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153:ある意味で圧倒的勝利
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いつものように、ブレイン殿下と言葉のじゃれ合いをしていたら、なぜかそれをマオトにうらやましがられた。
そうは言っても、それってたんに俺が失礼なヤツだという意味でしかないような気がする。
まさか、本当にそのとおりだったとか?!
でもそれだったら、うらやましくもなんともないよな??
「またどうせキミのことだから、トンチンカンなことをかんがえているんでしょうね……」
「むっ、ソンナコトハナイ…ハズ……」
そんな俺の疑問は顔に出ていたらしい、またもや真横からするどいツッコミが入った。
「キミは賢いようでいて、案外自分のこととなると、とたんにポンコツになるからなぁ……」
「なんですか、『ポンコツ』って!?」
ちょっと、いくらなんでもそれは聞き捨てならないだろ!
「おや、気にくわなかったかな?じゃあ言い直そう、キミは自分のこととなると、とたんに正しい評価が下せなくなるんだ。やたらと過小評価をしがちと言うか……」
ほっぺたに手をあてたブレイン殿下に、しみじみとため息をつかれ、ますます疑問符があたまのまわりを飛び交う。
「まぁでも、安心するといいよ。キミが過小評価をしたところで、私が正しく君を評価するからね。そんなポンコツだろうと、まちがいなくキミは私の最愛の恋人だ」
「ちょっ……!」
俺の手を取って指先にキスをするブレイン殿下に、気はずかしさが止まらない。
「照れるキミの姿を見るのも楽しいけれど、いつも私ばかりが『好きだ』『愛している』と告げている気がするんだけどね。たまにはキミから言ってくれても、罰は当たらないと思うんだけど?」
「えっ?いや、あの……」
だからマオトの前でわざとこういうことするの、どんだけ相手をあおれば気が済むんだよ?!
「……本当に、そういうところですよ。あなたと僕とで、決定的にちがうところは……」
思わず苦情を申し立てようとしたそのとき、ふたたびマオトが口を開いた。
「それはいったい、どういうことで……?」
「これまでのブレイン様の寵愛をいただいてきたものは皆、ただその愛をあたえられてきただけなんです」
「『愛をあたえられるだけ』って、それって溺愛されてるってことではなくて?」
「えぇ、まったくちがいます」
マオトの発言に、しかし俺はうまく理解できずに首をかしげる。
俺みたいにからかわれたりせず、ただ愛されてるだけなら、大事にされてるってことじゃないのか??
「もちろん僕だって身も心もブレイン様にささげていたつもりでしたが、肝心のブレイン様は、こちらからの愛を決して欲してはくださらないのです……」
さびしげにほほ笑むマオトの顔を見て、キュッと胸のあたりが痛くなる。
「あーうん、そっか……そういうことか……」
その表情は、なによりもマオトの感じる悲しみを雄弁に語っていた。
そのおかげで腑に落ちたというか、彼が言わんとしていることの意味がようやく理解できた。
一方的に愛でるだけっていうのは、いわば飼っている犬や猫なんかの愛玩動物を愛でるのと変わらないわけで、それってつまりは全然立場が対等じゃないってことだろ。
それに、だれだって自分が好きな人からは、自分も好かれたい、愛されたいって思うものだもんな?
それを決して求めてこないということは───つまりは、そういうことだ。
気が向いたときだけ愛で、飽きたら心が離れていく。
それこそ『星華の刻』の公式設定に『男女を問わず、数々の浮き名を流してきた恋多き男』とあるように、ゲームのキャラクターとしてのブレイン殿下の印象そのままの行動じゃないか!
「あなたがそばにいらっしゃるときのブレイン様は、実に表情豊かで、ときに甘え、困らせ、愛をねだられておいででした……僕には決して、お見せにならなかったお顔ばかりです」
これはもう、マオトからの事実上の完敗宣言みたいなものだった。
「マオト……」
「フフ、賢い子は嫌いじゃないよ。本当に、キミが変わってしまわなければ、もう少し愛でていてもよかったのだけどね?」
やっぱり、どこぞのご令嬢の謀略でマオトが変わってしまったことが原因とか……悲しすぎるだろ!
