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160:公式の『なかの人』ゆえの違和感
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「たとえあなたにそのつもりがなかったとしても、結果としてあなたのせいで、パレくんが皆から愛されるしあわせな日々は奪われたの!それに愛してやまない『星華の刻』の世界で生きるっていう、僕の夢みたいな日々だって早々に奪われたんだから!全部あなたのせいでしょ、返せよ!」
格子をつかみ、激昂するクレセントに苦々しい気持ちが広がっていく。
「……あのなぁ、そもそも原作のパレルモ様はまわりの皆から溺愛されてる描写なんてなかったハズだろ?それがなんで愛されていることになるのか、ちゃんとした理由はかんがえてるのか?」
「はぁ?理由??そんなものかんがえるまでもないでしょ、パレくんはすでに存在からして天使じゃないですか!」
俺からの問いかけに、クレセントはコブシをふりあげて持論を自信満々に提起する。
「なにしろ、見た目がもう天才すぎる!!まるでビスクドールみたいに、こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳、白くてキメの細かい肌!小首をかしげるときの、あざといまでの可愛らしいしぐさなんて、もはやヒロインがはだしで逃げ出すレベルの受けの天才でしかないでしょう!?そんなのもう、だれからも愛されるしかないよね!!」
そして微塵もゆらぐことのない自信に満ちた表情で、ひと息でそこまでを言いきった。
「───それって、たいした理由はないけれど、見た目がかわいいってだけでの一点突破ってことか?」
そう問いかえす己の声は思った以上に、不機嫌さを隠せないものになってしまっていた。
でもしょうがないだろ、これは最前から俺が、イラついていたことなんだから!
パレルモ様が原作とは異なり、皆から溺愛される設定にしたいというのなら、その理由をかんがえて、元々の世界観と齟齬がないように作り込んでほしいっていう。
「なに言ってるんですか!性格もですよ!うちのパレくんが天使なのは、見た目だけじゃなくて性格もですー!ものすごいピュアだし、めちゃくちゃ偉い公爵家の跡継ぎなのに、全然それを鼻にかけないんですよ?身分を問わず、皆にやさしいんですぅ!現に僕を寮で同室にしてくれたし♪」
うれしそうなクレセントに、胃痛とともに頭痛までしてきた。
こんなの、俺の心がせまいだけなのかもしれない。
でも今のセリフのなかには、公式の『なかの人』のひとりとして、聞き逃せない単語がまじっていた。
───そう、その単語とは『うちのパレくん』だ。
それがクレセントのセリフのなかでは、『自分のところの子』という意味で使われているのは明白だった。
ちょっと待て、おまえはパレルモ様の生みの親でもなんでもないだろうが!!
これでも俺にはホンモノの『なかの人』として、この『星華の刻』の世界を創りあげた一員としての自負がある。
俺にとって『星華の刻』に出てくるキャラクターは、等しく我が子のようにかわいい存在なんだ。
だから今のクレセントの言う『うちのパレくん』発言には、自分の子どもを他人から『私の子です』と紹介されたような気持ちの悪さが否めなかった。
……まぁ、前世の俺がシナリオライターとして担当していたのはセブンだったから、そこまで原作パレルモに思い入れがあるわけではないから、たとえるなら、知人の子を赤の他人が『私の子です』と紹介してきたくらいの違和感にすぎないのかもしれないけど。
この感覚は、たぶんきっと、原作者側に立つ人物にしかわからないものだと思う。
ある意味で、二次創作をする人にとっても自作のマンガやイラスト、小説なんかに出てくるキャラクタにたいして、『うちの子』という感覚はあるものだろうし。
だからもちろん相手が、深い意味で使ったわけじゃないんだろうなってことはわかっている。
わかってはいるのに、どうしても座りが悪くてたまらなかった。
冷静になるんだ。
そうじゃなければ、相手を説得なんてできっこないんだから。
下手に糾弾なんかして相手が感情をこじらせてしまったら、解決できるハズのことさえ迷宮入りになってしまう。
そう思うからこそ、まずは深呼吸をくりかえして、必死に気持ちをしずめようとした。
「……だいたい、そのおやさしいパレルモ様の言動のシワ寄せは、全部俺に来ただけだったけどな。それにあくまでも今おまえが言った性格とか、二次創作のなかだけの話だろ!」
ただ、やっぱり胸のモヤモヤは晴れなくて、どうしても口調はトゲトゲしいものになってしまったけれど。
「なに言ってるんですか、この世界でのパレくんは現にそうじゃないですか!」
「だからそれが、勝手にくわえられた改変なんだってば!」
思わずツッコんでしまったところで、ハッとして口をつぐむ。
片や自分にとって都合のいい世界、片やいかなる改変からも守らなければならない大事な原点の世界。
たぶんおたがいに、この世界にたいする認識が異なっているからこそ、こうも意見がすれちがうんだろうな……。
少なくとも公式の『なかの人』として、前世の俺が知っていた原作パレルモのキャラクター設定には、はっきりと『悪どい』だとか『計算高い』とか書かれているし、『徹底した身分主義で育ってきたせいで、身分の低い貴族や平民を見下す傾向がある』と書かれていたハズだ。
それをかんがえたら、これはもうあきらかな原作を無視した、その人物にとってのみ都合のいい改変でしかないだろ!
