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148:ぶつかり合うおたがいの意思

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 懲罰房のなかは、よくある留置所とかみたいに、個室のなかが見える格子が全面にはめられていて、そこに小さな出入り口がついている形式だった。
 なかを覗けば、簡単なフレームだけのベッドのようなものが置かれているのみで、至ってシンプルな作りになっていた。

 もちろん最初は、懲罰房のなかに入ってしばらくしたところで待ちかまえていた風紀委員のメンバーによって、せき止められてしまったのは言うまでもない。
 今回の件では当事者であるハズの俺ですら、立ち入り禁止なのだと追いかえされそうになったけれど。

 でもさすがに被害にあった張本人なんだ。
 そこで蚊帳の外におかれるのは納得がいかないとばかりに抗議して、風紀委員たちをなんとか説き伏せて、俺だけはなかに入れたというわけだった。

 ガターーンッ!!

「ふざけるな!今さらあやまったところで、そう簡単にゆるされると思うなよ?!まったく、君には失望したよ!」
「ちがいます、殿下……!!」
「なにがちがうものか!君たちのしたことはたんなる犯罪行為だ!」

 あと少しでブレイン殿下がロコトの取り調べを行っているという、最奥の部屋にたどり着くと思った、その矢先のことだ。
 大きな音とともに、聞きなれた声が激昂するのに、思わず肩がハネそうになった。

 もうここまで来れば、今聞こえた声が、まちがいなくブレイン殿下の声だということがわかる。
 でも『君には失望した』だなんて、ロコトに言うハズがない。
 てことは、まさか───!?

 だって、もしそんなことをブレイン殿下に言われるとしたら、交遊関係があったとは思えないロコトのほうじゃなくて、元恋人のマオトのほうだろ!
 しかも『君たち』と複数形で呼びかけていたということは、そこにいるのは複数人でまちがいない。

 今回の件に関しては、マオトは白だというのが、俺の見解だった。
 というよりも、ロコトにしてもマオトにしても、その気持ちにつけこまれ、第三者の悪意に利用されたのでしかないと思う。

「ちょっと、待ってくださ……っ!」
 本当はカッコよくさっそうと駆けつけて止めたかったけれど、残念ながらダメージの残るからだでは、たった少しのダッシュをしたところで息切れしてしまったけど。

「っ?!なんで来た?!スコッチに人払いを命じていたはずだが?」
「っ!」
 思った以上にキツい口調でとがめられ、一瞬ビクッと肩がふるえる。

「……申し訳ありません、出すぎたマネをしているのは、重々承知の上です!でも、どうしても直接お伝えしなきゃいけないことがあったので……」
 息切れするままに、それでも必死に伝えなくてはと、まっすぐに相手の顔を見て訴える。

 たぶんロコトに入れ知恵をして、あの麻痺薬を渡した相手こそ、この世界に侵食し、『魅了香チャーム・パフューム』なんていう危険な薬物をばらまいた黒幕につながる人物でまちがいないんだから。

 なによりロコトはあの薬を俺に嗅がせるとき、それが毒だと知らなかったみたいな言動をしていたんだ。
 それならやっぱり真犯人は、ロコトとマオトの兄弟の必死の願いにつけ込み、なかばだますようにして俺に危害を加えさせようとしたってことだろ!

 それを伝えるためにブレイン殿下に手招きをしようと、格子に手をかけたところで、部屋のなかの様子が明らかになる。
 奥にいたのはブレイン殿下と、そしてさらに鎖で壁につながれたマオトだった。

 そのとなりには、おなじく鎖につながれたロコトの姿もある。
 ただしロコトのほうはぐったりとして、意識がないようにも見えた。
 遅かったか!?

「っ、失礼しますっ!」
「あっ、おい!君がここに来るなんて聞いてないぞ!」
 ブレイン殿下の許可を待たずになかへと押し入れば、それまでの厳しい顔から一転して、急にわたわたとあわてだした。

「ブレイン殿下、いったいなにをされたんですか!?こんなゴリ……もとい、いかにも体力がありそうな相手がぐったりするなんて……」
 ……ふぅ、あやうく弟くんの前でゴリラあつかいをするところだったけど、なんとか言い直しができた。

「………君に言う必要はない」
 そんな俺の疑問は、にべもない返答でぶったぎられる。
 だけど俺だって、これに関してはゆずるつもりはなかった。

「俺は、俺のせいでブレイン殿下がだれかを傷つけるようなこと、絶対にイヤですからね?!ましてそれがおなじ学校の生徒なら、なおさらです!」
 さりげなくマオトを背後にかばいながら、ふたりの間に立つ。

 だってそうだろ、ただでさえ俺が攻略対象キャラクターのひとりであるブレイン殿下の恋人だなんて、原作の物語の改変のようなことをしてしまってるんだ。
 さらにそのせいで、ブレイン殿下が持つ正義を失わせたなんてことになったら、目も当てられない。

「そこをどきなさい、君!そんなもの、わざわざ君がかばう必要はありませんよ。危ないからこっちへおいで」
「お断りします!だって俺がどいたら、今度はマオトに口を割らせようと、責めあげるつもりなんでしょう?」
 なかば確信を持って言いきれば、図星だったのか、相手の眉がピクリと動く。

「……すなおに話してくれるなら、私だって無理に責めあげるつもりなんてナインデスヨ?」
 ウソだ、絶対にウソついてるヤツじゃん、それ!!
 若干カタコトになっているその発音は、どうかんがえても怪しい以外のなにものでもなかった。

「俺は……マオトの気持ちもわかったから、マオトの罪を問いたくないんです……だって好きな人から突然理由も告げられずに『これ以上愛するつもりはない』なんて一方的にフラれたら、未練を残すなってほうがむずかしいでしょう?!」
 ここぞとばかりに、己の気持ちを訴える。

「それは、そうかもしれないが……しかしそれとこれとは別問題だ!」
「いいえ、まったく関係ないわけじゃないんです!」
 しかしブレイン殿下にとっても、そう簡単にゆずれるものではないんだろう、しばしにらみ合うようなかたちとなった。
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