「───そのお言葉だけで十分です。どうぞあなた様の最愛のお方を傷つけようとした罰を、我ら兄弟におあたえくださいませ」
その場でスッとひざをつき、懺悔の姿勢を見せるマオトにブレイン殿下は目を細めた。
これ、彼らに下す処分について、どうしようか最終的な検討に入ってるんだよな?
ということは、裏をかえせば現時点ではまだ固まってないってことだろ!
なら、こういうのは早い者勝ちだ。
「ひとつ提案なんですけど、ここはひとつ、取引をするというのはどうでしょう?」
「うん?どういうことかな?」
俺からの提案に、ブレイン殿下はさっそく反応してくれる。
「マオトたち兄弟が持つ情報をすなおに話してもらう代わりに、彼らの減刑をするという取引です。こちらは聞きたい情報をすぐに手に入れられますし、メリットはあると思うんですよね」
俺が今提案したのは、海外なんかではよくある司法取引のようなものだ。
ほら、ブレイン殿下はロコトから話を聞き出すのに、ゴリラみたいに屈強な相手がぐったりしてしまうくらい、あれこれしないといけなかったみたいだし?
ついでに言えば、今回の俺は被害者側なんだから、少しくらいはワガママを言ってもいいと思うんだよね。
「ふぅむ……しかしロコトがキミに使った毒物を入手した経路なら、すでに聞き出しているけれど?」
言外に欲しい情報はもうないと言わんばかりのブレイン殿下に、苦笑をもらす。
「やっぱりロコトは、それが毒と知らずに受け取ってたんですよね?」
「あぁ、さすがにそれはキミも気づいていたか」
念のために確認してみれば、案の定肯定された。
「そうですね、それは使う前の本人の言動から想像つきました。さて、ここからが俺の提案のミソなんですけども……」
さて、ここでプレゼンを失敗するわけにはいかない。
マオトたち兄弟を救いつつ、黒幕を追いつめるためには、彼らの協力が不可欠なのだから。
軽く息を吸うと、あらためてブレイン殿下の目をじっと見つめた。
そうは言っても、それってたんに俺が失礼なヤツだという意味でしかないような気がする。
まさか、本当にそのとおりだったとか?!
でもそれだったら、うらやましくもなんともないよな??
「またどうせキミのことだから、トンチンカンなことをかんがえているんでしょうね……」
「むっ、ソンナコトハナイ…ハズ……」
そんな俺の疑問は顔に出ていたらしい、またもや真横からするどいツッコミが入った。
「キミは賢いようでいて、案外自分のこととなると、とたんにポンコツになるからなぁ……」
「なんですか、『ポンコツ』って!?」
ちょっと、いくらなんでもそれは聞き捨てならないだろ!
「おや、気にくわなかったかな?じゃあ言い直そう、キミは自分のこととなると、とたんに正しい評価が下せなくなるんだ。やたらと過小評価をしがちと言うか……」
ほっぺたに手をあてたブレイン殿下に、しみじみとため息をつかれ、ますます疑問符があたまのまわりを飛び交う。
「まぁでも、安心するといいよ。キミが過小評価をしたところで、私が正しく君を評価するからね。そんなポンコツだろうと、まちがいなくキミは私の最愛の恋人だ」
「ちょっ……!」
俺の手を取って指先にキスをするブレイン殿下に、気はずかしさが止まらない。
「照れるキミの姿を見るのも楽しいけれど、いつも私ばかりが『好きだ』『愛している』と告げている気がするんだけどね。たまにはキミから言ってくれても、罰は当たらないと思うんだけど?」
「えっ?いや、あの……」
だからマオトの前でわざとこういうことするの、どんだけ相手をあおれば気が済むんだよ?!
