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170:お久しぶりのその音声

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 本当のことを言えば、ここまで好き放題ヤラカシて、そして自分の好きなキャラクター以外を人とも思っていないような態度を取りつづけた相手に、ここがどんな場所なのかを明かすのはどうなのか?って気もしていた。
 正直、コイツの仲間の『ペロさん』が奪った権能の力である『物語創作者ストーリークリエイター』は厄介で、この先も妙な改変がくわえられないともかぎらないからなぁ……。

 でも、こちらから明かさないかぎり、いかに自分たちがとんでもないことをしでかそうとしていたのかってことを、正しく伝えられそうにないと思ったから。
 だからこそ、やむなく真実に言及したわけだ。

 本当に『星華せいかとき』自体を愛するものなら、その世界を大切にする気持ちをまちがいなく持っているハズだと信じて……!
 そう期待を込めて、ジッとクレセントを見つめつづけた。

「冗談、だよね……?」
「んなわけあるか!だいたい原典オリジナルの世界でもなきゃ、俺だってここまで目くじら立てたりなんかしねーっての!」
 そうなんだ、これこそが今回の最大の問題点なんだから。

「そもそも俺は、ファンがどんな二次創作をしようと、そこでどんなキャラクター改変をしてもかまわないとは思っているんだ───そこが自分の世界のなかならば、な」
 と、そこでゆっくりと相手の顔を見る。

「『自分の世界』……」
「あぁ、二次界隈ならその界隈だけで盛り上がってる分には、公式にとって無害どころか歓迎すべきことだしな」
 冗談で済ませるつもりのないマジメな顔をしたままの俺に、クレセントの顔はなんとも形容しがたい表情になっていた。

 ロゴの無断使用とか、海賊版の無断転載だとか、そういう権利を侵害するようなことをしなければ、どんな二次創作をしようと公式的には問題ない。
 むしろそこに愛を感じれば、『なかの人』としては、ただうれしいだけなんだ。

 うちの子たちが、こんなにも多くの人たちから愛されているんだって。
 好きになってくれて、ありがとうって。
 さっきクレセントに『神ゲー』って言われたときも、本当にうれしかったしな。

 だからできることなら無理やり排除するんではなく、本人の反省をうながして、穏便にお引き取り願いたかった。
 なら、こう言うしかないよな……?

「いわゆる二次創作をたしなむ人たちには、たしか守らなくちゃいけない不文律があるんだろう?『公式に迷惑をかけちゃいけない』っていうヤツがさ」
「そりゃ、同人活動が法律的にはグレーゾーンなことくらい、ちゃんと自覚しているし」
 それはいつか、『歴戦のツワモノ腐女子』を名乗る同僚からも聞いた話だ。

「でも今のあんたたちのしてることは、それに真っ向から反しているようなものなんだ。だって『ペロさん』は、この世界を自分たちの二次創作上でのオリジナル設定に合わせて、改変しようとしてるわけだろ?それって公式にたいして自分たちの二次創作設定を、無理やり押しつけてきてるようなモンなんだからさ」
 そうして、淡々と事実を語るように相手のしていることが、いかにおかしいのかを告げた。

「ウソでしょ?!」
「何度も言わせんな、ウソでもないし、冗談でもない。事実だ」
 あまりの衝撃に、クレセントは目をかっぴらいて固まっている。

「───ここが『原典オリジナル』の世界とか、そんなことある?!……でもたしかにあまりにも精度が高すぎるのは事実だよね……。再現度高いなんてもんじゃないし、ならこの人の言うことは本当のことなのかも……??」
 ブツブツとつぶやきつづけるクレセントの顔色は、すっかり血の気が引いて真っ青だった。

「自分たちがヤラカシた罪の重さを、ちゃんと理解したか?」
 反省して、この世界に侵食してきた『ペロさん』とやらの情報を吐けとうながそうとしたところで、クレセントは真っ青にふるえるくちびるで、懸命に歯を食いしばり、こちらを見つめてきた。

「ん、どうした?」
「た、たしかにここは、ものすごく隅から隅まで『星華の刻』の世界観を再現してる場所だけど!でもっ、ここがなんだって、証拠はあるの!?」
 そしてこの期におよんでなお、まさかの反論が投げられた。

「『証拠』ねぇ……じゃあ逆に問いかえすけど、なにを見たらおまえはここが『原典オリジナル』の世界なんだって確信できるんだ?」
「えっ?!そ、それは……」
 たぶん深くかんがえていなかったんだろう、俺からの切りかえしにクレセントがまごつく。

「~~~っ、そうだっ、攻略!!無事にベルが攻略を進めて、だれかとくっつくまでを間近で見て、それが僕の知るゲームの内容と一致するなら信じてもいい!」
 たしかにそれは、これ以上ない証拠かもしれない。

 その一方で、これから先もクレセントがこの世界にとどまりつづけるってことでもあった。
 それって、どうなんだ?
 不安しかないぞ??

 でも……さっきはクレセントに制約をかけて、しゃべれないようにすることはできてたんだよなぁ。
 たぶんこの世界を司る女神様の力も、少しは回復してきているのだとしたら。

 ───いっそのこと、この世界にいてもらったほうが、こちらとしてもクレセントの言動を制限できるのか……?
 そう思った瞬間、その声は久しぶりに聞こえてきた。

世界創造者ワールドクリエイター権限を確認しました。テストプレイユーザーの追加を受諾。なお、テストプレイ中は一部機能が制限されますので、ご注意ください』

「っ!?」
「え、なに?急にビクッとなるとか、どうしたの!?」
 まるで機械で合成したようなその声は、どうやら俺にしか聞こえていないようだった。
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