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152:ふたりの不思議な距離感に
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言うなれば今の俺は、ブレイン殿下による策略にハメられて負けた感じになっていたけれど、その感覚は思っていたよりも悪いものではなかった。
……いや、こうして人前でキスされるのは、思いっきりはずかしいんだけども。
「あの……人前なんで、そろそろヤメテもらえませんかね……?」
そう問いかけるのがやっとだったけど、残念ながらそれは笑顔でスルーされる。
うぅ、こういうの困るんだよなぁ……。
今はマオトの前にいるわけで、彼にしてみればこんなふうに目の前でイチャつかれるのなんて、これでもかと嫉妬心をあおられるような気がするってのにさ。
つーか、俺ならキレてるぞ、まちがいなく。
おかげで怖くて、さっきからマオトのほうを見られていない。
俺的にはマオトを助けにきたつもりなのに、これじゃトドメを刺しに来たようなモンじゃねーか!って。
「キミは、あいかわらず無自覚すぎるようだけど……だいたいキミが私の『恋人』として周囲に認識されてから、今回の件をのぞいて、直接的にキミが攻撃されたことはあったかい?それがなによりの、周囲からのキミへの評価だと思うけれど」
そう問われ、はたと動きが止まる。
「それ、は……俺が『ダグラス家の人間』だから、下手なことをして復讐されるのを警戒しているからとか、俺の見た目が地味すぎて、ひとりでいると個体識別できないとか……?」
そうこたえながらも、やや苦しい言いわけにも聞こえていた。
テイラーはゲーム本編でもパレルモ様の影として付き従うだけのビミョーなモブキャラだから、あまり個人として周囲から認識されていないって点は十分ありえるかもしれないけど。
でもさすがにこのところ悪目立ちをしている自覚はあるから、そろそろ個体識別くらいはされていてもいいような気もする。
「……だとしたらおかしくないですか?だって俺、さぞ周囲からの嫉妬をあつめているんだろうとは思っていたのに、今のところ直接なにかをされたこととか、まだないんですけど?!」
というより、俺にたいする悪意を直接ぶつけてきたのは、ニセモノのベルだけだ。
「だからそれが、周囲からのキミへの評価ってことだろう?」
「……いやいやいや、おかしいですって。ブレイン殿下の『下僕』とかならまだしも、『恋人』ですよ??どう見ても釣り合ってないじゃないですか!」
分不相応だと言われても仕方ないくらい、ブレイン殿下と俺とではメインキャラとモブキャラの差があるし、あきらかに作画だってちがうもんなぁ?
「……ひょっとして、ブレイン殿下が背後から手をまわしてたりするとか?」
「いや、そんなことはないよ。それならそもそも今回、キミを危険にさらすことはなかっただろう」
「あ……ごめんなさい、失言でした……」
俺としてはなんの気なしに言ったことだったけれど、あきらかにまゆを下げてしょげた様子を見せるブレイン殿下に、それがひるがえって相手を落ち込ませるセリフになっていたことに気づいて、あわてて詫びる。
「キミを守りきれなかった自分の不甲斐なさに、くやしくて今夜は眠れそうにないよ」
「えぇっ!?そんなこと言っても、ほだされたりしませんからね?!今日こそは、ちゃんと自分の部屋ですごしますから!!」
せっかく改装を終えたっていうのに、このところなんだかんだとお持ち帰りされていたせいで、全然自室に帰れていない。
「なんだ残念、そのままいっしょに暮らしてしまえばよかったのに……」
「そういう冗談は笑えないので、遠慮します!」
だからブレイン殿下がうかつにそういうことを言うから、俺が周囲に嫉妬されるんだってば!
「でも別にキミは、周囲からも私の恋人として、すっかり認知されていると思うけどね」
「そんなことあるハズないと思うんですけど……」
こればっかりは、どうしても違和感がぬぐえないというか、テイラーがブレイン殿下とくっつくだなんて本来のゲームのストーリーにはない展開だけに、信じられなかった。
「いいえ、あなたはまちがいなくブレイン様の恋人です」
「え……?」
でも、そんな俺に異をとなえたのは、想定外の人物だった。
「正直に言えば、この目で見るまでは信じていなかった───いえ、信じたくなかっただけかもしれません。でもこんなのを見てしまったら、認めるしかないじゃないですか!あなたがブレイン様の最愛の方だってことを……」
声の主は、それまであえて意識の外に置いていたマオトだった。
「マオト……どうして……?」
なにかを悟ったような、あきらめをにじませた顔に、どうしていいかわからなくなる。
ひょっとして今までの俺の言動が、彼のプライドを傷つけてしまったんだろうか?
「今のやり取りを見ただけでもわかります、ブレイン様がどれだけあなたにお心をゆるしていらっしゃるのかってことくらい。うまく言えないんですけど、あなたとブレイン様が対等に見えるというか……」
と、そこでいったんマオトは言葉を区切ると、深々とため息をついた。
「俺とブレイン殿下が対等……?それはその、はたから見てると俺が失礼な態度をとっているように見えるとか??」
「キミねぇ、いくらなんでもそれはないでしょ」
「わかんないですよ、ブレイン殿下の感覚がマヒしているだけで、本当はめちゃくちゃアウトなのかもしれませんよ!?」
そうやっていつものように、軽い言い合いになる。
……ひょっとして、この国の王子様相手に伯爵家の次男ごときが言いかえしたりするなんて、あり得ないとかそういうことなんだろうか?
そんなことを思っていたら。
「……そういうところです。あなたのことが、本当にうらやましい」
「えっ??」
いったい、どういうことなんだろうか?
