるから、まともな受けこたえをしていたとは思えなくて。
「あぁ、それだよ!いったいキミは、彼になにをしたんだ?!気味が悪いくらい突然従順になって、ライムホルン家の幼い彼を慕っていることや、本当はベル・パプリカという名前ではなく、そのいとこのクレセント・パプリカという名前であると明かしてきたんだが……」
──なるほど、クレセントもはやく独房から解放されたいだろうし、すなおに取り調べにも応じたんだろうな。
「う~ん、話をしたら誤解がとけたというところですかね……?」
「むしろそこは、くわしく知りたいところなんだけどね?!」
これについては、さすがに人払いをして話しただけに、くわしく内容を明かすことはできなかったけど。
「そうですね……これまで彼が攻撃的だったことについては、パレルモ様を慕う立場からすると、その『影』なんて言われている俺の存在は、ジャマなものにしか感じられなかったということなんだと思います。いわゆる『嫉妬』みたいなもので」
これはまちがいなく、本当のことだと思う。
「でも前にブレイン殿下にもお伝えしたとおり、こう見えて俺には意外と自由もなくて大変なんだってことを説明したら、最終的にわかってもらえただけですよ」
大丈夫、これならウソにはならないハズだ。
これが俺とクレセントとのあいだで話したことのすべてではないし、なんなら意図的に伏せている内容もあるけれど。
でもあの会話は、純然たるこの世界の住人には、とうてい聞かせられないような内容だもんな……?
「そんなことよりブレイン殿下こそ、寝不足になってるんじゃないですか!?こんなにクマが出るなんて……」
ふだんから寝不足気味なのに、いつもなら全然クマもできないくらい、基礎体力があるハズなのに……。
どれだけ長いこと寝てなかったらこんなことになるんだよ、この人は!?
───って、あれっ?
そもそも俺は今回、どれだけ意識を失っていたのだろうか?
「……ちなみに俺、どれくらい寝てたんですかね……?」
体感的には社畜時代に地獄の50連勤を終えて、ようやく手に入れた久しぶりの休みに、思いっきり寝だめをして起きたら夜に近い時間だった、あのときに似た感覚だった。
「そうだね、キミは……私が発見してから丸2日間、目覚めなかったんだよ」
「えぇっ!?いやまさか、そんなに……!?」
さすがにそれは想定外だ。
もちろん直前の『筋肉ゴリラ』ことロコトの暴走により、危うく死にかけたのはたしかだけど。
ついでに言うと、そんな病みあがりのような状態で、無理を押してクレセントに面会したのもまた事実だ。
でもだからといって、そんなに倒れたあとに寝込んでしまうほど、俺の体力は尽きていたのだろうか??
「───まぁ正直なところ、そこは主治医の判断によるところが大きいのだけどね」
「えーと、『主治医』?」
聞きかえしつつも、その単語が指す相手がセラーノ先生なんだってことは、すぐにわかった。
この学校でなにかあれば、まずは保健医であるセラーノ先生のところにかつぎ込まれるだろうから。
でもそれにしては保健室どころか、ここは寮内のブレイン殿下の私室だぞ?
目覚めたとき、あまりにも見なれた景色すぎて、なんの違和感もなかったのがアレだけど。
「このところキミに無理をさせてしまっていたのは、ほかでもない私だ。さらにキミを取りまく環境の過酷さを思うと、悩ましいことも多く、きちんと休めていなかったのではないかと思ってね。この際だから、ゆっくりと休んで回復してもらおうという判断だ」
うっすらと口もとに刷いた笑みが、艶やかすぎる。
「あ、ありがとう、ございます……っ!」
どうしよう、ブレイン殿下の爆イケ化が止まらない。
マジで俺にたいする配慮が手厚すぎるだろ!
