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167:とんでもない新解釈
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「───というわけだ。どうだ、あんまり聞いてて楽しいものではなかっただろ?」
特にパレルモ様のことを溺愛するクレセントにとっては、その実家であるライムホルン家の闇を垣間見ることになるわけで、けっして愉快な気持ちなんかではないと思う。
片や筆頭公爵家という政治力と軍事力にすぐれた家と、片や全国展開する商会を経営する経済力にすぐれた、しかしその分、敵も非常に多い伯爵家と。
その力関係は、あきらかにうちのダグラス伯爵家が庇護を受けなければならない以上、絶対に逆らうことなんてできないものになっていた。
ここまではまぁ、公式情報として明かされている部分だ。
だから『金魚のフン』、『パレルモの影』なんて揶揄されるほど、常に原作テイラーがパレルモ様につきしたがっているのだという理由として、わかりやすい説明になっている。
問題は、その先にある。
この力関係を維持し、けっして逆らおうとしないように、ライムホルン公爵がなにをしてきたのか、というそこに。
そんなわけで、ライムホルン公爵の不興を買った俺の代わりに乳母が目の前で斬首された話を告げたものの、クレセントがどういう反応を見せるのかわからなくて、内心ではほんの少しだけ怖くもあった。
ある意味で、公式によって伏せられていた秘密情報みたいなものだもんな、これは。
「~~~っ、なんなんだよ、それ……」
案の定クレセントはうつむいてしまって、肩をふるわせている。
そりゃ、ショックだよなぁ。
「……まぁそういうわけだから、逃げ出しても意味がなかったってことで。幸いにして今のパレルモ様なら、そんな禁呪に手を出してまでヒロインやリオン殿下をどうにかしようなんてことにもならないだろうから、ある意味でホッとしてるんだけどな?」
あえて口調を軽く、なんてことのないようにふるまう。
「───じゃん……そんなのって……」
「ん?」
ブツブツとつぶやくクレセントは、片手を口もとにあて、もう片方の手をそのひじのところに添えていた。
「それはもはや『囚われの姫君』じゃん!?さもなくば『生け贄として捧げられた姫』でしょ!!家のために我が身を犠牲にし、絶対服従することを余儀なくされるとか……なにそれ設定としてドチャクソ萌えるんですけどぉっ!!」
「はあぁ??!」
急になにを言い出すんだろうか、コイツは!?
「だってそうでしょ、あなたの実家がパレくんの実家に庇護してもらう代わりに差し出された、人身御供ってとこなんでしょ?それこそ、自由なんてないような」
胸をそらしたクレセントに、ドヤ顔で言い切られる。
「だからって、なんで『姫』なんだよ!?そこはただの『従者』とか『下僕』とかじゃないのかよ?!」
自由がないのもあっているし、人身御供ってのも、ある意味で正解だけどさ!
「そんなの今のあなたを見ればわかるでしょ、いかにもな愛され系の『受』なんだから」
「ちょっ……それはおかしいだろ!」
テイラーは断じて、『受』なんかじゃないハズだ!
目の前にいるクレセントや、ブレイン殿下の元恋人のマオトのように、小柄で華奢な、中性的な見た目をしているというわけでもない。
そんなふつうの男子の外見をしていて、どこが『いかにも』になるのやら……。
なのに。
「はぁ~~、自覚ないってのも面倒だな、もう!だからさぁ、最初に言ったじゃん?今のあなたは、『恋する乙女』同様のキラめきを持ってんの!それでいて『めちゃくちゃ男に抱かれてます』みたいな、人妻のような色香もただよわせちゃってんだよ!そりゃもう思わず啼かせたくなるような、えっちなお兄さんになってるんだってば」
「んんっ!??」
ちょっと待て、いきなりなにを言い出すんだか!?
