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168:世界の理による強制ブロック
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なんなんだ、今の痛みは?!
絶対に、ただの体調不良なんかじゃない、そう確信させるだけの異常な痛みだった。
たぶん一瞬にも満たない今だけで、本能的に理解した。
なんの根拠もなくて、ただ直観的にわかっただけなんだけど。
「っう、ぐぅ……っ!!」
「ちょっと、マジで大丈夫なの?!脂汗浮いてるけど?!」
こちらを心配するクレセントが声をあげているのに、その声すらも遠く聞こえる。
人間、本当に痛いときってのは、逆に声も出ないらしい。
それどころか息もできなくて、クレセントの言うとおり脂汗だけが浮かんできて、指先ひとつ動かせないくらいに全身が強ばっていた。
クソッ!
なんなんだよ、これはっ!
さっきはあたまに矢でも刺さったんじゃないかって思ったけど、そうでないなら焼けた火箸を脳ミソに直接突っ込まれて、かきまわされたくらいに痛かった。
それは、ほんの一瞬の痛みではあったけど、今だってその余韻だけでも十分痛い。
まったく、意味がわかんねぇ!
なんでいきなり、こんな猛烈な痛みに襲われなきゃなんないんだよ?!
あまりにも理不尽すぎるだろ!
そうして痛む側頭部に手をあてながら、じっとしていれば、徐々に痛みは引いていく。
まだ心臓はバクバクと心拍数がハネあがったままだったけれど、それでもようやく動けるくらいにはなった。
「はぁ~~、なんなんだよ、今の……」
大きなため息とともに、ゆっくりと身を起こす。
まだちょっとズキズキと痛むものの、なんとか耐えられそうだ。
「ちょっとあなた、マジで大丈夫なの!?めちゃくちゃ酷い顔色になってるけど……」
「あぁ、悪い……急にあたまが痛くなったもんだから、ちょっとな」
あらためて大きく息を吐きながら、あたまに添えた手をそっと離す。
よし、ぶりかえしたりはしなさそうだな。
それにしても、なんでいきなりこんなことになったんだっけ??
直前の自分の行動を思い返そうとして、ハッとした。
やべぇ、あたまのなかが真っ白だ。
あまりの痛さに直前までなにをかんがえていたのか、どんな話題をしていたのかさえ抜け落ちたみたいに、なにも出てこない。
───あれ、いや、マジでなんでこんなことになったんだっけ??
でも思い出そうとすると、ズキズキと痛むあたまが、また激しく痛むぞとばかりに主張をしてくる。
冗談じゃない、あんな痛み、もう受けたくはないって!
そう思うせいで、直前までなにを話していたのか、そしてそれにたいしてどう感じていたのかとか、思い出そうとする気持ちさえもいっしょくたになって、あたまのなかから排除されていくような気がした。
「それで、主人公の性べ……んんっ!?」
「ん?どうした、クレセント?」
なにかを言いかけたクレセントが急に固まっているのに、なにがあったのかと問いかければ、あわててのどのあたりを押さえはじめた。
「ちょっ?!えぇっ??なんで話せな……っ!?」
「お、おい、大丈夫か?!」
パニックを起こしかけている相手に、とっさに声をかければ、幽霊でも見たかのような青白い顔でこちらを見つめてくる。
「なんでだろう、今話してたことを口にしようとすると、言葉が出てこなくなるんだ!おかしいだろ、こんなこと!?」
「今、話してた、こと……?」
なんだったっけ……??
たとえるならば、破り捨てた本のページのように。
描画ソフトなら、消ゴムツールを使ったときのように。
さらにもっと残念なたとえをするなら、エロマンガの白抜き修正をしたときのように、きれいさっぱりその部分だけ記憶が抜け落ちてしまっていた。
「いや、だから『星華の刻』の……っ?!ダメだ、これもしゃべれなくなるっ?!」
「お、おいっクレセント!?」
あたまをかかえて、その場にしゃがみこんでしまったクレセントにあわてて声をかける。
「なにこれぇっ!?どういうこと??!」
「落ちつけって、ほら、息は吸えるか?そしたら次は吐いて……そう、大丈夫だからゆっくりと深呼吸をして」
格子越しに声をかければ、目の前で華奢な肩が上下し、ゆっくりと落ちつきを取りもどしていくのがわかった。
「なぁクレセント、特に声に出して返事はしなくていいから聞いてほしいんだけど、今おまえは特定の内容について言及しようとすると、声が出ないとか、そういう状況に陥っているんだろ?」
たぶんそうなのだろうと、わけもなく確信していた。
案の定クレセントからは、首がもげるんじゃないかってくらい、激しく首肯される。
俺の不自然なまでの記憶の欠落と、クレセントの発言内容についての制限と。
そのふたつが重なったなら、もうそれは『偶然』じゃなくて『必然』だ。
そしてこれが『必然』によるものだというのなら───つまり今クレセントが言おうとしたことは、それこそ『世界の理』の定める禁忌に触れる内容なんだろうという推測が成り立つ。
「ならそれは、きっと俺が知ってはいけないことなんだと思う。もしくはこの世界に生きる人が、知ってはならない事柄なのかもしれない」
「どういうこと?なんでそんなことが言えるんだよ?」
クレセントの疑問はもっともだ。
「俺も今の激しい頭痛で、キレイさっぱり直前の記憶が飛んだから」
「はぁっ?!」
端的に理由をのべれば、目の前の相手からは、おどろきの声があがった。
絶対に、ただの体調不良なんかじゃない、そう確信させるだけの異常な痛みだった。
たぶん一瞬にも満たない今だけで、本能的に理解した。
なんの根拠もなくて、ただ直観的にわかっただけなんだけど。
「っう、ぐぅ……っ!!」
「ちょっと、マジで大丈夫なの?!脂汗浮いてるけど?!」
こちらを心配するクレセントが声をあげているのに、その声すらも遠く聞こえる。
人間、本当に痛いときってのは、逆に声も出ないらしい。
それどころか息もできなくて、クレセントの言うとおり脂汗だけが浮かんできて、指先ひとつ動かせないくらいに全身が強ばっていた。
クソッ!
