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110:この香りは特別なもの
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ブレイン殿下の肩口に顔をうずめるようにして甘えれば、相手も遠慮なく俺にしがみついてくる。
そりゃ、ちょっと腕の力が入りすぎてる気がするけど。
でも制服越しに伝わる、相手の体温が心地よい。
それに近づいたからこそ、存分に感じる相手の香水の匂いに、ドキドキが止まらなくなってくる。
さっきまでは、俺が着ていたカーディガンからかすかに香るだけだったそれは、本人とふれあったことで、より甘く濃密なものになる。
ふれあう感触と匂いとで、抱きあう相手がブレイン殿下なんだってことを実感できる。
あぁ……俺の、大好きな人だ。
「……この匂い、ドキドキするのにホッとします」
思わずゆるんだほっぺたのまま、すなおにそう伝える。
本当はちょっと───いや、かなり甘えるのってはずかしいんだけど。
「うん?私の香水の匂いが?」
「えぇ、実はさっきまでの査問会の席でも、この匂いのおかげで、まるでブレイン殿下がそばにいてくれるような気がしたから、最後まで折れずにいられたんです……」
この人のためにもがんばろうって、そんな気持ちにもなれたしな。
俺に贈られた制服からただよう香りが、ブレイン殿下の愛用するこの香水とおなじだってことくらい、ちゃんと気づいているんだからな?
そういうセリフを言外に忍ばせて告げれば、相手は一瞬にして固まった。
「あ~~~~~っ、もうっ!!どうしてキミは、さっきから、そんなかわいいことばかり言うんだ!私の心臓がもたないだろっ!!」
「んっ!?」
そう叫ぶなり、抱きしめられていた腕から解放されたと思った瞬間、今度は噛みつくようないきおいで口づけられていた。
それを見た周囲からの黄色い悲鳴が、耳に飛び込んでくる。
そりゃ、まだ傍聴席には多くの生徒たちがのこっていたし、なんなら半分くらいはのこっていたと思う。
まして貴族とはいえ、多感な思春期の子たちときたら。
顔を真っ赤にして『はしたないですわ』なんて照れるご令嬢や、ガン見してくるご令息たちもザワつくだろうよ。
っていうか、そもそもこんな衆人環視のなかでキスされるとか、聞いてないからな?!
どうすんだよこれ、めちゃくちゃはずかしいんですけどもっ?!
「ん……ハァ……っ!」
なんて苦情は全部、物理的にふさがれているせいで、口から出ることはなかったけど。
何度もくちびるをはむようにして、くりかえしキスされる。
そのたびに響く派手なリップ音に、居たたまれなさがこみあげてくる。
人前なのに……めちゃくちゃはずかしいんだからな、これ!?
すっかり耳まで赤く染まった俺は、小さく身じろぎをする。
でもブレイン殿下には、キスをやめる気配は見えなかった。
それでもまだ、舌を入れられずに済んでいたのは、かろうじて相手にも理性がのこっていんだと信じたい。
もう無理だから!
緊張のあまりに身をガチガチに固くしてしまっていたし、ついでに息を止めていたせいで、あたまもボーッとしはじめる。
───そのときだった。
「ふざけんなよ!なんでブレイン様が、パレくんじゃなくて、そんなモブのこと抱きしめてキスしてんだよ!!」
だれかの激昂した叫びが、室内に響きわたる。
「おかしいだろ、リオン様もセブンもカイエンも!パレくんじゃなくて、テイラーなんかの証人になるとか、絶対におかしい!!」
それは査問会のあと、原告側の席に座ったまま落ち込んでいたハズのベルだった。
髪をふり乱し、憎悪に顔をゆがめている。
まるで気でも触れてしまったかのようなその様子に、周囲の空気が警戒を強めるようにピリッと引きしまった。
俺もまた、さりげなくブレイン殿下にかばわれる。
うっ、こういうこと自然にできるのがズルいんだよ!
本来なら、王族のブレイン殿下こそ、かばわれなきゃいけない立場のハズだろ?
