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99:今のところは防戦一方だけど……
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あらかじめ決められたストーリーにそって進むように、担任教師とベルは『俺がパレルモ様をいじめた』という前提で糾弾をしてくる。
いくらリオン殿下が、それはちがうと言ったところで、聞く耳を持たなかった。
「貴様ら、この俺の言葉を無視するとはいい度胸だ!己の都合のいいように真実をねじまげようとは、見下げたヤツらだ!!」
不正が嫌いなリオン殿下だからこそ、そんなふたりの態度に不快感をあらわにする。
「いいえ、とんでもない!そのような下賤のもののために、リオン様が泥にまみれる必要などないと申し上げているだけです」
もみ手をしながら媚びへつらう担任教師の顔には、取って付けたような薄っぺらい笑みが張りつき、不快感を増加させるだけだった。
「そうですよ~、リオン様がおやさしいのは、よくわかっていますって!だからパレくんとも仲よしなんですもんね?だからムリなさらなくても大丈夫ですから!」
そして、ヒロインあらためヒーロー?のベルにしても、リオン殿下の発言にもまるで動じる気配は見えない。
「人の話を聞け!パレルモに公爵家の嫡男としての自覚が足らないと言って叱責したのは、まちがいなく俺だ!ダグラスをうたがうなんて、とんだお門ちがいだからな!!」
そんななかでもリオン殿下は、なかなか相手に伝わらないことにイラだちながらも、必死に己の主張をくりかえす。
「だったら、皆さんにも聞いてみればわかるんじゃないですか?!」
けれどそれは、暖簾に腕押し。
ベルはなにかいいことでも思いついたかのように、ポンと手を合わせると、いけしゃあしゃあと提案をしてきた。
「それじゃあ聞きますね、皆さん、パレくんを泣かせたのは、リオン様がいじめたせいだと思う人~?」
片手をあげてクラスメイトへと問いかけるベルに、しかしあたりまえのことながら、こたえる人はいなかった。
そりゃ当然だろ、そもそもリオン殿下のあれは正論であって、いじめでもなんでもないし。
それに、今みたいな聞き方をされてみろ!
リオン殿下のせいだと、面と向かって言えるような生徒がいるわけがない。
そんな王家にたいする不敬ともとられかねないこと、ふつうの神経をしているならば、こたえられるわけがないだろ!
ついでに言った本人ですら、いじめたとは思っていないのだから、同意しようがない。
これもひとつの、だましのテクニックだ。
意識の誤誘導というか、まちがえている前提を、さも正しいことのようにとらえた質問をするとか、もう!!
もし、それをわかってやっているのなら、ベルはなんて食えないヤツだろうか!
「ほら、だれも手をあげないじゃないですか!なら、泣いているパレちゃんの前にいて、うたがわしいのはあなただけになるんです!」
ビシッと俺を指差しながら、ドヤ顔で見当ハズレな推理をさらされたところで、今後の展開を思うと胃が痛くなるばっかりだった。
この子のあたまには、パレルモ様が叱られて泣いたとか、演技をしているとかの選択肢はないんだろうか?
まぁ、このゆるふわぼっちゃんなら自分が悪くて叱られたことでさえも、ガチでいじめられたと思ってそうだしな……。
パレルモ様の目の前にしゃがみこみ、その顔を見ようとすれば、ふいっと目をそらされた。
「……パレルモ様も、本当に私がいじめたとお感じになっているんですか……?」
もしそうなら仕方ない、そうあきらめをにじませた声でたずねる。
おそらく、いじめたのが事実であるかどうかなんて関係ない。
ただパレルモ様がそう感じていたなら、それだけで俺は『黒』になる。
それくらいの力を、パレルモ様の父親のライムホルン公爵は持っていたから。
パレルモ様がそう思っていたのなら、まずまちがいなく俺の命はない。
そのこたえがどういうものになるのか、固唾を飲んで見守った。
いまだにベソをかいているパレルモ様は、そっぽを向いたまま、俺と目を合わせようとはしてくれなかったけれど。
「パレくんをいじめた本人に問いただされたら、怖くてこたえられるハズがないでしょう?!少しはかんがえたほうがいいですよ!?」
パレルモ様をかばうようでいて、その目が俺にたいする冤罪に多少ゆらいでいるのが見てとれたから、きっとベルはそれを先まわりしてつぶすために言ってるんだろう。
「……よくまわる口だな。まったく、無礼なピンクあたまだ」
勝手に激昂していくベルを尻目に、大きくため息をつくと、ゲームのシナリオどおりのセリフをあえて口にして、ゆっくりと立ち上がった。
それにしても……と、ふと思う。
こんなふうにテイラーがつるし上げを食らうとか、原作のゲーム本編にはなかったのに……。
まるで昼間から、悪夢でも見ているかのような気分だった。
「先生から見て、私がパレルモ様をいじめたように見えるというなら、なにをおっしゃろうとかまいません。ですが、ひとつだけうかがわせてください。なにを根拠に、私がやったとおっしゃっているんですか?」
本当は怒りで一発殴ってやりたいくらいの気持ちだったのをグッとこらえ、冷静にたずねかえす。
ここまではっきりと俺を犯人だと決めつけるからには、根拠があってのことなんだよな?