「おかげさまでゆっくりと休めました。なので今度はあなたも、ゆっくり休んでくださいね!?」
こんなにクマをこしらえるほど眠れなかったというのなら、さすがのブレイン殿下だって体調をくずしてしまうだろうに。
「いや私には放り出してきた仕事が……」
「それはいいネ!ブレインも休ンダほうがいいに決まッテるよ!せっかくだからもっと言ッテやって!」
ブレイン殿下が社畜のごとくワーカホリックな発言をしようとしたそのとき、それにかぶせるように、少し高めの声が横から投げかけられた。
なんていうか、これはもはや本能的なものだ。
「あのっ、その代わりと言ってはなんですが、ブレイン殿下のおかげで確認したいことをちゃんと確認できました……あなたが俺を信じて送り出してくれたから。だから、ありがとうございます」
安心させるように笑みを浮かべれば、息を飲む音が聞こえた。
「キミは、ズルいな……そんな笑顔を見せられたら、ゆるすしかなくなるじゃないか」
もはや泣き笑いのような笑みを浮かべたブレイン殿下をはげますように、冗談めかして笑いかければ、そのほっぺたに触れる俺の手のうえに、すこし大きい相手のそれがかさねられる。
「そこはほら、意外としたたかなんですよ、俺も」
手の甲に感じる相手の体温が、じんわりと染みてきて、あたたかい。
たったそれだけのことなのに、わけもなく安心して泣いてしまいそうだった。
「うん、たしかにキミは生きている……フフ、弱そうに見えても、案外キミは強いんだね」
「ちょっと!『弱そうに見える』ってのは余計ですよ!?」
「いやぁ、事実だろう?」
そして今度こそ、おたがいに冗談を言い合えるくらいには余裕ができていた。
「それで、あの、クレセントは……?」
独房前に俺が倒れているようなあの状況じゃ、本来ならクレセントにまったく責任はなくても、なんとなく心証が悪くなっているんじゃないかってことが心配だった。
少なくとも懲罰房送りになった当時にも、風紀委員によって事情聴取のようなものはされていたとは思うけれど、俺が和解するまでの彼は、まちがいなく反抗的だっただろう。
それに、どこかこの世界をなめていたようにも思えるから、まともな受けこたえをしていたとは思えなくて。
「あぁ、それだよ!いったいキミは、彼になにをしたんだ?!気味が悪いくらい突然従順になって、ライムホルン家の幼い彼を慕っていることや、本当はベル・パプリカという名前ではなく、そのいとこのクレセント・パプリカという名前であると明かしてきたんだが……」
──なるほど、クレセントもはやく独房から解放されたいだろうし、すなおに取り調べにも応じたんだろうな。
「う~ん、話をしたら誤解がとけたというところですかね……?」
「むしろそこは、くわしく知りたいところなんだけどね?!」
これについては、さすがに人払いをして話しただけに、くわしく内容を明かすことはできなかったけど。
「そうですね……これまで彼が攻撃的だったことについては、パレルモ様を慕う立場からすると、その『影』なんて言われている俺の存在は、ジャマなものにしか感じられなかったということなんだと思います。いわゆる『嫉妬』みたいなもので」
これはまちがいなく、本当のことだと思う。
「でも前にブレイン殿下にもお伝えしたとおり、こう見えて俺には意外と自由もなくて大変なんだってことを説明したら、最終的にわかってもらえただけですよ」
大丈夫、これならウソにはならないハズだ。
これが俺とクレセントとのあいだで話したことのすべてではないし、なんなら意図的に伏せている内容もあるけれど。
でもあの会話は、純然たるこの世界の住人には、とうてい聞かせられないような内容だもんな……?
「そんなことよりブレイン殿下こそ、寝不足になってるんじゃないですか!?こんなにクマが出るなんて……」
ふだんから寝不足気味なのに、いつもなら全然クマもできないくらい、基礎体力があるハズなのに……。
どれだけ長いこと寝てなかったらこんなことになるんだよ、この人は!?
───って、あれっ?
そもそも俺は今回、どれだけ意識を失っていたのだろうか?
「……ちなみに俺、どれくらい寝てたんですかね……?」
体感的には社畜時代に地獄の50連勤を終えて、ようやく手に入れた久しぶりの休みに、思いっきり寝だめをして起きたら夜に近い時間だった、あのときに似た感覚だった。
「そうだね、キミは……私が発見してから丸2日間、目覚めなかったんだよ」
「えぇっ!?いやまさか、そんなに……!?」
さすがにそれは想定外だ。
もちろん直前の『筋肉ゴリラ』ことロコトの暴走により、危うく死にかけたのはたしかだけど。
ついでに言うと、そんな病みあがりのような状態で、無理を押してクレセントに面会したのもまた事実だ。
でもだからといって、そんなに倒れたあとに寝込んでしまうほど、俺の体力は尽きていたのだろうか??
「───まぁ正直なところ、そこは主治医の判断によるところが大きいのだけどね」
「えーと、『主治医』?」
聞きかえしつつも、その単語が指す相手がセラーノ先生なんだってことは、すぐにわかった。
この学校でなにかあれば、まずは保健医であるセラーノ先生のところにかつぎ込まれるだろうから。
でもそれにしては保健室どころか、ここは寮内のブレイン殿下の私室だぞ?
目覚めたとき、あまりにも見なれた景色すぎて、なんの違和感もなかったのがアレだけど。
「このところキミに無理をさせてしまっていたのは、ほかでもない私だ。さらにキミを取りまく環境の過酷さを思うと、悩ましいことも多く、きちんと休めていなかったのではないかと思ってね。この際だから、ゆっくりと休んで回復してもらおうという判断だ」
うっすらと口もとに刷いた笑みが、艶やかすぎる。
「あ、ありがとう、ございます……っ!」
どうしよう、ブレイン殿下の爆イケ化が止まらない。
マジで俺にたいする配慮が手厚すぎるだろ!
「おかげさまでゆっくりと休めました。なので今度はあなたも、ゆっくり休んでくださいね!?」
こんなにクマをこしらえるほど眠れなかったというのなら、さすがのブレイン殿下だって体調をくずしてしまうだろうに。
「いや私には放り出してきた仕事が……」
「それはいいネ!ブレインも休ンダほうがいいに決まッテるよ!せっかくだからもっと言ッテやって!」
ブレイン殿下が社畜のごとくワーカホリックな発言をしようとしたそのとき、それにかぶせるように、少し高めの声が横から投げかけられた。
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