クソ、何度惚れなおせばいいんだよ、このときめき泥棒が!!
「リオン様もセブンもカイエンも!パレくんのこと、皆大好きだろ?!なのに、なんでパレくんのためにテイラーを断罪しようとした、僕の味方をしてくれないんだよ!こんなのまちがってるだろ!!」
カンシャクを爆発させたベルは、その場で地団駄を踏む。
「見苦しいぞ、ベル・パプリカ!判決はすでに出た。おまえの正当性はみじんもないことが証明されただろう、恥を知れ!」
リオン殿下が声をあげる。
「あぁ、それに俺はテイラーの友人だ。友人のために証人になるのは、あたりまえだろう」
「うーん、パレっちのことは好きだけど、ウソをついてテイラーを陥れるのはちがうと思うんだよな」
セブンとカイエンが、それにつづく。
「そうですね、私の恋人を故意に陥れようとは、私にたいする挑戦としか思えませんが。……思えばキミは、最初からずいぶんと強気でしたが、それは本当にキミのご実家も是とする行為なんでしょうか?」
暗に、たかが男爵家の子息のクセに王家にたいする無礼でもあると、ブレイン殿下も告げる。
「それがそもそもおかしいんだよ!隠し攻略キャラのブレイン様が、なんでテイラーなんかを恋人にしてんのさ!?皆パレくんのことが大好きなハズだし、そうでなくとも『ライバルはキャロライナ』のハズだろ!!」
たしかに原作のゲームでは、ブレインルートやリオンルートのライバルはキャロライナ嬢だけど。
「レッドサヴィナ侯爵家のご令嬢を呼び捨てとは無礼だぞ、ベル・パプリカ!」
リオン殿下の叱責に、ベルはゆがんだ笑みを向けてくる。
「ウソでしょ、リオン様……昨日まではパレくん大好きな仲間だったじゃん!おかしいよ、こんなの……僕はたしかに『テイラーを断罪するシナリオにした』って聞いたのに!なんで僕が逆転されて有罪になんなきゃいけないのさ!?」
「!?」
それは俺にとって、聞き逃せない重要なセリフだった。
そりゃ、ちょっと腕の力が入りすぎてる気がするけど。
でも制服越しに伝わる、相手の体温が心地よい。
それに近づいたからこそ、存分に感じる相手の香水の匂いに、ドキドキが止まらなくなってくる。
さっきまでは、俺が着ていたカーディガンからかすかに香るだけだったそれは、本人とふれあったことで、より甘く濃密なものになる。
ふれあう感触と匂いとで、抱きあう相手がブレイン殿下なんだってことを実感できる。
あぁ……俺の、大好きな人だ。
「……この匂い、ドキドキするのにホッとします」
思わずゆるんだほっぺたのまま、すなおにそう伝える。
本当はちょっと───いや、かなり甘えるのってはずかしいんだけど。
「うん?私の香水の匂いが?」
「えぇ、実はさっきまでの査問会の席でも、この匂いのおかげで、まるでブレイン殿下がそばにいてくれるような気がしたから、最後まで折れずにいられたんです……」
この人のためにもがんばろうって、そんな気持ちにもなれたしな。
俺に贈られた制服からただよう香りが、ブレイン殿下の愛用するこの香水とおなじだってことくらい、ちゃんと気づいているんだからな?
そういうセリフを言外に忍ばせて告げれば、相手は一瞬にして固まった。
「あ~~~~~っ、もうっ!!どうしてキミは、さっきから、そんなかわいいことばかり言うんだ!私の心臓がもたないだろっ!!」
「んっ!?」
そう叫ぶなり、抱きしめられていた腕から解放されたと思った瞬間、今度は噛みつくようないきおいで口づけられていた。
それを見た周囲からの黄色い悲鳴が、耳に飛び込んでくる。
そりゃ、まだ傍聴席には多くの生徒たちがのこっていたし、なんなら半分くらいはのこっていたと思う。
まして貴族とはいえ、多感な思春期の子たちときたら。
顔を真っ赤にして『はしたないですわ』なんて照れるご令嬢や、ガン見してくるご令息たちもザワつくだろうよ。
っていうか、そもそもこんな衆人環視のなかでキスされるとか、聞いてないからな?!