なんなんだよ、これはっ!
さっきはあたまに矢でも刺さったんじゃないかって思ったけど、そうでないなら焼けた火箸を脳ミソに直接突っ込まれて、かきまわされたくらいに痛かった。
それは、ほんの一瞬の痛みではあったけど、今だってその余韻だけでも十分痛い。
まったく、意味がわかんねぇ!
なんでいきなり、こんな猛烈な痛みに襲われなきゃなんないんだよ?!
あまりにも理不尽すぎるだろ!
そうして痛む側頭部に手をあてながら、じっとしていれば、徐々に痛みは引いていく。
まだ心臓はバクバクと心拍数がハネあがったままだったけれど、それでもようやく動けるくらいにはなった。
「はぁ~~、なんなんだよ、今の……」
大きなため息とともに、ゆっくりと身を起こす。
まだちょっとズキズキと痛むものの、なんとか耐えられそうだ。
「ちょっとあなた、マジで大丈夫なの!?めちゃくちゃ酷い顔色になってるけど……」
「あぁ、悪い……急にあたまが痛くなったもんだから、ちょっとな」
あらためて大きく息を吐きながら、あたまに添えた手をそっと離す。
よし、ぶりかえしたりはしなさそうだな。
それにしても、なんでいきなりこんなことになったんだっけ??
直前の自分の行動を思い返そうとして、ハッとした。
やべぇ、あたまのなかが真っ白だ。
あまりの痛さに直前までなにをかんがえていたのか、どんな話題をしていたのかさえ抜け落ちたみたいに、なにも出てこない。
───あれ、いや、マジでなんでこんなことになったんだっけ??
でも思い出そうとすると、ズキズキと痛むあたまが、また激しく痛むぞとばかりに主張をしてくる。
冗談じゃない、あんな痛み、もう受けたくはないって!
そう思うせいで、直前までなにを話していたのか、そしてそれにたいしてどう感じていたのかとか、思い出そうとする気持ちさえもいっしょくたになって、あたまのなかから排除されていくような気がした。
「それで、主人公の性べ……んんっ!?」
「ん?どうした、クレセント?」
なにかを言いかけたクレセントが急に固まっているのに、なにがあったのかと問いかければ、あわててのどのあたりを押さえはじめた。
「ちょっ?!えぇっ??なんで話せな……っ!?」
「お、おい、大丈夫か?!」
パニックを起こしかけている相手に、とっさに声をかければ、幽霊でも見たかのような青白い顔でこちらを見つめてくる。
「なんでだろう、今話してたことを口にしようとすると、言葉が出てこなくなるんだ!おかしいだろ、こんなこと!?」
「今、話してた、こと……?」
なんだったっけ……??
たとえるならば、破り捨てた本のページのように。
描画ソフトなら、消ゴムツールを使ったときのように。
さらにもっと残念なたとえをするなら、エロマンガの白抜き修正をしたときのように、きれいさっぱりその部分だけ記憶が抜け落ちてしまっていた。
「いや、だから『星華の刻』の……っ?!ダメだ、これもしゃべれなくなるっ?!」
「お、おいっクレセント!?」
あたまをかかえて、その場にしゃがみこんでしまったクレセントにあわてて声をかける。
「なにこれぇっ!?どういうこと??!」
「落ちつけって、ほら、息は吸えるか?そしたら次は吐いて……そう、大丈夫だからゆっくりと深呼吸をして」
格子越しに声をかければ、目の前で華奢な肩が上下し、ゆっくりと落ちつきを取りもどしていくのがわかった。
「なぁクレセント、特に声に出して返事はしなくていいから聞いてほしいんだけど、今おまえは特定の内容について言及しようとすると、声が出ないとか、そういう状況に陥っているんだろ?」
たぶんそうなのだろうと、わけもなく確信していた。
案の定クレセントからは、首がもげるんじゃないかってくらい、激しく首肯される。
俺の不自然なまでの記憶の欠落と、クレセントの発言内容についての制限と。
そのふたつが重なったなら、もうそれは『偶然』じゃなくて『必然』だ。
そしてこれが『必然』によるものだというのなら───つまり今クレセントが言おうとしたことは、それこそ『世界の理』の定める禁忌に触れる内容なんだろうという推測が成り立つ。
「ならそれは、きっと俺が知ってはいけないことなんだと思う。もしくはこの世界に生きる人が、知ってはならない事柄なのかもしれない」
「どういうこと?なんでそんなことが言えるんだよ?」
クレセントの疑問はもっともだ。
「俺も今の激しい頭痛で、キレイさっぱり直前の記憶が飛んだから」
「はぁっ?!」
端的に理由をのべれば、目の前の相手からは、おどろきの声があがった。
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