それもないようじゃ、名誉毀損で訴えてやるからな!?
口には出さず、ひそかに決意をする。
「っ、なに生意気なことを言っているんだ!生徒が教師に歯向かうなど、あってはならんことだ!!」
俺からの質問に、しかし担任教師は一瞬言葉に詰まったあと、こたえるでもなく烈火のごとく怒りはじめた。
きちんとした根拠や証拠があるのなら、それを示せばいいだけのことだ。
なのに例示すらせずに、論点をすり替えて怒った。
───それってつまりは、たいした根拠もないってことだろ?
たしかにそれでも身分差のエグいこの世界では、場合によっては白いものも黒くできる。
だから整合性はあるものと判断されて、担任とベルとで俺を断罪するようなシナリオに改変できたんだろう。
でも、これまでの改変を見てきての推測でしかないけれど、シナリオの改変を行ってあらたなイベントを作り出せたとしても、侵食者自身ではその結末までを決めることはできないんじゃないだろうか?
さらに、この世界の人の気持ちまでは、簡単にはいじれないんだとしたら。
そこに俺の勝機はある。
そしてそれらの改変は、この世界の住人として取れる手段でも抵抗できるのは確認済みだった。
なら、やってやろうじゃねーか!
俺の持つ原作知識と知恵で、見事この理不尽、打ち破ってやる!!
そんな決意を固めたところで、担任とベルを見据えた。
「では、どちらの主張が正しいのか、『査問会』をひらいて、その場で決めていただきましょう」
「なっ!?」
「査問会……?なにそれ?」
俺からの提案に、両者はことなる態度を見せた。
いくらリオン殿下が、それはちがうと言ったところで、聞く耳を持たなかった。
「貴様ら、この俺の言葉を無視するとはいい度胸だ!己の都合のいいように真実をねじまげようとは、見下げたヤツらだ!!」
不正が嫌いなリオン殿下だからこそ、そんなふたりの態度に不快感をあらわにする。
「いいえ、とんでもない!そのような下賤のもののために、リオン様が泥にまみれる必要などないと申し上げているだけです」
もみ手をしながら媚びへつらう担任教師の顔には、取って付けたような薄っぺらい笑みが張りつき、不快感を増加させるだけだった。
「そうですよ~、リオン様がおやさしいのは、よくわかっていますって!だからパレくんとも仲よしなんですもんね?だからムリなさらなくても大丈夫ですから!」
そして、ヒロインあらためヒーロー?のベルにしても、リオン殿下の発言にもまるで動じる気配は見えない。
「人の話を聞け!パレルモに公爵家の嫡男としての自覚が足らないと言って叱責したのは、まちがいなく俺だ!ダグラスをうたがうなんて、とんだお門ちがいだからな!!」
そんななかでもリオン殿下は、なかなか相手に伝わらないことにイラだちながらも、必死に己の主張をくりかえす。
「だったら、皆さんにも聞いてみればわかるんじゃないですか?!」
けれどそれは、暖簾に腕押し。
ベルはなにかいいことでも思いついたかのように、ポンと手を合わせると、いけしゃあしゃあと提案をしてきた。
「それじゃあ聞きますね、皆さん、パレくんを泣かせたのは、リオン様がいじめたせいだと思う人~?」
片手をあげてクラスメイトへと問いかけるベルに、しかしあたりまえのことながら、こたえる人はいなかった。
そりゃ当然だろ、そもそもリオン殿下のあれは正論であって、いじめでもなんでもないし。
それに、今みたいな聞き方をされてみろ!
リオン殿下のせいだと、面と向かって言えるような生徒がいるわけがない。
そんな王家にたいする不敬ともとられかねないこと、ふつうの神経をしているならば、こたえられるわけがないだろ!