どうすんだよこれ、めちゃくちゃはずかしいんですけどもっ?!
「ん……ハァ……っ!」
なんて苦情は全部、物理的にふさがれているせいで、口から出ることはなかったけど。
何度もくちびるをはむようにして、くりかえしキスされる。
そのたびに響く派手なリップ音に、居たたまれなさがこみあげてくる。
人前なのに……めちゃくちゃはずかしいんだからな、これ!?
すっかり耳まで赤く染まった俺は、小さく身じろぎをする。
でもブレイン殿下には、キスをやめる気配は見えなかった。
それでもまだ、舌を入れられずに済んでいたのは、かろうじて相手にも理性がのこっていんだと信じたい。
もう無理だから!
緊張のあまりに身をガチガチに固くしてしまっていたし、ついでに息を止めていたせいで、あたまもボーッとしはじめる。
───そのときだった。
「ふざけんなよ!なんでブレイン様が、パレくんじゃなくて、そんなモブのこと抱きしめてキスしてんだよ!!」
だれかの激昂した叫びが、室内に響きわたる。
「おかしいだろ、リオン様もセブンもカイエンも!パレくんじゃなくて、テイラーなんかの証人になるとか、絶対におかしい!!」
それは査問会のあと、原告側の席に座ったまま落ち込んでいたハズのベルだった。
髪をふり乱し、憎悪に顔をゆがめている。
まるで気でも触れてしまったかのようなその様子に、周囲の空気が警戒を強めるようにピリッと引きしまった。
俺もまた、さりげなくブレイン殿下にかばわれる。
うっ、こういうこと自然にできるのがズルいんだよ!
本来なら、王族のブレイン殿下こそ、かばわれなきゃいけない立場のハズだろ?
クソ、何度惚れなおせばいいんだよ、このときめき泥棒が!!
「リオン様もセブンもカイエンも!パレくんのこと、皆大好きだろ?!なのに、なんでパレくんのためにテイラーを断罪しようとした、僕の味方をしてくれないんだよ!こんなのまちがってるだろ!!」
カンシャクを爆発させたベルは、その場で地団駄を踏む。
「見苦しいぞ、ベル・パプリカ!判決はすでに出た。おまえの正当性はみじんもないことが証明されただろう、恥を知れ!」
リオン殿下が声をあげる。
「あぁ、それに俺はテイラーの友人だ。友人のために証人になるのは、あたりまえだろう」
「うーん、パレっちのことは好きだけど、ウソをついてテイラーを陥れるのはちがうと思うんだよな」
セブンとカイエンが、それにつづく。
「そうですね、私の恋人を故意に陥れようとは、私にたいする挑戦としか思えませんが。……思えばキミは、最初からずいぶんと強気でしたが、それは本当にキミのご実家も是とする行為なんでしょうか?」
暗に、たかが男爵家の子息のクセに王家にたいする無礼でもあると、ブレイン殿下も告げる。
「それがそもそもおかしいんだよ!隠し攻略キャラのブレイン様が、なんでテイラーなんかを恋人にしてんのさ!?皆パレくんのことが大好きなハズだし、そうでなくとも『ライバルはキャロライナ』のハズだろ!!」
たしかに原作のゲームでは、ブレインルートやリオンルートのライバルはキャロライナ嬢だけど。
「レッドサヴィナ侯爵家のご令嬢を呼び捨てとは無礼だぞ、ベル・パプリカ!」
リオン殿下の叱責に、ベルはゆがんだ笑みを向けてくる。
「ウソでしょ、リオン様……昨日まではパレくん大好きな仲間だったじゃん!おかしいよ、こんなの……僕はたしかに『テイラーを断罪するシナリオにした』って聞いたのに!なんで僕が逆転されて有罪になんなきゃいけないのさ!?」
「!?」
それは俺にとって、聞き逃せない重要なセリフだった。
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