「しかしまぁ……想像すらしてなかったけど、まさかの『重たい過去持ち』かぁ……。でもそれなら、あなたが突然のヒロインムーブメントしはじめたのも納得したというか。もう設定からしてハードモードな悪役令嬢転生ヒロイン並みだもんね……いずれにしても主人公レベルの背景持ちなのは、まちがいないじゃん!」
両腕を組んだクレセントにしみじみと言われ、どうかえしたらいいのか、わからなくてとまどう。
「そうは言っても、あくまでも主役はベル・パプリカだからな。俺じゃない」
ここだけはゆずれない主張というか、『星華の刻』は乙女ゲームであって、断じてBLゲームじゃないんだってば!
「う~ん、でもどう見ても攻略対象キャラたちは、あなたに攻略されているようにしか見えないんだけどねぇ」
ナチュラルに核心へと切り込まれ、ドキリとした。
「それはっ……まぁ、その……そこは否定しないけど……」
「しないんだ?!じゃあやっぱり、あのウワサは本当だったのかな……?」
「ん?あのウワサ……?」
なんだろう、ファンのあいだでウワサになるようなことなんてあったのか?
「そう、僕もペロさんからこっそり聞かせてもらったんだけどね。ディープなファンのあいだで、まことしやかにささやかれているのが、近々『星華の刻』が大幅リニューアルするっていう話。しかも今度の主役は、性別が選べるとかなんとかっていう」
人差し指を立てたクレセントが、誇らしげに口にする。
「なんだって?!大幅リニューアル?!聞いてないぞ、そんなのっ!!」
そんなの企画があがっていたなら、真っ先にスタッフのところに話が来ているハズだろう!?
思わずさけんでしまってから、あわてて口をふさごうとしたそのとき。
ズキンッ!
「ぅぐぅっ!!」
その瞬間、激しくあたまが痛んだ。
それこそ矢でも刺さったんじゃないかって思うくらいの激痛に、ひざの力が抜けかかる。
「~~~~っ!!」
あまりの痛みに、あたまのなかが真っ白に染まっていく。
平衡感覚すら失われそうなそれに、あわてて目の前にかすみがかって見える格子をつかみ、かろうじて踏みとどまった。
特にパレルモ様のことを溺愛するクレセントにとっては、その実家であるライムホルン家の闇を垣間見ることになるわけで、けっして愉快な気持ちなんかではないと思う。
片や筆頭公爵家という政治力と軍事力にすぐれた家と、片や全国展開する商会を経営する経済力にすぐれた、しかしその分、敵も非常に多い伯爵家と。
その力関係は、あきらかにうちのダグラス伯爵家が庇護を受けなければならない以上、絶対に逆らうことなんてできないものになっていた。
ここまではまぁ、公式情報として明かされている部分だ。
だから『金魚のフン』、『パレルモの影』なんて揶揄されるほど、常に原作テイラーがパレルモ様につきしたがっているのだという理由として、わかりやすい説明になっている。
問題は、その先にある。
この力関係を維持し、けっして逆らおうとしないように、ライムホルン公爵がなにをしてきたのか、というそこに。
そんなわけで、ライムホルン公爵の不興を買った俺の代わりに乳母が目の前で斬首された話を告げたものの、クレセントがどういう反応を見せるのかわからなくて、内心ではほんの少しだけ怖くもあった。
ある意味で、公式によって伏せられていた秘密情報みたいなものだもんな、これは。
「~~~っ、なんなんだよ、それ……」
案の定クレセントはうつむいてしまって、肩をふるわせている。
そりゃ、ショックだよなぁ。
「……まぁそういうわけだから、逃げ出しても意味がなかったってことで。幸いにして今のパレルモ様なら、そんな禁呪に手を出してまでヒロインやリオン殿下をどうにかしようなんてことにもならないだろうから、ある意味でホッとしてるんだけどな?」
あえて口調を軽く、なんてことのないようにふるまう。
「───じゃん……そんなのって……」
「ん?」
ブツブツとつぶやくクレセントは、片手を口もとにあて、もう片方の手をそのひじのところに添えていた。
「それはもはや『囚われの姫君』じゃん!?さもなくば『生け贄として捧げられた姫』でしょ!!家のために我が身を犠牲にし、絶対服従することを余儀なくされるとか……なにそれ設定としてドチャクソ萌えるんですけどぉっ!!」
「はあぁ??!」
急になにを言い出すんだろうか、コイツは!?