ついでに言った本人ですら、いじめたとは思っていないのだから、同意しようがない。
これもひとつの、だましのテクニックだ。
意識の誤誘導というか、まちがえている前提を、さも正しいことのようにとらえた質問をするとか、もう!!
もし、それをわかってやっているのなら、ベルはなんて食えないヤツだろうか!
「ほら、だれも手をあげないじゃないですか!なら、泣いているパレちゃんの前にいて、うたがわしいのはあなただけになるんです!」
ビシッと俺を指差しながら、ドヤ顔で見当ハズレな推理をさらされたところで、今後の展開を思うと胃が痛くなるばっかりだった。
この子のあたまには、パレルモ様が叱られて泣いたとか、演技をしているとかの選択肢はないんだろうか?
まぁ、このゆるふわぼっちゃんなら自分が悪くて叱られたことでさえも、ガチでいじめられたと思ってそうだしな……。
パレルモ様の目の前にしゃがみこみ、その顔を見ようとすれば、ふいっと目をそらされた。
「……パレルモ様も、本当に私がいじめたとお感じになっているんですか……?」
もしそうなら仕方ない、そうあきらめをにじませた声でたずねる。
おそらく、いじめたのが事実であるかどうかなんて関係ない。
ただパレルモ様がそう感じていたなら、それだけで俺は『黒』になる。
それくらいの力を、パレルモ様の父親のライムホルン公爵は持っていたから。
パレルモ様がそう思っていたのなら、まずまちがいなく俺の命はない。
そのこたえがどういうものになるのか、固唾を飲んで見守った。
いまだにベソをかいているパレルモ様は、そっぽを向いたまま、俺と目を合わせようとはしてくれなかったけれど。
「パレくんをいじめた本人に問いただされたら、怖くてこたえられるハズがないでしょう?!少しはかんがえたほうがいいですよ!?」
パレルモ様をかばうようでいて、その目が俺にたいする冤罪に多少ゆらいでいるのが見てとれたから、きっとベルはそれを先まわりしてつぶすために言ってるんだろう。
「……よくまわる口だな。まったく、無礼なピンクあたまだ」
勝手に激昂していくベルを尻目に、大きくため息をつくと、ゲームのシナリオどおりのセリフをあえて口にして、ゆっくりと立ち上がった。
それにしても……と、ふと思う。
こんなふうにテイラーがつるし上げを食らうとか、原作のゲーム本編にはなかったのに……。
まるで昼間から、悪夢でも見ているかのような気分だった。
「先生から見て、私がパレルモ様をいじめたように見えるというなら、なにをおっしゃろうとかまいません。ですが、ひとつだけうかがわせてください。なにを根拠に、私がやったとおっしゃっているんですか?」
本当は怒りで一発殴ってやりたいくらいの気持ちだったのをグッとこらえ、冷静にたずねかえす。
ここまではっきりと俺を犯人だと決めつけるからには、根拠があってのことなんだよな?
それもないようじゃ、名誉毀損で訴えてやるからな!?
口には出さず、ひそかに決意をする。
「っ、なに生意気なことを言っているんだ!生徒が教師に歯向かうなど、あってはならんことだ!!」
俺からの質問に、しかし担任教師は一瞬言葉に詰まったあと、こたえるでもなく烈火のごとく怒りはじめた。
きちんとした根拠や証拠があるのなら、それを示せばいいだけのことだ。
なのに例示すらせずに、論点をすり替えて怒った。
───それってつまりは、たいした根拠もないってことだろ?
たしかにそれでも身分差のエグいこの世界では、場合によっては白いものも黒くできる。
だから整合性はあるものと判断されて、担任とベルとで俺を断罪するようなシナリオに改変できたんだろう。
でも、これまでの改変を見てきての推測でしかないけれど、シナリオの改変を行ってあらたなイベントを作り出せたとしても、侵食者自身ではその結末までを決めることはできないんじゃないだろうか?
さらに、この世界の人の気持ちまでは、簡単にはいじれないんだとしたら。
そこに俺の勝機はある。
そしてそれらの改変は、この世界の住人として取れる手段でも抵抗できるのは確認済みだった。
なら、やってやろうじゃねーか!
俺の持つ原作知識と知恵で、見事この理不尽、打ち破ってやる!!
そんな決意を固めたところで、担任とベルを見据えた。
「では、どちらの主張が正しいのか、『査問会』をひらいて、その場で決めていただきましょう」
「なっ!?」
「査問会……?なにそれ?」
俺からの提案に、両者はことなる態度を見せた。
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