マオトの真意がつかめなくて、俺は疑問符にまみれていた。
……いや、こうして人前でキスされるのは、思いっきりはずかしいんだけども。
「あの……人前なんで、そろそろヤメテもらえませんかね……?」
そう問いかけるのがやっとだったけど、残念ながらそれは笑顔でスルーされる。
うぅ、こういうの困るんだよなぁ……。
今はマオトの前にいるわけで、彼にしてみればこんなふうに目の前でイチャつかれるのなんて、これでもかと嫉妬心をあおられるような気がするってのにさ。
つーか、俺ならキレてるぞ、まちがいなく。
おかげで怖くて、さっきからマオトのほうを見られていない。
俺的にはマオトを助けにきたつもりなのに、これじゃトドメを刺しに来たようなモンじゃねーか!って。
「キミは、あいかわらず無自覚すぎるようだけど……だいたいキミが私の『恋人』として周囲に認識されてから、今回の件をのぞいて、直接的にキミが攻撃されたことはあったかい?それがなによりの、周囲からのキミへの評価だと思うけれど」
そう問われ、はたと動きが止まる。
「それ、は……俺が『ダグラス家の人間』だから、下手なことをして復讐されるのを警戒しているからとか、俺の見た目が地味すぎて、ひとりでいると個体識別できないとか……?」
そうこたえながらも、やや苦しい言いわけにも聞こえていた。
テイラーはゲーム本編でもパレルモ様の影として付き従うだけのビミョーなモブキャラだから、あまり個人として周囲から認識されていないって点は十分ありえるかもしれないけど。
でもさすがにこのところ悪目立ちをしている自覚はあるから、そろそろ個体識別くらいはされていてもいいような気もする。
「……だとしたらおかしくないですか?だって俺、さぞ周囲からの嫉妬をあつめているんだろうとは思っていたのに、今のところ直接なにかをされたこととか、まだないんですけど?!」
というより、俺にたいする悪意を直接ぶつけてきたのは、ニセモノのベルだけだ。
「だからそれが、周囲からのキミへの評価ってことだろう?」
「……いやいやいや、おかしいですって。ブレイン殿下の『下僕』とかならまだしも、『恋人』ですよ??どう見ても釣り合ってないじゃないですか!」
分不相応だと言われても仕方ないくらい、ブレイン殿下と俺とではメインキャラとモブキャラの差があるし、あきらかに作画だってちがうもんなぁ?
「……ひょっとして、ブレイン殿下が背後から手をまわしてたりするとか?」
「いや、そんなことはないよ。それならそもそも今回、キミを危険にさらすことはなかっただろう」
「あ……ごめんなさい、失言でした……」
俺としてはなんの気なしに言ったことだったけれど、あきらかにまゆを下げてしょげた様子を見せるブレイン殿下に、それがひるがえって相手を落ち込ませるセリフになっていたことに気づいて、あわてて詫びる。
「キミを守りきれなかった自分の不甲斐なさに、くやしくて今夜は眠れそうにないよ」
「えぇっ!?そんなこと言っても、ほだされたりしませんからね?!今日こそは、ちゃんと自分の部屋ですごしますから!!」
せっかく改装を終えたっていうのに、このところなんだかんだとお持ち帰りされていたせいで、全然自室に帰れていない。
「なんだ残念、そのままいっしょに暮らしてしまえばよかったのに……」
「そういう冗談は笑えないので、遠慮します!」
だからブレイン殿下がうかつにそういうことを言うから、俺が周囲に嫉妬されるんだってば!
「でも別にキミは、周囲からも私の恋人として、すっかり認知されていると思うけどね」
「そんなことあるハズないと思うんですけど……」
こればっかりは、どうしても違和感がぬぐえないというか、テイラーがブレイン殿下とくっつくだなんて本来のゲームのストーリーにはない展開だけに、信じられなかった。
「いいえ、あなたはまちがいなくブレイン様の恋人です」
「え……?」
でも、そんな俺に異をとなえたのは、想定外の人物だった。
「正直に言えば、この目で見るまでは信じていなかった───いえ、信じたくなかっただけかもしれません。でもこんなのを見てしまったら、認めるしかないじゃないですか!あなたがブレイン様の最愛の方だってことを……」
声の主は、それまであえて意識の外に置いていたマオトだった。
「マオト……どうして……?」
なにかを悟ったような、あきらめをにじませた顔に、どうしていいかわからなくなる。
ひょっとして今までの俺の言動が、彼のプライドを傷つけてしまったんだろうか?
「今のやり取りを見ただけでもわかります、ブレイン様がどれだけあなたにお心をゆるしていらっしゃるのかってことくらい。うまく言えないんですけど、あなたとブレイン様が対等に見えるというか……」
と、そこでいったんマオトは言葉を区切ると、深々とため息をついた。
「俺とブレイン殿下が対等……?それはその、はたから見てると俺が失礼な態度をとっているように見えるとか??」
「キミねぇ、いくらなんでもそれはないでしょ」
「わかんないですよ、ブレイン殿下の感覚がマヒしているだけで、本当はめちゃくちゃアウトなのかもしれませんよ!?」
そうやっていつものように、軽い言い合いになる。
……ひょっとして、この国の王子様相手に伯爵家の次男ごときが言いかえしたりするなんて、あり得ないとかそういうことなんだろうか?
そんなことを思っていたら。
「……そういうところです。あなたのことが、本当にうらやましい」
「えっ??」
いったい、どういうことなんだろうか?
マオトの真意がつかめなくて、俺は疑問符にまみれていた。
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