「だってそうでしょ、あなたの実家がパレくんの実家に庇護してもらう代わりに差し出された、人身御供ってとこなんでしょ?それこそ、自由なんてないような」
胸をそらしたクレセントに、ドヤ顔で言い切られる。
「だからって、なんで『姫』なんだよ!?そこはただの『従者』とか『下僕』とかじゃないのかよ?!」
自由がないのもあっているし、人身御供ってのも、ある意味で正解だけどさ!
「そんなの今のあなたを見ればわかるでしょ、いかにもな愛され系の『受』なんだから」
「ちょっ……それはおかしいだろ!」
テイラーは断じて、『受』なんかじゃないハズだ!
目の前にいるクレセントや、ブレイン殿下の元恋人のマオトのように、小柄で華奢な、中性的な見た目をしているというわけでもない。
そんなふつうの男子の外見をしていて、どこが『いかにも』になるのやら……。
なのに。
「はぁ~~、自覚ないってのも面倒だな、もう!だからさぁ、最初に言ったじゃん?今のあなたは、『恋する乙女』同様のキラめきを持ってんの!それでいて『めちゃくちゃ男に抱かれてます』みたいな、人妻のような色香もただよわせちゃってんだよ!そりゃもう思わず啼かせたくなるような、えっちなお兄さんになってるんだってば」
「んんっ!??」
ちょっと待て、いきなりなにを言い出すんだか!?
「しかしまぁ……想像すらしてなかったけど、まさかの『重たい過去持ち』かぁ……。でもそれなら、あなたが突然のヒロインムーブメントしはじめたのも納得したというか。もう設定からしてハードモードな悪役令嬢転生ヒロイン並みだもんね……いずれにしても主人公レベルの背景持ちなのは、まちがいないじゃん!」
両腕を組んだクレセントにしみじみと言われ、どうかえしたらいいのか、わからなくてとまどう。
「そうは言っても、あくまでも主役はベル・パプリカだからな。俺じゃない」
ここだけはゆずれない主張というか、『星華の刻』は乙女ゲームであって、断じてBLゲームじゃないんだってば!
「う~ん、でもどう見ても攻略対象キャラたちは、あなたに攻略されているようにしか見えないんだけどねぇ」
ナチュラルに核心へと切り込まれ、ドキリとした。
「それはっ……まぁ、その……そこは否定しないけど……」
「しないんだ?!じゃあやっぱり、あのウワサは本当だったのかな……?」
「ん?あのウワサ……?」
なんだろう、ファンのあいだでウワサになるようなことなんてあったのか?
「そう、僕もペロさんからこっそり聞かせてもらったんだけどね。ディープなファンのあいだで、まことしやかにささやかれているのが、近々『星華の刻』が大幅リニューアルするっていう話。しかも今度の主役は、性別が選べるとかなんとかっていう」
人差し指を立てたクレセントが、誇らしげに口にする。
「なんだって?!大幅リニューアル?!聞いてないぞ、そんなのっ!!」
そんなの企画があがっていたなら、真っ先にスタッフのところに話が来ているハズだろう!?
思わずさけんでしまってから、あわてて口をふさごうとしたそのとき。
ズキンッ!
「ぅぐぅっ!!」
その瞬間、激しくあたまが痛んだ。
それこそ矢でも刺さったんじゃないかって思うくらいの激痛に、ひざの力が抜けかかる。
「~~~~っ!!」
あまりの痛みに、あたまのなかが真っ白に染まっていく。
平衡感覚すら失われそうなそれに、あわてて目の前にかすみがかって見える格子をつかみ、かろうじて踏みとどまった。
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