原作者側のひとりとして名を連ねる身としては、二次創作の世界でなら、いくらでもやってもらってかまわないそれも、原作の世界にまでその設定を持ち込もうとするのであれば、やっぱり見逃せるハズがなかった。
いまだ縮む気配も見えないおたがいの主張の開きに、頭痛は増していくばかりだった。
格子をつかみ、激昂するクレセントに苦々しい気持ちが広がっていく。
「……あのなぁ、そもそも原作のパレルモ様はまわりの皆から溺愛されてる描写なんてなかったハズだろ?それがなんで愛されていることになるのか、ちゃんとした理由はかんがえてるのか?」
「はぁ?理由??そんなものかんがえるまでもないでしょ、パレくんはすでに存在からして天使じゃないですか!」
俺からの問いかけに、クレセントはコブシをふりあげて持論を自信満々に提起する。
「なにしろ、見た目がもう天才すぎる!!まるでビスクドールみたいに、こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳、白くてキメの細かい肌!小首をかしげるときの、あざといまでの可愛らしいしぐさなんて、もはやヒロインがはだしで逃げ出すレベルの受けの天才でしかないでしょう!?そんなのもう、だれからも愛されるしかないよね!!」
そして微塵もゆらぐことのない自信に満ちた表情で、ひと息でそこまでを言いきった。
「───それって、たいした理由はないけれど、見た目がかわいいってだけでの一点突破ってことか?」
そう問いかえす己の声は思った以上に、不機嫌さを隠せないものになってしまっていた。
でもしょうがないだろ、これは最前から俺が、イラついていたことなんだから!
パレルモ様が原作とは異なり、皆から溺愛される設定にしたいというのなら、その理由をかんがえて、元々の世界観と齟齬がないように作り込んでほしいっていう。
「なに言ってるんですか!性格もですよ!うちのパレくんが天使なのは、見た目だけじゃなくて性格もですー!ものすごいピュアだし、めちゃくちゃ偉い公爵家の跡継ぎなのに、全然それを鼻にかけないんですよ?身分を問わず、皆にやさしいんですぅ!現に僕を寮で同室にしてくれたし♪」
うれしそうなクレセントに、胃痛とともに頭痛までしてきた。
こんなの、俺の心がせまいだけなのかもしれない。
でも今のセリフのなかには、公式の『なかの人』のひとりとして、聞き逃せない単語がまじっていた。
───そう、その単語とは『うちのパレくん』だ。
それがクレセントのセリフのなかでは、『自分のところの子』という意味で使われているのは明白だった。
ちょっと待て、おまえはパレルモ様の生みの親でもなんでもないだろうが!!
これでも俺にはホンモノの『なかの人』として、この『星華の刻』の世界を創りあげた一員としての自負がある。
俺にとって『星華の刻』に出てくるキャラクターは、等しく我が子のようにかわいい存在なんだ。
だから今のクレセントの言う『うちのパレくん』発言には、自分の子どもを他人から『私の子です』と紹介されたような気持ちの悪さが否めなかった。
……まぁ、前世の俺がシナリオライターとして担当していたのはセブンだったから、そこまで原作パレルモに思い入れがあるわけではないから、たとえるなら、知人の子を赤の他人が『私の子です』と紹介してきたくらいの違和感にすぎないのかもしれないけど。
この感覚は、たぶんきっと、原作者側に立つ人物にしかわからないものだと思う。
ある意味で、二次創作をする人にとっても自作のマンガやイラスト、小説なんかに出てくるキャラクタにたいして、『うちの子』という感覚はあるものだろうし。
だからもちろん相手が、深い意味で使ったわけじゃないんだろうなってことはわかっている。
わかってはいるのに、どうしても座りが悪くてたまらなかった。
冷静になるんだ。
そうじゃなければ、相手を説得なんてできっこないんだから。
下手に糾弾なんかして相手が感情をこじらせてしまったら、解決できるハズのことさえ迷宮入りになってしまう。
そう思うからこそ、まずは深呼吸をくりかえして、必死に気持ちをしずめようとした。
「……だいたい、そのおやさしいパレルモ様の言動のシワ寄せは、全部俺に来ただけだったけどな。それにあくまでも今おまえが言った性格とか、二次創作のなかだけの話だろ!」
ただ、やっぱり胸のモヤモヤは晴れなくて、どうしても口調はトゲトゲしいものになってしまったけれど。
「なに言ってるんですか、この世界でのパレくんは現にそうじゃないですか!」
「だからそれが、勝手にくわえられた改変なんだってば!」
思わずツッコんでしまったところで、ハッとして口をつぐむ。
片や自分にとって都合のいい世界、片やいかなる改変からも守らなければならない大事な原点の世界。
たぶんおたがいに、この世界にたいする認識が異なっているからこそ、こうも意見がすれちがうんだろうな……。
少なくとも公式の『なかの人』として、前世の俺が知っていた原作パレルモのキャラクター設定には、はっきりと『悪どい』だとか『計算高い』とか書かれているし、『徹底した身分主義で育ってきたせいで、身分の低い貴族や平民を見下す傾向がある』と書かれていたハズだ。
それをかんがえたら、これはもうあきらかな原作を無視した、その人物にとってのみ都合のいい改変でしかないだろ!
原作者側のひとりとして名を連ねる身としては、二次創作の世界でなら、いくらでもやってもらってかまわないそれも、原作の世界にまでその設定を持ち込もうとするのであれば、やっぱり見逃せるハズがなかった。
いまだ縮む気配も見えないおたがいの主張の開きに、頭痛は増していくばかりだった。
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