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175:女神様はおかしなことを言い出した
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俺がこの世界に存在するうえで、絶対にゆずれないポイント。
それは、原則としてこの世界に元々生きているキャラクターとして、取り得る言動しかしないことだ。
そこにこそ、この世界をなによりも愛する俺にとっての矜持がある。
だって、俺がこの世界にたいして持つ権能は『世界創造者』という強いものだから。
それこそ、その力をふるったならどんな理不尽な設定ですら『そういうものである』と、この世界の根底にある価値観ごと書き換えできてしまうものなんだ。
たとえば『テイラーが周囲から溺愛される』と書き換えたなら、それぞれの攻略対象キャラクターの価値観に合わせ、テイラーというキャラクターから見出だせる魅力を口々に褒め称えてくるだろうことは、想像にかたくない。
それこそが、『原作者』という強い立場のひとりである俺が持つ、絶対的な力だった。
───でも、だからこそ問いたい。
そんな不自然な設定に、いったいなんの魅力があるのかってことを。
物語に深みをあたえていたハズの、それぞれのキャラクターの価値観をかたちづくることになった背景を無にし、判を押したかのような一律な対応をされて。
そんな薄っぺらい背景や物語じゃ、人は感動しないだろ!?
ついでに言えば、もしそんなことをしたら『星華の刻』という作品が、まるで別物のようになってしまいかねないわけで。
それって、これまでの作品が好きだというファンの人たちの気持ちを、裏切る行為でしかないとも思う。
クリエイターの誇りにかけて、ファンを裏切る行為なんて、絶対にしたくない。
さまざまなかたちでもらったファンからの愛情に、公式からかえせるものはただひとつ、よりおもしろいモノを提供することだけなんだから。
それはなにも、ただ単にゲームのブラッシュアップをすればいいってだけじゃない。
たとえばアニメ化であったり、舞台化であったり、そういう異なる媒体で提供するのも、ひとつの手段だ。
とはいえ、なにをするにしても大前提となるのは、今まで『星華の刻』を好きでいてくれた人を裏切るような改変は絶対にしてはならないということなのだと思っている。
そういうかんがえ方が、ちゃんとスタッフのあいだで共有されているからこそ、どれだけゲームでバージョンアップを重ねようと、そしてアニメ化や舞台化などさまざまなメディアで展開を見せてきたとしても、この作品には一本筋のとおった柱が変わらずに存在できるんだ。
そこがブレないかぎりは、どんなアレンジが加わろうと本質は変わらない───つまり、おなじものでありつづけられる。
その『柱』こそが、『世界観』だ。
各キャラクターを取りまく環境も、そしてその思考に至るまでの筋道となる、この世界の住人たちに共通する常識のようなものが、ソレにあたる。
特に物語を左右するようなシナリオに関わるスタッフは、そこを最初に教えられ、そして実際に何度も書いては却下されるのをくりかえして、たたき込まれてきたことなんだ。
すべては、お客様の『おもしろい』のために。
そういうわけだから、その意識を失わずに持ちつづけることは、『なかの人』である俺にとってのなによりの矜持であり、そして自らに課した命題でもあった。
───まぁ、それはそれとして、スタッフみんなの夢と希望を詰めて創りあげた『星華の刻』の世界が、単純に大好きなだけというのもあるんだけど。
「そういう創造主様だからこそ、私も手を貸したいと思いますし、ついつい期待をしてしまうんです」
「うん、その気持ちだけでもありがたいよ」
実際に世界を司る女神様が、特定のキャラクターに肩入れするわけにはいかないだろうからな。
「いや、もう本当に。でもその一方で、大変不安でもあるのです。その、失礼ながら体力的な面ですとか、運の良さ的な面ですとかで心配になると言いますか……」
「そっち!?」
まさかのななめうえの方向からの心配に、思わずツッコミを入れる。
「いえ……創造主様はお人好しでいらっしゃるといいますか、貧乏くじを引きがちといいますか、とにかく不運に見舞われやすく、巻き込まれやすいようですから……まったく、キャラクター補正がかかるのでしょうか?」
ほっぺたに手をあてた女神様にしみじみとつぶやかれ、微妙な気持ちが広がっていく。
「テイラーなんて、純正悪役モブだろ?せいぜい絶妙な道化役として、ざまぁされるヤラレ役に徹してればいいようなキャラなんだから、そりゃまぁ、運は良くないだろうな……」
それはあたりまえだろうと同意を示す俺に、女神様は可哀想なものを見る目でこちらを見つめてきた。
「それが『道化』どころか『ド受け』で、『ヤられる』意味もちがうのだから困りますよねぇ……」
「うん?なんて??」
どうしよう、わけがわからないことを言い出したぞ!?
「いろいろな意味で心配なのですよ、創造主様は……」
「一応、自分の置かれた状況くらいは把握してるし、ちゃんと危機感くらいは持ってるぞ?」
解せぬ!
なぜに、ことさら俺が心配されなきゃならないんだ!?
「……少なくともこの世界に侵略してきたヤツにとって、今の俺の立ち位置はムカついているだろうと思うし、なんらかの攻撃があるかもしれないってのは覚悟してるよ」
「くれぐれも、お気をつけくださいね!?」
ちゃんと理解してるとアピールすれば、めちゃくちゃ念押しされた。
「あぁ、わかったってば」
って、そろそろ時間かな?
苦笑いを浮かべたのを最後に、意識が薄れていく。
いやはや、それにしてもなんだったんだろうな?