「……本当に、そういうところですよ。あなたと僕とで、決定的にちがうところは……」
思わず苦情を申し立てようとしたそのとき、ふたたびマオトが口を開いた。
「それはいったい、どういうことで……?」
「これまでのブレイン様の寵愛をいただいてきたものは皆、ただその愛をあたえられてきただけなんです」
「『愛をあたえられるだけ』って、それって溺愛されてるってことではなくて?」
「えぇ、まったくちがいます」
マオトの発言に、しかし俺はうまく理解できずに首をかしげる。
俺みたいにからかわれたりせず、ただ愛されてるだけなら、大事にされてるってことじゃないのか??
「もちろん僕だって身も心もブレイン様にささげていたつもりでしたが、肝心のブレイン様は、こちらからの愛を決して欲してはくださらないのです……」
さびしげにほほ笑むマオトの顔を見て、キュッと胸のあたりが痛くなる。
「あーうん、そっか……そういうことか……」
その表情は、なによりもマオトの感じる悲しみを雄弁に語っていた。
そのおかげで腑に落ちたというか、彼が言わんとしていることの意味がようやく理解できた。
一方的に愛でるだけっていうのは、いわば飼っている犬や猫なんかの愛玩動物を愛でるのと変わらないわけで、それってつまりは全然立場が対等じゃないってことだろ。
それに、だれだって自分が好きな人からは、自分も好かれたい、愛されたいって思うものだもんな?
それを決して求めてこないということは───つまりは、そういうことだ。
気が向いたときだけ愛で、飽きたら心が離れていく。
それこそ『星華の刻』の公式設定に『男女を問わず、数々の浮き名を流してきた恋多き男』とあるように、ゲームのキャラクターとしてのブレイン殿下の印象そのままの行動じゃないか!
「あなたがそばにいらっしゃるときのブレイン様は、実に表情豊かで、ときに甘え、困らせ、愛をねだられておいででした……僕には決して、お見せにならなかったお顔ばかりです」
これはもう、マオトからの事実上の完敗宣言みたいなものだった。
「マオト……」
「フフ、賢い子は嫌いじゃないよ。本当に、キミが変わってしまわなければ、もう少し愛でていてもよかったのだけどね?」
やっぱり、どこぞのご令嬢の謀略でマオトが変わってしまったことが原因とか……悲しすぎるだろ!
「───そのお言葉だけで十分です。どうぞあなた様の最愛のお方を傷つけようとした罰を、我ら兄弟におあたえくださいませ」
その場でスッとひざをつき、懺悔の姿勢を見せるマオトにブレイン殿下は目を細めた。
これ、彼らに下す処分について、どうしようか最終的な検討に入ってるんだよな?
ということは、裏をかえせば現時点ではまだ固まってないってことだろ!
なら、こういうのは早い者勝ちだ。
「ひとつ提案なんですけど、ここはひとつ、取引をするというのはどうでしょう?」
「うん?どういうことかな?」
俺からの提案に、ブレイン殿下はさっそく反応してくれる。
「マオトたち兄弟が持つ情報をすなおに話してもらう代わりに、彼らの減刑をするという取引です。こちらは聞きたい情報をすぐに手に入れられますし、メリットはあると思うんですよね」
俺が今提案したのは、海外なんかではよくある司法取引のようなものだ。
ほら、ブレイン殿下はロコトから話を聞き出すのに、ゴリラみたいに屈強な相手がぐったりしてしまうくらい、あれこれしないといけなかったみたいだし?
ついでに言えば、今回の俺は被害者側なんだから、少しくらいはワガママを言ってもいいと思うんだよね。
「ふぅむ……しかしロコトがキミに使った毒物を入手した経路なら、すでに聞き出しているけれど?」
言外に欲しい情報はもうないと言わんばかりのブレイン殿下に、苦笑をもらす。
「やっぱりロコトは、それが毒と知らずに受け取ってたんですよね?」
「あぁ、さすがにそれはキミも気づいていたか」
念のために確認してみれば、案の定肯定された。
「そうですね、それは使う前の本人の言動から想像つきました。さて、ここからが俺の提案のミソなんですけども……」
さて、ここでプレゼンを失敗するわけにはいかない。
マオトたち兄弟を救いつつ、黒幕を追いつめるためには、彼らの協力が不可欠なのだから。
軽く息を吸うと、あらためてブレイン殿下の目をじっと見つめた。
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