女神様が突然、おかしなことを言い出していたような気がするのは。
うん、気のせいだと思いたい……。
それは、原則としてこの世界に元々生きているキャラクターとして、取り得る言動しかしないことだ。
そこにこそ、この世界をなによりも愛する俺にとっての矜持がある。
だって、俺がこの世界にたいして持つ権能は『世界創造者』という強いものだから。
それこそ、その力をふるったならどんな理不尽な設定ですら『そういうものである』と、この世界の根底にある価値観ごと書き換えできてしまうものなんだ。
たとえば『テイラーが周囲から溺愛される』と書き換えたなら、それぞれの攻略対象キャラクターの価値観に合わせ、テイラーというキャラクターから見出だせる魅力を口々に褒め称えてくるだろうことは、想像にかたくない。
それこそが、『原作者』という強い立場のひとりである俺が持つ、絶対的な力だった。
───でも、だからこそ問いたい。
そんな不自然な設定に、いったいなんの魅力があるのかってことを。
物語に深みをあたえていたハズの、それぞれのキャラクターの価値観をかたちづくることになった背景を無にし、判を押したかのような一律な対応をされて。
そんな薄っぺらい背景や物語じゃ、人は感動しないだろ!?
ついでに言えば、もしそんなことをしたら『星華の刻』という作品が、まるで別物のようになってしまいかねないわけで。
それって、これまでの作品が好きだというファンの人たちの気持ちを、裏切る行為でしかないとも思う。
クリエイターの誇りにかけて、ファンを裏切る行為なんて、絶対にしたくない。
さまざまなかたちでもらったファンからの愛情に、公式からかえせるものはただひとつ、よりおもしろいモノを提供することだけなんだから。
それはなにも、ただ単にゲームのブラッシュアップをすればいいってだけじゃない。
たとえばアニメ化であったり、舞台化であったり、そういう異なる媒体で提供するのも、ひとつの手段だ。
とはいえ、なにをするにしても大前提となるのは、今まで『星華の刻』を好きでいてくれた人を裏切るような改変は絶対にしてはならないということなのだと思っている。
そういうかんがえ方が、ちゃんとスタッフのあいだで共有されているからこそ、どれだけゲームでバージョンアップを重ねようと、そしてアニメ化や舞台化などさまざまなメディアで展開を見せてきたとしても、この作品には一本筋のとおった柱が変わらずに存在できるんだ。
そこがブレないかぎりは、どんなアレンジが加わろうと本質は変わらない───つまり、おなじものでありつづけられる。
その『柱』こそが、『世界観』だ。
各キャラクターを取りまく環境も、そしてその思考に至るまでの筋道となる、この世界の住人たちに共通する常識のようなものが、ソレにあたる。
特に物語を左右するようなシナリオに関わるスタッフは、そこを最初に教えられ、そして実際に何度も書いては却下されるのをくりかえして、たたき込まれてきたことなんだ。
すべては、お客様の『おもしろい』のために。
そういうわけだから、その意識を失わずに持ちつづけることは、『なかの人』である俺にとってのなによりの矜持であり、そして自らに課した命題でもあった。
───まぁ、それはそれとして、スタッフみんなの夢と希望を詰めて創りあげた『星華の刻』の世界が、単純に大好きなだけというのもあるんだけど。
「そういう創造主様だからこそ、私も手を貸したいと思いますし、ついつい期待をしてしまうんです」
「うん、その気持ちだけでもありがたいよ」
実際に世界を司る女神様が、特定のキャラクターに肩入れするわけにはいかないだろうからな。
「いや、もう本当に。でもその一方で、大変不安でもあるのです。その、失礼ながら体力的な面ですとか、運の良さ的な面ですとかで心配になると言いますか……」
「そっち!?」
まさかのななめうえの方向からの心配に、思わずツッコミを入れる。
「いえ……創造主様はお人好しでいらっしゃるといいますか、貧乏くじを引きがちといいますか、とにかく不運に見舞われやすく、巻き込まれやすいようですから……まったく、キャラクター補正がかかるのでしょうか?」
ほっぺたに手をあてた女神様にしみじみとつぶやかれ、微妙な気持ちが広がっていく。
「テイラーなんて、純正悪役モブだろ?せいぜい絶妙な道化役として、ざまぁされるヤラレ役に徹してればいいようなキャラなんだから、そりゃまぁ、運は良くないだろうな……」
それはあたりまえだろうと同意を示す俺に、女神様は可哀想なものを見る目でこちらを見つめてきた。
「それが『道化』どころか『ド受け』で、『ヤられる』意味もちがうのだから困りますよねぇ……」
「うん?なんて??」
どうしよう、わけがわからないことを言い出したぞ!?
「いろいろな意味で心配なのですよ、創造主様は……」
「一応、自分の置かれた状況くらいは把握してるし、ちゃんと危機感くらいは持ってるぞ?」
解せぬ!
なぜに、ことさら俺が心配されなきゃならないんだ!?
「……少なくともこの世界に侵略してきたヤツにとって、今の俺の立ち位置はムカついているだろうと思うし、なんらかの攻撃があるかもしれないってのは覚悟してるよ」
「くれぐれも、お気をつけくださいね!?」
ちゃんと理解してるとアピールすれば、めちゃくちゃ念押しされた。
「あぁ、わかったってば」
って、そろそろ時間かな?
苦笑いを浮かべたのを最後に、意識が薄れていく。
いやはや、それにしてもなんだったんだろうな?
女神様が突然、おかしなことを言い出していたような気がするのは。
うん、気のせいだと思いたい……。
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